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東方幻想腐女録  作者: グラたん
第一章
96/119

第八十五話 バルス!!

グラたん「第八十五話です!」


 東の陰陽寺院を出て北へ向かうと迷いの森、西には迷いの竹林が広がっており、東には無縁塚が広がっている。その先は海峡となっていて古城はその最北に落ちている。

 周囲には赤黒い霧が発生し、妖怪も滅多に近づかない。

 チルノに言わせれば『新手の魔王の城だ!』と妖精たちを連れて遊べる遊び場だ。


「ここですね」

「相も変わらず……いや、白骨が増えてる気がするな」

「人も妖怪もこの呪いの前では同じか……」


 人の白骨は特に多く、この辺りに盗掘に来た人間を襲う妖怪も数多い。その妖怪のほとんどは下位妖怪でありやがて屍に変わる。

 中には食い詰めた上位種と思われる巨大な白骨もあるが、それらを横目に理事長たちは赤黒い霧が罹らない位置まで歩き、護符を首から下げた。


「――全員、護符は身に着けたな?」

「イエス!」

「はい」

「では内部へ入る。はぐれたら入り口に集合だ」


 一歩踏み出すと護符が効力を発揮し、体の周囲に薄緑色の膜が張られて霧を相殺していく。メンタもここでは勝手が分からないため大人しく理事長の後を追った。

 古城は半壊しており1階と入り口が辛うじて原型を留めているような有様だ。入る者がいないため調度品や家具はそのままになっており瓦礫に埋もれている個所もある。

 メンタたちは城の中央道を進み、中庭を通り抜けて奥の扉を開け、左側の通路へと進んでいく。


「それにしてもボロボロですね。これもスルトさんがやったんですか?」

「ほぼ流れ弾だったが、そうだな。本来なら依姫が守るはずの城だったのだが……あれでは、な」


 何処か虚空を見つめ、理事長は呟いた。


「なんか凄い技でも使ったんですか?」

破滅の(スカーレット・)星屑(スターダスト)、要するに流星群だ。前にも一度幻想郷に隕石を落とそうとしたことがあっただろう?」


 あー、と間延びした返事で思い出しつつメンタはギョッとした。


「ああ……え、あれが流星群になって落ちてくるんですか?」

「着弾地点から大爆発を引き起こすオマケ付きでな。その内の一発が古城を掠めてこの有様だ」

「……えぐい」


 直撃したらきっと影も形も残らないのだろうとメンタは思った。


「……そういえばその後ってどうなったんですか? 月が滅んでいない所をみるに協定とか結んだんですか?」

「いや、スルトが満足して帰っていった。良い運動になったとさ」


 つまり運動不足解消をしたかったのではないか、と全員が思ってしまった。


「えええ……」

「あいつが居なくなったら私も興味が無くなったので帰って来た。その後は分からんよ」

「そうこう言ってる内に着いたぞ」


 通路の先にある扉は蹴破った形跡があり、中は図書室のようになっている。枢は先に中へと入り、中身の無い本棚を横に動かした。

 その奥には地下へと続く階段があり、枢が明かりを灯しつつ先に進んでいく。

 階段を降りきると広い部屋に出た。目の前には祭壇があり壁際には枢と理事長が退けただろう屍の山が積まれていた。


「シン……」

「――っ、分かってる」


 シンが両手を固く握り、険しい表情で祭壇へと向かっていく。

 ――やはり心構えをしてもシンにはダメージあるだろうな。何せ一度死んだ場所だ。決して良い思いはしていないだろう……ここは一つ俺が何か言ってやろう!


