第八十一話 カモン、肉盾ェェ――!!
グラたん「第八十一話です!」
中央都市カルリスでは賑やかな祭りから一転、人々は壁の向こう側から見下ろしている煉獄の巨人を見上げていた。
霊夢たちは広場からその光景を見上げ、近くのスピーカーからは巨人と奮闘するようなBGMが流れていた。
「あの日、高い壁の向こうから巨人が見下ろしていた」
「私たちは絶望し、ただ空を見上げていた」
「食い止められるのは私たちしかいない」
「駆逐してやるわ、一匹残らず!」
「グオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
巨人、ムスペルヘイムが予定調和の如く壁を破壊して侵攻を開始し、魂魄も辺りに散って洗脳されているだろう人々を襲い始めた。
「で、どうするんだ?」
「人命は無視するしかないわ。後でスルトさんが復活させるみたいだし、最悪メンタに全員の脳弄って記憶改竄して貰うわ」
「ナハハ! とても巫女の言葉とは思えないなぁ!」
「文句は後。スピード特化の魔理沙と攻撃力のある萃香はメンタを追って頂戴。くれぐれも各個撃破はされないように。アリスは私とあの化け物を倒すわよ」
「了解だ」
魔理沙に続いて萃香も首肯したがアリスは魔理沙と離れることにやや不満気だ。
「メンタってそんなに強いのか?」
萃香が聞くと、霊夢は頬を掻きつつ答えた。
「いつもパルにボコされているイメージがあるかもしれないけど、攻撃力、速度、突破力なら私よりも上よ。それと私と違ってセコイ手段を取ることに躊躇いが無いから舐めてかかるとやられるわよ」
主に罠を張り巡らせて嵌め殺すのがメンタの戦闘であり、正面切って戦うことはパル相手以外ではあまりない。
「私と同じタイプってことか」
「あ、言っておくけど今のは、あの機械武装使ってない時、の話ね」
「それじゃその武装使ったら?」
「魔理沙でも追い付けないと思うわ。能力値も全体的に向上するし」
ほうほう、とプライドを刺激され、魔理沙は箒に跨って飛び上がった。
「そこら辺はやってみてだな。行くぜ!」
「おう、行こう!」
その背後には萃香が腰を乗せ、瓢箪に口を付けていた。
「ちゃっかり乗るな!」
「アハハハハ!!」
二人が高笑いしながら飛んでいき、残された霊夢たちは炎の巨人ムスペルヘイムを見上げた。
「あっちは行ったし、私たちもやるわよ」
「強そうね」
「あの人が出した魔物よ? 生半可なわけがないわ」
「そうね。――行くわ」
「ええ!」
霊夢が弾幕を片手に前面に飛び出し、アリスは後衛から側にあった木材をくみ上げてゴーレムに作り替えてその上から水を被せる。ただの木材ではムスペルヘイムの表面温度にすら耐えられずに自然発火し、霊夢の邪魔になるが水をかけて湿らせることによって自然発火は防げる。
が、それで近づいて攻撃できるかと言えば不可だ。ムスペルヘイムの温度は摂氏2万5000度。ただのゴーレムではあっという間に融解する。
上空にいる霊夢も対炎防御結界を身にまとっているがそれでも60度近い熱量を感じており、長時間の接近戦は行えていない。加えて霊夢が放ったほとんどが水や氷を纏った弾幕だが触れる前に融解してしまい、碌にダメージが与えられていない。
――突破口を見つけないと。
幻想郷でも類をみない天災の襲撃に霊夢は唇を強く噛んだ。
一方でメンタは会場に近い位置で洗脳されている観客たちを眺めていた。
「さて、まずは感染を何とかしてみますか。能力発動!」
――……やっぱり数が多いですね。二十万人ずつ行きましょうか。ターゲット指定、人間。感染している箇所を摘出し、放散させます。
能力を発動させて人々の活動を抑止し、その間に魂魄を集めて戦闘不能にするということを繰り返し、能力を使用するごとに少しずつ指定する人数を上げていく。
ある程度すると遠くから風を切る音が聞こえてきた。
「見つけたぜ!」
箒に二人乗りしている魔理沙と萃香がメンタを補足し、そのまま突撃体勢に入る。
「イエス! 待ってました!」
メンタも作業を一旦中断して振り返り、辺りに能力を発動させる。
魔理沙は萃香の首根っこを掴んで箒の先端に置き、雷光の力を一点に収束させる。
