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『しーちゃんと記憶の図書館』第19話
封筒を開けたのは
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翌週の午後。
図書館の奥で、古い本を整理していた女性がいた。
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しーちゃんより少し若いその人は、
旅の途中で立ち寄ったと言った。
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「懐かしい匂いがしますね、この場所」
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本を探していた女性の視線が、
ふと“記憶の棚”に止まった。
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そこには色とりどりの封筒やノートが並び、
そっと触れるだけで、誰かの心の鼓動が伝わってくるようだった。
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女性は一枚の封筒を手に取った。
差出人の名前はなかったが、
中には子どもの字で書かれた手紙が入っていた。
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『お母さんへ。
夕焼けは、今日もきれいです──』
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女性はその一文を読んだ瞬間、
手が小さく震えた。
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「……これは」
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しーちゃんがそっと尋ねた。
「もしかして、この手紙に心当たりが?」
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女性は静かにうなずき、
夕焼けの色を映したような瞳で言った。
「私も…昔、この色を嫌いになりそうだったんです」
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その声は、
少年の母の記憶と、
どこかで重なっていた。