「シン――」


 枢が駆け寄ろうとするとメンタが先に祭壇へと上がり、制した。


「枢さん、大丈夫です。見ていてください」

「言う」


 もしや自身も知らない何かを知っているのか、と枢は何があっても良いように身構えた。

 シンとメンタは呼吸を合わせ、片手を繋いで前に出して叫んだ。


『バルス!』 

「俺の心配を返せ!!」


 そのネタは最近になって地球から紫が持ってきたDVDに入っていたものだ。陰陽寺院内でも貸し借りが行われているほどの名作扱いされている。


「三人とも何をしている……こっちだ」


 理事長は阿保三人を呆れた目で見つめ、飛空艇が収納されている入り口をこじ開けて内部の明かりを灯らせた。その中は結界で覆われており赤黒い霧は入ってこられない。


 メンタたちも其方へと駆け寄り、飛空艇を見上げた。


「思っていたよりもでかい飛空艇ですね」

「この巨体を宙に浮かせるほどの技術が月にはある……末恐ろしいな」


 飛空艇の中は製作途中だったのかシンプルな作りになっており、動力炉までの道のりはそう難しくなかった。

 動力炉は大きな水晶球体でありその周囲には魔力を増幅したり排出したりする機構が搭載されているようだ。

 恐らく事前に大規模な魔力を用意して水晶体の中に入れ、飛空するのだろうとメンタは考えた。


「動力炉はこれ?」

「他に見当たりませんのでそうでしょうね」

「じゃ、持って帰る」


 飛空艇はあまりに巨大で持ち運ぶことは出来なさそうだ。


「というよりこれ全部持っていきましょう」


 枢がそう考えているとメンタがおかしなことを言い出した。


「は?」


 メンタが武装を右手だけ起動して空間収納を出現させ、飛空艇をその中へ入れてしまい、枢と理事長は唖然と口を開けた。


「なるほど」

「こういう時、物質条件に縛られないって便利ですよねー」

「これはまた面白いことをしてくれるな……」


 収納魔法や圧縮魔法と似ているが容量は100倍以上もあり、理事長は興味津々の様子で空間収納を見つめていた。


「さあ! 戻って永琳さんに渡しましょう!」


 メンタを先頭に地下を抜けだし、城を入り口を抜けて守矢神社へと急いだ。



 一方で守矢神社の西の空き地では守矢神社の指揮の元、博麗神社、紅魔館、白玉楼、妖怪山、海洋勢、親衛隊等々が集結し必要になるだろう材料を手分けして収集していた。

 その中でにとり率いる海洋河童共は工具を片手にパーツの制作を進めているようだ。


「はーい、こっちこっち!」

「オーライオーライ!」

「わっせわっせ!」

「急げ! 急げ!」

「鉄が足りねぇぞ!」

「こっちもだ!」 


 そこへ地底から戻ってきたさとりたちが鉄や銀、銅を大量に空き地に降ろした。


「持って来たわよー!」

『オオオオオオオオオ!!』


 にとりが駆け足で素材の山へ駆け寄り、後を追ってきた河童たちに指示を出していく。


「はいはい! 此方で承ります!」

「じゃー、頼むわね」


 霊夢も地底から戻ってきており、少し離れた場所にいる紫の隣に腰かけた。


「戻ったわよ、紫」

「ご苦労様」

「それにしても、これまた凄いわね」

「ええ、本当に」


 妖怪、大妖怪が問わず一つの場所に集結するなど霊夢から見ても悪夢でしかない。だが今は全員が協力し、骨身を惜しまないという夢のような状況だ。

 そこから視線を外し、霊夢はレミリアたちの方を見た。


「ところでレミリアたちは何やってんの?」

「月面には超硬度の防御結界が張られていますのでそれを打ち破るための魔法式と地上からの援護砲撃用魔法陣の構築です」


 空き地から少し離れた場所では魔法に一番詳しいパチュリーを中心としてレミリアたち、魔理沙、魅魔、アリス、椛が巨大な魔法陣を描いていた。


「フラン! そっちずれてる!」

「ええ!? また!?」

「レミリア! 魔力が足りてない!」

「無茶言わないでよ!」

「魔理沙! いい加減魔力を安定させなさい!」

「私が瞬間速度型魔法師だと知ってるよな!?」

「魅魔! 魔理沙の補佐!」

「もう魔力ねぇんだよちくしょー!」

「し、死ぬ……」

「ぜぇぜぇ」

「も、もう魔力が……中身が……」

「久々の出番キター!」


 魔法陣は線と事前に注入される魔力が大きく起因し、少しでもズレが生じると発動しなかったり全く別の魔法が発動することがあり得る。

