『しーちゃんと記憶の図書館』第12話
星を待つ娘の秘密
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海辺に座った老人は、
遠い記憶をたどるように、ゆっくりと語り始めた。
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「あの娘は、毎晩同じ場所に立っていた。
星が昇るのを、息をするのも忘れるように見つめていたよ」
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しーちゃんは静かに耳を傾けた。
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「ある晩、わしは聞いたんだ。
“なぜ星を見ているのか”って。
すると、彼女はこう答えた。
『星の向こうから、大切な人が呼んでいる気がする』ってな」
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少年の目が揺れる。
「…それ、やっぱり妹さんだ」
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老人は、ポケットから小さな布包みを取り出した。
中には、細い銀色のペンダントが入っていた。
中央には、小さな星型のガラスがはめ込まれている。
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「ある日突然、彼女は姿を消した。
残っていたのは、このペンダントだけだった」
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ペンダントを光にかざすと、
星型のガラスの奥に、かすかな文字が浮かび上がった。
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『海と空が交わる場所で待つ』
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潮騒の音が一瞬遠のいたように感じた。
それは、50年前から続く“呼びかけ”のようだった。
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しーちゃんは、ペンダントを少年にそっと渡した。
「この言葉が、きっと次の扉を開けるわ」
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浜辺の花が、静かに夜風に揺れていた。