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東方幻想腐女録  作者: グラたん
第一章
84/119

第X話 第二次チェイルズ大祭

グラたん「メリークリスマスです!」

 12月。今年もこの時期がやってきた。

 ボクと咲夜は冬用のコートを羽織り、手には泊まり込み用のリュックを持って守矢神社へと来ていた。勿論、レミリア様には許可を取っているし、そのレミリア様たちも今年はお正月まで博麗神社でメンタたちと過ごすようだ。

 ちなみに荷物は空間収納という技術で持ち運べば手ぶらで来られるんだけど咲夜がそれだと泊まりに来た感が無いという理由で食材や掃除用具以外はリュックに詰めて持ち運んでいる。

 冬のチェイルズ大祭。

 今年は守矢神社付近の町でやるらしいのでボクたちは守矢神社に泊まり込む予定だ。代わりに大掃除や年始めは手伝うし、妖夢と藍も泊まる予定だからそんなに大変にはならないと思う。


「おや、パルと咲夜が来たみたいだね」


 階段を登り終えると鳥居の塗装を塗りなおしている神奈子様と諏訪子様がこちらに気付いた。ボクと咲夜も一旦その場に留まって会釈した。


「お久しぶりです、神奈子様、諏訪子様!」

「今日からお世話になります」

「うんうん、早苗ちゃんも大喜びなのだ! 早苗ちゃんは部屋の掃除をしているから玄関を叩けばすぐ飛んでくるのだ」

「ありがとうございます!」


 諏訪子様たちにお礼を言い、ボクは咲夜の手を引いて参道を通る。

 守矢神社は博麗神社と同じようにお堂の裏手に二階建ての一軒家が立っている。防犯対策の意味も兼ねて普段は結界が張られていて見えないんだけどちゃんと正門から入ると姿が見えるようになるようになっている。

 守矢神社の敷地はかなり広く、参道の左手側にある坂を登っていく必要がある。坂を登っていると左側に池と庭園が造られていた。


「……また改築したみたいだね」

「……そうね」


 前に来た時は無かったはずの庭園が出来ている。寒さや暑さを調整できるように室内庭園が造られていて、中では野菜を作っているようだ。見た感じだとトマト、きゅうり、ナス、ジャガイモ、それと見たことのない野菜が何種類か作られている。


「ふむ、こうしようか」 


 ザパッ、という音が立ったのでそっちを見てみるとスルトさんが池を改造していた。空中には灯篭とか岩が浮き、今の音は池の岩と水を持ち上げた音だった。


「スルトさん、こんにちはー!」


 気づいていないようだったので手を振ってみるとスルトさんもボクたちに気付いて岩とかの配置はそのままにこっちに歩いてきた。


「うむ、二人とも健在のようだな。今、早苗を呼んでいる。少しまってくれ」


 と言ってから数分後、正門が勢いよく開けられ、待ちわびていたらしい早苗が三角巾とエプロンを付けたまま出迎えてくれた。


「咲夜さん、パル、お久しぶりです! 待ってましたよ!」

「久しぶりね、早苗」

「ボクも会いたかったよ、早苗!」

「さあ、中に入ってください。外は寒いので温かい緑茶を用意してありますよ!」 

「うん、ありがとう!」


 一応ボクの能力で気温は上下出来るけどせっかくの冬だし能力は使ってない。実を言うと手がカチコチだったりする。


「スルトさんも休憩しますか?」

「否、余が入っては積もる話も出来まい。庭が終わり次第部屋も片付けておく故、早苗はパルたちとお茶を飲んでいると良い」


 早苗が促してみるとスルトさんは右手を軽く上げて遠慮した。ボクはスルトさんが一緒でも構わないんだけど気を使ってくれたみたいだ。


「分かりました。ではお言葉に甘えますね」

「うむ」


 スルトさんに促され、ボクたちは早苗の後に続いて正門を通り抜けて玄関を潜った。

 廊下を通り、居間に入ると早苗は台所へと向かった。ボクたちは荷物を隅っこに置かせてもらい座布団に座って待つ。電気や電化製品も一新したらしく明るさが増している気がする。

 台所もダイニングキッチンになっていて料理道具も本場で使うような中華鍋とか三日月包丁とかがぶら下がっている。


「お待たせしました」

「ありがと~」  


 早苗がお茶セットをお菓子をテーブルに置き、急須からコップに緑茶を淹れていく。スルトさんが重度の茶葉好きのためか緑茶も良いモノを使っているようだ。湯気が立ち昇ると淹れたての緑茶の良い匂いがする。

 そう、この緑茶はスルトさんが作っている茶葉だ。ここから飛翔して南上空4500mの場所にある浮島は茶葉畑があり、何千種類というお茶が栽培されている。勿論、浮島は偽装で本当は以前スルトさんが作ったらしいダーインスレイブなる浮遊庭園が正体だ。

 そこで収穫された茶葉は愛好家にも人気らしく100gで3万円はするとか。守矢印が押されているため守矢神社でも販売されていて霖之助さんのお店、香霖堂も仕入れているくらい有名だ。レミリア様も文句を言いつつも美味しそうに飲むほどだ。

 高級品ということもありレミリア様は月に一回くらいしか手をつけないんだけど……実は早苗経由で毎月3kgくらい届いてるんだよね……。名目は試供品ってことになっているけど、咲夜はそれをレミリア様に言わないで毎朝飲んでるし、ボクやパチュリー、レリミア、フラン様も偶に飲んでるから人の事はあまり言えない。


「はふぅ」 


 一口飲むと心が落ち着く。

 ホッと一息付くと外から藍と妖夢の声がする。


「ちょっと行ってきますね」

「うん」


 早苗も気づいたらしく駆け足で玄関へ向かっていく。

 この時期は狐の半獣人である藍には厳しいため炬燵と床暖房を付けて温めておいてあげないと凍死してしまう。それに本来なら冬籠りしているはずだからね。


「こんにちは」

「お邪魔します」


 ちょうど付け終わる頃に二人が居間へと入り、ボクも片手をあげて挨拶する。


「二人とも久しぶりだね!」

「あとはイナバさんだけですが、彼女は永遠亭のお仕事が終わったら来るそうですよ」


 藍と妖夢もそうなるだろうとは思っていたらしく頷いた。


「分かりました」


 永遠亭は風を引きやすい冬や花粉症の多い春が売り時だから今は忙しい。年末年始でも急病なら飛んでいくとも言っていた気がする。

 藍たちも炬燵に入り、早苗が淹れてくれたお茶を飲む。藍は猫舌なため40度くらいまで冷ましたものを飲んでいる。


「そういえば今年のチェイルズ大祭ではベルセリャの新刊が販売されるんですよね?」


 チェイルズは今や幻想郷でも一大ブームだ。男女問わず浸透していて早苗、藍、妖夢、イナバも既刊は全て揃えているほど。咲夜と早苗に至っては設定資料を元に夏と冬コミの衣装を制作しているほどのヲタクだ。当然ボクも衣装を自作したり技を実用化したりするくらい好きだ。

