第八十二話 覚醒
メンタ「あれ!? いつものふざけたタイトルじゃないんですね!?」
グラたん「はい! 今回は主人公回の第八十二話です!」
大通りを駆け抜けて中央広場へと出るとそこらにいた人々のほとんどが地面に倒れて気絶している。轟音がする方を見てみれば現在進行形で霊夢たちがムスペルヘイムと戦っている最中だ。
「さて、浄化自体は9割方終わりましたのでそろそろ霊夢さんを仕留めに行きますか。向こうも予想しているとは思いますが、やはり狙うは倒す直前ですね!」
「そうはさせねぇぜ!」
その声にメンタは驚いて振り返った。
「えっ! もう着替えたんですか!? ――腐ハッ」
魔理沙たちは般若の形相だ。その理由は先ほど入った服屋が子供用の洋品店であり、容姿と体格から三人にはぴったりというべき姿へと変貌を遂げていた。
メンタが思わず嘲笑してしまうくらいには自虐要素が強かった。
「お前のせいで、なっ!」
「この辺りにゃ肉盾も無いみたいだし覚悟しろ!」
「ここで終わらせるわ!」
確かに住民は避難し終えてしまい肉盾にするための人間はいない。だが、メンタにはまだ持っている札がある。
「……腐腐腐、倒されるわけにはいきませんのでオレも一つ手札を切るとしましょう」
メンタが視線を向けた先には避難誘導をしていた武器を持った警備員たちが通りかかっており、魔理沙たちもそれを一瞥した。
「警備員か?」
「10人はいるが……」
「だが洗脳されていることは間違いなさそうだぜ。何をする気だ?」
メンタは腐的に嗤い、声高らかに告げた。
『こっちに妖怪がいる! 皆、行くぞ!!』
何処から聞こえたのかやや低めの男性のような声が上がり、警備員たちも魔理沙たちも固まった。
「へっ?」
「今の声、誰!?」
困惑とは裏腹にメンタは警備員の方へと駆け寄りその背後へと走っていく。警備員たちは萃香を見るなり妖怪と断定し、武器を構えた。
「いたぞ! 妖怪だ!」
「弓と銃持って来い!」
「撃て!」
弩に矢を番え、掃射するが魔理沙たちは悠々と躱して距離を取っていく。
「うおっとっとっと!」
「ハハハ! 効かないね!」
唯一、萃香だけは正面から矢を正面から受けて弾き、それを見たメンタが内心舌打ちしつつ指示を出した。
「正面の鬼は倒そうと思うな! 近寄らずに妨害に徹しろ!」
能力も多用し、周囲から多数の警備員たちがこの場所に向かって集まってくる。
メンタの指示により警備員たちには香霖堂から支給された『特製対妖怪粘着ネット』の玉を構え、一斉に投げつけた。
「粘着ネット用意!」
「そらっ!」
「あまり人間を舐めるな!」
この粘着ネットは足止めを目的に作られており下位妖怪でも30秒くらい動けなくする逸品だ。とはいえ、人間に決め手は無いため逃げる以外に手は無い。
粘着ネットが萃香に降り注ぎ、一時的にではあるが動きを止めることに成功していた。
「うっげぇぇ! なんかネバネバするし動けない!」
それは魔理沙たちにも降り注ぐが、空中に退避しアルミを噛んだような渋い顔で呟いた。
「やってくれるぜ……!」
「くっ……人数を集めたのも私の能力を逆手に取るためね」
「だが相手は人間だ。スペルカード撃ったら死んじまうぜ」
「そこが厄介な所ね」
そこらの化け物どもと違い、人間は風圧や流れ弾で死ぬくらい脆い。
さてどうしたものか……と悩んでいるとメンタが再び声を上げた。
「徹底的に足止めしろ! 上空にもいるぞ!」
上空にはネットが届かないため弩を撃つ者、交換する者、装填する者の三段構えにして連射させる。対して魔理沙たちは防御結界を展開して弾き、メンタの方を見た。
そのメンタは逃走――というよりは炎の巨人の方に向かって飛行していく姿が見えた。
