第X話 大晦日・上
グラたん「大晦日編です!」
~元旦~
幻想郷には全部で四つの大きな神社がある。
それらは東西南北に分かれており、北には北海神社、東は博麗神社、西は守矢神社、南は豊麗神社がある。大晦日や元旦、七五三などの祝い事はいずれかの近場の神社を選ぶことが多いが、ここ数年は守矢神社に向かう人が多い。
その理由として大晦日と元旦は各地に守矢直行便の無料送迎馬車が何百台と蠢いているからだ。
とは言っても守矢の本場に行く者は西側の住民か余程の熱心教者くらいだ。里人は何分お金が無いためそこまで行くことが出来ない。
そこで守矢神社は分社を作り、各地に配置した。
所謂、事業拡大と言っても良い。東西南北のありとあらゆる町に分社を置き、その周囲には祭日に限り半額で泊まれる宿があり食事も良質であると評判だ。
宿と分社の周囲の治安は徹底強化されており『守矢』の旗が立っていることで里人は安心して宿に泊まれるという仕組みだ。
しかし何処にでも真似をする、『弓矢』とか『守知』と書いて商売する輩はいる。里人の八割程度は漢字が読めないし数字や計算も間違えることは多々ある。
商人たちはそんな里人の足元を見て商売をするが――守矢神社は止めることも怒ることもない。何故ならばその商人たちの最終的な上役が守矢神社であるからだ。収入も信仰も信頼も手に入れられるのであれば怒る要素など何処にもないと言えるだろう。
「フハハハハハ!! 余の札束剣を食らうが良い!」
「さあ右の頬を出してください、霊夢さん!」
「キャー! スルトさん素敵一枚頂dぶべらぁ! ぶべらぁ!」
さて、その守矢を運営しているスルトは現在博麗神社にてメンタと共に霊夢を札束剣でしばいていた。
「出オチとはこのことね」
「言ってやるな」
レミリア、フラン、パチュリーもクリスマスから元旦過ぎくらいまでは博麗神社に入り浸る予定になっており、そもそもパルと咲夜が守矢神社に泊まりに行ってしまったため紅魔館に帰ってもまともに飯を作れる人も掃除洗濯をしてくれる人もいない。
今日は大晦日ということもあり魔理沙、アリス、紫、橙、幽々子、シンも集まっている。レリミアたちは萃香たちに拉致されて妖怪山で過ごすらしく、晴明は慧音、阿求、妹紅と共に後から来る予定だ。
「よいしょっと。戻ったぞ」
「物資はこれくらいあれば良いですか?」
玄関には枢と霖之助もおり、買い出しに参加した美鈴と白蓮たちも戻ってきていた。
「うーっす、来たぜ、メンター」
「お邪魔しまーす」
買い出しの途中で合流したてゐ、永琳、輝夜、さとり、こいし、お空、お燐も加わり、博麗神社は現在総勢23名という大所帯になっている。代わりと言っては何だが博麗神社自体は閑古鳥が鳴いているため階段には提灯と灯篭を付け、後は0時以外は勝手に参拝してくださいと言わんばかりになっている。
居間は大テーブルが縦横二列で並べられており、壇上には巨大な最新薄型TV、その手前にはVRセットが置かれている。
「おっと、皆さん揃ったみたいですね!」
メンタが札束剣を霊夢の腋に詰め、TVの電源を入れた。
「さあ皆さんご注目! 今日はVRMMOを作った天才カーリュ・レミテスの最新作を皆さんでプレイしてみたいと思います!」
画面に映ったのはゲームのタイトルだ。左右の巨大スピーカーからはギャルゲーを彷彿させるような音楽が流れ、NEWGAMEと表示される。
「王様GAME、ダウト、従者交換GAMEに続いて第四回目の催し物になります! その名も『SCHOOL』ドキドキ☆リア充体験です!」
『馬鹿な!? あれほどリア充を憎んでいたメンタに何があった!?』
「皆さん失礼ですね! オレだってギャルゲーくらいやりますよ!?」
ギャルゲー。その名の通り90%くらいの確率でリア充となるゲームの総称である。メンタが好きなギャルゲーは『クラナ・Do?』『Re:雷神を討つ者』『宴・牢獄蜂蟲』『小さな光~豆電球~』など一部エロゲーを思わせるタイトルもあるが列記としたギャルゲーだ。ちなみに作品には共通して『Keeeee!?』と書かれた謎のコーヒーが出現する。
「しかしギャルゲーか。どんな内容なんだ?」
「腐腐腐、ベタではありますが学校にいるヒロインを攻略していく内容です。カーリュ・レミテスさんによるとR18と言ってました! オレもまだ未攻略です!」
「そりゃまたベタというかなんというか……」
