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『しーちゃんと記憶の図書館』第59話
忘れていた景色
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館内に入ると、
午後の光が窓からやわらかく差し込み、
木の床が金色に輝いていた。
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女性は、
展示コーナーの前で足を止めた。
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そこには、
海斗が描いた一枚の絵があった。
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海辺の小さな町。
夕焼けに染まる空と、
その下で並んで歩く親子の姿。
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女性は絵を見つめたまま、
口元に手を当てた。
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「……この景色、知ってる」
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声が震えていた。
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「子どもの頃、母と歩いた道です。
でも、ずっと忘れていました」
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海斗は、
驚いたように彼女を見つめた。
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「描いているとき、
誰かの記憶に触れたような気がしたんです」
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しーちゃんは、
二人のやりとりを静かに見守りながら言った。
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「絵も、物語も、
心にしまわれた景色を呼び覚ますことがあります。
それは、その人に会いたがっていた景色ですから」
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女性は、
絵の中の夕焼けに微笑んだ。
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それは、
ずっと遠くに置き去りにしていた温かさを、
ようやく手にした瞬間だった。