「まずはこれを食らえ! 萃香弾頭『マスタースパーク』!!」
「お――いぃぃ!?」
弾頭は萃香。これを先頭にして飛んでいく一発限定の大技だ。メンタもその使用方法に些か驚いたがすぐに正気に戻り、左右に伸ばしていた手を正面に向けた。
「カモン、肉盾ェェ――!!」
近くで伏していた人間がむくりと立ち上がり、なんとメンタの前に立ちはだかった。
『ア”ア”――』
「キモッ! ゾンビか――ゲフッ!?」
『グハッ!!』
マッハ1くらいに匹敵する速度の萃香と人間が激突し、両者が派手に吹っ飛んだ。特に人間の方は上空に舞ったり壁に激突して複雑骨折したりと散々な目に遭っている。
「くっ! 霊夢の言った通り汚い!」
「失礼ですね! そこにオレの能力に浸食された肉盾があって使えるから使っているだけですよ!」
「余計に汚いわ!! 流星『三連砲』!」
魔理沙の周囲に三つの魔法陣が並び、高速の光粒子弾が飛んでいく。
「肉盾の代わりはいくらでもあります!」
同じくして人間が立ち上がり、その身に弾丸を受けて地に伏していく。
「くっそ!」
「だが肉弾戦なら!」
魔理沙の言う通り、接近すれば幾分かマシにはなるだろうと萃香も考えて飛び掛かった。その合間には再びゾンビの群れが現れ、
「おっと、いくら萃香さんでも強化ゾンビ相手なら――」
「どっせい!」
拳一人でゾンビが粉砕されてメンタを目視できる距離まで接近する。
「瞬殺ですか!」
「さあさあ覚悟せい! とりゃ!」
右ストレートからの回し蹴りを繰り出し、
「甘いですよ!」
メンタは上体を逸らして躱して左手を萃香の額に当てて能力を発動した。
「おお?」
ぐらり、と萃香の体が揺らめき膝を付いた。
「精神系能力及び脳を弄るに当たって人体構造を一から学び直しましたから地味に厄介ですよ!」
「自分で言うか」
思わず魔理沙は呆れ溜息を吐いた。
「う……ゲレゲレゲレ……」
「この酔いどれ! くっそ、何しやがったんだ!」
具体的には能力を使用して脳を揺さぶり、脳震盪を引き起こし胃を刺激しただけだ。
「腐腐腐、教えてあげません! では!」
踵を返すと同時に再び肉盾を増員し、その間にメンタは浮遊して逃走していく。
「あっ! う、あ、くそ! 早く治れ、萃香!」
魔理沙が前線に出てスペルカードを発動してゾンビを気絶させ、萃香を置いていくわけにもいかないので治るまで耐久を強いられることになる。
「ぐわんぐわんするー……」
ゲレゲレゲレ、と背後から嫌な音が響いた。
その様子を上空から見て、メンタは額の汗を拭った。
「ふーやれやれです。さて、追い付いて来る合間に浄化を進めましょうか」
浜辺で様子を見ていたパルたちは、メンタたちとの戦闘を見終えて一度目を離していた。人数が人数のため上部に巨大なパラソルを開いて日陰を作り、全方位からみられるように水晶玉の映像を立体映像に変化して出力もしている。
「やはり使い様によっては重宝する能力ですね」
「それを腐の方向だけに使うのは些か勿体ないというべきでしょうね……」
「洗脳だけでなく精神的負荷を取り除くことにも使えそうですね」
「あの子、脳の概ねを分かってやってるのかしら?」
「恐らくは。しかし客観的にみてもエグイ能力ですね」
と、紫、藍、永琳の三人がメンタの能力の応用について話し合っていく。
「メンタは無駄にハイスペック」
「流石はメンタだね!」
シンとパルは褒めるが、いまだ画面を眺めている依姫は炎の巨人を睨みつけていた。
「それはそうなんだけど……このムスペルヘイムだっけ? ちょっと霊夢とアリスの手に余ると思うよ?」
「弱点となりそうな水や氷も少ないと聞いていないみたいですし」
イナバもそう付け加え、一同に振り返った。
「そもそもムスペルヘイムは神話世界の生物ですからね。倒すにはやっぱり魔剣グラムが必要でしょうか?」
「それか魔剣レーヴァテインを使って制御するかくらいだね」
神話上はムスペルヘイムの軍勢を倒すには魔剣グラムを使い、滅ぼすか魔剣レーヴァテインを手にして収めるかしか方法がないと言われている。
「レーヴァテイン?」
一応フランの持っている炎の剣もレーヴァテインだがムスペルヘイム相手には効果は無い。
