第八十話 まさかそれだけのために
グラたん「第八十話です!」
「次はシンさんですが、諸事情によりバラ売りとさせていただきます」
ほうっ、と野郎どもの目が爛々と輝いた。今までは一式だったがバラであればどれか一つくらいは手に入るだろうという算段だ。
「まぁ……そうなりますよね」
「裸マフラー……アカン奴だ」
「まずは上着から、価格は五万からです!」
安い。否、女子ということを考えればかなり高い額に入るが先のおぞましい値段を見てしまうとどうしても安く見える。
五万からであれば多くでも十万弱くらいで留まるだろうと野郎どもはお互いを牽制する。
「二十万だッッ!!」
プレートを高々と掲げたのは枢だ。
『……』
会場全員が黙り、女性たちからの冷たく冷ややかな視線が突き刺さるが構うことは無い。実のところ理事長からも軍資金を渡され、すべて回収するように言い渡されている。
「他は……いないみたいなので落札です。次はスカート――」
「二十五万!!」
「落札です。靴下――」
「十八万!!」
「落札です。下着(上)――」
『……』
靴下までは予想の範疇。だが下着まで手を付けるとなれば――。
「くっ……!? ご、五十五万だ!!」
白い視線をものともせず競り落とし、いよいよラストに迫った。
「落札です。最後に下着(下)――」
「五十万だ!」
「落札です。おめでとうございます」
『ざわ……ざわ……』
すべてを枢が競り落とし、会場は騒めきを見せていた。
「悔いは無いっ」
当然、近くにいた咲夜たちからも半眼を送られ、逃げたい気持ちに駆られる。
「ロリコン……」
「ゲス之助より酷いなんて……」
「枢……お前……」
「くっ!? お、俺はロリコンじゃない!!」
仕事だ! 業務上仕方ないんだ! と枢は叫ぶが擁護する者はいない。残念ながらロリコンのレッテルはしっかりと張られてしまった。
「では何でしょう? パル、分かりますか?」
咲夜が問い、パルは少し考えた後で素直に答えた。
「性癖異常者?」
時に素直かつ天然は残酷さを増した刃物となる。言葉の刃が枢を頭上から真っ二つにし、枢は何かを悟ったかのように感情を殺して呟いた。
「――……ちょっと首吊ってきます」
ヤベェ、と魔理沙は幽鬼の足取りで出ていこうとする枢の足を引っかけて取り押さえた。
「全員で抑えろ! あの目は本気だ!!」
咲夜たちも半場本気半分冗談だったためすぐに行動して枢を捕縛した。
「落ち着け!」
「死ぬにはまだ早い!」
「頼む! 死なせてくれ!!」
いっそ殺せっ! と会場中に雄たけびが上がり、霊夢と魔理沙が枢を外に退出させていく。勿論ステージ上からもその無様な姿は見えており腐腐腐とメンタたちは嘲笑した。
「変態ですね」
「まさかの幼女趣味か」
「待って。私は幼女ではなく少女」
突っ込みが入るがスルーされ、鵺がカーテンを持ってきて敷かれた。
「カーテン、オフ」
「メンタ、てゐ。先に逝ってる」
「オレたちもすぐに逝きますから待っていてください」
次はヴァルハラで――と言ってシンの姿が完全に見えなくなる。
「さあ、気を取り直していきましょう! 次はメンタさんの服一式です! 尚、生の少女服ですので価格は五十万からスタートです!」
『生だとッ!?』
司会者の言うことに信憑性も保証も無い。幻想郷では年齢詐称は良くあることで見た目で判断するしかない。だが『生』というワードは非常に魅力的だ。
「うわっ、客がざわめき出しましたね」
「俺、七十万出すぞ!」
「八十万!」
「百五十万!」
「ここで引き離す! 二百万!」
「甘い! 三百万!」
「給料三十年分――六百万!!」
「俺は五十年分行くぜ! 八百万!!」
一部兎兵士やら親衛隊が参加しているが些細な問題だ。
だが一番の問題は当人であるメンタだ。
「ヤバイ、これガチな奴ですよ」
「ま、この中じゃ一番最年少だからな。生の少女は需要あるぜ」
逆の立場なら自分でもあの値段まで吊り上げるでしょうとメンタは思う。
一方でパルはメンタを助けるため咲夜に顔を向けていた。