 でもボクの妹であるメンタはそれを超える熱狂者だ。設定資料は丸暗記の上、衣装も来舞で使えるレベルで仕上げている。オマケにボクたちが知らないような裏設定まで知っているらしく偶に驚かされることもある。


「うん! 前回が凄く良いところで終わっていたから今回はファンの人たちの争奪戦になるかもね」


 チェイルズは三か月に一編のペースで出版され、前回の28巻では前作の主人公との二度目のバトルが示唆されて終わってしまっている。


「次巻は絶対新技でますよね」

「間違いなく。主人公VS主人公は熱い展開です。多用は出来ませんが17巻の一回目を考えれば頃合いでしょう」


「前は前作主人公のシュレイが神衣を使用して『緋の十五夜』で惨敗しましたが、今回はヴェルベットにも絶破滅衝劇があります。どっちが勝つのか予想出来ませんね」


 清涼委員会と祭歌の顕主との戦い。前作と今作がクロスオーバーした戦いの行く末は作者以外には分からない。

 そこへコンコンと縁側の扉が叩かれる。


「早苗、中庭はこんな感じで良いか?」


 ボクたちも会話を一旦やめて中庭を見ると、ほんの15分くらい前までは武骨な作りだった中庭が今は日本庭園みたいになっている。


「わぁ、す、凄いですね」 

「このくらいなら造作もない」


 早苗はこれで良いらしくスルトさんもその様子を見て頷いている。


「それと部屋も片付けておいたが……敷布団の中に本を隠すのはやめた方が良い。本自体も傷むし早苗自身も寝にくかろう。あと畳の下に入れるなら簀子を敷くか防虫剤を入れておかないと虫食いに遭うぞ」


 それを聞くや早苗は扉を勢いよく開いて大振りの右ストレートを顔面に入れた。


「スルトさんの馬鹿ぁぁあああああああああ!!」

「ごっふ」 


 スルトさんも避けようと思えば避けられるはずだけど敢えて食らって吹っ飛んで行った。でも完全に食らう直前に後ろに飛んで威力を大幅に殺しているようだ。

 早苗はドタバタと廊下を駆けて去って行く。多分私室においてある本を隠しに行ったのだろう。


「ああ、それと机や椅子にかけてあった――と、もういないか」


 やれやれ、といった風にスルトさんは肩を竦めた。


「スルトさん、ボクたちも何か手伝おうか?」

「手伝ってくれるならば早苗に協力してあげると良い。ああ見えて早苗は整理整頓が苦手なようだからな」


 二階を指差し、咲夜たちも立ち上がった。


「分かった! 行ってみる!」


 二階に行ってみると部屋の扉は開けっ放しになっており、手前には本が山のように積まれている。


「早苗~?」

「ひっ!?」


 部屋を覗き込んでみると……早苗が部屋の中央で涙目になっていた。周囲には『床下』『布団中』『埃被り』と書かれた段ボールに制作したらしいコスプレ衣装や小物、本が溜まっていた。その隣には埃落としや防虫剤が置かれている。


「手伝うよ」

「ううっ……手伝ってください」


 一人でやるより五人でやった方が早く終わるからね。



 二時間ほどで整理整頓は終わり、イナバも合流した所で本格的に家の掃除をすることになった。主に一年間倉庫に眠っている鐘楼やテーブルの清掃やお正月に向けての準備だ。概ねの準備は12月の初めからコツコツやっていたらしく、餅つき用の臼と杵を出すくらいしか手伝うことはなかったんだけどね……。

 あと食糧倉庫の方は正月に振る舞う用の小豆やミカンが大量に置かれて追熟されていた。一番奥には災害時の炊き出しする食料や水が置いてあった。

 これらは元々無かったんだけどスルトさんがいつの間にか用意してくれていたらしい。

 掃除も一段落付くと諏訪子様と神奈子様も居間に戻ってきて炬燵に寝そべった。蜜柑を食べつつ、お茶を飲みつつボクたちは過ごす。話題も事欠くことはなく、お互いの主に対する愚痴が零れ合う。


「レミリア様がまたワインを隠し買いしていて……」


 と咲夜が呟くと、


「懲りない方ですね。……まあ、紫様も順調に借金を重ねてますけど」


 藍も同調して愚痴る。


「えっ、また借金増やしたの?」


 ボクもちょっと呆れ気味に聞き返す。


「はい。霊夢たちには隠しているみたいですが、私も本気で鞍替えを考えるレベルの額なんです」

「うう……それを言ったら私だって幽々子様の食費を稼ぐために深夜の居酒屋でバイトしているんですよ。いくら半霊半人でも限界があります! 24時間365日働けないんです!」

