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夢見る少女じゃいられない

高橋結菜(たかはしゆな)は、自宅に届いた魔法少女変身ステッキを見て溜息をついた。

「これ……どうしよう」



昨日残業に疲れて泥酔して、やばい。記憶がない。どうせお酒でやらかすならTL漫画みたいに、イケメン御曹司とのワンナイトとかならよかったのに。


私がした失敗は、魔法少女変身ステッキの購入……。

恥ずかしくて、笑い話にもできない。32歳OLがしていい失敗じゃないだろう。

これどうしよう。娘どころか、彼氏もいないのに……。

せめて姪っ子でもいればいいのに、私は一人っ子だし。

会社の人に年頃の娘さんはいないし、学生時代の友達とは社会人三年目には、関係が切れた。



あ、やばい。詰んだ。この変身ステッキの処理も。私の人生も。

返品する?でも完全に私が悪いのに、気が引けるな……。


なにを血迷ったのか、私は箱を開け始めた

「か、可愛い!!」

予想以上の完成度だ。おもちゃだからといって侮れないな。

電源ボタンを押す。

変身ステッキから、可愛らしい声が流れる。


そういえば子どもの頃はこの変身ステッキさえあれば、私も魔法少女になれるんだと思ってたな。

衣装に着替えないといけないって知ったときは、絶望したっけ……。

まあ、家貧乏だし。お父さん怖いし。買ってもらえなかったけどね。

おもちゃ屋さんで買っててねだったら、置き去りにされたこともあったな。



案外、いい買い物をしたのかもしれない。思ってたより可愛いし、童心に帰れたし、なんかもう仕事なんて辞めて


「…………魔法少女になりたいな」

いやいや!32歳が抱いていい願いじゃないだろ!!




翌日夜9時、残業終わり、一人寂しく夜道を歩く、高橋結菜(たかはしゆな)


「犬のぬいぐるみが空を飛んでる。ふふふ、疲れすぎると幻覚が見えるのね」

黒い犬のぬいぐるみがどんどん結菜に近づき、目の前までくる。

「…………お前。魔法少女になりたいだろ?」


ああ、夢だな。現実でこんなこと起こる訳ない。どうせ夢なら、正直に

「なりたいです!!」

「なら、叶えてやる。感謝しろよ。色はなにがいい?」

「………………ピンクで」

「…………へぇ」

「なによその目は!!年甲斐もないとか思ってる訳!?いいでしょ別に。32歳がピンク好きでも!!」

「思ってねぇよ。そんなこと。そんなに被害妄想激しいと男に逃げられるぞ」

「逃げる男すらいないんだよ!!」

「…………なんかごめん」

「謝るなー!!」


近くを母娘が通る。

「ママー。あの人、年甲斐もなく叫んでるよ」

娘が結菜を指さす。

「しっ!どんな人でも疲れ果てた夜には、叫びたくなることもあるのよ。そっとしといてあげましょう」

「うん!わかった!」

母娘が通り過ぎる。


「とりあえず一度、変身してみるぞ」

ぬいぐるみが指パッチンすると、結菜を謎の光が包んだ。

光が消えると、ピンク色の魔法少女らしい衣装に身を包んでいた、結菜。


「可愛い!!私、魔法少女になっちゃったよ!現実だったら、職質されたりして」

笑いながら話す、結菜に警察が近づく。

「お姉さん。ちょっとお話いいですか。とりあえず免許証か保険証見せて。……残業で疲れてるのは分かるけどね。不審に思う人もいるから、外でこういう格好するのは控えてね。疲れてるんだろうし、真っ直ぐ家に帰るんだよ」