 今回使用する魔法はパチュリーが知る中でも超長距離と高威力を両立させる魔法であり、生半可な魔力では発動しないし僅かでも線を間違えれば暴発する危険性があった。


「大苦戦してるみたいね」

「月まで届かせるための合成魔法式だからでしょうね」


 霊夢は分からないなりに相槌を打ち、ふと空を見上げるとメンタたちが飛んでくる様子が見えた。


「あ、メンタたちも戻って来たみたいね」

「戻りましたー! 大収穫ですよ!」


 腐腐ゥゥ!! と叫びを上げながら空間を開き、飛空艇の原型を空き地に向かって放出した。


『ぬわああああああああああああああああああああ!!?』


 そこらにいた妖怪数十匹を下敷きにし、しかし飛空艇その物の到着に永琳はカルテの記入を止め、驚いて立ち上がった。


「こっちも大概ね……」


 飛空艇の方へ駆け寄ってみると理事長、シン、枢も降り立ち、皆に事情説明をしている最中のようだ。

 程なくして全員の認識が一致し、紫と永琳は首肯した。


「……なるほど、動力炉だけよりもいっそ全体を再構築した方が分かりやすいと」

「こうなってしまったが、出来そうか?」

「私は元々の知識がありますので何とでもなりますが、職人たちの方は困惑していますね。何せ数百年以上先の技術ですので……」

「やって貰うしかないわ。親衛隊もたっぷりと働かせないと」


 パルのためなら宇宙の果てまで行くだろう阿保共は今も昼夜問わずで働いており、死に体になった者ほど誉れを受けるという謎の風習が流行しだしている始末だ。


「そうですね。……ところで紫さん」

「何かしら?」

「非常に聞き辛いのですが、資金の方はどうなりましたか?」


 それは霊夢も思ったが地雷だろうと思って敢えて聞かなかったことだ。だが丁度いい機会なので聞こうと耳を傾けた。


「うふふっ……ふふ……げふっ」


 紫が笑いから一転、顔を真っ青にして吐血しよろめいた。


「紫さん!?」


 流石にメンタも喀血は予想外であり、すぐに紫を支えた。


「だ、大丈夫よ。私が、私の身を犠牲にすれば全て丸く収まるから……」


 とても献身的ではあるが神がそれでいいのかと枢は疑問を禁じえなかった。


「……もしやまた借金を重ねたのか?」

「ふふふ……返しても返しても返し切れない借金……」

「借りた先はスルトの奴か?」

「ええ。利子は百年に一割で良いんですって、ステキ!」


 一枚の請求書と契約書を見せつけ、そこに書かれていた金額は総額約5兆円という途方もないものだった。


「霊夢さんとメンタさんの総収入を合わせ、紫さんたちの収入額を合わせても一年間で返済出来る額は2億円程度……増える額はおよそ500憶……っ!」

「もはや首を吊った方が良いような額だな……」

「ううん、大丈夫よ。これ、元の額の半分くらいだから」

「え?」


 これで半分? と全員の視線が紫に向いた。


「スルトさんの自己負担が五割、私が三割で紅魔館が二割になっているの」

「……つまり元は10兆強近い額になるのか?」


 10兆をポンと出せる神様など神の中でもそう多くはない。


「わーお、これは凄いですね!」

「燃やせ燃やせ!」


 てゐが書類を火にくべようとして紫が奪い返してスキマに放り込み、メンタの方を向いた。

 

「メンタ」

「はい、メンタです」

「先のコミケの売り上げを憶えていますか?」

「唐突ですね。憶えてますよ」

「加えてボーナスステージがあり、パルが買収した金額は知っていますよね?」

「三億円でしたね」

「今、ここに5兆円の借金があります」

「……はい」


 若干嫌な予感がしつつもメンタは頷く。


「下着がブラ込みで二枚、上着、スカート、靴下、一日の着替え料金はおよそ3万円弱です。それら全てを競売にかければ1億円は売れる見込みがあります」

「生のJCだからな」


 てゐは他人事のように呟き、メンタも聞かないふりをすることにした。


「いっそ清々しいくらい返済に精が出ますね」

「一年間で365億円……コミケの売り上げ能力込みで約400億円、霊夢に魔理沙にアリスと上海人形、私に藍に橙を加えても千億程度、ヤバイ商売に手を出して売り上げを伸ばして永琳のアブナイお薬に手を染めて……いえ、待って。それ以前にスキマで異世界とかのダイヤモンドや金、石油を発掘して経済崩壊するほど売れば……そうね、そっちの方が儲かるわね。いっそ平行世界の地球を使い潰すくらいのつもりでやれば……行ける、行けるわ!」


