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東方幻想腐女録  作者: グラたん
第一章
89/119

第七十八話 『【超】スライム』

グラたん「第七十八話です!」


 実況席では枢と霖之助が満足そうに映像を眺めていた。スルトは悔し気ながらも録画映像の方をダウンロードし、さっきの状況をブルーレイに保存する作業をしている。

 BOXの方は『誰でもどうぞ』と書かれた札が置いてあり、揚げ物を食べたチルノが勢いよく手を入れた。


「あたい参上! ルォォォイヤル! ストレェェトゥゥゥ! フラァァアアアアッシュ!!」


 その油まみれの手に取った木札は『キャスリング』。


「キャスリングはチェスの用語だが、このゲームにおいては主と従者を入れ替える効果がある」

「良く分からないけど、食らえええ!」


 特に深くは考えずパルと諏訪子が入れ替わった。


「何ィィィィイイイ!?」

「うわぁ!?」


 諏訪子はリング上へ、パルは安全な指揮官席へとキャスリングし、観客たちも急展開に驚いているようだ。

 なるほど、と呟いて紫はカードを引いた。


「そういうカードもあるんですね。ドロー」


 今回は引きよく『破砕』を引き当ててメンタに札を向けた。


「うーん……メンタに破砕装備。シンは3-5へ」

「了解です!」

「移動する」


 シンが前へと移動し、手番がパルへと移る。

 急に指揮官に抜擢されたパルは背後にベターっと引っ付いている依姫に視線を向けた。ちなみに引いたカードは『束縛』だ。


「どうしたら良いかな、お姉ちゃん」

「戦況を見た感じだとメンタに束縛を付与して行動制限した方がいいかな」

「分かった! メンタを束縛!」

「縛りプレイですね!」


 鎖の鈍い音と共にメンタの身体がきつく縛られ、『アー!』という声がメンタの方から聞こえ、カメラたちが急いでそちらへと移動していく。


「後は分かる?」

「うん! 咲夜!」

「移動します!」


 咲夜を4-2へ移動させて紫陣営へと肉薄させ、ターンが終了する。



 実況席ではスルトが顎に手を当てて面白そうに笑んでいる。


「ほう、これで次のターンに魔理沙とメンタが打ち取れるな」

「紫様がこの状況を打開するには魔理沙に疾風を付与して咲夜を取る他にありませんね」


 席に座ってお茶している藍が答え、スルトは首肯した。


「うむ、しかし――」

「ドロー!」


 そう、まだ外野カードが発動していない。なんの偶然か、さとりが引いた木札は『寝返り』だ。文字通り誰かひとりを寝返らせることができる。


「じゃー、魔理沙に付与」


 邪気ある命令によって魔理沙が裏切り、ふと霖之助は疑問を思った。


「ちなみに次のターンで咲夜さんが破砕を使って魔理沙さんごとふっ飛ばした場合、魔理沙さんはどうなりますか?」

「破砕の効果があるのは敵だけであり味方はそのまま残る」

「ありがとうございます」


 戦況は一転し、守矢側へと傾いた。 



 紫は一気に厳しくなった戦況を見て強く呻いた。


「くっ!? ドロー!」


 だが、まだ運はあったらしく『疾風』のカードを引き当てた。


「良し、まだ……っ! シンに『疾風』を付与!」

「了解!」


 シンが一気に三マス分移動して咲夜に肉薄し、跳躍した。


「行きなさい!」

「討ち取るッ!」


 手套が咲夜の首に吸い込まれ、ダメージこそ無いに等しいが戦闘不能へと陥らせた。


「くっ、無念――」


 咲夜がリングを降りて外野へと退場する。



 それを見てパルもちょっと悔し気に身を乗り出した。


「あ、やられちゃったね」

「運が悪かったね」


 別に采配ミスでもないため、そう言ってパルの意識を次へと向けさせる。


「ごめんね、咲夜。ドロー!」


 『破砕』を引き、それを諏訪子へと向けて付与する。


「諏訪子様に『破砕』を付与! そして6-2にお願いします!」


 諏訪子も頷いて移動し、シンへとその鉄槌を振り下ろした。


「早苗ちゃんの仇! 破砕、発動!」

「うぐっ」


 姿ロリのオタマジャクシデスティニーでも神だ。諏訪子の蹴りが範囲攻撃と化してシンへと降り注ぎ、気絶させて戦闘不能へと陥らせた。