去っていく、警察。


「…………夢なのに、職質された」

「夢じゃないからな」

「嘘!現実でこんなこと起きる訳!」

ぬいぐるみが結菜に思いっきりビンタする。

「痛い!いきなりなにするの!」

「痛いってことは?」

「…………夢じゃない?」

ぬいぐるみが頷いた。


「ちょっと待って……。夢じゃないってことは、夜中にピンクのフリフリ衣装着て、ぬいぐるみ相手に叫び、親子に後ろ指さされて、警察に職質されたってこと?」

ぬいぐるみが再び頷いた。


「………………もうお嫁にいけない」

「行く予定もな」

「それ以上言ったら、ブチ殺すわよ!!」

ぬいぐるみが黙った。


「と、とりあえず、これ脱がないと。職場の人にまで見られたら、お嫁にいけないどころか、人間として生きていけなくなる」

「ならさっさと、契約を完了するぞ」

「いやしないよ。夢だと思ったから、OKしただけで現実なら無理だって」

「……魔法少女になりたいんだろ?」

「…………それは子どもの頃の話だよ。それに私、少女じゃないし」

「たしかに。魔法少女というよりは、魔法熟女だろと思わなくもないけど」

「おい。こら」

「魔法熟女だと途端にAVっぽくなるから、ギリギリまで魔法少女でいこう」

そんな可愛い姿で、AVとか言わないで欲しい。


「とにかく魔法少女にも、魔法熟女にもなれないから!!」

「……給料出るぞ」

「え!!……おいくら?」

「ちょっと待ってろ。今お前の能力値で、算出するから」

ぬいぐるみが眼鏡をかけた。

魔法道具的な物だろうか。

「…………出た。一回の戦闘あたり」

ごくりと唾をのむ。

この金額が高いなら、多少恥ずかしくても、やる価値はあるかもしれない。

「500円だ」

「……そ、それってあれ?魔法少女補正的なので命の保証はされて」

「いや。死ぬときは普通に死ぬぞ」

「嘘だ!!」

「本当だって。お前は魔法力も低いし、可能性は高いかもな」

「命がけで戦って、一回当たりワンコイン?最低賃金はどうしたのよ」

「魔法世界の法律では、問題ないからな」

「…………バカにしてるんだ。私が高卒だからって……」

「いや。学歴は査定に含まれてない」

「好きで高卒じゃないのに……。家にお金がなくて、仕方なく働きだしただけなのに」

「な、泣くなよ」

ぬいぐるみが結菜の頭を撫でた。

暖かくてふわふわで、気持ちいい。

「……うぅ。ありがとう。あんた意外と優しいんだね」

「……こんな時お前を大切に思って、頭を撫でてくれる彼氏がいたら良かったのにな」

「うぅ。やっぱあんた、最低だね」

「俺みたいに同情と義務感で撫でる男じゃなくてな」

「うるさい!!同情するなら彼氏くれ!!」

「……まあ、やろうと思えばやれるけど」

「まじで!?ちょうだい!!」

「お前はそれでいいのかよ……」

「いいよ!!この際、条件さえ揃ってればなんでも」

「じゃあ一年間、魔法少女になるんだな。そしたら、どんな願いも叶うから」

「私、なる!!魔法少女に!!」

「俺が知る限り、魔法少女になる動機で一番最悪だよ」

「はっ!!なんとでも言えばいいよ!!幸せになるためならなんだってしてやる!!」

「……まあ、いいけどさ。どんな男がいいんだ?何人か候補、探しといてやるよ」

「優しくて誠実で、清潔感があって、尊敬できて」

ぬいぐるみが、一つ一つの条件に頷く。

「年収が700万円以上で、身長が175cm以上でイケメンの人」

ぬいぐるみの顔が死んでいる。

「…………最後の3つは諦めろ」

「嫌だよ!!命懸けで一年間もワンコインで働くのに、妥協なんてできない!!」

「その条件全部揃った男なんて、この世の何処にもいねーよ。諦めろ」

「……いないなら、作ってよ。魔法があったら、私の理想の旦那くらい作れるでしょ?」

「…………作れなくはないけど。お前はそれで本当にいいのかよ?」

「……いいよ。幸せになれるなら、なんでも」

「ふーん。まあ、いいけど」


「そういえばなんで、32歳の私が魔法少女なの?魔法少女って、10代の可愛い女の子がなる物じゃないの?」

「まあ、いろいろ理由はあるけど、一番は少子高齢化だな」