てゐも魔理沙も少々以外ではあったが今までメンタが持ってきたゲームにまともな物は一つも無かったことは重々理解している。今回もきっとそうなのだろうとアイコンタクトをして頷いた。
余談ではあるが今回もスルトは協力している。今も首に小型のVR機器が装着されており、これはゲーム内のAIを対応させる代物だ。当然ある程度フィードバックもあるがスルトは別に死んでもすぐに生き返るため問題ないとして装着し続けている。
「R18となるとフランたちにはやらせられないわね。まずは私が犠牲者になるわ」
「いえいえ、お子様には刺激が強いでしょうから私がやります」
そう言ってウキウキしつつ立ち上がったのはレミリアと紫だ。
「えー! あたしもやるー!」
「ずるいー!」
「そういうと思って追加注文しておきました!」
これも予想済みだったらしく、今の中央にゲートが開いて中から刻夜と白虎が現れた。その手にはVR機器を追加で4台持って来ている。
「はい、お待たせしました」
「ありがとうございます! さあ、お菓子にお酒にお抓みも用意してありますよ!」
「やったにゃー!」
機器を置き終わると白虎は急いでお菓子コーナーに駆け寄り、尻尾をパタパタと振るいながら袋を開けていく。刻夜も見学するらしく開いている最前列の指定席に座った。
「これで合計6人までプレイできますね。レミリアさん、フランさん、紫さん、橙さんは確定として後二人ですね」
それを聞き終わる前に輝夜とパチュリーが手を上げた。
「わ、私良いですか?」
「私も興味あるわ」
「勿論どうぞ!」
メンタに促されてレミリアたちがVR機器を頭部に装着し、横たわる。
画面にはPLAYER1、PLAYER2と表示されていき、名前もレミリア、フランという風に変わっていく。
「ではここでこのゲームについてちゃんとカーリュ・レミテスさんが説明しますね」
マイクが渡され、刻夜もニヤリと笑いながら立ち上がった。
「このゲーム『SCHOOL』は恋愛シュミレーションのゲームです。勿論、男女になっていて卒業までの一か月以内に恋人を作るのが目的です」
パッと画面が切り替わり学校の様子が映し出される。
「げほっ」
スルトが急に横を向いて咽る。
「ちなみにこの学校のモデルはスルトさんが通っていた学校です」
つまり――とスルトはこの後に起こるだろう出来事を予想してしまう。
「でも一か月も見ていられないわよ?」
霊夢の言う通りまともに一か月間もモニタリングするのは不可能だ。
「はい。そういうと思いましてゲーム内とリアルとの時間倍率を変更しています。具体的にはゲーム内の一か月はリアルで30分くらいになります。勿論、一部始終は見ていられませんのでAIによる自動編集でイベントが発生したり恋愛に発展した人を中心にみていきます」
時計を見ればここまでの説明で一分が経過している。ゲーム内の時間は2月1日から始まり3月2日に終わる予定だ。2月は28日までしかないため注意が必要だ。
つまり約1分で1日が過ぎる計算となる。
「最初は――レミリアさんですね」
画面を見るとレミリアと生徒と思われる男子高校生がそこにいた。字幕にはレミリアが思っていることと台詞が表示される仕組みになっている。
「ぶっ!?」
それを見てスルトは飲んでいた白ワインを勢いよく噴き出した。
「あんっ♪ ご褒美です!」
正面にはいつの間にか待機していた椛がいたが、スルトには布巾を投げる以外に余裕は無かった。何せ画面にいるのは自分なのだから。
~レミリア~
まあ、同士メンタが持ってきた時点でロクなゲームじゃないとは予想していたと負け惜しみを言っておくわ。そもそも恋愛って何よ? 498歳独身生娘の私にナニをDoしろって言うのよ。この超ロリ体型のおかげで男性とお付き合いしたことなんて一度もないわ。というかぶっちゃけ人間と恋してもあいつら40年くらいで死んじゃうから付き合うなら不老長寿とか二次元とか神様とかに限るわ。
「あのさ、俺と付き合ってくれないか?」
居たわ、神様。しかもロリコン疑惑がある二・五次元。
本名は朝宮嵩都。身長178cmロリコン。大事なことだから二回言っておくわ。
そして私は外国からの転入生でこの学校に一年と半年前から居る設定になっていたわ。
ま、ベタね。悪くはないし現実と区別がつかないくらいこの世界は良くできているわ。通常のゲームは立ち絵と背景だけだけどこのゲームはこの学校だけでなく小さな島国全土を舞台としている。