 双方ともに数を減らし、実況も観客席も大きな盛り上がりを見せ、着実に終わりへと向かっている。


「状況が動き出しましたね」

「人数では紫様が不利だがカードの引き次第だな」

「でもそれだとパルには勝てない。あの子の運の良さは聞いての通りよ」


 レミリアがワインを飲み、テーブルに置いて解説する。


「夏コミばんざーい、ドロー!」


 その隙をついてBOXに手を入れたのは『海洋商会』とワッペンの入った繫ぎを来ている少女、河城かわしろにとりだ。

 引いたものは『入れ替え』、それを見てにとりは紙袋から作画・フルーツ・レインと書かれたやや厚い本をカメラに映した。


「夏コミのお礼! メンタとパチュリーを入れ替え!」


 入れ替えが行われ、今度は博麗側が有利に傾いた。


「ほう、また戦局が変わったな」


 先読みが不可能な展開が続き、観客たちのボルテージは否応なく上昇していく。



 このターンを生かしたいと博麗陣営の誰もが表情を変えて紫に視線を向けた。


「行ける!! ドロー!」


 引いたカードは『疾風』。運も味方に付き、事前に破砕を付与しているメンタの行動範囲付近には諏訪子と美鈴がいる。


「疾風付与! メンタ、やりなさい!!」

「お任せください!」


 疾風を付与されたメンタが6-4へ移動し、続いて破砕を発動させて敵を殲滅せんと拳を構えた。 


「今だ、パル!」 

「メンタ!」


 が、そこでパルがメンタを呼び止めて一手を待たせた。


「いくらパル姉と言えども今は敵です! 行きますよー!」


 しかしメンタとて役割があり、今は敵同士だ。ならば今は紫の言うことを優先させるべきだと考える。


「破砕しなかったら何でも一つ言う事聞いてあげる!!」


 その思考は一瞬にしてブレる。


「ナッ!?」


 パルの言うことは実に魅力的だ。何でもというのだから何でもやるのだろう。例えそれが依姫の策略だろうとも後々のことを考えればお得だ。

 裸エプロンか、はたまた添い寝か、一日メイドも良いではないデスかー、とメンタの思考は加速する。


「惑わされてはいけません! やりなさい!」


 だがパルは敵だ。紫の命令は優先すべきであり、ここで諏訪子たちを潰すことは必須。間違いなく大きな貢献となるだろう。


「ガタガタガタガタガタガタガタ」


 メンタの顔面が遂に崩壊し、口から工事中のドリルの音が聞こえてきた。


「理性と本能の狭間で壊れたな……」

「くっ! 破砕したら早苗と諏訪子を好きに出来るわよ!」


 ルール上、勝てば紫の権限で早苗と諏訪子の二人を全裸待機させても文句を言われる謂われなく、首輪をつけて散歩させても合法となりえる。


「ビグン!」

「あと裸エプロンしてあげるわ! 藍が!」

『紫様ァァ!!』


 実況席から藍の絶叫が聞こえ、一旦スピーカーが切られた。


「ビグンビグン!!」


 メンタの理性が博麗寄りに傾き、拳が徐々に降りあがっていく。

 依姫は内心で舌打ちしパルに耳打ちした。


「ごにょごにょ……」

「え、うん。分かったよ。メンタ!」

「ピグン!」


 メンタの視線がパルへと向かい、


「えいっ!」


 依姫に抱き着いて豊満な胸を押し付ける。パルほどでは無いが依姫もそこそこ胸はあるため薄い本ならあり得そうなシチュエーションが実現し、メンタはロボットの如く固まった。


「――ぷしゅー、ぷしゅー」


 頭から蒸気を噴出させ、口からはスチーム音が鳴っている。


「ヤベェ、機械音出てるぜ」


 流石のてゐも驚いて数歩後ずさった。

 メンタは悩み、悩み、悩んだ故に一つの結論を出した。


「う」

「う?」

「うああああああああああ!!」


 6-4、左向きに破砕発動した。


「うぎゅ」

「うっ!」


 ぷちっ、という音と共に諏訪子と美鈴が戦闘不能へと陥り外野へと移動させられていく。それを成したメンタは酷くやつれた顔を上げ、息を荒くしつつ片膝を付いた。


「こ、これで……これで良いんです。へ、兵士ハ、指揮官の、命令ニ従うノDES……」 


 依姫が再び耳打ちし、パルは頷いて泣きまねをした。


「メンタの馬鹿ぁぁぁ……ッ!!」


 ついでに依姫に泣きついて、依姫はその髪を撫でた。

 ――役得ゥ!