「咲夜、良いかな?」
「パルのお給料ですから止めはしないけど……自業自得よ?」
「うん……でも良いの。――五千万!」
パルのお給料はそんなに高くはないが、事件解決や褒賞などで貯めているためそれなりの貯金はある。
『ざわっ!?』
一気に値段が嵩んだことによって観客たちの手が一時的に止まった。
「五千万……他、他はいませんか?」
永琳は慎重に応え、ステージ上ではてゐとメンタが泣き叫んでいる。
「メンタ、見ろ! パルが来てくれたぞ!」
「ぱ、パル姉――っ!」
一定時間が過ぎてもプレートが上がらなかったため槌が叩かれた。
「落札です! おめでとうございます!」
「やったぁ!」
「ありがとうございます! パル姉!」
良かった良かったと各自が首肯する中、
「これでメンタをしばらくは水着エプロンに出来るね!」
パルがそんなことを言った。
『まさかそれだけのために!?』
「そうだよ?」
特に深い意味は無く、本当にそうしたいという真顔でパルは答えた。
「はーい、一名様ご案内ー」
「ふっ、流石パル姉……」
カーテンが閉められ、メンタも控室の方へ運ばれていく。
パンパンと数回手を叩いて永琳が視線を集め、スポットライトをてゐに充てた。
「お次はウチの馬鹿です! 此方は完全にバラ売り且つその場で脱がしてお持ち帰りいただけます! え、カーテン? 要りませんよね?」
『うおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
先のことなど忘れたかのように彼、彼女たちは叫び、ある者はカメラを用意し、ある者は間近で見ようとステージ前へと押し掛けた。
「鬼か、師匠!!」
「まずは服から行きましょう! 価格は五万からです! 見物料金は入場料に含まれていますのでご安心ください!」
『ナイス、えーりん! えーりん!』
そうして……わずか数分の後に上から下まで落札され、
「フタエノキワミ、アー!!」
それだけを叫んで別室へと駆け込んでいった。
さて、ここまで来て最後に残されたのはレミリアただ一人。GL、吸血鬼、つるぺた、ロリという四大属性を兼ね備えたメインディッシュを前に彼らは血沸き肉躍っていた。
――くっ、高貴なる吸血鬼の私がなんて恥辱を……しかし今までのケースから考えれば売られるのはまとめてのはず。それにてゐみたいにはならないのは確実――。
「最後はレミリア様です! カーテンは閉めさせていただきますが、スポットライトを当てて、此方もバラ売りで良いと咲夜さんから許可を頂いております!」
レミリアはその言葉を聞いて数瞬思考を止め、鳥肌が立つと共に叫んだ。
「裏切ったな……裏切ったな咲夜ぁぁああああああああああああああああああああああ!!」
呪詛を幕切りに多数のプレートが高々と掲げられ、咲夜はパルの手を引いた。
「さて、そろそろ裏方に行きましょうか」
「うん!」
「咲夜ぁあああああああああ!!」
呪詛はいつまでも木霊していた。
売買も終わり、各自のブースの店も仕舞われ、メンタたちは地下の会議室に集まっていた。てゐやレミリアはタオル一枚姿となっており最悪帰宅までコスプレで過ごすことも考慮していた。
「もうお嫁にいけない……」
「そりゃ私の台詞だ……」
今頃自分たちの服がどうなっているのか――考えたくもないが考えてしまうのが生物だ。その隣では人権を購入されたメンタが大人しく座り、羞恥に耐えていた。
「パル姉」
「なぁに?」
「この水着は酷くありませんか?」
ビキニやスク水くらいだろうと考えていたが、甘かった。パルが用意したのは子供用の水着だ。前面にはチェイルズキャラが描かれており色はピンク。その上から白エプロンを着せられている状態だ。
「お姉ちゃんのチョイスだよ」
「ふふっ、見立て通り!」
やっぱり! と思う間もなく依姫に抱き着かれ、二の腕、頬、横っ腹とぷにぷにされていくが抵抗することは出来ない。
少し離れたところではシン、枢、諏訪子、神奈子が酷く落ち込み、紫も正座させられている。