「それは幽々子様に相談した方が良いと思うよ……」


 妖夢は半分霊体だから戦闘で消耗する以外は肉体的な疲れは無いらしい。だけど精神は摩耗するだろうし流石に24時間はブラック過ぎると思う。


「バイトならまだ良いですよぅ。私なんて昨日まで24時間ヤク漬け生活だったんですから……師匠が作ったインフルエンザB型を発症させる薬を飲まされて……」 

「永琳さんも大概ですね……」


 うん。永琳さんって頭良いんだけど時々作らなくてもいいもの作るから良く分からないんだよね。なんでインフルエンザを引き起こす薬なんて作るんだろう……。


「パルは愚痴とか無いんですか?」

「ボク? ん~……概ね咲夜と一緒かな。レミリア様も使った分は後で戻しているみたいだし、咲夜もレミリア様を雑に扱ってストレス発散しているから最近は良い感じだよ」 

「ざ、雑に?」


 妖夢たちは出来ないのかちょっと驚いている。咲夜は空間収納から紙とペンを取り出して権力図を描いていく。


「これが紅魔館の過去と現在です」


 過去:レミリア様>フラン様>パチェ>私>美鈴>パル>小悪魔たち

 現在:フラン様>私、パル>パチェ、小悪魔たち>美鈴>レミリア様


「……一体何があったのでしょう」


 勿論、例の咲夜家出事件からの権力図だ。レミリア様が気にしていないのも相まって今はすっかりこの図になってしまっている。


「とは言ってもやることはキッチリとやっています。精々、枕元隠しているブツを取り出して机に置いたり、間違って被っているカバーを外すくらいです」


 ここにいる全員がレミリア様の性癖と趣味を知っているから苦笑いになっている。


「真面目にやってる方が馬鹿を見ると私は知りました。主と従者は弄る弄られるくらいの関係の方が良いんです」


 もっと具体的に言うなら――


「妖夢の場合は肉を豆腐にするとか牛を丸ごと鍋に入れるとか、イナバは寝ているてゐや兎たちを捕まえて永琳さんに差し出すとか、藍は……定期的に守矢神社に鞍替えするとか?」

「豆腐料理ですか。確かに幽々子様は美味い以外言わないので味の方は然程気にしていなかったのでやってみますね」

「身代わり……そうですね。偶にはてゐにも割を食ってもらいましょうか」

「やっぱり鞍替えするしかないんですね……」


 ごめん、藍。借金はお金でしか解決できないから……。


「早苗は愚痴りたいことある?」


 地雷を踏んだままでは居られないので早苗に話題をパスする。


「そうですね……神奈子様も諏訪子様もだらしないって所ですね。本気で信仰心集める気があるんですか、と問いたいです」


 すると炬燵でのんびりしていた二人が起き上がった。


「あ、あるのだ!」

「ちゃんとあるぞ!」


「私は今の名声も信仰心もスルトさんが里や町を興したからだと思ってます。あっちこっちに分社を立てて遠くの里人にも信仰して貰える工夫もしていますし、お金が湯水のように入ってくる循環を作ったのもスルトさんです。そのお金も半分くらいを学校建設や教員のお給料にしたり治安維持に使っています。その点、お二方は神社でゴロゴロするか蛙とか蛇を育てることしかしてませんよね?」


 うぐっ、と諏訪子様たちが言葉に詰まった。


「暇を持て余すくらいならメンタさんみたいに同人誌の一冊でも作ったらどうですか」

「さて、そろそろケロたちに餌をあげる時間だったのだ」

「ヘビゴローと遊んでやるとしよう」


 形勢不利らしく二人は素早く炬燵を抜けて何処かに行ってしまった。


「……全く」


 早苗も実は鬱憤溜まっていたらしい。


「スルトさんって色々やってるんだね」


 そっちの話題にすると早苗は微笑んで頷いた。


「はい。異世界では国を運営しているそうなのでこのくらいは簡単だと言っていました」

「国!?」


 それは初耳だったのでボクたちは驚く。


「私も少し聞いたくらいなんですけれど、ありとあらゆる書物を収集するために作った国らしいです。中には異世界の全く解読不可能な本もあるとか」

「それは国というより図書館というべきでは……?」

「直接行ったことは無いので何とも言えませんけど、写真はありますよ」 


 早苗が箪笥の中から一枚のアルバムを取り出して持ってくる。


「これです」 


 開かれた最初のページには『クレリウス』と書かれている。写真を見せてもらうと城壁は白亜で堅固そうだ。正面の門には白ローブ姿のスルトさんと豪華な衣装を着た王様みたいな人がいる。その周囲には水色のローブを着た人たちが立っている。

 内部は本当に本棚と本しかないみたいだ。でもパチュリーの大図書館みたいに雑に放置されている本は一冊も無い。貯蔵されている本も大図書館の比じゃない。


「パチュリーや魔理沙が喜びそうな場所ね」


 咲夜も同じことを思ったらしく写真を見ながら微笑んでいる。


「ほう、余のクレリウスを見ていたのか」


 ガララと音を立てて扉が開き、スルトさんが居間に入って横目で写真を眺め、台所へと向かう。湯飲みを手に持って、魔法を使ったのか一瞬で白湯を作って戻ってくる。


「これスルトさんが作りたかった国なの?」

「国というよりは中立、抑止力というべきだな。世界のバランスを保ったり、転移者を元の世界へ返すための装置。また、幾多の英雄が集い、その知恵を授ける場所。それがクレリウスだ。ちなみに名前の由来はロンプロウム語で意味は『守護』だ」


 抑止力を作ることが目的? スルトさんのことだから何か裏がありそうだけど……。


「守護ねぇ……」


 咲夜も半分聞き流しながら次のページを開く。次はタイトルに『司書』と書かれている。一人一枚ずつ立ち姿と名前が記載されていて全員が水色のローブを着ている。さっきの集合写真にいた人たちだ。