悔しいけど凄いと認めてあげるわ。あと才能とスペックを無駄使いし過ぎね。どうでも良いけど私がこの世界に来てからはもう一週間が経過しているわ。
さて、話を戻して目の前にいる嵩都――面倒だからスルトと呼ぶけれど、彼はリアル側にいるスルトとは全く関係のないAIよ。しかし高度学習AIを搭載しているらしく行動から受け答えまで自然過ぎる。本当にここがリアルなのではないか、と疑うくらいには私も恐々としているわ。
「私と? 正気なの?」
普通のゲームではあり得ない私自身の言葉を紡ぐ。
「ああ、勿論だ。君が良いんだ」
「私の何が良いわけ?」
こんな挑発的な態度と言葉にも関わらず彼はとりわけギザッたらしく右手を自分の胸に当て、答える。
「小さくて可愛い所かな。それに君は小説とかゲームが好きみたいだし、話も合う。普段は誰にでも邪見にしているように見えるけど実はそんなことなくてプライドが高いだけって所も魅力的だな。それに努力家だ。人の上に立つ性質を持ちながら人を良く見ている。本当は皆に好かれるタイプだけど誰かに頼れない。だから、俺を頼って欲しい。一緒に居たいと思っている。どうだろうか?」
AIの癖に分かっているようなハンパない口説き文句にクラっと来る。だけどあの馬鹿なら本当にやりなねないと錯覚さえしてしまう。
「い、良いわよ。そこまで言うんなら付き合ってあげるわ」
何このツンデレ!? ハッ、私か!
「よっし!」
スルトは凄く嬉しそうにガッツポーズまでしている。普段いけ好かない分ちょっと意外だなぁ、って思ったりする。
このゲームでの私たちの設定は高校三年生となっており、初期設定の時点で大学に進学するとか就職するとかまだ決まっていないという謎の設定を決めることが出来る。当然、私は外国の超一流大学に進学を決めており、卒業後は帰国する予定にしてある。
この学校は単位制らしく流石に三年生のラスト一か月で授業を受けている奴なんてあんまりいない。午後
も暇なことの方が多いわ。
「それじゃあ、デートしよう!」
「嫌よ。付き合って即行午後デートとかチョロインにも程があるでしょうが」
どうでも良いけどこのゲームのAIはネットスラングにも対応しているっぽいわ。
「ん~……それもそっか。レミリアにも予定があるよな」
「ええ、午後は図書館に行く予定なの」
「そっか。じゃあ……一緒にお昼とかどう? 奢るよ?」
図書館についてくるとか言ったら破局させてやろうと考えていたんだけど、思ったよりあっさり引き下がったわね。それに食事くらいなら良いわ。そこまで器量が狭いわけでもないし。
「なら、オススメの店にお願いするわ。可能なら甘い物が良いわ」
そう。男という生物はオススメの店=ジャンクフードもしくはラーメン、ファミレスと相場が決まっているわ。勿論、この私と一緒に食事をする以上生半可な物は許さないわ。せいぜい万単位で払わせてやるわ。
「オッケー。甘い物なら良い店を知ってるんだ」
へぇ、私はこう見えても咲夜とパルの甘味を食しているから普通のパフェ程度じゃ満足しないわ。果たして唸らせるくらいは出来るんでしょうね?
学校自体は午前中で終わりのため、私はスルトと一緒に学校を出てその隣を歩いていく。……けど。
「ひゅー、お熱いねぇ!」
「昼からラブホかい? ひゅー!」
そんな私たちを揶揄う男子はいるもので、確かスルトの友人で博太とか博文とかいう童貞坊やたちね。
「阿保かお前ら!」
そんな馬鹿二人を見てスルトは笑いながら怒る。私は代わりに溜息を付いた。
「悪いな、レミリア」
「あんたはもうちょっと友人選びなさい」
「ハハハ……あれでも気の良い奴らなんだけどな……」
馬鹿が移りそう。でも彼らと居る時のスルトは本当に楽しそうに笑う。私は学校とやらに通ったのはこれが初めてだから少し羨ましかったりする。
通学路を歩いて、駅から電車に乗って移動していく。幸いにも私とスルトの帰宅方向は途中まで同じなためそんなに交通費はかからなくて済みそうね。
「降りるぞ」
んっ、着いたみたい。電車を降りて東口の改札を出て、そこからまた歩いていく。進んでいくと巨大な交差点があって私は北、スルトは東への方に家がある。でも今日は南南東の方へと向かっていく。
当然、私は家の周囲3km圏内はちゃんと調べてあるしスーパーマーケットにコンビニ、飲食店もグーグルマップで確認済みよ。でも南南東の方は住宅地ばっかりで飲食店はかなり少なかったはず……もしかして隠れた名店があるのかしら?