「不味い! 逃げられる!」
さとりは一つ溜息を付き、魔理沙の背を押した。
「魔理沙は行きなさい。弾幕はダメでも加減撃ちくらいしてみせるわ」
一瞬の間の後、魔理沙は首肯した。
「間違って殺すなよ?」
「そこは彼ら次第ね。ほら、行って」
「おう!」
魔理沙は箒をメンタの方に向け――地上から飛来してくる人影が見えた。
「行かせるな! 機動部隊!」
『了解!』
「なんだ? ……おい、まさか……」
それは機動兵器を身に付けた人型の半妖たちだ。魔力が不足している人間とは違い、生まれつき一人前の陰陽師並みの魔力を持つ彼らは香霖堂の支援を受け、町の機動試験部隊として在中していた。
「メンタと同じ……いや、装備が違うな。剣二本と銃器か」
装甲はやや厚く、全体的な色は青銅色。特に負担の大きい腕には事前プログラムされたアシスト機能が搭載されており負担を軽減している。腰には剣二本が装備されており背面には魔力式単発銃が装着されている。
メンタとは違って機動性は低くなっているが安定した火力と耐久性を兼ね備えまさしく量産機と呼ぶにふさわしい装備に変化している。
「俺たちだってやれるんだ!」
「おう! 囲んで殺るぞ!」
「霖之助さんの為にも!」
ああ、と魔理沙は納得した。
「霖之助が原因か! くそっ!」
――あの装備は恐らくメンタのブツを量産した物だろうな。量産型と考えれば訓練次第で誰でも使える利便性が優先されているはずだ。メンタ程の脅威は無いはずだ。しかし人数を考えると一人20秒……1分はかかりそうだな。
「考えても仕方ない、やるか!」
アレが相手ならば多少弾幕の当たりどころが悪くても大丈夫だろうと推測し、連射符「三連流星」を放った。
壁際から侵攻を進め、町の中心部へと進みつつあるムスペルヘイムと相対しているのは霊夢たちだ。ムスペルヘイムの周囲には火炎が燃え盛り、地面は溶岩と化していた。地熱の影響もあってか中央都市の全体の気温は70度を超えてしまい、避難民の周囲には紫が耐熱防壁を作り、常に冷却をし続けている。
そのムスペルヘイムに常に近接戦闘をしている霊夢たちは息を切らせながら送られてくる冷水を頼りに場を繋いでいた。
「グオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
炎の巨人が一度咆哮を上げれば周囲の炎が揺らめき、辺り一面に広がりを見せ、霊夢たちを蝕んでいく。
「くっ!」
「こんの!」
地上から応戦している勇儀は岩石を投げたり口内で圧縮した空気弾を吐き出したりしており、アリスは人形を使うのを止め、土魔法で岩石を作り勇儀に渡していた。
「四天「轟音破壊の咆哮」!!」
「グオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
勇儀の指定咆哮に対してムスペルヘイムも多少脅威を感じ、地面を踏みつけて前方に壁を作り防御する。
「固ってぇなぁ! 全然効いてないな!」
何度も繰り返される攻防と全く手ごたえがないという実感にアリスは疲弊を見せていた。
「これ、本当に倒せるの?」
「倒すのよ。何としてもね!」
勇儀も一度退避し、近くのまだ無事な屋根に跳躍して霊夢たちと合流する。
「つってもよ、頼みの夢想封印すら効かないんじゃどうしようもないだろ」
弾幕はほぼ効かず、この中では唯一頼みだった夢想封印も僅かにダメージを与えたがそれだけだ。
「手持ちがダメなら新技よ! やれるだけやってやるわよ!」
半場ヤケではあるが味方を奮い立たせ、戦意を喪失させない方が今は重要だ。
「そうね。弱気こそ敗北に繋がるわ」
「だな! こうなったら被害無視くらいの気持ちで行こうぜ!」