「彼らはクレリウスを束ねる司書だ。階級は司書と委員の二つのみで、司書は現在十五人。全員、余が選んだ者たちだ」


 強そうな人もいればそうでない人もいる。スルトさんが選んだ以上は何かしら秀いでた能力があるのは間違いないと思う。


「……むっ、ふむ」


 スルトさんが白湯を飲む手を一度止め、何処か虚空を見ている。


「……仕方あるまい」


 台所の流しに飲み終わった湯飲みを置き、溜息交じりに呟いた。


「早苗、今日は余の分の夕食は作らないでくれ。帰れそうにない」

「分かりました」


 早苗は納得したみたいだけど事情を知らないボクたちは気になる。


「何処に行くの?」

「異世界、とだけ言っておこう。詳しくは戻ってきた諏訪子たちにでも聞くと良い」 


 それだけ言い残してスルトさんは転移してしまった。同時に諏訪子様たちが居間に戻ってきて炬燵に入った。


「諏訪子様、神奈子様。今スルトさんが異世界に行くって言っていたんですけれど、何をしに行ったのかご存知ですか?」

「ん? スルトが?」

「あー……」

 二人とも心当たりがあるらしく気まずそうに頬を掻いたり苦笑いしている。

「まあ、気にするなと言っても無駄だろうから言っておくよ。どうせスルトもこうなるって分かって言ったんだろうし」

「正直に言うと知らなくても良いとは思うよ?」


 煮え切らない二人の態度に早苗がそっとお茶を出した。


「スルトさんのことなら何でも知っておくのが良妻です。教えてください」

「良妻って……ま、いいよ。諏訪子」 


 神奈子様は言いたくないのかお茶に手を付け、諏訪子様が姿勢を正してテーブルに両手を置いた。真面目な話だと思い、ボクたちも座りなおした。


「酷いのだー。……前置きはこのくらいにして、スルトは邪神だってのは皆知ってるよね?」


 確認するように諏訪子様は問い、ボクたちは神妙に頷く。


「邪神は9割方が正式に認められていない神のことを差すのだ。スルトは例外と言っても良い正式に認められた悪い神様なのだ。その役割は破壊神。主に星を砕く役割を担っていると言うべきかな」

「星を?」

「神様は基本的に一つ以上の惑星を持ってるのだ。ただ、それが十を超えると手に余って時には手から離れてしまうこともある。その神様はどの世界にも愛着があって星を砕くことは出来ないんだ。だから、そんな神様に代わって惑星を破壊するのがスルトの役目なのだ。勿論、ちゃんと神々が会議した結果、依頼という形になってるけどね」


 ボクは何となく理解はしたけど、惑星という概念がない咲夜たちは首を傾げている。諏訪子様も説明が不味かったと思ったのか言いなおすようだ。


「要するに、神様がポイした世界を跡形もなく破壊するってことなのだ。――もう直球で言っちゃうけど、生物の殲滅、ってこと」


 早苗は思わずテーブルを軽く叩いた。


「そ、そんな……神様が、人類を滅ぼすんですか?」


 生まれてから神社で過ごし、諏訪子様と神奈子様という良い神様の元で育った早苗には信じられないことなのだろう。

 でも諏訪子様は躊躇いもなく頷いた。


「うん。と言っても、大抵は苦しまないようにとか痛みの無いようにって注文が付くから消滅は一瞬なのだ。スルトはそれが出来る。私たちも一回だけ直接見たんだけど、『無』って技だったよ」

「む?」

「無意味の無なのだ。呼びづらいから私たちはデリートと読むよ。……あれはまあ神じゃないと理解できないというか……神も軽く消滅するというか……そんな技」


 ちょっと要領を得ない説明にボクは首を傾げた。


「消えるってこと?」

「後にはなーんにも残らない。……あと、これ言うと他の神々に怒られるんだけど、神々ってほぼ全員快楽主義者の集まりだから惑星が何日持つかって賭けるんだよね。面白半分で世界を破壊させる神様もいるくらいだし……」

「さ、最低です! 諏訪子様!」

「いや私そんなことしないのだ!?」

「そうだよ、早苗。落ち着いて」


 どうどう、と早苗を宥めるけど七夕の時に見た神様たちは確かに面白可笑しそうに笑ってた。誰かがおかしなことをすると便乗もしていたっけ。諏訪子様の説明も一理あるのかもしれない。

 ズズッ、とお茶を飲み、代わって神奈子様が口を開いた。


「早苗の怒りも分かるが、そもそも神様ってのは頭のおかしい連中だ。人が何故と思う事柄は全て『面白いから』で片付ける。何故滅ぼすのか、何故破壊するのか、何故神罰を下すのか――面白いから。不老不死であるが故に神々は退屈を嫌う。故に神は面白さだけを求め続ける」

「でも、そんなことって……」  

「神々に人の理屈なんて通用しないのさ。まあ、そんな神々が守るルール、神界規定っていうのがいくつかあるんだけどね。面白いからって何をしても良いわけじゃない。そんな当たり前がルールだ。例えば死者の蘇生の禁止。例えば他者の物を奪うのは禁止。他者の星で全力で暴れるのは禁止。子供が作ったみたいなルールだろ?」


 皆がそう思って頷く。


「ところで、そろそろ行かないと大祭に間に合わないと思うよ」


 諏訪子様が時計を見て呟き、見てみるともう午前10時に迫ろうとしていた。大祭の場所は守矢神社から飛んで20分くらいの町で開催される。開催予定時刻は12時なので並ぶことも考えたら出かけた方が良いかもしれない。


「ありがとうございます、諏訪子様。皆、行こうか!」

「そうですね!」

「ええ!」


 早苗たちも立ち上がり、手早く用意しておいた荷物を手に取り、コートを羽織って玄関へと急ぐ。


「私たちも後から行くのだ~」

「いてら~」


 ちなみに諏訪子様たちはメンタたちと一緒に恒例の来舞をするらしい。勿論、今年もボクたちは乱入する予定だ。咲夜の空間の中には全員分の衣装もある。


「いってきまーす!」


 元気よく挨拶し、ボクたちは玄関から文字通り飛び出した。



 正午12時。会場前にはチェイルズの仮装する者、チェイルズの話題をする者、屋台で買い食いする人で溢れかえっていた。この内の何割かはガチ勢と呼ばれる猛者たちで並び開始の午前六時から開場待ちをしているようだ。

 二時間前から並んでいるボクたちは半ばくらいの場所にいる。これが前列になるほど並んでいる時間が長くなっている。


「さ~て、皆の衆! 今年もワシらが来てやったぞい!」


 あっ、この声はメンタだね。裏声使ってるけどボクには分かる。見ればチェイルズオブベルセリャのコスプレをして霊夢たちと一緒に大通りを歩いていた。


「ちゃんと来舞に来なさい! 来なかった奴は斬る!」


 霊夢もノリノリで右手の籠手ブレードを振り回して挨拶している。その後ろではレミリア様や魔理沙たちが様々な楽器を手に陽気なコーラスを吹いて追従していく。

 ただ、武器を振り回されると戦いたくなるのが武闘家の性。でもここでコスプレもしていないボクが出て行ったら興ざめもいいところだろう。


「うずうず」

「パル、抑えて抑えて」

「うぬぬ……」


 闘りたい。けど咲夜が結構本気の力で止めに来ているから我慢しておく。

 メンタたちが前方へと去って行き、前列から立ち上がっていく。もう間もなく開場なのだろう。


「開場します! 前方へお進みください!」 


 警備員の案内に従ってボクたちは進んでいく。前方からはガラガラという重々しいシャッターが開く音がしてきている。同時に歓声が沸き上がる。

 今回出店している店舗は100を超える。その中でも来舞会場の予約と新刊の整理券の奪取で怪我人が出ると予想されている。しかも新刊の出版コーナーは大行列が出来るため奥の隅ブースが予定されている。先に入った人たちは猛然と新刊めがけて走っていき、少し待ってボクたちも会場内に入り、咲夜はその場から消えた。同時にボクも動いて新刊コーナーの咲夜の後に並ぶ。