徒歩10分後。
「ここだ」
喫茶店……かしら? 紅茶にコーヒー、ケーキの匂いがするわね。見栄えも小洒落ているし悪くはないわね。店頭には何故か仙人掌が置かれているけど。
扉を開けるとチリンチリンとベルが鳴った。
「いらっしゃい。って、お前さんかい」
カウンターで紅茶を入れていたのはスキンヘッドのイカついオッサンだった。でも動きは機敏だし動きに無駄がない。武道をやっている……というよりは裏の顔がある動きね。
「師匠、とっておきを2つ頼む」
「あいよ。紅茶セットな」
それはともかくとして。店内は檜で作られており、椅子やテーブルも木製作りだ。カウンターも最低限の機材以外は置かれてなく、壁にはそこそこ値打ちがありそうな絵が飾られている。最初の場所としては及第点ね。
「貴方、ここの常連なの?」
さっきこいつは彼のことを師匠と呼んでいたことが少し気になって聞いてみると、スルトは私を見て肯定した。
「常連というよりはここで働かせて貰っているんだ。師匠の作るスイーツは絶品で無理言って弟子にして貰ったんだ」
「へぇ、そんな趣味あったのね」
あー、でも確かにスルトが作ったお菓子はどれも絶品だった気がする。
「ほら、アレ見て」
促されて見てみると『スイーツグランプリ世界選手権優勝』とか『レジェンダリーカップ一位』とかなんか凄そうなトロフィーや賞状がたくさん置いてある。その上には木札がかけられていてオッサンの名前とこいつの名前が飾られている。
「働いているのって彼と貴方だけなの?」
すると、こいつは少しだけ照れ臭そうに笑った。
「ああ。従業員は俺一人だけだし一番弟子だ」
「ふぅん。それで貴方自身は何か作れたりするの?」
「それは――」
と、そこでテーブルに超巨大なパフェと上品な香りがする紅茶が置かれた。パフェは高さ30cmはあろう代物で下段はムース、スライスされた苺で構成されているみたい。上部はバニラアイスの上に高級そうなチョコレートソースがかけられているわ。小さなミントが乗っているのがお洒落ね。紅茶は入れ物からして上品でソーラーも赤の花柄で彩られている。
「俺が認めた弟子だぜ、お嬢ちゃん。生半可な物は作らないぜ」
「し、師匠……」
あら、意外とハードルを上げられるのは好きじゃないみたいね。困ったような顔もまた意外な一面ね。
「しっかしお前が女連れとはな……やっぱ顔か。顔なんだな。イケメンこの野郎」
「否定はしないわ」
確かにスルトは顔立ちがびっくりするくらい整っているし、狙っていた人も多々いるはずよ。
「マンマ・ミーア……」
なんてこったい、と彼はイタリア語で言い残してスルトの首根っこを掴んで去って行く。発音も流暢だったし国籍も外国にあるのかしら?