「その恰好で行かせないわよ」
次いで姉からのストップもかかり、咲夜も首肯した。レミリアはもう言わなくても良いが、フランも結構露出の多い水着姿のため会場に向かえば激写されることは間違いない。そんなことをお姉ちゃんと保護者兼従者が許すはずもない。
「そろそろ三十分経過ですが、次の二人は誰にしますか?」
時計の針が定刻を回り、輝夜の言葉に各々が顔を見合わせた。
「あの質量ですと大規模攻撃が出来る人が行かないと厳しいでしょうね。それにメンタさんも今だに掴まっていませんから其方にも一人行かせないと」
一人は威力重視、一人は移動速度があって探知が出来る人物が必要だろうと全員の意見が一致する。
「あのデカブツ相手ならあたしが行こう!」
「動向を探知するなら私が適任」
となれば妖怪の中でも力が強い勇儀と能力上相性が良さそうなさとりが良いだろう。
「妥当ね」
「では、さとりさんと勇儀さんでよろしいでしょうか?」
全員が頷き、紫がスキマを開いて二人を放り込んだ。
二人の姿が消え、画面を見てみると会場内に勇儀とさとりの姿があり、早速行動を開始した。
「うずうず」
ただ、こんな状況下こそ最も燃えてやる気を出すパルは異様にそわそわしながら動向を見守っていた。
「体動かしたいのならビーチバレーやろ?」
「やる!」
早苗の提案にパルは勢いよく立ち上がり、ビーチへと駆けて行ってしまう。
パルが出撃できない理由の一つとしてやらせ疑惑があることだ。特に制圧力があるパルやフラン、早苗が出て行ってしまうとすぐに倒せてしまい、住民から疑問視する声が上がってしまうことを懸念していた。
「紅魔勢と守矢勢が動けないから仕方ないですね。さあ、お嬢様も体を動かしましょう」
咲夜がわざとらしく溜息を付きながら座っていたレミリアの手を握り、外に追い出そうと一歩踏み出した。
「嫌よ。なんでわざわざ陽の下で焼かれなきゃならないのよ」
対してレミリアは意地でも動かないことを証明するため影を伸ばして砂浜の奥深くにまで突き刺して固定した。
「あら? 日焼けなら確かスルトさんが『周囲に結界を張ってあるため最低限の日焼け対策をしておけば焼けることはない』って言ってましたよ」
「絶対に嫌。だって私吸血鬼よ? 弱点太陽なの」
吸血鬼は太陽に弱い。昼間に出歩くことは自殺行為なのは先刻承知だが、レミリアは割と昼間は起きているしテラスに出て日光浴している姿も度々見かけている。
さてどうやって論破しようか――そう考えているとフランがサンダルを履いて海に向かって走っていく。その手には香霖堂製超強力水鉄砲が握られており、後を追いかけるこいしたちもそれを手に持っていた。
「こいし、橙、レリミア、海行こー!」
「わーい!」
「にゃー!」
「良いですよー」
ちなみにこの水鉄砲は内部拡張魔法によって最大50Lの水を貯めることが出来、噴射口の部分に圧縮魔法と砲撃強化魔法を付与することによって岩をプリンみたいに破壊することが出来る。また3段階のギアが搭載されており、連射性、砲撃性、切断性に変更することが出来るスグレモノだ。
更に余談だが馬鹿みたいに魔力を使うため人間には使えないという欠点があるが、人間たちには威力と魔力を大幅に弱めた廉価版を提供している。
「……」
「……」
無言の沈黙と全員からの苦笑いを一通り受け、咲夜が語るに落ちたというように笑って二歩目を踏み出した。
「さあ、お嬢様」
「お願い、勘弁して頂戴」
「嫌というのであれば水着は没収です」
ただでさえマイクロなのにそれを没収されたら絆創膏OR油性マジックという究極の選択を迫られることになる。
「鬼! ここに変態鬼畜がいるわ! 誘うならスルトを誘えば良いでしょ!」
「スルトさんなら椛さんに岩場の方に連れていかれました」
紫がスキマを使うのと同時くらいに椛が巨大なバケツを片手にスルトを誘い、岩場の方へと向かっていたのは知っていたが、誰からも突っ込みがなかったので黙認しているのだろうと勝手に考えて咲夜は黙っていた。
「海に岩場!?」
「露骨なR18フラグ!」
反応するのはやはりてゐとシン、レミリアにさとりのいつものメンバーだ。