「そうよ。そのくらいしなきゃアレは倒せないわ」
アリスと勇儀も腹を括り、最大威力の技をぶつけてそれでダメならもうどうしようもないと考えて動いた。
「人形遣いの秘術、見せてあげる。――ゴーレム生成。材質は土と木。イメージは目の前にある……出来る筈っ!」
アリスがイメージしたのはムスペルヘイム本体。それを人形遣いの本分であるゴーレム生成で再現しようと試みていた。
「完全な鬼化するのは七百年振りくらいだな! ガアアアアア!!」
勇儀は鬼化と呼ばれる鬼の妖怪の中でも一部の者にしか使えない奥義を使うことが出来る。だがその反面で理性はほとんど蒸発し敵を倒すまで止まらないという性質を持つ。勇儀はそれを若干の時間ではあるが制御することに成功している。
そして霊夢は――。
――私がやれることは一つ。メンタに出来て、早苗に出来て私に出来ないなんてことは無いわ。過去を超える。今を超える。考え過ぎず感覚で良い。博麗の巫女の力を全て引き出せ。
「一手に全てを込めるっ!!」
既に成功例は何回も目にしてきた。その理論も概ね紫から聞かされ練習はしていたが成功はしてこなかった。
「霊夢! トドメは任せるわよ!」
アリスのゴーレムが突撃し、アリス自身も制御することで手一杯だ。ゴーレムがムスペルヘイムにタックルを仕掛けるがそこで止まってしまう。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
寸での所で理性を保ち、普段の3倍はあろうかと思わせる巨躯に変貌した勇儀がムスペルヘイムの足に蹴りを入れ、殴り、体勢を崩していく。
その隙にゴーレムが炎の巨人を押し倒し、その体を炭へと変えた。アリスも精魂尽きてその場に膝を付いた。
「――集中、集中……夢想封印で届かないのなら夢も想いも超えろ。此処を問え。私を問え――」
霊夢は今まで過去最高の集中力を発揮し、五感全てを閉じ自身を問い、訪ねていた。
『汝は何処に在りか?』
ふと声が聞こえた。
――私は今、幻想郷にいる。博麗の巫女、幻想の守護者。幻想郷は夢と想いが集う場所。人と妖怪が共に暮らせる世界。私は此処にいる。
声の主は女性を思わせるような声色だ。それでいながら幼く、何処か懐かしいような音をしていた。
『汝、何処に在りか?』
再び同じことを問われ、霊夢は心安らかに答えた。
――私は私。
『汝、我を求めるか?』
――今は力が必要。
『何故、力を欲す』
――皆を守るため。私のやるべきことをするため。あの巨人を倒すため。
『力は正義にもなり悪にもなる』
――守るために使うのは悪いことではないわ。
『博麗の巫女。その重みを知るか』
――私は私の役割を全うするだけ。来るべき時までは私よ。
『良かろう。其方に力を授けよう。――叫べ、我が名を!』
彼女は微笑み、霊夢は右手を天高く掲げて叫んだ。
「神降ろし、『博麗大龍神』!!」
霊夢の体に紅蓮の龍を思わせる羽衣が纏われ、その手にはかつてない程の霊力と魔力が籠った宝珠が握られていた。
かつて一度だけ見たことのあるその姿に霊夢は驚くが、これならば勝てると確信する。
「行くわよ! アリス、勇儀! 避けなさい!」
誰もが一度は敗北し、誰もが一度は頼ったその声に二人は霊夢を見上げて大きく後方に跳躍した。
「来たわね!」
「ガアアッ!!」
二人が飛びのくと同時に霊夢は右手を炎の巨人に向け、その手に握られていた宝珠が10に分割しムスペルヘイムを囲むように浮かんでいく。
「食らいなさい!」
過去を超え、今を超えた霊夢が生み出した、歴代でも類を見ない必殺の一撃。
画面の外で紫は驚愕し、スルトたちは興味ありげにその様子に食いついた。