紅茶のカップを手に取り、香りを楽しんでから一口含む。
「美味しいわね」
スルトが目の前にいたら及第点とでも言ったかもしれないけど、美味しいわ。咲夜にもパルにも引けを取らない丁度良い見極められた温度。紅茶の味も香りも一級品。スルトの奴が弟子になったのも頷ける話ね。
パフェの方にも手を付けてみる。スプーンも常温ではなく少し冷やされているらしく冷たさがあるわ。まずは一口――……。
「……美味っ」
がっつくのは行儀が悪いのだけれど、それもしょうがないと思ってしまうくらいに美味。アイスクリームも甘過ぎず僅かに効いている塩が全体を引き締めている。チョコレートソースはビター一歩手前なくらい苦いけれど嫌な苦さではないわ。ううん、ムースの甘さと調和するように作られているのね。これをスライスされた苺と一緒に食べると絶妙な甘さと苦さに変わる。
「最高……っ」
これなら毎日食べても良いくらいの美味しさだったわ。この味を受け継いだのがスルトなら守矢と戦争してでも奪うかもしれないわ。
「それは良かった」
よっぽど夢中だったのかスルトが戻ってきたことに気が付いていなかったみたい。私は頬を少し赤くして視線を落とした。
「ふ、ふん」
ちょっと視線を上げるとスルトは我がごとのように微笑んでいる。
「貴方も、これ作れるの?」
「店で出すくらいの物ならな。でもそれじゃワールドカップには通用しなさそうだから悩みどころではある」
いや……これは通用すると思う。贔屓しなくてもスルトの腕は知っているし、出場したら決勝で店主の彼と一騎打ちになるのは間違いないわ。
「とりあえず出場はしてみたら?」
そう打診してみるとスルトは勿論と頷いた。
「今度の四月に日本大会があるから、まずはそこで優勝か準優勝して世界への切符を手に入れる。七月のワールドカップは32人によるトーナメントだけど……一回戦目で師匠とぶつかるのが一番怖い」
さもありなん。世界最高峰の師匠と弟子の一騎打ちとか皆が手に汗を握るわ。
「でも勝てば良いのよ。ぶつかった瞬間が決勝戦なんだから」
結局は遅いか早いかの違いでしかない。向き合ったら殺すか死ぬかの二択しかないもの。
「それが簡単に出来たら苦労しない」
「そりゃそうね。……ねぇ、もし良かったら何だけど味見くらいなら手伝ってあげられるわよ。私、これでも客観的な評価は出来る方よ?」
単純に食べたいという欲求もあるけど、幻想郷じゃ美食家の側面もあるのよ。咲夜とパルのおかげで舌はめっちゃ肥えてるわけだし。
「それは有難いけど、良いのか? 毎日食べたら太るぞ?」
その余計なことを言った口を二本の指で抓んで捻る。
「悪いけど11歳から体重も体型も変わってないのよ。前にチョコシチュー鍋1杯とチョコカレー6杯、チョコパン3斤、チョコレートケーキ2ホールを食べさせられても変わらなかったのよ。あと言っておくけどこれ去年の話ね!」
実話よ。咲夜が無理やり口にねじ込んで三日くらいは甘い物が食べられなかったトラウマがあるけれど喉元過ぎれば何とやらってね。
「そ、そうか」
あれ、なんかドン引きしてる?
「なら、頼もうかな。明日は試作する予定だったし、予定は空いてる?」
「ええ、問題ないわ」
実はいつも暇だなんて言えない。今日の図書館が図書館だったなんて言えない。
「あと、貴方の家の場所も分かってるからね」
「えっ……」
勿論、この周辺一帯はもう庭みたいなものよ。知らないところの方が少ないくらい。でもスルトは何故か微笑みを苦笑いに変えて固まった。
「ちょっと?」
もしかしてストーカーだとか思われたかしら?
「い、いや。知ってるなら良いんだ。――……――明日は休日だし10時くらいに来てくれるといいかな」
「分かったわ」
視線を少し右往左往させていたけど、実の所、私は人の視線と声である程度考えが分かってしまう。アイコンタクト技術はその劣化版と言って良いわ。
心を読むというほどではないけれど相手が何を考えているのか分かる。眼と耳が聡い吸血鬼の特性よ。
「――と、そろそろ時間ね。お昼ありがとう。いくらだっけ?」
私は時間が来た振りをして立ち上がりスクールバッグの中に入っている財布を手に取ったがスルトはそれを右手で制した。
「今日は奢りだって言ったぞ? 師匠、お会計お願いします」
「あいよ。端数切り上げで一万円な」
絶対恨み入ってる。普通は端数切り捨ててくれるはずなのに彼は切り上げた。
「はい、一万円」