「本当はズルはいけないんだけどね……えへへ」

「戦争に卑怯も何もありません。強者のみが生き残るのです」 


 ボクたちにのみ出来る芸当、時間停止。最前列勢は流石に並んでいたけどボクたちもちゃんと最前線に並ぶことが出来た。ちなみに早苗たちは時間停止は出来ないため他のブースを先に回っている。新刊のお代は後払いだ。


「はい、整理権です! 初版は1000冊限定、特別冊子付きで900円ですよ! 第二版は5000冊を予定しています! 此方は冊子無しで1冊600円です!」

 メンタがマギュルー衣装のまま最前列から整理券を配布している。ボクたちの所まで来ると整理券を手渡しつつ一旦足を止めた。


「あっ、パル姉、咲夜さん! ……あれ? さっき見たときは列の半ばにいたような気がしますが時間停止でもしたんですね! 分かります!」


 流石はメンタだ。良く分かってる。


「早苗たちの分も買うから追加で4枚頂戴」  

「了解です! 万が一に備えてパル姉たちの分は先に確保してありますから大丈夫なんですけどね!」

「ふふっ、ありがと! 頑張ってね!」  

「イエス!」 


 整理券を貰うとメンタは更にテンションを上げて後列へと配布していく。

 十数分後。無事に初版を買い終え、ボクたちはブース内を歩いていた。店舗は何処も賑わっていて大行列だ。特に博麗神社の即売会は画力のあるメンタが同人誌を手掛けているため大人気のようだ。ブースは紅魔館、地霊殿と合同のため売り子にはレリミアたちとお空たちが必死に捌いている。裏方では枢さんが忙しなく動いているみたいだ。

 ……まあ、その売り上げも紫様の借金返済に充てられちゃうからあまり儲けは出ないみたいだけど……。

 今は忙しそうだし見回るのは後にしよう。

 更に歩いていくとチェイルズの模造武器や防具、衣装を真似て制作した露店がある。その名も出張・香霖堂。その周囲にある撮影ブースやフィギュアの店舗も霖之助さんが束ねているらしく客足は絶えてない。


「こんにちはー」

「今回もR18指定の物を売って繁盛しているみたいですね」


 霖之助さん自身は司令を出したり宣伝を主にしているため声を掛けてみる。


「そんな物は売ってません」 

「売りなさい。変態の名が泣きますよ」

「だーかーら! そろそろその汚名を返上したいんですけど!?」


 咲夜も半場冗談らしく微笑している。ただ、買って行こうとした女性客の足が少し遠のいてしまっている。その周囲からも霖之助さんに視線が突き刺さっている。


「ああ!? お客さん待って! 誤解です!」


 霖之助さんが必死に食い止めている合間に咲夜は近くにあった武器を手に取った。その武器は主人公限定装備で黒塗りの籠手剣だ。


「変態之介さん、女性(主人公)装備もののブラ(ック・ソル)ジャー(ソード)を堂々と店頭に置くのはどうかと思いますよ」


 周囲が一気に騒めいた。その内の大半は咲夜が手に持っているのを見て納得したが、それ以外からは冷たい視線が飛び交った。


「咲夜さん、何てこと言ってくれるんですか!?」

「私は事実しか言ってませんよ」


 うん、酷いけど事実だね。


「えっ……あのお店ヤバくない?」

「ブラジャー売ってるって……」

「香霖堂? これ他の人にも言った方が良いよね?」


 ネタが通じた人はともかく初見の人はクモの子を散らすようにその場から急いで立ち去って行く。


「すいません、これ買い取ります」 

「へい、毎度!」


 咲夜は売り上げには貢献するつもりだったのか装備を買っていた。


「営業妨害ィィィィィィィィ!!」


 霖之助さんが発狂し、咲夜はボクの手を引いて速やかにその場を去って行く。その後、噂に釣られた人たちが例のブツを買いに来て何故か売り上げは伸びたらしい。

 香霖堂ブースを離れてまた歩き始める。


「咲夜、程々にしないと出禁くらうよ?」

「そこは見極めてやってるから大丈夫よ」


 そういう問題じゃないとは思うけど、これも咲夜なりのコミュニケーションなのだと思っておく。



 こうしてブースを見回っていると時間はあっという間に過ぎる。早苗たちとも一度合流し、ボクたちはコスプレ衣装に着替えるべく女性限定フロアへとやってきていた。ここにいる人たちのほとんどはコスプレイヤーだ。人数が居る分、衣装も同じものが多いけどほとんどは店売りしている衣装だ。


「よし、準備オッケー!」 


 他の人たちも同様だけど皆何かしら違いはある。衣装につけるお手製のワッペンだったり、自作マントだったりする。

 ボクたちの場合は衣装に差異があまり無いため武器に拘ってみた。一般の人は殺傷力のある武器は持ち込まないんだけどボクたちは普段から真剣を使うこともあるから早苗の木刀マイク以外は刃を潰していない。


「はい、私たちも着替え終わりました」 

「お待たせしました」


 今回のボクたちの衣装はチェイルズオブベルセリャの清涼委員会を元にしていて、白のコートを基調として水色の糸を線状にして編み込んだ衣装だ。そう、六人同じ衣装のため見分けるとしたら髪の色か武器くらいだ。

 なんでこの衣装を選択したのかというと、チェイルズオブベルセリャ第28巻の半ばで清涼委員会と主人公たちが戦う場面があったからだ。それを今回の来舞ではモチーフにしようということになっている。

 勿論、リーダーは必要だ。それも皆が一目見て分かる派手なことが出来る人。本来なら早苗に任せるんだけど、来舞中は諏訪子様と神奈子様はメンタたちの演奏に加わるため神衣は出来ない。そこで今回はボクが担当することになった。