「私の服、きっと枢の性欲処理に使われる……」
「死なせてくれ……死なせてくれ……」
「諏訪子様、神奈子様、少しは反省してください」
「……はい」
「ぐずん……」
「紫様、これに懲りたら能力を使用しての売買は止めましょう」
「……はい」
こんなことになるなら当面はやるまい、と紫は強く誓った。
数度のノックの後、会議室の扉が開かれてスルトが入ってくる。
「ふむ、各自反省はしたようだな」
「スルトさん。どうしましたか?」
メンタたちの視線を受け、スルトは空間から浮き輪とパラソルを取り出した。
「其方たちも今のままでは夏コミを回ることは難しかろう。そこで、守矢が所有するプライベートビーチに向かおうと思う」
「え、ウチにそんな場所ありましたっけ?」
早苗の記憶上、守矢神社の周辺は山ばかりで更に西に行ったところにしか海は無い。上空に偶に浮島が来ることはあるが、在っても泉や湖程度の規模だ。
「ククク、あるぞ。南の孤島、幻想郷の地図には載っていないとある浮島だ」
「是非とも行きましょう!」
スルトがあるというのならあるのだろうと早苗は思い、これを機に接近できるという思惑もあった。
「うむ! では、転移」
会議室内に転移魔法陣が敷かれ、メンタたちの姿が一瞬にして消えた。
次に視界を開けた時、目の前にはどこまでも広がっていそうな青い海と白い砂浜だ。現在位置から右側には巨大な岩場や釣りが出来そうな岩盤があり、左側には林が広がっている。その奥には山があり、かなり大きい島だということが分かる。
視点を少々離してみれば浮島の下には海が広がっており、噴水上に突き上げる形で海水が島の中に流れている。島の海水は直下に勢いよく噴出され常に高度を保っている不思議構造の島だ。
ただ、それだけではいつか崩壊するためスルトが島を多少改良してはいる。
さていつの間にか作ったらしい海の家でパルたちは水着に着替え、既に着替え終えたスルト、霖之助、枢の三人はパラソルやテントを立て、手早く着替えを終えた美鈴と妖夢はBBQの準備を始めていた。余談だが美鈴は胸をかなり露出させた大胆なパレオ姿になっており、妖夢は薄緑色のビキニの上からラッシュガードを着ている。
「ザ・海です! 今日はスルトさん及び守矢神社のプライベートビーチということで孤島に来ています! ちなみにオレは何故か水着エプロンです!」
しかし泳ぐのにエプロンは必要ないため外し、畳む。
「そして私は未だ罰が続いていて上は絆創膏、下は浮輪だ!」
つまり全裸一歩手前のてゐが準備万端で浜辺に立ち、海へと駆け出していく。
「遊ぶぞー!」
「おー!」
フラン、こいしたちも海へと飛び込んでいき水を用いた戦いが勃発している。
浜辺では露出控えめのビキニ水着に着替えた神奈子と諏訪子が水上バイクを片手に海へ走っていく。
「神奈子さんたちは一日で処罰が終わったみたいですね」
「だが、あっちは完全にとばっちりだぜ?」
一方でレミリアは厳罰を食らい水着没収の上、ロリ体型には似合わない黒いマイクロビキニ姿でサングラスをかけ、片手にドリンクを持ち揺らしていた。
「お姉ちゃん、無理してる子供みたいだよ?」
「ですね」
その隣には可憐を重視したレースの(子供用)水着を着たフランとラッシュガードを着込んでいる咲夜がいる。
「くっ……」
「うう、灼ける……」
「我々日陰族には厳しい環境ね」
パチュリーは咲夜同様にラッシュガードを着込み、パラソルの下で輝夜たちと一緒にお喋りしている。
「冷たいのいっぱいあるわよ」
そこに霊夢も合流してクーラーボックスからドリンクを開放した。
「んー、良い天気だね!」
「うん! 眼福眼福……腐腐っ」
少し待つとパルたちも着替え終えて海の家から出てきた。水着は青色のトップビキニに同色のハーフパンツを着用しており、依姫も同じものを選択し着ている。
「水分補給と日焼けには注意しないとね」
イナバや早苗たちもパルたち同様にハーフパンツとラッシュガードと露出は恐ろしく控えめだ。