それをポンと出すスルトもまた憎らしいのだろう。店主は何とも言えなさそうな表情で一万円を受け取ってレジの中へと放り込んだ。
「店主さん、御馳走様。また来るわね」
「おう。また嵩都を連れてくればタダ飯になるぜ」
ガッハッハ、と彼は気前良さそうに笑った。きっとそっちが素なのだと私は思った。
「ええ、そうするわ」
多分、また来るだろうと思いつつ私たちは店を出た。チリンチリンと再びベルが鳴り、扉を閉めて私たちは歩き出した。
交差点に差し掛かると私はスルトを見上げた。
「じゃあ私は行くわね。パフェも紅茶も凄く美味しかったわ」
「くっ……次は俺が作るからなっ」
良かった、とも嬉しいとも言わずスルトは悔し気な表情を作った。それがどこか子供っぽくて私は少し面白くなって微笑んだ。
「期待しているわ。またね」
「ああ、また明日」
信号が赤から青へと変わり、私は少し駆け足で去って行く。勿論、図書館にいくつもりではあったけど道中で考えるくらいは許してほしい。
――ねぇ、スルト。貴方は両親が嫌いなのね。
――殺すくらいに。
~博麗神社~
「チョロイン確定乙ですww」
「チョロ過ぎワロタwww」
メンタも、てゐも、霊夢も、その他大勢がレミリアの行動を見てツンデレ乙だの負けヒロインだの言いだした。
「しかしスルトさんって両親殺してたんですか?」
酷く億劫そうな顔をしてテーブルに肩肘付いていたスルトはワインを一気に呷ってから答えた。
「このゲームに存在する9割の設定は実話だ。お菓子を作っていたのも、師匠がいたのも事実だ。両親に関しては想像に任せる」
いつもじゃれついている椛も流石に空気を読み――
「そうだったんですね。実の両親を自らの手で殺してしまうなんて心中を図ることは私たちには出来ません。私が出来るのはせめて慰みになるくらい……さあ、思う存分抱きしめてください、スルトさん」
何度もイメトレしたと思われる非常に滑らかな動きでスルトの手を取り、自分の胸に押し当てようとして――
「直接的な原因は余自身だが殺害に関しては間接的なものだ。両親にもあまり良い思い出がなかったものでな」
意外なことにスルトは特に抵抗することはなかった。
「ふぇっ!?」
椛も本気でするつもりはなかったのかおかしな声を出している。当然ながらここにいる野次馬共はそれを見逃さない。
「おっと!? スルトさん今日はガードが緩いですね!」
「遂に早苗さんと別れて椛さんを選び、最後は私に来るんですね! 私はいつでもオッケーですよ!」
「そして女に飽きたら枢と霖之助に行くんだろ!」
「おいコラクソ兎」
「ちょっと待ってください。風評被害にも程があります」
やんややんやと騒ぎ立てる合間に日数は過ぎていく。
15分を過ぎる頃。フランと橙、輝夜とパチュリーが眼を覚ました。
「ふぁ……」
「ん~?」
「っと」
「あら?」
起き上がると騒いでいた奴らも一旦収まり、メンタもそれに気づいて駆け寄った。画面を見ると四画面にGAMEOVERの文字が浮かんできた。
「おおっと。バッドエンドを迎えてしまったみたいですね」
録画されたイベントを見てみるとフランと橙は二週間を遊び惚けて『何もなし』という尤も酷いバッドエンドをクリアしてしまったようだ。
返ってパチュリーと輝夜は初日以降は学校に来なくなり、不登校エンドで終結している。見る場面もないため20秒程度しか編集されていない。
「これは……酷いですね。四人ともこれが恋愛ゲームだって分かってましたよね?」
橙とフランはもうその場におらず白虎をモフっているが、パチュリーと輝夜はこれでもかというドヤ顔を作った。
「馬鹿ね、学校なんていかなくても運命の人(二次元)は(画面の)向こうから来てくれるのよ。今回は何処かでイベントフラグの回収を忘れてしまっただけよ」
「残念だけどゲームなら百戦錬磨の私が取り掛かる攻略対象は居なかったわ。やはり私にはFFXのアローン様しかいないみたいね」
「要するに初日でコケたわけですね」
詳細を出してみるとゲーム初日に起こる出会いイベントを軒並み無視し、HRが終わったらすぐに帰ってしまったらしい。
二人は満足したのかノコノコと席に戻り、見栄を張ってお互いのコップにワインを注ぎはじめた。
「残るはレミリアさんと紫さんですね」
「BBAなんざ誰得だ」
画面を出してみると意外にも紫は21日目まで進んでいる。
「いえいえ、これは中々ですよ」