 その様子を見て、メンタは口惜しさと悔しさが入り混じったような表情で二人を見つめ、両膝を付いて両手を天高く掲げた。


「ギギギ、ギガギギギギ……ギガガギガガガガガガガ!! ガガガギガ!」


 ここでスルトが素早くテロップを打ち、画面に表示させる。


 要約すると『アアア、羨ましい……今すぐ代わってやがれください!! ナウビギン!』


 壊れたか、てゐは背後を向いて涙をぬぐった。


「えっと、ドロー」


 泣きまねを止めてパルはカードを引き、『疾風』が出たのでそれを神奈子へと向けて付与する。


「神奈子様に付与。お願いします」

「はいよ、っと!」


 軽快な足取りで神奈子はメンタの元へと向かい、


「ディルディルディルディルディルディルディルディルディルディルディルディルディルディルディルディルディルディルディルディル」


 せめて安らかに眠れと全力で拳を振るった。いつもなら躱すなり面白おかしくリアクションをして吹っ飛ぶはずなのに今回は精神ダメージが大きかったのか壊れたテープ音を口から垂れ流して外野まで飛んで行った。



 実況席。リング内の人数もだいぶ減り、試合も終盤へと差し掛かろうとしていた。


「そろそろ勝負が付きそうだな」


 枢の言葉にスルトはクククと笑った。


「次に出るカード次第でもある。さて、次は――」

「せっかくだ、私が引こう」


 いつの間にか灰色のローブを被った女性がそこにおり、枢は警戒しつつも問う。


「誰だ?」

「余のしもべだ。引くが良い」


 スルトの言葉に彼女は頷き、BOXの中に手を入れた。


「では――ドロー」


 出現したカードは『キャスリング』。戦況は大きく変わらないだろうと実況席にいた誰もが思った。無論、戦況に大きな変化はないだろう。


「女狐とてゐを入れ替え」

「良かろう」

「では、また」


 彼女は木札をスルトに渡すと静かに実況席を去っていった。

 リング上では紫とてゐがキャスリングされて位置が入れ替わった。


「ヒャッハァァ!!」

「何故!? 誰ですか、こんなことした人は!」


 片や狂気的に嗤い、片や絶望的な表情で実況席を睨んだ。その犯人を彼女たちは知る由もない。


「ドルォォォオオオオオ!!」


 てゐが引いたカードは『伏兵』だ。


「伏兵装備! 2-6へ!」


 紫に伏兵を付与して姿を消させ、移動を指示する。紫もむざむざ敗北に直結はさせたくないので移動を開始した。



 守矢陣営は完全に優勢のため余裕だ。


「終わらせるよ、ドロー!」


 やはり運はパルの方が高く『拘束』のカードを手にしていた。


「紫様に付与! パチュリー、2-4に行って」


 紫の身体に鎖が巻き付き、移動を阻害する。


「了解」


 パチュリーも移動をし、9ターン目が終わりを迎えた。



 実況席。こちらでも戦況は完全に守矢が有利であることを示し、枢たちは腕を組んでその様子を眺めていた。


「詰みだな」

「ああ」

「ではカードを引くとしましょう。ドロー」


 今回は霖之助が引き――――『【超】スライム』と書かれた札が出てきた。


「あれ? こんなカードありましたっけ?」


 その言葉にスルトたちも振り返ってカードを注視し、否定する。


「いや、記憶上は無い。……もしや……」


 BOXが置いてあるテーブルの下を見るとチルノたち妖精がたむろし、何やら木札にマジックで書きこんでいるようだ。


「わふー」

「あたいってば天才ね!」


 その木札はBOXの中から抜き取っただろう物ばかりだ。そのすべてに【超】と書かれており妖精たちは総じて『強そう』とチルノを褒めている。


「だろうな。しかし書かれてしまったからには一段階強力な物が必要だろう」

「うむ、公平を期すためにも効果はマス目全体に即効性スライムとしよう」


 スルトが自身の魔力を込めてスライムを肥大化させ、酸性を強化する。その上で盤上にスライムが降り注ぎ、会場中のスピーカーから完全勝利を約束するBGMが流れ始めた。