「ほい、お水」
イナバが萃香から良く冷えた瓢箪を受け取り、一口飲んでおく。
「ありがとうございます。ゴクリ、ひっく」
どうでも良いが萃香のお水とは度数30以下のお酒のことを差す。
「AHAHAHA!」
急にハイテンションになったイナバは海へと駆け出し、てゐたちを追い回し始めた。
ふむふむ、とカメラのシャッターを切りながらメンタはパルたちの方へ向くとパラソルの下で日焼け止めを塗り合っていた。
「背中は手伝うわ」
「パル、塗ってあげるね!」
「ありがとー!」
ぬりぬり、ぺたぺた、むふふ、と一部危うい手付きの人がいるが触られてる方は気づいていない。
「うう……皆スタイル良い」
妖夢も幽々子の背中やら太ももの裏やらに日焼け止めを塗りたくっていくが、やはり女子である以上スタイルの差は気になることの一つだ。
「自信持ちなさい。貴方だって負けてないわ」
「幽々子様に言われても説得力ありません」
他と比較してもボンキュッボンの幽々子から言われたところで憐みを誘うだけだ。
「ヒャッハー! 沖まで泳ぐよ!」
「ハッハー!」
「競争だぁー!」
勇儀たちが競泳を始め、射命丸もそれに乗っかって海の中を滑空していく。
「ほら、師匠」
「こ、こういう恰好は初めてなので抵抗が――」
永琳はてゐに連れられて表へと出て、着ているのは相変わらずミスマッチを思わせるような赤と紺のビキニだ。
「内心満更でもないようね」
「海~!」
「海に来るのは久しぶりですね」
「本当、二十……三十年振りくらい?」
こいしたちも砂浜へと歩き出し、その後ろからは橙と藍が来ている。
「海……ガタガタ」
「橙、溺れそうになったら近くの人を沈めるくらいの気持ちで掴まりなさい」
「はーい!」
キャッキャウフフとまさに天国な光景に霖之助たちはボーっと眺めていた。
「これが桃源郷――」
「こ、これだけ美人美少女がいると流石に気後れするな」
そこへ霊夢たちもラッシュガードを脱いで程よく鍛えられた肢体を日の光に照らした。
「あら、柄でもないわね」
「美少女ならいつも見てるだろ?」
「うんうん」
「ですね」
シンとメンタもまざり、枢はおざなりに頷いた。
「……あーそうだなー」
「何よ!?」
黙っていればな、という言葉は内心に止め視界を海へと向ける。
「ふむ、皆楽しんでくれているようだな」
「みたいですね~」
砂浜ではスルトと早苗が小さめのブルーシートを敷き、その上に巨大な西瓜を置いていた。
「さあ、まずは西瓜でも割りましょうか!」
夏、海とくればビーチバレーや西瓜割りは鉄板の行事だ。特に複数人いる時は盛り上がるイベントになる。
「西瓜なら――」
「ここにありますよ」
「え?」
が、幻想郷はかなり特殊な部類に入るため、地面に簀巻きにしたてゐを突き刺し砂で埋めていく。さりげなく海水も混ぜ込んで補強する辺り殺意が見え隠れしている。
「ちょっと待って師匠! ツッコミが早い!」
「最初は誰がやりますかー」
「待ってくれ、メンタ!」
メンタが樫の木を削って作った棍棒を手に持ち、それを見た勇儀が酒の杯を置いて前に出た。
「じゃぁ、私が行くぜ!!」
目隠しをし、腕を振るうとブルンブルンと大気が揺れ、空を飛んでいた鳥たちが一斉に逃げ出していく。
「死ぬ! 頭部が潰れて死ぬ!」
「大丈夫です。お薬ありますから」
そう言って取り出されたのは塗り薬と包帯だ。
「そんな次元じゃねぇから、マジでマジで!」
「よーし行くぜ! だらっしゃぁぁあああああ!」
一歩、力強くドンッという音と共に踏み出され、次いで砂煙が上がった。勇儀は上空高くに飛び上がり、上体を大きく逸らして力を籠め、てゐの頭部めがけて振り下ろした。
ズザァァァ! と、音が鳴り目を開けてみると周辺はクレーターが出来上がっており数秒もすれば蟻地獄のようにてゐに向かって砂が集まり始めた。
「ちぃ、外したか」
「ガタガタガタガタガタガタガタ」
再びてゐの体が埋まり、勇儀から棍棒を渡されてメンタは声を上げた。
「次の方ー」
「メンタさん!」