メンタがそこまで言うならとてゐたちも画面を注視する。そこに映っていたのは芸能人らしき男性と別人のように化粧をして着飾っている紫だ。一見上手くいっているように見え、実際に上手くいっている。
「馬鹿なっ……戦闘力53万のBBAが彼氏持ちだとぅ……!」
「これが俗にいう女化生」
『上手い』
「一応神様だから黙っておけ」
シンの馬鹿にしたような突っ込みに枢が口を塞ぎ黙らせる。
「しかし分からねぇな。あの紫が男を捕まえるなんてな」
いつの間にか参加した魅魔が焼酎片手に呟く。
「ちっ、面白くないわね。メンタ、嫌がらせとかできないの?」
霊夢の酷い発言にメンタは顔を顰め、ニヤリと笑ってPSコントローラーを差し出した。
「人の不幸は蜜の味、デス。まず三角ボタンを押してください」
「ほい」
三角ボタンをプッシュするとメニュー画面が開いた。すると四つの選択肢が飛び出し、カーソルが小さく点滅した。
→特技
魔法
召喚術
戻る
「こ、これは?」
「見てのとおりGMコマンドです。ただし一プレイヤーにつき一回しか入力できません」
「ほほう。粋なことしてくれるじゃねぇか」
魅魔も大満足らしく背後から霊夢をせかす。
「そうね……召喚術ってのが気になるわ」
――召喚術――
→ゴブリン MP20
オーク MP20
コカトリス MP50
トンベリ MP60
モルボル MP60
イフリート MP80
シヴァ MP120
オーディン MP400
バハムート MP500
P MP999
「待て。最後のPってなんだ?」
「それはやってみてからのお楽しみです。さあ、霊夢さんどうしますか?」
枢の問いはスルーしてメンタは朗らかに笑いながら霊夢に問いかける。
「決まってるわ。紫のことだから生半可な召喚じゃ返り討ちにされる……なら、初めから全力で潰してあげるのが優しさってもんでしょ?」
→バハムート MP500
彼女は何のためらいもなくカーソルを動かして丸ボタンをプッシュした。
「召喚・バハムート!」
するとキィィィィンと何処からか耳が痛くなる高音が響いた。
「にゃぁ!?」
「ふしゃー!」
猫二人は特に嫌ったらしく素早く今から退散してしまった。
少しすると画面内の渋谷109でショッピングデートしていた紫と男性が映し出された。それはもう甘ったるくメンタが見ても吐き気を覚えるレベルのラブラブっぷりだ。
ズガン、ドガッァァァァァン、と渋谷109に向けて飛行機が突っ込んだ。余談だがゲーム内に持ち込めるのは己の意識と知識のみであり肉体は仮初の物になる。つまり逃げ場のない建物に飛行機が突進した時点で紫たちはミンチになったわけだ。
しかも残酷なことに突っ込んだ飛行機と瓦礫はスクランブル交差点に落下し、その下を走っていた人や地下の電車を巻き込んで陥没していった。当然その衝撃波周囲にも拡散され、耐震工事をしていた建物は地盤の崩壊に伴って崩れ落ち、直径1km周囲を巻き込むという多大な被害を出した。更に周囲には工事現場がいくつかあり、石油を使っていた。つまり副次効果として大規模な火災が発生した。その猛火の手は渋谷全土を焼き尽くしても飽き足らないというように広がっている。
居間にいる誰もが黙った。GMとは神。つまりこれは神の裁きになるわけだが、こんなにしたかったわけではない。無辜の民が大虐殺されるような現場にしたかったわけではない。
「ひ、酷ぇ……」
「惨い……」
数分が経過すると詳細な報告が上がり、渋谷地区壊滅、周囲5kmにも火の手が及ぶ未曽有の災害となっていた。全焼は90万世帯を超え、死亡約200万人、負傷者500万人にも上る歴史的大事件と連日報道されている。
「れ、霊夢……いくらなんでもこれは……」
いつもなら大笑いして飛ばす魔理沙も喉を鳴らし、霊夢を見た。だが、彼女は笑みを引き攣らせたまま笑っている。
「クヒッ、ヒヒヒッ……私の前でイチャイチャするのが悪いんだわ。これは天罰よ。リア充を滅ぼす鉄槌なのよ……フヒッ」
あ、壊れたな、と魔理沙は思って視線を紫へと向けた。
「あっつぅ……な、何が起きたの?」
事情を知らないまま紫は死んだらしいが事実を知らない方が良いだろうという決議がコンマ一秒のアイコンタクトで行われ、メンタは素早く画面をレミリアへと切り替えた。
そこに映されていたのはFQハイランドにてジェットコースターから降りてくる二人の姿だった。
『アハハ、楽しかったわね』
『あ、ああ……あんなに急だとは思わなかったけどな』