強大な魔力と眩い閃光に全ての者が視線をそこへと向けた。
「『幻想封印』!!」
10の宝珠が輝き、お互いを繋ぐように虹色の文様を伸ばし合い、やがて再び一つにまとまるように収縮していく。
「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
だがムスペルヘイムとてただやられるわけがない。炎の巨人は初めて防御態勢に入った。全身の炎の出力を上げ、大気が震えるような魔力を放出し幻想封印に対抗する。
「まだ、まだ足りない!」
霊夢に余裕は無い。最大限の集中力を全て攻撃に費やし、一瞬でも思考を過らせることは許されない。押し負ければ炎の巨人から噴出される焔で辺り一面が焼き尽くされ、何も残らないだろう。
だからこそこの状況を打開できる一撃を待つしかなかった。
その様子を近くで見ていたのはメンタだ。
「……腐腐腐、まさかとは思いましたけどここで霊夢さんが覚醒しましたか。しかし状況は五分――いえ、時間制限がある分、霊夢さんの方が不利ですね。正直、賞金目当てだったんですがそれ以上の物を見せて貰っちゃいましたので今回は霊夢さんたちに全て譲ってあげますよ。えっと、出所は……あったあった」
霊夢の脳に侵入したメンタはそこから声のありかを探し、意外にも博麗神社の方から発せられていることに驚きつつもパスを繋いだ。
もよや彼女――博麗大龍神は無理やりパスを繋がれたことに驚きつつも同じ博麗の巫女(見習い)であるメンタに同じ問いをした。
『汝、我が力を欲さんとす――』
「グチグチ五月蠅いですね。問う暇があるなら力を寄越せDES! くれないなら貰ってやります! オレの能力は神だろうと牙を剥きます! 腐れ幻想郷!」
あまりにも酷い敬意の欠片もない回答に博麗大龍神は一条の涙を流した。
『……これが次世代の巫女かと思うと涙が出てくるな……』
だが現状を打開するにはメンタの力も必須だろうと考え、神降ろしを許可した。
「み・な・ぎ・っ・て・き・ま・し・たぁぁああああああああああああああああああああああ!!!!」
霊夢と同じく紅蓮の羽衣を纏ったメンタは装備を展開した。
「シャイトゥーン・フォルフェクス装着! 一気に決めます!!」
背負っている大ばさみを正面に構え、全ブースターを背後に展開しチャージモードに移行する。次いで、紅蓮桜花を発動させ神降ろしも相まってその身体がまるで燃えているかのような錯覚を引き起こさせた。
「自らも弾丸と化し全てを貫く一点の槍と成して穿ちます!」
大鋏は閉じたまま構えられ、全ブーストを使い飛翔した。
「神を殺す、この一撃に耐えられるなら耐えてみてください!」
その名を――
「神滅・ロンギヌス!!」
それは紅蓮に染まった一本の槍のようにムスペルヘイムの胴体を穿ち、魔力を放出させる核を砕かれ、現状を好転させる原因となった。
「グオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!?」
「誰だか知らないけど援護ありがと! 行っけぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」
胴体を穿たれた衝撃から立ち直ることは出来ず、幻想封印がムスペルヘイムを押し込んでいく。炎の巨人は抵抗するが今までのように焔を噴出させることは出来ず、僅かな抵抗のまま宝珠の輪が縮小していく。
「グオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
やがて輪は宝珠と一つになり、上空に向けて全エネルギーを放出した。
それは形容するならば黄金の大樹。たった数秒の合間ではあったが爆発的なエネルギー放出が形取り、戦いの幕引きを告げているかのように思わせた。