『ィィィヤッハァァァァアアアアアアアアアアッ!!』

『スルト様万歳!』


 べチャッ、という音と共にリング上にスライムが落とされ、残されてる者たちの衣服を全て気化させていく。ただ、高台にいるパル、依姫、てゐの三人には降り注いでいない。


「フハハハハ!!」


 大歓声を受けてスルトは両手を広げ、スピーカーからは高笑いが聞こえていた。



 てゐは喜んだ。


「うっわ!」


 その他は嘆き悲しんだ。


「いやあああああああああああああああああああああああああ!!」

「あの野郎ォォォオオオ!!」

「くっ! なんてことッ!」

「ふ、服が! 止めろ馬鹿!!」


 外野は写真を撮った。


「フヒヒ……腐腐腐ハハハ」

「メンタ、写真取ったか?」

「ばっちりです!」


 一連の流れを終え、満足したところでてゐはカードを引いた。


「良し! 行くぜ、ドロー!」


 引いたカード『破砕』を紫に付与する。


「紫様に付与!」

「死ねぇぇ!!」


 紫はただ怒りのままにパチュリーに接近し、破砕を発動させてミンチにした。



 一方でパルは大変なことになっているリング上を見てオロオロと戸惑っていた。


「ど、どうしよう! 神奈子様が――」

「こういうのは諦めが肝心だよ。さ、ドロー」


 依姫は非常に上機嫌にカードを引き、『疾風』のカードを魔理沙へと向けた。


「魔理沙に付与。2-4へ!」

「く、くそっ!」


 魔理沙は全力で走り、必死に魔力を練って服を編み上げていく。

 


 実況席は今までにないくらい大きな盛り上がりを見せ、次はスルトがBOXの中からカードを一枚引いた。


「ドロー!」


 『【超】キャスリング』と下手な字で書かれた木札を見て、スルトはニヤリと笑った。


「これは……」

「王の入れ替えだな」


 王は二人しかいないため必然的にパルとてゐが入れ替えとなった。


『え”っ!?』


 一瞬にしてパルたちの位置が逆になり、会場全体から疑問と驚愕の声が上がった。

 


 一転、博麗陣営の主となったパルは、やることは変わらないためカードを引いた。


「ドロー! えっと……紫様」


 引いたカードは『破砕』。それを付与し、紫は凄ぶる上機嫌に返答を返した。


「はーい♪ だらっしゃぁぁあああああ!!」

「オォォォイイイイ!! そんなのありか!!」


 まさかの展開に魔理沙は叫びながら死亡し、外野に送られていく。



 守矢側となったてゐはあまりにも厳しい戦況を見て、しかしカードを引いて戦闘続行の意思を見せた。


「おう、ヤベェ。ドロー」


 引いたカードは『疾風』。


「た、待機しかないか」

「まさかパルが裏切るとは――」


 神奈子も悔し気に呟き、それならば、とてゐはカードを()()()()()



 実況席では誰もが難しそうな表情で画面を見つめていた。


「荒れたな」

「状況は五分だが、てゐが疾風を引いたため動くに動けまい」

「千日手、ですね」

「うむ。しかしルール上に引き分けは無いためどちらかが滅ぶまで終わらない」


 だとすれば次の戦況と勝者を決めるのは外野BOXに他ならない。


「……ドロー」


 枢が引いたのは『【超】触手』。ただし場には二人しか残っていないため拘束できるのは一人。


「ほう」

「これはまた」

「あらあら」

「究極の選択!」

「究極!」

「一人の人間が神を堕とす……腐腐腐……」


 あながち間違ってはいないレミリアの腐発言に枢は嫌そうな表情で全員に尋ねた。


「……拒否権は?」

『無い!!』


 満場一致の否定に枢は口元に手を当てて真面目に悩んだ。

 ――困った。まさかよりにもよってこれを引き当てるとは……損得で考えるなら対象は神奈子様だ。紫様は俺たちにとっては主神に等しい方だ。しかし……しかし、だ。欲を言えば紫様を対象にしたい。だがそれでは俺の人権その物が……。