はぁ? と全員が眼を丸くした。渋谷が大変なことになっているというのにこのカップルはイチャイチャラブラブしている。特に怖い物知らずのレミリアは絶叫系のアトラクションばかり選んでおりスルトは少々困り顔で微笑しながら後を追いかけている。
魔理沙は拳を鳴らした。てゐは首を回して天を仰ぎ、さとりも右肩を回した。
「……やれやれ、身の程を教えてやらないとな」
「私たちだってこんなこったらぁしたかねぇんだ」
「だけど貴方たちが悪いのよ? こんな見せつけるようなことして……」
レミリアの分はまだ残っているため魔理沙はコントローラーを握り、その両隣にてゐとさとりが座った。手早くコマンドを開き、魔法の画面を出してそのまま最下層まで下げていく。
→インフィニティフレイム MP500
デスペラードブリザード MP500
シャイニングサンダー MP500
アガルタテンペスト MP500
P・M・S MP999
「悪いがリア充には容赦しないぜっ」
→P・M・S MP999
「おっ! それはオレ一押しの魔法です! ちなみにですがMPとは押した人の魔力を使用しますので魔力が全然ない人がやると魔力枯渇症状で死にます。ちなみにスペルカード一発をMP50と考えてください」
ガクン、と魔理沙が泡を吹いて気絶し、そのまま背後に倒れた。
「ああ、それでさっきから気怠かったのね」
霊夢も得心する。
画面を見てみると黒と白の可愛いフリフリ衣装を纏った二人がレミリアたちの前に立ちはだかった。
『見つけたわよ! 悪の手先!』
『地球のため、人々のために貴方たちを倒します!』
『は、はぁ?』
突然の状況に飲み込めていないレミリアたちは困惑顔で首を傾げた。
『これで決める! Bサンダー!』
『Wサンダー!』
二人は話を聞く様子もなく黒の左手と白の右手を天に掲げ、黒い稲妻と白い稲妻を集め始めた。そして手を繋いでレミリアたちに向けた。
『Pキュア! マーブル・スクリュー!!』
「ちなみにですけどスルトさんの『壊滅する白と黒の花束』はこの技がモチーフらしいです」
メンタの注釈と共に世界の敵『リアジュー』を滅ぼすべくして放たれた白と黒の螺旋状の雷は一瞬にしてレミリアたちが居た場所を破壊し尽くした。
既に分かっているとは思うがここはFQハイランド、遊園地だ。発射した方向にはアトラクションがあり、その中にも道中にも罪のない人々はいた。彼らの命は瞬く間に奪われ、塵となった。
『う、おおおおおおおお!!』
余談ではあるがPキュアは敵を完全に殲滅するため全力で必殺技を使うという奇妙な特徴がある。雄たけびと共にエネルギー波は一際大きくなり、レミリアたちの背後に存在していた富士山は跡形もなく消え去った。その手前にはいくつもの町があり、その奥にも人は住んでいる。周囲には湖があり毎年賑わっていたのだが、たった一撃で富士五湖は蒸発した。その発射した当人たちは幻覚でも見ているのかハイタッチしてその場から消えていった。
「皆さん分かりましたか? これが人類の救世主Pキュアの危険性です。幹部級の敵ですら一撃で屠ってしまう超必殺技を人類に向けて撃った場合こうなりますよ、という良い見本です。幻覚を見せて人類を敵に仕上げればご覧の通りただの大量殺人鬼にすることだって出来るんです」
「止めて差し上げろ。夢見る世界中の女の子たちが泣くぞ」
「てゐ。魔法少女と言いながら魔法(物理)で戦っている少女は魔法少女と呼びません。ましてや素手でコンクリートやビルを破壊するなんて言語道断です。敵が悪い奴だからと一方的にぶん殴って消滅まで追い込んでニコニコ笑っている人なんて狂気ですよ。彼らは人類からみれば悪かもしれませんが、彼らから見たら正義を行っているんです。Pキュアは正義でもあり悪でもある存在です」
「そんな哲学じみたことを夢見る少女が分かるわけないだろ」
尤もです、とメンタは肯定した。
「さて、レミリアさんは死にましたかねー?」
画面を見てみると既に切り替わっており、泊まる予定だった旅館の一室になっていた。ただし先の未知の破壊によってお客は全て掃けてしまい、今は貸し切りに近い状態になっている。
「馬鹿な……人類を滅ぼす一撃を食らって生きているんですか?」
詳細を検索してみるとレミリアたちは訳の分からない二人組が雷を落とした段階でその場から彼女たちの斜め前方に向かって逃げており直撃を免れたそうだ。
そして手番を使い切ったメンタたちはHD対応の大画面を見ながら残り時間を過ごすことになる。