 確かに可能だがそれは他の神々に邪神扱いされるということをすっかり忘れていた。


「いや、それアウトだと思います」

「いいえ、やるしかないのです。わたしがそう言っているのです。ヤれ、と」


 それに近い行為をやってこの間どんな目に遭ったかまだ憶えているメンタは首を縦に振るうわけにはいかなかった。

 昼食を振る舞い終えたスルトも紫たちの方に歩み寄り、少々呆れつつ告げた。


「紫よ、不正で得た金銭は受け取らないと先に言っておくぞ」

「えええ……」

「諦めるんだな」


 魔理沙も魅魔も呆れ、紫は口惜し気にハンカチ噛みを拾うしつつ呻いた。


「いやよ! 何とかしないとスルトの毒牙にかからなくちゃいけなくなるでしょ!?」

「ほっほう」

「そいつは興味がありまするな」

「ぐへへへ」

「スルトさん、やはりその気があったんですな」

「否だ」


 と言っても聞くような奴らでは無いことをスルトは知っているためそっぽ向いて溜息を吐いた。視線を戻すと椛たちもおにぎりを食べつつ話に参加しているようだ。


「私はいつでもウェルカムです! 子供が出来たら尚幸せです!」

「あらあら駄目よ。既に私のお腹に子供がいるもの」

「そのお腹に詰めたゴムボールを落として差し上げます」

「フカ――――ッ!!」


 否、騒がしに来ただけかとスルトは内心で深い溜息を吐いた。


「ところでスルトさんたちは何故此方に来たんですか?」


 早苗の問いを聞いてスルトは先ほどまで作っていた昼食を指差した。


「うむ、進行状況の確認と昼食の差し入れにな」


 そっちを見てみるとフランたちが美味しそうにおにぎりとサンドイッチを頬張っており、さとりたちも会食に参加していた。


「あたしは進捗報告に!」

「こっちは素材の報告にきました」

「分かりました。早速伺いますね」


 それを見てメンタとシンは半眼で早苗の背を追った。


「逃げた」

「逃げましたね。あ、そうそう、スルトさん」

「何かな?」

「どうやったら借金帳消しになりますか?」


 ふむ――とスルトが一考すると合間に椛が入り、まるで名推理をした探偵のように指をメンタに突きつけた。


「愚問ですね。スルトさん、実は結構Sなので調教プレイでしょう! まずは尻尾から撫で、苦悶する紫様を横目に耳を舐め、首筋、背中へと舌を這わせていきます。眼には勿論アイマスクを着用して両手両足は縛り、真っ暗な部屋の中で声だけは某生放送で幻想郷中に流れて――ハァハァ……」


 なるほど、とメンタは付け加える。


「付け合わせにNTR要素込みで実は目の前に早苗さん幽々子さんが簀巻きで転がり、紫さんの上には妖夢さんも居て二人まとめて毒牙にかけて――そこで部屋の電気が付いて放送事故という大惨事かつ羞恥プレイもグッジョブです!」


 さとりとレミリアも紅茶をソーサーに置き、呟いた。


「流石にそれはシャレにならないからせめて放送終了後という設定が好ましいわね。あと部屋はクーラー完備でベッドはハート形の広い形のが良いわね」

「どうせスルトの事だから一回始めたら一日中終わらないだろうし」

「ふむ、それだったら私も遠慮は必要なさそうだな」


 最後に理事長も加わり、メンタは次のネタをメモし終えた。

 スルトは仮面の奥で半眼になって眉間に皺を寄せて一度天を仰ぎ、視線を戻した。


「……其方たちは一体何をさせようとしているのだ。それに椛、そんな趣味があったのか?」

「い、いえ! 今のはちょっとした妄想です! 決して私の時はこうだったら良いなとか部屋で縛りプレイしながら寝ているとか職務中に脳内妄想でイったりとかしてませんから!」

『図星乙です!!』


 メンタたちに指を差され、もうオワタとばかりにニヤニヤと笑われた。


「――っ!?」

「……椛、白昼堂々とそういうことを言うのは感心しないな」

「うう! 調子乗りました!」 


 だが、顔を赤らめて恥じらいつつも満更ではなさそうだ。スルトもそれ以上深く突っ込むことはなくさとりに視線を向けた。


「良い。後、さとり。其方も余を何だと思っているのだ」

「ハーレム野郎」

「ぐっ……それはそうだが……」


 これ以上雑談してはキリがないと永琳は手を叩いて一度注目を集めた。


「オホン。皆さんも用事があるからここに来たのでしょう。そろそろ作業に取り掛からないと進みませんよ」

「師匠……」


 てゐに心配そうに見上げられ、何かミスをしただろうかと永琳は不思議に思った。


「何でしょうか、てゐ?」

「『子作り』は作業じゃないんだ――」


 その無駄な口が付いている顔面を掴み、プロもかくやという素晴らしい投球フォームで永琳は何処か遠くの空に狙いを定め、てゐを投げた。


「チェェストォォ!!」

「ぶべらぶばぁ!!」


 若干の苦笑いと共に各自が作業に戻り、永琳も激情を抑えてカルテに取り掛かった。



 一方、月面では兎隊長と兵士たちは任務の終了を告げに豊姫の前に現れていた。


「ほーう、ほーう」

「依姫以下二名を捕えて参りました」


 その面はやや不機嫌そうだが依姫が転がっていることもあってか少しはマシだ。


「誰が三名っつったよ! この馬鹿兎!」

「そのくらいに。彼らの家族の方はどうなっておりますか?」


 灰色の人が聞くと豊姫はどうでも良さそうな態度で彼女たちに事実を告げた。


「は? あー、あんまりにも遅いから拷問部屋に送っちまったよ。今頃どうなっているかは知らんがな! ははは!」

「そ、そんな……」


 兵士の数名が抜剣しかけ、隊長が両手で制して比較的落ち着いている兵士に外へ連れて行かせる。豊姫もそんなことを一々止めるほど興味はなく、今は目の前に簀巻きにされている依姫に嗤いかけた。


