『しーちゃんと記憶の図書館』第14話
姉が抱えていた50年の真実
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岬の入り江で出会った女性は、
波の音に紛れるような声で語り始めた。
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「私と妹は、あの海辺の小さな家で育ちました。
妹は夜になると浜に立ち、ずっと星を見上げていた。
“星の向こうから、大切な人が呼んでいる”と…」
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しーちゃんは黙って耳を傾ける。
女性のまなざしは、遠い過去を見つめていた。
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「50年前のある夜、嵐が来ました。
妹は“星が近づいている”と言って、外に飛び出した。
必死に探したけれど、見つかったのは、このペンダントだけ…」
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女性は、しーちゃんたちが持ってきた銀色のペンダントをそっと撫でた。
「これを見ると、あの夜の波音と妹の声がよみがえるの」
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少年が、錆びた鍵を差し出した。
「これ、海辺で見つけたんです」
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女性は息をのむ。
「…それは妹の宝箱の鍵。
家の奥の棚にしまってあったはずなのに…
どうしてここに?」
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しーちゃんは思い出した。
図書館の奥の間にある古い棚──
その引き出しには、波と星の刻印があった。
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「この鍵、きっとまだ“物語”の続きを開けてくれるわ」
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女性の目に、涙がにじむ。
「妹が帰ってこられなかった理由を、私もずっと探していたの。
でも…本当は怖かった。
答えを知ったら、あの夜が終わってしまう気がして…」
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しーちゃんは、静かに彼女の手を握った。
「物語は、終わらせるためじゃなく、つなぐためにあるんです」
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潮風が、三人の間をあたたかく吹き抜けた。