「すごく現実的な理由だった」

「子どもの数が減ると必然的に、魔法少女の数も減るんだよ。後は子どもに命懸けで戦わせるのは、良くないんじゃないかって意見が多くなったからだな」

「……32歳を命懸けで戦わせるのはいいの?」

「俺の意見じゃなくて上の意見だから、文句があるなら上に言ってくれ」


「…………なんで10代の時にならせてくれなかったの?あんなになりたかったのに……」

テレビの前で魔法少女を、キラキラした目で見てた頃を思い出す。

心が痛くなった。

変われるなら変わってあげたい。

君はどれだけ喜んだんだろ。



…………というか、変わって欲しい。

正直、この歳で魔法少女はきつい。

精神的にも体力的にも。


「さっきも言ったけど、魔法力が低いのと、ビジュ……まあ、魔法力が低いからだよ。うん」

「今、ビジュアルって言おうとしたよね?」

「…………してないよ」

ぬいぐるみが顔を逸らした。

「ちゃんと私の目を見て言って」

「人の目を見て、嘘を吐けないんだ。俺は正直者だから」

「……やっぱあんた、嫌い」

「嫌ってくれてもいいけど、仕事はちゃんとしてくれよ。そういえば。お前、名前は?」

「……高橋結菜(たかはしゆな)だけど」

「そうか。俺は(りつ)だ」

人間みたいな、名前なんだな。

「よろしくな。結菜」

「よろしく……律」

可愛いぬいぐるみのくせに無駄にイケボなせいで、名前を呼ばれて少しだけドキッとしてしまった。

そういえば、魔法少女と契約するマスコットって、イケメンに変身したりするよね。

こいつもするのかな。

まあ、どれだけイケメンになろうと、性格的に好きになることはないだろう。

向こうとしても同じだろうけど。


「おい」

「なによ?」

「抱きしめろ」

「は!?!?」

イケボで言っていい、セリフじゃないだろう。

「早く、抱きしめろ」

お、お、お、落ち着け、私。いくらこいつがイケボといっても、所詮ただのぬいぐるみ。

抱きしめるくらい、屁でもないだろ。

律が腕を広げながら、ゆっくりと近づいてくる。

「ほら、早く」

クソ。なんでそんなにイケボなんだ。

声帯引きちぎってやろうか。


律を抱きしめた。

うわー。ふわふわで気持ちいい。

抱き枕にしたいな。


「俺はもう、お眠だ」

律が私の腕の中で寝た。


「…………えー。どうしたらいいの」

とりあえず、家にお持ち帰りするしかないか。

ていうか眠たいなら、抱きしめろなんて紛らわしいこと言わないでよ。

素直に運んでください。お願いしますって言えばいいのに。


それにしても可愛いな。こいつ。

犬のぬいぐるみみたいな見た目だから、当然っちゃ当然だけど、さっきまでの発言が憎たらしすぎて気づかなかった。

黙ってると可愛いって言うのはきっと、こういうことを言うんだな。


「…………さてと。帰るか」

いつも家に帰るときは、一人の寂しさとそれが一生続くかもという不安で、漠然と死にたくなるけど今日はならなかった。

腕の中にいる、このもふもふのおかげだろうか。


さっきまでこんなの夢に決まってると思っていたけど、この憎たらしいぬいぐるみまで現実にいないとなると寂しいな。


「…………夢じゃなくてもいいかも」












あれ、そういえば。今の私の格好って。

視線を下げると絶望した。


「…………魔法少女やん」







「………………え、嘘。ちょっと待って。ここから家まで、徒歩15分くらいあるんだけど?」


腕の中にいるぬいぐるみを、これでもかとゆすった。

「起きて!起きて!……起きなさいよ!!」

「………………スピー」


「スピーじゃねぇ!!起きろ!!」

「………………スピー」


「こんの、クソぐるみがー!!」

「………………スピー」


「…………だめだ。うんともすんとも言わない」

「うんすん」


「ねえ、起きてんでしょ。早く変身といて!!」

「…………………………スピー」


腹綿を引きずり出してやろうか。

でもそんな、魔法少女見たくないしな。




あー、もう!!前言撤回!!

この夢、今すぐ覚めてくれ!!








翌朝

「ふわー、よく寝た!