「さてさて……随分な姿になっちまったな、依姫ぇ」

「相も変わらずのクズだね、クソ姉」


 一気に機嫌を損ねた豊姫は立ち上がって侍女から鞭を奪い取り、打ち据えた。


「誰が口答えして良いっつった!」


 二発、三発では済まず暴言と共に何度も鞭打ちの音が城内に響き渡っていく。


「このっ! クズ! ボゲ!」


 灰色の人は隊長たちを連れてそっと退場し、別室へと連れていく。

 城の東側の一室に兵士たちは集められ、家族の大半は拷問室以前に豊姫の気まぐれで殺されていることを城内の別の兵士から聞かされて膝を屈していた。


「くぅぅ……」

「こんな……こんなことが……」

「己、己ェェ!!」


 その様子に灰色の人は心を痛めつけられながらも思考を進めていた。

 ――これで彼女たちの心は完全に離反した。駒は手中にあり、聖域はもう間もなく崩壊し、幻想郷からは彼女たちが来る。その時がお前の最後だ。

 未だ謁見場で鞭を振るっているだろう彼女を睨みつつ、灰色の人は目を閉じ、落ち着いた様子でベッドに寝かされているパルの髪を梳いた。


「本当、この子は依姫の生き写しみたい存在だ……」


 ――これが依姫のもう一つのあるべき姿だったのなら――本当に彼女は救われない……いや、そうならないように今までやってきたんだったね。


「後、少しだよ」


 それは誰に向けられた言葉なのか、当人も自覚はなかった。



 月の城の牢獄に放り込まれた神奈子と諏訪子は暇を持て余していた。


「暇だね」

「暇だねぇ」


 牢獄の中には豊姫から離反した兵士たちが嫌がらせとばかりにTVやゲーム機を置いていき、ソファから調度品、簡易ベッドを設置し、一日三食を諏訪子たちに出していた。


「ふむ、暇そうだな」


 ゲートを使って月に上がってきたスルトが諏訪子たちと牢獄越しに面会し、壁を背に腕を組んでいた。


「やぁ、スルト。さっき振りなのだ」

「早苗ちゃんの様子はどうだ? 食欲不振にはなっていないか?」


 自分たちは神であり食事も実は取らなくても大丈夫だが守矢に残してきた早苗は人間だ。精神的な体調不良もあるだろうと神奈子は懸念していた。

 スルトはニヤリと笑い、確かに言われたことを二人に告げた。


「むしろ新鮮な感覚だと言っていた」

『ガッデム!!?』


 二人して牢を揺らし、ブリッジして悔しさを精一杯スルトに体現した。


「しかし二人ともに牢獄とは……月の連中は余程神様が怖くないらしい」

「それをやったのはお前だけどな!」

「もう本当にさぁ、スルトに本気でボコされるのって嫌なのだ」

「それはすまなかったな」


 絶対そうは思っていない軽口に諏訪子は辟易するが他の神もこんな感じなので気にしない方が良いことを知っている。


「気絶する感覚なんて久しぶり過ぎるからな」

「こんなことって最初に会った時以来かな?」

「そうかもしれないな」

「うむ。出会った時以来だな」

「あの時は本当に酷かったねぇ……出会って数日で、スルトがめちゃくちゃ暴走して私たちは死にかけたっけ」

「全力を出して死にかけるなんて、大昔に二人で殺りあって以来だったからな」


 神がまだ現世に留まって信仰を集めていた頃。なんと懐かしいことか、と二人はふと思い出していた。同時にスルトと出会った時を思い出して胃がキリキリしてきた。


「最後は早苗ちゃんがやってくれたけど……ああ、思い出すだけで胃が痛いのだ~」

「あの時の早苗は確かに巫女だったな……どれ、少々昔話でもしようか」

「うん、昔話に興じるのも悪くないな」

「では、話そうか」


 どうせ暇だし、と諏訪子と神奈子は座り、スルトも勝手にお茶を淹れ始めた。


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