「フカ――――――ッ!!」
加えて早苗も顔を般若にし、
「そいやっ!」
「早苗ちゃん、ボール行ったよー」
依姫の打った球が、よそ見した早苗の顔面に突き刺さった。
「ぼぶんっ!」
とっさに防御術式を発動させたが顔を真っ赤にするくらいには威力があり、そのまま砂浜に背中から叩きつけられて数回バウンドし、コート外へと飛んで行った。
「わぁー!?」
「う、浮気者……ばたっ」
すぐに永琳が救急箱を片手に駆け付け、応急処置が済むとパルが担ぎ上げてテントの方に運んで行った。
「普通に蟹を取ったり海に入ったりだと思いますよ?」
至って普通な妖夢の考えは風に消えていった。
海の方ではフランたちとてゐがナマコやらウミウシやらクラゲを確保し、咲夜たちの方へ運んできた。
「取ったー!」
「でけぇクラゲ取って来たぜ! 食らえ輝夜ァァ!」
特に恨みは無いが日陰で何もイベントがないのは寂しいだろうというてゐの配慮にフランたちも賛同し、バケツ一杯の軟体生物の群れを運んでくる。
それを見て輝夜たち日陰族はパラソルから出て死ぬのとパラソルから出ないで死ぬという二択を迫られ、結果的に後者になった。
「ちょっ、嫌だ! こっち持って来ないで!」
「そぉら!」
時遅く、輝夜とパチュリーにバケツいっぱいのクラゲが襲いかかり、頭から被ることになる。
「もう一丁! おまけにもう一つ!」
「嫌ぁぁああああああああああああああああああああああ!! きもいきもいきもいきもい! 永琳! 永琳!」
輝夜が力いっぱい手を上下に振るってコールするが、
「呼ばれてますよ?」
「あー、冷たいお茶が美味しい」
その永琳は藍と一緒にお茶していた。永琳は患者がいれば駆け付けるが今の輝夜は何一つ怪我をしていない状態のためコールしても来ないのだ。
一方でフランはナマコを片手にさとりや紫に向かって投げており、ふざけてレミリアにも投げ、投げ返されて左手で受け取ると握り方が強かったのか内蔵がぶちまけられた。
「わっ、なんか白いの出た!」
それが何なのか知っている諏訪子は手をワキュワキュさせながら迫り、フランはこれが欲しいのかと勘違いしてぶん投げた。
「へへへお嬢ちゃん。お姉さんが塗りたくってあげよう」
「あげる!」
間一髪で上体を逸らして避け、ブリッジを決めて見せる。
「おっと!」
そして直線状にいた妖夢の顔面にぶつかり、白い液体が顔から頬を伝い、顎のラインを得て肩や胸に垂れていく。
「ブッ! うえっ、な、なんですかこれ!」
「ナマコうまー」
「天日干しにするにゃー!」
幽々子はナマコを丸ごと飲み込み、お燐は不要になったナマコを受け取ってせっせと天日干しを作り始めた。
岩場から戻ってきたスルトたちは相変わらず騒がしいと思いつつもテントの方へ歩いてきていた。
「……其方たちは一体何をしているんだ」
「ズワイガニ取れましたよー!」
巨大バケツの中にはカニが多く入っており、別のバケツにはサザエや赤貝が入っている。これをどうするのかというと後で行われるBBQで焼いて食べる予定だ。
「ひゃっはー! 鰹取ってきましたー!」
反対側の方向からは一体どこへ行ったのか、美鈴が20mはあろう化物鰹を担ぎ上げて走り帰ってきた。
中央都市カルリス。
これはとある妖精二体が炎を纏う巨人と戦った記録である。
「グオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
巨人ムスペルヘイムから少し離れた場所には氷の妖精チルノと大妖精がいた。その表情は死闘を決意した者の表情だった。
「世界の平和のために行くよ、大ちゃん!」
「うん!」
「今日のあたいは容赦しないぜ! トランザム!」
こう見えてもチルノたちの移動速度は人間の足よりも速く、最高速度は弾丸にすら匹敵する。そして人間たちからも馬鹿馬鹿と言われ続けているチルノだが強さで言えば人間を圧倒するくらいには強い。
――本気を出したチルノは里一つを凍土に変えてしまうくらいの力がある。
その力を今こそ……使う間もなくチルノは死ぬ運命にあった。何故ならムスペルヘイムが放出し続けている炎は火山が噴火し続けているような勢いと温度がある。いくらチルノと言えども近寄れば必然的に溶ける。