ん?お前まだ、その格好なのかよ。嬉しかったのはわかるけど、いい歳こいてはしゃぎすぎだぞ。

寝るときはパジャマを着ろって、ママに教わらなかったのか?」

「……………………誰のせいだと」


「ん?なんか言ったか?もっと大きな声で言ってくれないと聞こえないぞ」

「誰のせいだって言ってんのよ!!」


「うわっ。急に大きな声、出すなよ!びっくりするな」

「…………あんた。昨日、寝たふりしてたでしょ」

「してねぇよ」

「嘘つき!うんともすんとも言わないって言ったら、うんすんなんて、ふざけたことぬかして!」

「覚えてないよ。寝てたんだから」

「そんなの、信じられる訳ないでしょ」

「…………どうしたら信じてくれるんだよ」

「どうしたって……」

信じられない。

そう言おうとしたけど、律の顔がすごく悲しそうだったから。


「…………ほ、本当に寝てたの?」

「うん」

律がこくりと頷いた。

正直、信じがたいけど目がすごく澄んでるしな。


「………………わ、わかった。信じてみる」

「えへへ。ありがとうな。結菜」

「……疑ってごめんね」

「いいよ。結菜は寂しくて可哀想だから、怒りっぽいことくらい許してやる」

「…………あんたって本当一言、多いよね」



「それでなんで、着替えてないんだよ」

「脱ごうとしても、脱げないんだけど!」

「ん?あ、そっか。渡すの忘れてたな。これ」


律からピンクの可愛いガラケーみたいな物が渡された。

「…………ガラケー?」

「それを使って変身と変身解除するんだ。通信機器にもなるしすごい魔法道具なんだぞ。見た目はガラケーを模して作ってある」

「……なんでスマホを模して作り直さないの?」

「……予算の都合だ」

「……予算」

私が思っていたより魔法少女業界は、世知辛いのかもしれない。

私がワンコインで戦わないといけないのも、仕方がないのかも…………いや。やっぱ納得できないけど。


「無くすなよ。無くしたら弁償してもらうからな」

「値段は?」

「……それはまあ、無くしたら言うよ」

「絶対高いやつじゃん!!」

「無くさなければ、済む話だから」

納得いかない。やることなすこと悪どすぎる。


理想の旦那のため。理想の旦那のため。理想の旦那のため。理想の旦那のため。

心の中で繰り返し、なんとか怒りを抑えた。


「それでどうやって、変身解除するの?」

「この真ん中のボタンを押すんだよ」

謎の光が全身を包み、元の姿に戻った。

「も、戻った!!」

「そんなことよりお前、今日暇か?」

「そんなことって……。まあ、休みの日だし暇だけど」

「……そうか。可哀想だな」

「あんたそんなこと言うために、聞いてきたの?」

「違うよ。お前の先輩に会わせてやろうと思って」

「え、現役魔法少女?」

「ああ」

「会ってみたい!」

怪人退治の時に初めて会うより、前もって会っておいた方が連携も取りやすいだろうし。


「わかった。電話するから、ちょっと待ってろ」

さっき私がもらった、ガラケーもどきの色違いで律が電話をかける。

ワンコールで電話が切れた。

律がしつこく、かけ続ける。

「い、忙しいんじゃない?今日はやめたほうが」

「あいつはいつもこうだ。気にしなくていい」

「ええ……。あんた嫌われすぎじゃない」

「あいつの性格が悪いだけだ」

正直、律から電話がかかってきたら、切りたくなる気持ちもわかる。



「もしもし。やっと出たな。お前に会わせたい奴がいるんだ」

「後輩の魔法少女だ」

「じゃあ、駅前のカフェに11時な」

電話が切れた。


「準備しろ。会いに行くぞ」

「わ、わかった」


2時間後、私たちは駅前のカフェにいた。

き、緊張する……。そういえば先輩とだけ聞いてるけど、幼女だったらどうしよう。気まずすぎるよ。


「お待たせ」

現れたのは、大人のお姉さんだった。

同い年くらいだろうか。

「…………きれい」

「うふふ。ありがとう」

「え、あ、声に出て。ご、ごめんなさい!!」

「謝らないで。嬉しかったわ」

対応まで大人だ。

人間として全て、負けている気がする。


「先輩として、色々教えてやってくれ」

「先輩っていっても、私もなったばかりだし、なにを教えたらいいのか」

「じゃあ、友達になれ」

友達……。歳を重ねる程、聞かなくなる言葉だろう。

実際私には、胸を張って友達といえる相手はいない。

「友達か……。いいわね」

「わ、私も。そう思います」

「私は月城心春(つきしろこはる)。32歳」

「私は高橋結菜(たかはしゆな)です。私も32歳です」

「よろしくね。結菜ちゃん」

「は、はい!よろしくお願いします。心春さん」

さっきからどもってばかりで、恥ずかしい。32歳にもなってコミュ障なんて……。やばい。死にたい。



「結菜。なんでそんなに緊張してるんだ?俺には平気で失礼なこと言うのに」

「あんたが私に失礼だからでしょうが!!」

「うふふ」

「あ!ごめんなさい。年甲斐もなく叫んで……」

「いいのよ。こいつに怒鳴り散らしたくなる気持ちはよくわかるわ」

心春さんも、律に苦労させられてるんだな。

少し親近感が湧いてきた。

「そんなこと言ってると、こっちこそ怒るぞ!」

「黙りなさい。引きちぎるわよ」

心春さんは終始笑顔だけど、発言がどんどん怖くなっていく。


「こんな奴放っておいて、お話しましょう」

「あ、はい。そうですね」

「こんな奴とはなんだ!こんな奴とは!」

「恋バナなんてどうかしら」

「わー、いいですね!」

恋バナなんて何年ぶりだろう。

「俺を無視するなー!!……もごっ!!」

邪魔してくる律の口を、心春さんが容赦なく塞いだ。


「結菜ちゃんは彼氏いるの?」

「恥ずかしながらいなくて……」

「好きな人は?」

「それもいないんですよね……。心春さんは?」

「うーん。彼氏はいないけど、好きな人ならいるかな」

「そうなんですね!どんな人ですか?」

「そうね。一言で言うなら、既婚者子持ちかな」

「…………What?」

えっと……。き、聞き間違えだよね!心春さん。真面目そうだし!