「くっ……はぁ、はぁ、はぁ……」
霊夢も神降ろしが解け、全身が鉛になったような感覚が襲う。立っていることも出来ず尻餅を付き、次いで側に空から力尽きたメンタが落ちてきた。
「ぶべっ」
顔面から屋根に落ちるというベタな登場の仕方に霊夢は目を丸くした。
「はぁ、はぁ……メンタ?」
「霊夢さん、お疲れ様でした……」
その言葉で分かったことは二つ。一つは何処からか戦いぶりを見ていたということ。一つは先の紅蓮の槍はメンタの仕業ということだ。
「何であんたがここに……ああ、そういうこと……」
「イエスです」
恐らくメンタも全力を尽くしたのだろうと思わせるくらいに疲弊しており、霊夢が最後の力を振り絞って伸ばした手を躱さなかった。
「ん……っと、掴まえた」
ぽんっと頭に手が置かれ、メンタも完全に脱力して息を吐いた。
「はい、掴まりました」
そこへ全身に傷やら火傷やらを負った勇儀とアリスが上がってきた。
「終わったみたいね」
「クハァ! 久々にやったから疲れたー!」
鬼化も解除されておりかなり際どい姿になっているが気にした様子もない。
「全く、来てみればもう全部終わってんのな」
やっと機動部隊を地面に叩きつけ終えた魔理沙たちも合流し、萃香は白い液体にべとべとになったまま魔理沙の箒の先端に括り付けられていた。
「それにしてもまさかメンタの武装の量産型を相手にすると思わなかったぜ」
「本当、随分と手こずったわ」
「人間も結構強いんだな」
香霖堂の武器さえなければ――と、さとりたちは思うが逆に言えばそれが無ければ相手にもならなかったと言える。
「そっちはそっちで大変だったみたいね」
「もうヘトヘトだ」
魔理沙の目には霊夢とメンタの姿が一段と大きくなっているように見え、魔力と霊力も数段階上がっているように思えた。
それを問う前にスキマが開き、紫が水着姿のまま現れた。
「皆、お疲れ様です。都市の被害は全てスルトさんが直してくれましたので戻りましょうか」
ふと辺りを見渡せば破壊したはずの中央都市の壁や町の様子が何時の間にか元に戻っており、全員を唖然とさせた。
「……本当、ケタ違いだわ」
どうやって復興したのか、という疑問は残るが――まさか指パッチン一回で復興したと知ったら霊夢たちは意識を手放すことだろう。
全員をスキマに収容してその場から立ち去り、町からは少しずつ活気が戻り始めていた。
戻ってきたメンタたちは海の家に運ばれ仰向けに寝かされていた。力を使い過ぎたこともあり眠気に任せて目を閉じ――次に目が覚めると既に19時を回っていた。
体はまだ痛むが歩けないほどではないためラッシュガードを着込んで外に出てみる。
「ただいまですー」
「戻ったわよー」
外に出るとバーベキューの良い匂いが漂っており、昼間と同じくらいに騒がしい食事風景が目に入っていた。食べ終わったフランやこいしたちは花火を片手に撃ち合いを始めているようだ。
「おかえり~。見てたけど凄かったね!」
「霊夢さんも神降ろしが出来るようになったんですね! 負けていられません!」
二人が出てくるとパルと早苗が駆け寄り、霖之助も霊夢たちの飲み物を両手に持って寄ってきた。
「彼らも魔理沙さんたちを十分に足止め出来たみたいですね」
やや恨みがましい視線を受けつつ、霖之助は飲み物を二人に渡した。
「おう……」
「あの粘着はもう食らいたくないな」
あの後、萃香は海やシャワーで粘々を落としたが違和感は中々消えなかった嫌な思い出がある。
「腹減ったわ」
そういうと巨大な肉を特注の網を使って焼いているスルトが霊夢たちの分を取り分けて皿に乗せていた。
「うむ、そういうと思い既に焼いてあるぞ」