振り向けば顔を真っ赤にしたイナバがメンタに向かって怒鳴っている。
「はい、メンタです」
「西瓜割りならちゃんと萃香を括りつけてください!」
対能力封じの鎖で縛られた萃香を引き摺り、てゐの頭へと括り付ける。
「ちょぉ!?」
「酔ってますか?」
ほうほう、とメンタは唸り聞いてみるとイナバは上機嫌に笑った。
「酔ってましぇん! AHAHAHA!」
「そうですか。んっ、と」
その上に特大サイズの西瓜を乗せ、しっかりと頭部と胴体を固定するが、てゐの頭は重さで鼻近くまで埋まり呼吸も困難になっている。
それを見たレミリアが棍棒を持ち、ニヤリと笑ってフランへ手渡した。
「迂腐腐……フランやってみる?」
「面白そう! やるやる!」
「はい、では此方の目隠ししてください」
手早く目隠しを付けられ、フランは少々頬を膨らませた。
「みえないー」
「ではどうぞ!」
「そぉい!」
フランは多分こっちだろうと推測を付け、棍棒をぶん投げた。
「ぐべっ」
それは萃香の顔面に突き刺さり、棍棒はそのまま落下しててゐの目の前へと落ちた。
「ぶぶっ」
砂が鼻まで覆い、ギリギリ出来ていた呼吸も遂に危険域へと達した。
「ある意味大当たりです」
そうね、とレミリアが鼻で笑い、西瓜の正面に立ち、自ら目隠しを装着して右手を咲夜に向けた。
「咲夜、ナイフ貸して」
「はい」
その手に銀色のナイフを渡し、レミリアはダーツのようにナイフを投げてみせる。
「ハッ!」
ザクっ、と見事見当はずれの砂浜に刺さり全員から失笑を買った。
「……格好つけるなら破砕するくらいの勢いが必要ですよ。パル」
「はい? わっ!」
咲夜から急にナイフを投げ渡され、パルは顔をを向けた。
「さ、咲夜」
「西瓜に投げてみて」
「良いけど……ていっ」
咲夜の指示通りに投げ、能力を使って西瓜八等分に切り分ける。
「このくらいはして貰わねば困ります」
「うぐぐ……」
「後、恰好が恰好ですのであまり動かれない方が得かと思われます。何せロリコン容疑者が三人もいますので」
その西瓜を更に細かく切って皿に乗せ、メンタはあちらこちらに渡しながらもサムズアップで答えた。
「オレですね!」
違う、と咲夜は男性陣周辺を指さした。
「訂正します。男性でロリコン疑惑がある方がいますので」
それは聞き捨てならなかったのか霖之助たちは三者三様に拳を掲げて抗議した。
「ちょっと待ってください。誰がロリコンですか!」
「断じてロリコンじゃない!」
「全くだな。余はロリコン疑惑ではなくロリコンだ」
それはそれで困る、と咲夜は思う。
「……お嬢様みたいな方が好きと……」
「っ!? そういうのはレリミアにやりなさい!」
「はぁ!?」
レミリアにしろレリミアにしろロリなことには変わりない。
「ふむ……幼女体型というのならそうなるが、余の観念からすれば早苗も咲夜も同じようなものだろう」
「いいえ、断じて違います。特に身長と体格ならロリとは言わせません」
「うむ。定義は人によって違う故に相違は起こり得る」
ロリコンには大きく分けて二種類の人種がいる。一つは身長や体格を定義とするロリ。この場合にはメンタ、シンたちが当てはまる。無論、諏訪子やレミリアなどの年齢詐称勢も含まれる。
もう一つは年齢を定義とするロリだ。この場合は地球基準であれば13~18歳までの少女のことを言い、幻想郷であれば100歳前後くらいまでをロリと定義することが出来る。ただしそれは人間の場合であり、妖怪の年齢で言えば300歳前後まで幅広くなる。
「……では聞きますが幼女趣味はありますか?」
「真の意味では『無い』」
要するにロリならなんでもいいのか、という問いだがスルトは何でも良いわけではなく自身を好む女性なら受け入れるという感じだ。
「……分かりました。良かったですね、お嬢様」
「待って、何一つ良くないわよ!?」
ドサッと音が鳴ったと思うや見れ見ればパルが次の西瓜を用意していた。
「咲夜~、次の西瓜持って来たよー」
「では、私もやってみましょうか」