「す、すみません……。聞き間違えてしまったみたいで。もう一度言ってもらってもいいですか?」

「私、既婚者子持ちが好きなの」

き、聞き間違えじゃなかった……。

「え、えっと。あのその」

「人を好きになるのは自由だものね」


そ、そうだけど!いやでもダメでしょ!!

既婚者……。それも子持ちだなんて……。

魔法少女が不倫なんて、絶対に嫌だ!!


「ふ、不倫は駄目です!!」

「ええ。そうね」

「いや。そうねじゃなくて。奥様も子どもさんも心春さんも不幸になります」

「そうね。不倫は誰も幸せにしないわよね」

「わ、分かってるなら、なんで……」

「だって既婚者子持ちが好きなんだもの」

「駄目だこの人。話が通じない」


「あら。噂をしてたら彼が来たわ」

「ええ!?」

修羅場じゃないか。勘弁してくれ。

「あなた〜」

貴方って呼んでるの!?妻子持ちを!?

心春さんが手を振る方向に目を向けると小さな女の子と歩く男性がいた。


「あれ。心春?」

あれ。心春?じゃねぇよ。娘と歩いてる時に不倫相手と会ったら無視しなさいよ!!

二人がどんどん近づいてくる。

やめて!!私を泥沼不倫に巻き込まないで!!

ついに私たちの隣にまで来てしまった。


「ママ〜」

「ママって呼ばせてるの!?」

思わず叫ぶとなんとも言えない空気が流れた。

き、気まずい……。私が悪いの?


心春さんが肩を震わせ出した。

ど、どうしよう……。怒らせた?

でも流石に不倫相手の娘にママと呼ばせるのはやりすぎだよ!!

娘さんも奥さんも可哀想すぎる……。


「……あは……あははははは」

心春さんが狂ったように笑いだした。

もう嫌だ!!この人怖い!!


「結菜ちゃん。からかってごめんなさい。実は私結婚してるの」

「だ、W不倫ってこと!?」

「あははははは。もう駄目。笑いすぎてお腹痛い」

「また赤の他人をからかったのか。駄目じゃないか。俺以外をからかったら」

「ふ、不倫相手だって赤の他人ですよね」

「はぁ……。ちゃんと説明しなよ。心春」

「わかってる。わかってるけどちょっと待って。ふふふ。面白すぎて」

「面白がって不倫するような人だと思いませんでした。心底軽蔑します」

「ふふふ。あのね結菜ちゃん。奥さんは私なの」

「不倫ドラマとかで不倫相手が自分が妻だと思い込むキャラが時々いるけど現実にもいるなんて思いませんでした。救いようがないですね」


「彼氏はいないけど好きな人ならいるって言ったわよね」

「はい」

「既婚者子持ちが好きって言ったわよね」

「……はい」

「でも私が好きな人と結婚してないとは言ってないわよね?」

「はい?」

十秒ほど意味を考えてやっと分かった。

自分の旦那を好きな人で既婚者子持ちだと言ったのか。

「な、なんでそんな誤解を生む言い方をするんですか!?」

「ごめんなさい。結菜ちゃんがからかいがいのある顔をしてたから」

なんの言い訳にもなっていないし、喧嘩を売られてる気がする。


「……心底軽蔑するなんて言ってすみませんでした」

不倫してる証拠がある訳でもないのに言っていい言葉じゃなかった。

「いいのよ。からかった私が悪いんだから」

「でも……」

「改めてこれからよろしくね。仕事仲間としても友達としても」

握手を求められたので応じた。

「よ、よろしくお願いします」

良い人なのか。悪い人なのか。よく分からないな。


「俺の妻がすみませんでした」

「い、いえ!私の方こそとんでもない勘違いを……」

「いえ。紛らわしい言い方をした妻が100%悪いので。後できっちり叱っておきますし、後日お詫びの品をお持ちします」

「い、いえ。そんな!本当に大丈夫ですから」

「でも……」


律儀な旦那さんだな。

私も結婚するなら、律儀な人がいいな。


「じゃあ結菜ちゃん。またね」

「はい。また!」

嵐みたいな人だったな。


「心春が悪かったな。根は悪い奴では……あるか。まあでも仲間だから仲良くな」

「うん。もちろん!」

先輩魔法少女はちょっと(?)ダークな人みたいだけど、仲良くなれるように頑張ります!!

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