「パルのためなら、お姉ちゃん張り切っちゃうよ! 頑張るぞー!」   

「おー!」 


 ボクの中から出てきたのは依姫お姉ちゃん。今は霊体姿でボクの体に同居している半神だ。そして早苗と同様にお姉ちゃんの力を借りればボクも神衣が出来るようになる。


「皆、楽器持った?」 

「チェックは終わってますよ」

「こっちも大丈夫です!」

「では作戦の最終確認をします」


 去年は咲夜と二人きりだったからツインボーカルでも良かったけど、今日は早苗、妖夢、藍、イナバがいる。乱入は一気に盛り上がる三曲目からだ。メインボーカルは最初が藍と早苗、四曲目は妖夢とイナバだけど二人だけでは不安らしいのでサブボーカルに咲夜と依姫お姉ちゃんが入ることになってる。ラストはボクだ。

 しかしその間待ちぼうけていることは出来ないのでボクたちは楽器を手にしている。藍と早苗はマイク、妖夢、イナバはギター、ボクと咲夜はベースを持っていてボーカル交代の度に楽器も変わる。四曲目の時は早苗と藍がギターを持ち、ボクはそのまま。咲夜とお姉ちゃんの楽器は余るので空間に仕舞う予定だ。

 流れはこんな感じになり、最終曲が終わるとにボクと咲夜が時間停止で皆を抱えて素早くその場を離れる。原作では清涼は主人公たちに敗北するため撤退しなければならないのだ。


「皆、大丈夫ですね?」 

「勿論」


 咲夜が全員に確認を促し、ボクたちは揃って頷く。

 来舞会場からは音楽が流れ、爆音と共にさとりのボーカルがここまで響いてきた。


「では、参ります!」

『おー!』


 小さく、けれど力強くボクたちは拳を掲げた。



~会場~

「突然ですが霊夢さんに問題です! ブラジャーとは何でしょうか!?」

「ブラックジンジャーエールの略称。近年港町で漁師の飲み物として流行しているアルコールの入っていないシュワシュワのこと」

「続いて魔理沙さんに問題です! ○○○○とはどういう意味でしょうか!?」

「放送禁止用語。主に夜9時までの間にTVで流れてはいけない大人向けの用語が発音された時に流れる謎の音だぜ」

「最後にレミリアさんに問題です! TVゲーム、チェイルズオブベルセリャに出てくる港町セーレーンの道具屋二階にいる少女の名前はイミットとレベッカですが、そのお母さんは何処で何をしているでしょうか!? 設定資料集のページと合わせてお答えください!」

「セーレン漁港の第三ブロックの荷台上で荷下ろしをしているわ。その背景に、二年前に父親と離婚して莫大な借金を抱え、残された道具屋で働いていたが意外にも才能があり半年で借金を返済し、細腕ながらも二人の娘を育てる有能シングルマザーとして活躍している。資料集46ページ二行目より」

「はい、パーフェクトな回答ありがとうございます。ちなみにですがブラジャーは女性の下着、○○○○は丸が4つという回答が正しい答えです。霊夢さんは裏を掻こうとする浅ましい魂胆が見え隠れしていますし、魔理沙さんは常日頃からやらしいことばかり考えているみたいですね。お疲れ様です」


 その顔面に拳二つが飛んできた。メンタは半歩下がって余裕の笑みでイナバウアーを決めて躱そうと試みるが霊夢たちの本命は同時に繰り出した脛への蹴りだ。それは諸にメンタの脛に直撃した。


「おぅ……」


 カクン、と膝が折れて地面に付く。若干涙目だが自業自得だ。


「全く。阿保なことやってないで来舞の準備は出来ているんでしょうね?」

「それは勿の論です! 今日は博麗神社、守矢神社、紅魔館、地霊殿が集結していますからね!」


 今日の来舞は初参加となる地霊殿を加えたSP来舞だ。同人誌即売会も午後3時までに全て売り切れてしまい、さとりたちとレリミアたちも参加予定だ。

 今回のボーカルは霊夢、さとりの二人だ。楽曲の大元となるベースは初参加のレリミアとバインパイアが担当し、メンタはベース&ボーカルだ。ギターは魔理沙とお燐、ドラムは神奈子、DJは諏訪子、キーボードはアリスとお空の二人引き、こいし、フランはタンバリン、橙はカスタネット、レミリアとインアンドセクトはバイオリン、フールエンリルはチューバ、ガシャポンドクロはエレキギター、美鈴はコントラバス、てゐはシンバル、シンはサックスを担当する。パチュリーと小悪魔たちはいつも通り照明係。

 理事長と枢、霖之助は陰陽生や町人、里人たちを率いて下位族と御多芸を披露する予定だ。余談だが魔理沙たちの衣装は夏と同じだが、さとりたちは自作した物を着用している。さとりはヴェルベット、こいしはフェニックス、お空とお燐は清涼委員会の衣装を持って来ている。


「ですが! 会場にはパル姉たちもいます! こちらの情報は筒抜けですので去年同様に乱入してくることでしょう! 無論、オレはどう乱入くるのか全く分かりませんが主導権を握り損ねたら終盤までペースを持っていかれます! 霊夢さん、さとりさん。驚いてボーカルを奪われたら終わりですからね!」

「分かってるわ」 

「努力はしてみる」

「イエス! 向こうは6人、こっちは20人とEXです。オーケストラで負けたらオレはショックで寝込みますからね!!」


 前回、メンタは惨敗した。パルたちに見せ場を全て持っていかれて終了後10分くらいは打ちひしがれていたりする。


「皆、そろそろスタンバイして頂戴」 


 パチュリーから合図が掛かり、全員が動き出す。さとり、魔理沙、神奈子、諏訪子、メンタ、レミリアは前衛、他は四曲目で破壊予定の張りぼて裏の定位置に待機する。二段構えの超インパクト作戦が今回の目玉となっている。