 この一手を聞いて観客たちはどよめきを見せている。


「お、おい、どうする?」

「博麗か、守矢か」

「選ぶのって陰陽師の枢さんだろ? なら博麗の方が有利だろ」

「いや分からないぞ。あの人以外と巨乳派だからな」

「くそ、先が全く読めないぜ」

「た、隊長……」

「分かっている。すまん、皆のいのちをくれ!」

『はいっ!』


 一部あまり関係なさそうな兎どものネタが聞こえたが、枢の元の人徳と性格もあってか概ねは博麗側の勝利を幻視していた。

 実況席から様子を眺めていたスルトもこれ以上待たせるのは無粋と考えて枢にマイクを向けた。


「概ねが決まったな。さて、枢よ」

「……ああ、分かっている。もう決めた」

「うむ」


 枢は一拍置いて、会場全体が静寂に包まれる中、その名前を告げた。


「対象は――神奈子様だ!!」


 一瞬後、ヌチョリ、という音と共に神奈子の周囲に触手が召喚され、その素晴らしい光景を見たメンタはシャッターを押した。


「オノレェェエエエエエエエエエエエ!!」


 神奈子の絶叫がリングに木霊した。 



 パルの手番となり、依姫は不敵に笑いながらパルを促した。


「これも戦争なんだよ……パル」

「うん、今、楽にしてあげるよ。ドロー」


 引いたカードは『破砕』。


「これで終わりよ! 守矢!!」


 『破砕』を紫に付与し、紫が()()()()()で5-4へ跳躍して破砕の効果のまま振り下ろした。


「あれ?」


 パルも紫に疾風を付与した覚えはなく、首を傾げた。


「はぁぁあああああああああああああああ!!」


 紫の渾身の一撃が神奈子の腹部に突き刺さる。


「ジーク・ジオン!!!!」


 その勢いのまま神奈子はリング外まで吹っ飛ばされ、最後までリングに残ったのは紫ただ一人だった。



 その様子に観客も実況席もざわめき、スルトの解説を待っていた。


「な、何が起きたんですか? 紫様に『疾風』は付与されていなかったはずです」


 スルトは手元の機器を弄り、一ターン前のてゐの映像を映し、音量を最大まで上げて声を上げさせた。


「一ターン前にてゐが付与していた」


 確かにてゐが小さく呟いており、証拠としては充分だ。


「敵に付与が出来るのか?」


 枢の問いにルール違反ではないのか、という批難の視線が画面に向けられる。


「『ターン毎に『カード』を引き、その効果を『従者』一名に付与することが可能』。相手が『従者』であれば可能だ。もよや製作者も敵に付与するとは思っていなかったのだろうが、ルール上は問題ない。よって、これにて終局とし、勝者は博麗神社となった!」

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』


 博麗側の勝利を祝い、当たった者たちは大いに叫び、帽子やらタオルやらを上空に投げて喜んだ。


「ルール通り、守矢勢の諸君等は一か月間博麗神社で働くことになる。以上で『従者ゲーム』を終了とする! オッズの配当は出口で引き換えるため無くさないように。尚、最終ターンのルールがグレーゾーンであったため、守矢側のトトカルチョを買った者たちにはチケットと引き換えに一律300円を出口から出てきた者のみに支払うこととする」


 それを聞いて守矢側の者たちも溜飲を下げ、出口へと向かっていく。


「そして午後六時より会場外で花火大会が始まるとも言っておこう。花火は余からのサプライズだ。心より楽しんでくれることを願う」


 スルトの案内放送が終わり、誘導員たちが一斉に動き出し案内を開始した。



 夕刻になり、メンタたちは貸し切りの旅館へと戻ってきていた。

 だが、と枢は神奈子に首根っこを掴まれて中庭に正座させられていた。


「覚悟は出来てるんだろうな、枢よ」

「悔いは無い」


 潔し。苦しまず死なせてやろう、と神奈子が拳を振り上げて諏訪子とメンタが腕に飛びついた。


「まぁまぁ、神奈子。ルールだからね~」

「そうですよ。勝敗が決しても相手を害さない、スペルカードルールですよ」


 ルールは確かに適応されているが神奈子は血の涙を流して拳を前へと進めていく。


「後生だ! 殴らせてくれ!」

「まあまあ」


 喧噪を聞いてやってきた紫と霊夢にも取り押さえられ、神奈子は旅館の中へと連れて込まれていく。

 余談だが枢、霖之助、スルトは近くの旅館に個室を予約されており、夕食は此方の旅館で一緒に食べることになっている。


 

