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『しーちゃんと記憶の図書館』第100話
二匹の犬の写真
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「まぁ……かわいいわね」
展示棚の前で、老夫婦が立ち止まった。
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二人の視線の先には、
木彫りの猫と陶器の小鳥。
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「うちにも、あの子たちがいたわ」
奥さんが小さくつぶやく。
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その日、老夫婦は一枚の写真を持ってきた。
写っているのは、
庭で並んで座る二匹の犬。
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茶色の耳をした雑種と、
真っ白な小型犬。
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「もうずいぶん前に亡くなったけど、
この写真を見ると、あの頃の匂いまで思い出すんです」
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しーちゃんは、写真立てに入れて
棚の中央に置いた。
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老夫婦はしばらく眺めてから、
静かに手を合わせた。
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「ここなら、あの子たちも寂しくないね」
ご主人の言葉に、
奥さんが微笑んだ。
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風鈴がやさしく鳴った。
まるで二匹が尻尾を振っているように。