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『しーちゃんと記憶の図書館』第10話
花びらが示す道
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机から見つかった押し花を、
しーちゃんはそっと手のひらにのせた。
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淡い紫色の花びらは、
何十年も前の時間を超えて、
まだ形をとどめていた。
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少年が首をかしげる。
「この花…見たことないな」
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しーちゃんは、
図書館で見た植物図鑑を思い出していた。
それは「ハマエンドウ」という、
海辺に咲く小さな花に似ていた。
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「この花はね、海岸沿いの砂地に咲くの。
でも、咲く時期は短くて、場所も限られている」
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少年の目が輝く。
「じゃあ…この花が咲く場所を探せば、
妹さんの足跡に近づけるかもしれないってこと?」
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しーちゃんは頷いた。
「きっとそう。
この花が咲く季節、咲く海辺──
そこに何かが残っているはずよ」
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窓から差し込む午後の光が、
押し花を透かして輝かせた。
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それは、まるで道しるべのように
次の行き先を指し示しているようだった。