 裏手スタンバイが終わるとメンタたちもチューニングを終え、合図を出すとさとりは飛び出してマイクを持ったまま右手を突き出した。


「一曲目、容赦しない! リーサル・エヴェイン!」

『おおおおおおおおおおお!!』 


 下位族たちが動き出すと霊夢だと思って待機していた観客たちも一拍遅れてサイリウムを振り上げた。

 一気にギアが上げられ、曲が流れ始める。ここから先、何時、何処で乱入されても乱れることは許されない。さとりは大歓声に気圧されたながらも声を上げて歌い出す。

 思いっきり叫んだ後はどうしても息継ぎをする必要があるため、傍で待機していたメンタが声色を極力さとりボイスに近づけて声を上げてサポートする。


「二曲目! ヴァインド・オーヴァー!」


 僅かに呼吸を整えたらすぐに二曲目が襲い掛かる。下位族も曲に合わせて御多芸を披露し続けるため日頃から体力を鍛えておく必要がある。

 余談だが曲名は全て秘奥義と呼ばれるキャラクターの必殺技だ。チェイルズファンの間ではソング・オブ・キルと呼ばれている。


「三曲目! ドラグーン・ハウ・リーング!!」

『おおおおおおおおおおおおお!!』


 全五曲で決めるのが来舞。乱入するならば最高潮の三曲目からになるが――

 ダンッ! と客席からステージに飛び込む影があった。


「そこまでだ! これ以上は歌わせないぞ、祭歌の権主!」 

「お前たちの歌はここで止めてやる!」 


 パルと早苗が宣言し、その後に続いて観客たちを飛び越えて咲夜たちがステージに乱入した。6人とも清涼委員会の姿であり、台詞は28巻のものだと皆が気付く。

 メンタも来ましたか、と息を吸い直して怯んださとりの前に立ちはだかった。


「お前たちの相手などワシ一人で充分じゃわい!」 


 その言葉に背中を押され、さとりも一歩前に出て叫んだ。


「あたしたちの邪魔をする奴は誰だろうと倒す!」


 ちょうど前奏が終わり、四人が一斉に歌い出す。元より乱入者は不利が前提だ。何度も練習してきたさとりとメンタの息継ぎに合わせるのは難しい。

 だが早苗たちとて全曲を歌えるレベルまで合わせてきたのだ。そうなれば残るはお互いの声量で決まる。そして主導権を握れるのは曲の途中にあるドラゴンの咆哮。


『ああああああああああああああああ!!』

『ああああああああああああああああ!!』


 四人の咆哮が合わさり、互角。次の一言を発したのはメンタだ。さとりに全力を出させてその後の主導権を全て握った。

 ベースとギターが同時に鳴らし終わり、曲も止まる。続けて、四曲目は始まらなかった。観客もまさか機材が故障したのかと一瞬の静寂に喉を鳴らした。

 メンタは汗を拭う素振りをして背後で待機しているパチュリーに合図を出す。パチュリーは光信号でバックにいる皆に合図を伝え、メンタの言葉を待つ。


「くはっ! な、中々やるではないか……。こやつ等、清涼のエリート共か!」 


 アドリブだ、と皆が思う。だが、さとりも一ファンとしてその後に続いた。


「だけど負けるわけにはいかない。相手が誰だろうと、あたしは負けない!」

『その通りだ!!』


 何処からか大きな声が発せられた。

 次いで、ステージに設置された爆竹が爆発し、大爆発と共にバックの背景が破壊され、本命のステージが顔を出した。

 誰もが唖然とした。パルたちですら思わず視線を向けてしまった。


「四曲目! ナイトメアグロウ!!」


 曲が始まると共にオーケストラが吹き荒れた。観客たちは一斉に鳥肌を覚え、高らかに声と拳を上げた。

 不味い、とパルは思った。今の爆発で流れを全て持っていかれ、ボーカルもベースもギターも音を持っていかれた。

 正面を見据えればメンタがニヤリと笑っており手を空に向けて指を三度折り、パルたちを挑発している。

 元々歌唱に不安だった妖夢とイナバは圧倒され、依姫が声を上げても勝ち目は無かった。早苗も歯噛みし、撤退も視野に入れたその瞬間だった。


「はぁぁ!!」


 ステージが眩く輝き、神衣をしたパルが前線に躍り出てマイクを握った。その光を神衣だと察した早苗は一早く動いて妖夢とイナバにギターを持たせて下がらせる。さとりはその神々しい姿に声を詰まらせた。代わりにメンタが声を張り上げるがパルの神衣は元々がチェイルズシリーズの神衣のためそんな演出をされれば戻したはずの勢いを再び掻っ攫われるのは眼に見えていた。

 さとりも数瞬遅れて歌いだすがパルの熱のある歌に引きずられてしまう。

 今度はメンタが不味いですね、と思った。パルはもう今更としてもメインボーカルのさとりの声がずっと引きずられたままになっている。曲は終盤。もう巻き返すのは無理だ。

 曲が終わり、さとりは悔しげにパルたちを睨みつける。


「くっ……。まだ、まだだ!」


 そうは言ってもパルの声量と声は破壊力があり過ぎる。普段引きこもりのさとりが勝てるはずもない。


「次で終わらせる!」


 パルもこのままを維持するつもりなのか神衣姿のままラストの曲を構えた。


「そうよ、諦めてはダメ。何度でも立ち上がりなさい、ヴェルベット」


 そのさとりの背後からシェアリーズのコスプレをした霊夢が背を押した。更に背後の幕内からは妹紅が火を噴いて派手さを演出しており、観客たちの眼が一気にさとりと霊夢へと集まる。その隙を突いてメンタは空間からヴェルベットコスプレの後付け武装をさとりの左手に嵌める。


「姉さん……。ええ、そうね」


 さとりもその武装に気付き、珈魔化した左手をパルへと向けた。その間は一瞬にも満たないため本当に左手が変わったかのような錯覚を観客たちは覚えた。


「あたしは、勝つ!! ラスト、絶破滅衝劇!!」


 さとりたち、メンタたちがこの日のために練習した一曲。しかしこの曲は一週間前に発売リリースされたばかりであり、それをアレンジすることなど不可能に近い。


「嘘っ!?」


 パルもラストの曲はグングニールツイストかウェイトレス・メイデンだと思っていたため虚を突かれた。


「退けぇッ!!」 


 さとりの一喝と共にオーケストラの奔流が吹き荒れる。鬼気として迫る音の暴力にパルは――逆に笑みを浮かべた。忘れているかもしれないがパルは相手が強ければ強いほど燃える狂戦士だ。この逆境は最高の舞台と言っても良い。

