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完結後小話2 ー12.迫害(魔王視点)

ランキング入り記念。

誰得の12話魔王視点です。

イメージ崩れたらすみません!

「悪魔祓い?本気かよ?」

「避難誘導で最低10人は欲しい」

「マジかよ……やりたくない」

「生徒達を安全に避難させるだけでいいんだ。逃げるついでにスモークを撒いてって欲しい。後は僕が全部やる」


風に乗って企みごとが聞こえる――――



「……付き合ってられぬ」

謀に巻き込まれる事ほど面倒なことはない。何とかならぬものかな……と、ユージィンは隣でサンドウィッチからはみ出したローストチキンを押し戻そうと苦戦しているダイアナを見る。悪戦苦闘している姿が愛らしい。

早く私のものにしたい、と思う。

今でも押せばこの手に収まりそうだが、どうせならダイアナの方から縋り付いてくれればいいのに……と思ったところで、ユージィンはほんの冗談のつもりで、あることを思いついたのだった。



***


礼拝堂のガラスが割れ、場が騒然となる。

逃げよう、とダイアナに促されたが、手でやんわりと否定する。

「私は動けぬ。魔法陣に捕らわれている。」

あからさまな嘘に、冗談と一蹴されるかと思ったが、意外にもダイアナはそのまま信じたようだ。なるほど。ダイアナにはこの辺りの知識は全くないようだ。

ダイアナは注意深く礼拝堂の様子に警戒を払っている。真剣な表情で、何を思っているのだろう。よく見たら口の端に昼に食べたサンドウィッチのパン屑がわずかに付いている。

さっきもう少しちゃんと見ておいてあげれば良かった。そんな所も可愛いが。


礼拝堂の前方から男の声が響いた。

「ユージィン……。やはりあなたは悪魔の遣いでしたか。普段のあなたとは違う、その黒い髪と紅い瞳が、あなたが異形のものであることを物語っています。僕が以前講堂で一瞬見た姿は見間違いではなかった」

「ふん、私の姿の片鱗を現しめたこと、褒めてやろう。ただ、私は悪魔の遣いなどではない。悪魔そのものだ」

悪魔っぽく答えてみる。その方が盛り上がるだろう。男は何やら叫ぶと、ラテン語で聖典を引用しはじめた。

「ねえ、ユージィン、あれ、大丈夫なの?」

うむ、問題ない。……が、それを気取られてはならない。努めて無機的に答える。

「悪魔祓いの呪文だ。あんな真言を使うとは、な。ダイアナ、前に言っていたろう。''窮地''ってやつだ。」

ダイアナには常々、''窮地''に陥った場合にどうすべきかを諭してきた。私か世界か、どちらかを選べと。ダイアナが今の曖昧な状態を望んでいることはわかっているのだが、ぬるいのはどうも私の性分に合わない。

もちろん、世界征服の目的を隠したままダイアナに自分の名を呼ばせることもできた訳だが、私は愛する人にはそういう事はしない主義だ。結果、ダイアナの悩みが深くなってしまうのはいささか申し訳ない。


「……―――嘘。」

その通り、嘘なのだが―――。選択を突きつけられて、ダイアナの顔に悲痛な驚きが表れる。嘘とは言いつつ、嘘だとは思っていない。嘘であって欲しいというところか。


「だってユージィンは悪魔でしょう?!何とかならないの!?」

「悪魔だからあいつの攻撃が効いているんだ。いくら私でも、動けないことにはどうしようもない。」

ダイアナが悪魔と言ったので、少しパワーチャージだ。多少ストックができた。最近この辺りは少しコントロールができるようになりつつある。


「ダイアナ、私の本当の名を呼んでくれれば嬉しいが……。無理強いはしない。」

これはこれで本音だ。ダイアナに関しては、強制して奪っても何の意味もない。ただし、ダイアナが私の名を呼びたくなるように、あらゆる手段を講じるのはやぶさかでない。

さあて、ダイアナはどうするかなと見ていると―――


「嫌よ……。そんな……。」


ダイアナの目から大粒の涙が零れた。

紫紺の瞳からはらはらと流れる水滴に光が反射する。

美しい――――が、同時にとても胸が締めつけられる。

抱きしめて涙をこの手で拭ってやりたい。

が、今の私はここから1歩も動けぬ設定だ!本当は動けるというのに、歯痒くてならぬ。何てことだ……よもやこのような落とし穴があったとは。

対応に苦慮していると、今度はダイアナは突然駆け出して行ってしまった。何もこれ以上私から離れることはあるまいに……。

ああっ、ダイアナが男に向かっていっている!か弱い女の身で適うわけないだろうが!

がんばれ、ダイアナ!左手首を狙うんだ!……こんなことをしている場合ではなかった。折角だから、血糊の他に先程購買で焼き鳥を買うフリをして購入したトマトを口の中に仕込んでおこう……。あの男、ダイアナに危害を加えたらただじゃおかん。それにしても、血糊と混じったトマトは私の口には合わぬ。さっさと吐き出してしまいたい。

……これで準備は整った。最後の仕上げといこう。

ダイアナが真剣に私を思う様に心が打たれ、痛むが……今更引けぬ。


私は少し上体を屈ませると、血糊とトマトを吐き出した。遠目からは血に見えるだろう。地面に膝をつき、胸を抑えれば、予め仕込んでおいた血糊が流れ出す。


「ユージィン!!」ダイアナの悲痛な叫びをうけて、私の胸は益々痛んだ。それと同時に、我が身を案じるダイアナのなんて可愛いことか。早くこのような馬鹿らしい茶番は終わりにして抱きしめたい。

……程なくして、ダイアナの叫びが響いた。


「大魔王様―――――ッ!!!!」


―――これほどの喜びが地上に存在したとは。



ダイアナが私に与える力は心地良い。

これでようやく顔を上げてダイアナの顔を見ることができる。

「ダイアナ、心は決まったようだな。」


次にはまず、あなたを取り戻す。

永久に、あなたの傍に。









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