「咲夜! まだ話は終わってないわよ!」
レミリア自身の扱いについてはもう今更ではあるが、ロリをロリのままでロリとしておくのは矜持に響くため良く話し合わないといけない。
だが当の咲夜はパルの方へ逃げてしまい口惜し気に地団駄を踏んだ。
「皆、事変です!」
「それどころじゃないわ!」
自身がただのロリもしくはロリBBAになるかの瀬戸際なのだ。
だがまあ、とメンタは紫の方に耳を傾けた。
「レミリアさんの戯言はさて置いても、ちょっとタイミング悪すぎませんか?」
「それでも起こるのが事変です」
「とりあえず何が起きてるの?」
「これを見て頂戴」
紫から水晶玉を渡され、霊夢はそれを浮遊させて巨大化させ全員が見えるようにする。水晶玉に映されていたのは夏コミの会場だ。
『オオオオオオオオオオオオオオ!!』
「もどれ! もどれ! もどれぇ!」
「夢だけど! 夢じゃなk――」
「ニャオオオオオオオオ!」
ある者は自分には時を巻き戻す力があると信じて狂い、ある者は種を撒きオカリナを吹いて一夜踊り、ある者はマタタビを浴びるほど飲みたいと言って巨大な瓶の中に身を投じて溺れた。
「大丈夫だ……。何度死んだってまたやり直せばいい……」
「俺はもう誰も信じない!」
「闇の炎に抱かれて消えろ!」
「私はカル〇アから来た――」
またある者は自分は何度もこの世界線を繰り返してきたと証言し、ある者は宗教上の理由で国に嵌められて追われていると公言し、ある者は自らをダークフレイムマスターと名乗り、ある者は人理を修復するためにここに来たと訳の分からない供述をしている。
「見事に発狂してるわね。原因は?」
霊夢に問われ、紫は黙った。それは重い重い沈黙だ。
「ちょっと紫?」
「恐らくは能力の使い過ぎかと思われます」
そう言われて思い当たるのは二人の人物だ。
「能力…………メンタ、てゐ」
二人を見ると彼女たちはそっぽ向いた。
「オレは紫様がやれと言ったからやったんです。悪くありません」
「同文」
はぁ、と溜息を一つ付いて霊夢は頭を掻いた。
「ま、元の原因は紫だし私たちが出る幕ないわね」
「しかしこのままでは幻想郷のバランスが崩れてしまいます」
それは巫女としての役割の一つでもあり、バランスを崩される事態になると霊夢も紫もかなり困る。
「具体的には?」
「幻想郷が腐ります」
「――……は?」
ちょっと予想外の言葉に霊夢は固まり、聞いていた魔理沙は嫌な予感を口にした。
「……いえ、まさか……」
「ほい、水晶」
てゐが能力診断用の水晶をメンタに手渡し、その光り方に魔理沙は顔を顰めた。
「ざわっ……ざわっ……」
「何してる――――ああ、そう……」
さとりたちも泳ぎから戻ってきて、何となく事情を察した。
「おうふ」
「……オイオイ、まさかだとは思うが。また能力進化したのか?」
枢が半眼で紫たちを見据え、メンタに顔を向けた。
「いいえ、変貌です。進化というよりは後付け武装みたいなものですね。『何かを腐らせる程度』が『感染する程度』に変化しています」
「感染……病気みたいなもの?」
「それも遅効性で特効薬の無い伝染病みたいなものです」
「対抗策は?」
「それは勿論……メンタさんが制御するしかないかと」
「ならメンタを退治すれば万事解決ね」
霊夢の短絡的な回答に紫は首を横に振った。
「いいえ。伝染病だって言ったでしょう? 根本を断っても他が残れば広がっていきます」
病気とは違って完全に殺すことは難しく、投薬も効果が無い。
「うわぁ……面倒な」
「精神系能力者あるあるだな」
「要するにオレが制御しておけば良いんですよね?」
「ええ。ただし――」
紫がもう一度会場に視線を向け、会場と時計を指差した。
「今日が終わるまでに何とかしてください」
「会場中だけでなく中央都市全域ですか……」
「恐らく会場だけでも50万人くらいはいるでしょう」
50万。メンタが能力を使用した場合、完全に制御できる人数は約10万人。効果が少々薄れても良いというのであれば25万人くらいが限界値だ。