 ギターは意味がもう意味がない。ベースも引っ張られる。早苗たちは直感を信じて楽器を手放してマイクを手に取った。

 パルたち7人と霊夢たち3人、計10の歌声がオーケストラと調和して響く。

 それは会場中に響き渡り、行き交う人々が足を止めて来舞のステージを見た。


 約2分の闘争を制したのは――メンタたちだ。


 元から撤退することは決まっていたとしても曲が終わるまでは全くの互角。終わった瞬間にパルたちはその場から瞬時に消え、しばらくの静寂。誰かが手を叩き、次いで大歓声が起こった。


『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』


 勝利。さとりはやり遂げた表情で天を仰ぎ、左手を握って天高く掲げた。

 今度は大規模な喝采と拍手が送られた。メンタたちも満足した表情で観客たちに礼し、速やかに退場していった。

 メンタたちはもう疲労困憊で控室へと戻り、ステージ掃除のため来舞も10分間の休憩に入った。


「喉……喉がカラカラです……」

「お、おのれ、パル……」


 連続して歌い続けたメンタとさとりは2Lボトルを片手にゴキュゴキュと一気に飲み干していく。ラストの熱気に当てられたせいか魔理沙たちも体温が上昇して顔が赤くなっている。


「くっそ……まさかラストを対応してくるとはな……」

「あー、楽しかったー!」

「だねー!」 


 シャンシャンシャンと橙とフランがタンバリンを鳴らし、魔理沙たちは団扇で顔を仰いで休息を取る。


「皆お疲れ様!」


 控室の扉が開くと同時にパルが飛び込んできた。何故あの後でこうも元気なのだろうと皆が疑問に思った。その後に続いて『ファンより』と書かれた大量のジュースやお菓子の箱を早苗たちが台車で運んできた。


「お菓子とジュースありますよ!」

「次は私も歌います!」


 妖夢たちは今回気圧されてしまったため悔し気ながらも宣言しておく。


「では、皆さんで打ち上げましょう! お疲れ様です!」

『お疲れ様!』


 メンタがジュースを手に取ると各自が手を上げたり拍手したりしてお互いを称える。

 ワイワイと控室が声がする中、次の来舞者たちが演奏する音が聞こえてきた。



 午後8時。チェイルズ大祭は終わりを迎え、花火が打ちあがっていく。この頃になると早苗たちはもう守矢神社に戻っており、居間からでも花火が見えていた。


「綺麗だね~」

「ええ、本当に」


 テーブルには単行本や同人誌、お菓子、ジュースが適当に散乱している。その周囲では炬燵を毛布代わりにしてイナバ、妖夢、依姫、藍が寝てしまっている。起きているのはパル、早苗、咲夜の三人。夕食も食べ終わっているため今はお喋りしたりしている最中であり早苗はお風呂に入っている。

 ちなみに諏訪子と神奈子は大祭に出かけたまま帰ってこない。彼女たちはそのまま年始まで博麗神社に泊まり込むという本当に守矢の神様なのかと疑うようなことをしている。


「あっ、そういえばさっきメンタからこれ貰ったんだった」


 別れ際にメンタからクリスマスプレゼントを交換し合ったのだがまだ開けていなかったのを思い出した。

 赤い堤を開くと中に入っていたのは一冊の同人誌と縦長の封筒だ。その上には手紙が乗っており、開いて見る。


「えっと……」


 ――メリークリスマスです、パル姉! パル姉のことなのでオレの同人誌は買ってないと思い入れておきました! それをこのDVDは市販されてない超レア物ですので皆さんと一緒に見て下さい! メンタより

 手紙をテーブルに置き、同人誌と封筒を取り出した。同人誌の方はR15と書いてあるため後で読もうとパルは思い、封筒を切って中を開いて見る。


「――チェイルズオブベルセリャの……OVA!?」

「えっ!?」


 ガタン、と音を立てて妖夢たちが一斉に目を覚ました。


「どういうことですか!?」

「OVAって誰が送ってきたんですか!」 

「ひゃわっ!? 皆起きてたの!?」 


 次いでお風呂から上がったらしい早苗が勢いよく居間の扉を開けた。


「パル……それ、今回の小冊子の後書きに書かれていたOVA……」


 何故持っているんですかぁぁあああああああああ! と早苗の渾身の叫びが守矢神社炸裂した。幸いにも守矢神社は閉まっていたため表に聞こえることは無かった。


「み、皆で見よう? ね?」  


 パルも何故メンタが入手不可能な物を送ってきたのか分からなかったが、今は楽しもうとDVDパッケージを早苗に手渡した。



 一方で博麗神社では飲めや歌えやの大騒ぎ。メンタは今回得られた収入を確かめるため私室で紫と一緒にお金を数えていた。


「はふぅ、パル姉特製のポンチョを着ると身も心も温かいですねー」


 無論、それはパルがメンタに送ったクリスマスプレゼントだ。その隣では紫が暖房にあたりつつお札の枚数を数え、最後の束を数え終わるとスキマに放りこんだ。


「それは良いんですけれど、あのDVDは自重した方が良かったのではないでしょうか? 流石に市販すらされていない非売品を送ると正体がバレかねませんよ?」

「腐腐腐、年に一回くらいの大判振る舞いですよ。それにあのOVAには見た人の意識を逸らさせるように仕組んであるんです。つまりパル姉たちは映像を見終わってもオレに対する考察は自然と出来ないんです!」


 イエス、とメンタはガッツポーズをして紫は微笑んだ。


「なら良いのですけれど。さて、私も今日は飲みますか~」


 立ち上がり、鼻歌交じりに紫は階下へと去って行く。メンタもその後に続こうとして、ふと冬の夜空を見上げた。


「もう今年も最後ですねー」


 まもなく一年が終わる。そして新しい年が始まろうとしている。しかし――


「大晦日は何をしましょうかね~」


 まだ一年は終わっていない。


グラたん「待って下さい。その不穏な終わり方は止めてください」

メンタ「大晦日編楽しみですね!」

グラたん「いーやーでーすー! 私だって年末くらい休みたいです!」

スルト「プロもアマも小説家である以上は執筆するのが運命さだめ

スルト「次回、過労死オーバーワーク

グラたん「やっぱり死ぬんですね!?」


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