「――大ちゃんは変わってね。変われなかった……あたい――」
「チルノちゃぁぁぁん!!」
それがチルノの最後の言葉となり、大妖精はすぐさまUターンして飛び去った。
それを見守っていた霊夢たちは溜息交じりにそろそろ来るだろう援軍を待っていた。
「いつもながらに馬鹿ね」
「余計なこと言ってる暇は無い」
アリスが突っ込み終えると傍でスキマが開き、勇儀とさとりが中から出てきた。
「よっしゃぁ! 来てやったぜ!」
「頑張りましょう」
やる気MAXの二人とは対照的に霊夢は嫌そうな表情になっていた。
「報酬が減ったわね」
「チィ」
ゴゥと吹き荒れる熱が勇儀の口元をにやけさせ、さとりは数歩後ずさった。
「くぉぉ! 熱い! 熱いが燃える展開だな!」
「勇儀! いくらあんたでも直接殴ったら大怪我するわよ!」
霊夢が先んじて制したおかげか勇儀はそこらにあった家を担ぎ上げた。
「だったら家でも投げ飛ばしてみせらぁぁあ!!」
そしてぶん投げ……一応当たったには当たったがダメージは無く、火の粉が余計に周囲へと散布された。
「ちょっと無駄に損害広げないでよ!」
「しかも燃え落ちた火が拡散して燃え移ってるし」
「がっはっは! やっちまったな!」
楽観的かつ豪快が鬼の特徴とはよく言ったもので、勇儀は高笑いして次はどうしようかと走り始めた。
「私はメンタの援護に行くわね」
さとりもさっさとメンタたちが居る方向に向かって飛翔した。
市街地を走り回り、時には飛び回る三つの影がある。
「待て! メンタ!」
「待てと言われて待つ人はいません!」
被害は後でどうにでもなると分かってはいるが一応まだ市民や観光客がいるため派手に撃ったり殴ったりは出来ない。
「ぬおらああああああああ!!」
「肉盾!」
『ぶべっ!』
加えてメンタの『使い捨て肉盾装甲板作戦』のせいで碌にダメージが入っていない。しかし能力を使用しながらの逃走劇のため、メンタも集中して能力使用が出来ずに苛立っていた。
――ああ、もう、しつこいですね! 次の曲がり角で不意打ちで萃香さんを沈めてしまいましょうか。
曲がり角に飛び込み、ゾンビを下方上空に待機させる。
「待てぃ!」
萃香たちが曲がり角を曲がると同時にメンタが右手を振り下ろして仕留めにかかる。
「魔理沙、萃香! 不意打ち注意!」
背後からの声に一瞬意識を持っていかれたが魔理沙はすぐにバックステップをして下がった。
『ヌベァァァ!!』
「おっとっと! チェスト!」
萃香も気づき、間一髪のところで腕を大振りに振って肉盾を排除した。
ちっ、とメンタは思わず舌打ちを漏らし意識を切り替える。
「先読み――いえ、さとりさんですね!」
上空をみればさとりが下降し、地面に着地した。
「貴方の思考は筒抜けよ。観念しなさい」
半眼の不気味な第三の目が睨み、対してメンタは嗤いながら答えた。
「腐腐腐……確かにさとりさんは表面思考だけでなく深層思考まで読めるんですよね。しかし、果たして本当にオレの思考を読めていますか?」
その手を使ってくる輩も過去にはいたためさとりは挑発には乗らずに冷静に努める。
「揺さぶりなら効かないわよ」
「それはやってみれば分かりますよ。では!」
再びメンタが逃走し、そのあとを魔理沙たちが追いかけ始める。だが先ほどとは違って不意打ちも不可能となり、逃走経路もさとりによって先読みされるため見失うアドバンテージをメンタは失っている。
「さとり、当てにしてるぜ!」
「ええ、任せて頂戴」
早速さとりは能力をメンタに向け、その心を読み取っていく。
――さとりさんが相手では少々厄介ですね……しかし対策はバッチリです! 無心――。
過去にも心を無心にして襲ってくる輩がおり、その時に深層を読むことであっさりと対処している。
――甘いわ。その程度じゃ深層を読めば思考はすぐに分かるわ。
第三の目を7割まで開いて意識をメンタに集中させる。
だが、ここでさとりはメンタが同じ精神系能力者であり、つい最近は高い授業料を支払ったばかりだということを忘れていた。
――はい、見事に引っかかりましたね。カウンター発動です!