 旅館内。やや広めの間取りになっている一室に紫たちは集まり、参加者を労っていた。これから行われる事柄も考慮して野郎どもはいない。


「オホン、皆、よくやってくれました!」

「酷い目にあったけどね」

「本当だぜ……」


 半数以上は疲れた表情をして椅子やソファに座り、反面で霊夢は嬉しそうに焼酎をジョッキで飲んでいた。


「でもこれで早苗さんたちを顎で扱き使う事が出来ますね」

「特に咲夜が居てくれるのはありがたいわ」

「しっかり働いてきなさい、咲夜」


 レミリアもそう言い、確約がされたことで霊夢は一気飲みを始めた。


「それは構いませんが……誰が紅魔館の生活を面倒見るのですか?」


 ――レミリアはワイングラスを一旦テーブルに置いて咲夜に視線を向けた。


「それはパルでしょ?」

「そのパルですが……しばらく博麗神社に泊まり込むそうです」


 ――ほう、とレミリアは内心狼狽える。


「へー、面白い冗談ね」

「紫様と前々から契約していたそうです」

「へ、へぇー」

「レミリア様?」


 数秒後、レミリアは目を閉じて血の気が遠のいていくのを感じた。


「あ、ふぅ」


 頭部が床に激突する前に咲夜が抱き留めてベッドに放り投げて寝かせ、少々不安げに紫の方を見た。


「紫様……」


「そうなると思って博麗神社は絶賛改築中よ。レミリアを含めて全員でいらっしゃいな」


 最近は来客が多いこともあり、神社の裏にある家もだいぶ狭くなってきたためこの機に改築している。


「ありがとうございます」

「そういえばパルたちは?」


 美鈴の問いに咲夜はそっと視線を逸らした。


「咲夜?」


 美鈴が再び問うのと同じくして扉が開き、パルたちの姿が現れる。


「ううう……勝ったのに……」

「ぐずん」


 パルと早苗は約束通りマイクロ水着姿を着せられて、特にパルは勝者であるのにも関わらず『博麗側の勝利』として着せられていた。


「忘れていたんだからしょうがないね」


 ――本当は知っていて黙っていたけど。

 途中から依姫もこのことに気づいたが、別に博麗が勝とうが守矢が勝とうが最終的にパルを水着姿に出来れば良かったため敢えて黙っていた。


「ブハッ!」

「エロい!」

「パル姉と依姫姉はマイクロ+エプロンですね! あ、ティッシュください」


 何人かが喀血し、メンタもシャッターを数十枚切った後で鼻血を止めにかかる。


「あいさ」


 てゐからティッシュを渡されて鼻に詰め、気合で血を止めて抜いた。


「そういえば早苗ちゃんもそうだったねー。オフショル似合ってるよ」

「諏訪子様と神奈子様もですよ」

「パレオ着てるよ~」

「ラッシュガードを着込んではいるが……少し冷えるかな」

「でもやっぱり恥ずかしいです……」


 早苗が恥じらって腕で胸を隠すと、ただでさえ布面積が少ないため胸は強調されて腕のおかげで腕ブラのようにも見える。


「夏コミが終わったら海水浴を予定しているから着慣れておくのは悪くない。だが、確かに露出が多いな……」


 いつの間にか現れたスルトが空間から丈の長いラッシュガードを取り出して早苗の肩にかけ、ついでにパルたちの分も取り出して手渡していく。


「風邪を引くくらいなら着ておいた方が良い。パルと依姫の分もある」

「ありがとうございます」

「ありがとう、スルトさん」

「ありがと」

「うむ」


 スルトが満足げに頷き、まだラッシュガードを貰えていない諏訪子たちが詰め寄った。


「あれ、私たちのは?」

「悪いがこのラッシュガードは三人分だ……さて、宴と洒落込もうか!」


 意地の悪そうな笑みを浮かべてスルトは扉を開け、早苗たちを夕食が運ばれている大広間へと促していく。


「スルト!?」

『おー!』


 全員が移動して諏訪子と神奈子も渋々と部屋を出るとその肩にラッシュガードが落とされ、先を進んでいるスルトの背を見て笑み、着込んだ。


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