「ドンドン焼くので食べてください!」
その隣では椛が喜々として野菜やら肉を切って手伝っている。先ほどまでは美鈴が取ってきた魚を捌いていたため若干生臭い。
「フール! ガシャ! 次持って来て!」
「あいよ!」
「うむ!」
「流石にこの面子だと食べる量も多いわね」
「焼いても焼いてもキリが無いわ」
愚痴を言いつつも腹いっぱいになっているフールエンリルたちが食材を次々に運び、もしくは現地調達していた。
「おー、待ってたぜ、メンタ!」
「食べる?」
シンとてゐもメンタたちに気づき、皿を持って寄ってくる。
「勿論食べます!」
「肉美味ェー! 追加だ追加!」
席に座ってマナーなど無視して暴食していると背後に回ったイナバがてゐをBBQにしようと手を伸ばした。
「あ、こんな所に兎肉がありますよ!」
「それはお前だ!」
いくらイナバが酔っていようが遅れを取るほどてゐは耄碌していない。
「いいえ、両方です」
が、酔っぱらって二人の頭部を掴んだ永琳には反応が遅れた。そのまま火の中に放り込まれてしまい、すぐに頭を退かそうとするが逃げられない。
『うぎゃアアアアアアアアアア!!?』
「アハハハハッハハハハッハハハ!!」
永琳はとても楽しそうに笑い、それを止める者はいない。
宴会は深夜まで続き、それから少し時間が経った時のことだった。
酔っぱらった者たちを大広間に放置し、早苗も片付けを終えて海の家の廊下を歩いていると曲がり角でスルトの姿が見えた。
「あっ、スルトさ――」
曲がり角からそっと覗いてみると紫も一緒にいた。
――あれ? 紫様も一緒? 何か話しているみたい。
「スルトさん、そろそろ……」
「……分かっている」
「こんなことを頼めるのはスルトさんしかいません」
何の話だろうと思いつつも様子を確かめる。
「仕方あるまい。元よりそのつもりだ」
「では――」
スキマが開かれ紫とスルトが別れていく。
――何かしようとしてる? でも何だか凄く深刻そう……。
「……行くか」
――今から外に?
スルトが外に向けて歩き出し、早苗も疑問を覚えて後を追いかけた。
向かった先は森の奥だ。木々が生い茂り、茂みも多い。それに加えて今日は新月であり暗闇の中で早苗はスルトを見失っていた。
「見失っちゃった……」
浮遊の孤島ということあって周囲に妖怪はいない。だが夜闇は人間を警戒させ、背後から近づいてくる足音に早苗は身構え、術符を向けた。
「誰ですか!」
「そこで何をしている、早苗」
いつもの着流しでは無く、真っ黒な黒衣と仮面を着込んだスルトがそこにはおり、早苗は驚いて飛びずさった。
「うひゃぁ!? す、スルトさん?」
「うむ、余だ。して、何故外にいる?」
「そ、それはスルトさんを追いかけて――」
早苗の素直な答えにスルトは首を傾げ、思考する素振りを見せた。
「余を……ふむ」
「何か深刻そうな顔をしていましたから何かあったのかなぁ、って」
早苗が後をついていたのは分かっていたためスルトは納得し、空を見上げた。
「ククク、そういうことか。案ずるな、もう始まるぞ」
「始まるって――」
空に火の塊が上がり、花火が夜空に開花した。
爆音と輝かしい光に早苗は怯え、もう一度空を見上げると再び花火があった。
「わっ! 花火?」
「うむ。本来であればサプライズのつもりだったのだが、これでは予定が狂ってしまったな」
「うっ……ごめんなさい」
早苗の方に歩み寄っていき、その手を取ってスルトは微笑んだ。
「良い。――海辺の方がより綺麗に見えるだろう。行こうか」
「はい!」
その笑みに視線を奪われ、その爆音と光によって早苗は全てを見落としていた。
浜辺に出る頃、全てが終わっていた。