メンタは第三の目を通じてさとりの脳内にまで入り込むことに成功する。念のためカウンターを警戒もしていたがそれは杞憂だった。
「なっ! うぬぅ……」
「どうした? さとり」
さとりの様子がおかしくなり魔理沙は一度足を止めて振り返った。すると、さとりはニヤリと不気味に笑った。
「腐腐腐、先の戦いで食らった精神攻撃を応用して人格乗っ取りしてみました」
「さとり……いや、その無駄な丁寧語はメンタだな!」
「正解です! そりゃ!」
他人の体を乗っ取るのは存外難しくないが元は自分が基準のため最初は歩行することも難しい。だが幸いなことにさとりとメンタの身長は大差ないため満足に動けなくても跳躍して抱き着くことくらいはできる。
「うお!? な、何するんだ!」
「さよなら、天さん。DES!!」
つまり、さとりの魔力を使った体内自爆だ。爆発する寸前にメンタは意識を戻し、チュドーンと市街地に爆発音が響き渡った。
「かは――」
「何が――」
さとりは状況理解に数秒を要し、魔理沙は諸にダメージを食らったが何度か咳き込み立ち上がった。
「だが! この程度じゃまだやられないぜ!」
「いいえ、終わりですよ」
何処からかメンタの声が聞こえ魔理沙は訝しんだ。
「何ぃ?」
お互いに首を傾げ――先に気づいたのはさとりだ。
「何を……って、魔理沙! 前! 前!」
「ん? 前ってメンタ以外何も――……うぎゃアアアアアアアアアア!!」
これが物理防御が付与されている普段着だったのならば話は違っていただろう。しかし残念ながら今全員が着ているのは市販されている水着だ。
「水着って布面積が小さいですし紐タイプで無くても一部が破壊されればアウトなんですよねー」
ああ、なるほど。と萃香も納得する。
「うわぁ……絶対食らいたくないわさ」
「あ、ちなみに萃香さん」
「なに?」
答えると同時に萃香の意識は一瞬奪われ、次に視界が開くときには少し離れた正面にメンタが立っていた。
「お前はもう死んでいる。DES!!」
突きつけた指の先端には何やら黒っぽい布切れが引っ掛かっている。
「んん? げっ!?」
「腐経経経経、イヤッ腐ゥゥゥウウウ!!」
市街地ということもあり、大通りにはまだたくさんの人がいる。現在居る通路も時折誰かが通ることもある。その中で水着を失ってウロウロしていては痴女はおろかその手の人と勘違いされてもおかしくはない。
「待って! 下はシャレにならんから返して!!」
その声はメンタには届かず、どこかへ走り去ってしまった。
「き、鬼畜……」
「くっ、何か着るもの――この際しょうがない!」
とても幸いなことに近くには服屋があり、事件中ということもあって中に人は誰もいない。魔理沙はコソ泥の本領を発揮すべく突入し、
「拝借するわ!」
「わ、私にも!」
さとりと萃香も背に腹は代えられないと思い服屋へと入っていった。