「……いくらオレでもそれはちょっと無理かもしれません」
「ええ。その対策の一環として原始的ではありますが『殴って気絶させる』という方法があります」
メンタの能力は一見強力だがデメリットとして気絶した者には効果が無いという特性がある。だが――。
「ちょっと待って。それやったら博麗神社の名声が酷いことになるわよ」
「何とかして頂戴」
「丸投げかよ!」
もともと博麗神社および紫が起こした問題であり、問題解決は巫女の仕事だ。しかし今回は規模が規模のため紫自身も手伝うべきかどうか悩んでいた。
「ふむ、困っているようだな」
迷っているとスルトが動き、その手に装飾豪華な杖を持って正面に立った。
「スルトさん」
「多少の損害を覚悟してくれるのならば策はある」
損害、という言葉に顔が引き攣るが事態収取のためならばと霊夢は首肯した。
「どんな?」
「襲撃という装いをするために巨大な魔物を出現させ、町に魂魄を放ち、住民を気絶させていく」
「魂魄って魂だよな? 刈り取るってことか?」
つまり殺してでも止めると言いたいのか、と魔理沙はやや非難めいた目でスルトを見た。
「否だ。そんなことをせずとも霊の魂を生きた人間にぶつければ精神干渉を引き起こして気絶する。そういう作用が幻想郷にはある……だったな、幽々子」
「もち~」
本来は降霊術などに使われる現象を幽々子は攻撃に転用することが出来、現在の所は幽々子以外使えない現象だ。
「ただし発生源はメンタに固定するため最終的にはメンタを倒す必要がある」
「周囲の敵を全滅させてから、ってことですね」
「あんまり時間かけたくないしそれで行きましょう」
それ以外の代案は思いつかないため全員の総意として霊夢は頷いた。
「うむ。しかしそれではメンタに利益が無いな」
「仕方ありませんよ。元はオレが引き起こしたことですからそれくらいは――」
「では霊夢を倒せば何でも一つ願いを叶えてやろう」
言い切る前にスルトが言葉を被せ、メンタは目を『願』の字に変えて食いついた。
「何でも!?」
「ふーん、私に旨味は?」
ふむ、とスルトは一つ唸った。
「メンタを倒せば賞金一億円でどうだ?」
へっ、と霊夢は微笑して殺意の籠った目でメンタを睨みつけた。
「仕方ないわね。メンタ、死んで貰うわよ」
「怖っ!? せ、制限時間はありますか?」
日没まではまだ時間があるが事態を早めに片づけるためにも制限時間は付けるべきだろうとスルトは思う。
「二時間としよう。ただし、三十分経過するごとに頭数を増やしていく予定だ」
「リアル鬼ごっこですね」
「能力の使用は好きにすると良い。破損した建物は後でまとめて復活させよう」
「では早速行きましょう。鬼はメンタさん、討伐者は霊夢、魔理沙、アリス、萃香の四人からスタートしましょう。何か質問は在りますか?」
そこで霊夢が手を上げた。
「ちなみに他の奴等が来たら賞金はどうなるの?」
「均等割りだな。現時点で一人二千五百万と言った所か」
それでも充分な額だ、と霊夢は思う。
「人数にもよるけどあまり躊躇はしていられないわね……」
「紫さんはやらないんですか?」
メンタが試しに聞いてみると紫はニッコリと笑って答えた。
「参加してもよろしくて?」
能力使用が許可されている以上、スキマを乱発されれば即死は間違いないだろうとメンタは冷や汗を流した。
「いえ、止めてください」
「では、開始せよ」
紫がスキマを開き、メンタは急いで中へと走っていく。
「良し! 全力で逃げますよ!」
メンタが中へと入り、きっかり一分を数えて霊夢たちは術符を片手にスキマへと入っていく。
「魔理沙、アリス、萃香! 城下町にいる輩は全部殺すくらいの勢いで良いわ! どうせメンタに洗脳される予定の連中よ!」
『おおっ!』
全員が入った後でスキマが閉まり、スルトは水晶玉に右手を掲げた。
「では、始めようか。創成、ムスペルヘイム」
「行きなさい、魂魄たち」
幽々子もカルリスを中心に魂たちを集め、降下させていく。




