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東方幻想腐女録  作者: グラたん
第一章
80/119

第七十三話 夏コミ前日!

グラたん「第七十三話です!」



 博麗神社へと戻って来た霊夢は眼を覚まし、隣で寝ていた魔理沙も同時に目を覚まして若干気まずい空気が流れる。


「……」

「……」

「起きましたか?」


 そこへ第三者、紫が声をかけると二人ともに其方を向いた。


「ええ……事変は――」

「それについても説明しますね」


 事情を説明し、霊夢と魔理沙はなんとも言えない表情でそれを聞いている。


「……そう」

「おーう……」


 一通り説明し終えてようやく出てきた言葉がそれだった。


「二人ともに無理をさせてしまいましたね」

「……んー……」


 会話がそこで途切れ、また気まずい空気が流れかけた所で扉が勢いよく開かれた。


「おう! 眼が覚めたってなお前等!」


 空気を読まない、読めない魅魔の登場に二人はそっぽ向いて空唾を吐いた。


「へっ」

「けっ」

「おい!? なんか凄くドライなんだけど!」


 その背後にはメンタとてゐの姿もあり、努めて明るく振る舞っていた。


「あっ、起きたみたいですね!」

「ヒャッハー! ドロップキック!」


 てゐの飛び蹴りに対して魔理沙が足を掴んで抑え、霊夢が顔面に裏拳を入れて床に叩き落とした。


「ブハァ……」

「もうすっかり元気ですね」


 テーブルに五人分のお茶を置き、メンタも座る。


「はぁ……」

「ったく……とりあえず魔理沙」

「何だ?」


 霊夢は一旦視線を彷徨わせて躊躇い、意を決して告げた。


「……魔力暴走するくらい悩むのなら皆に話なさい。……そうじゃないとまたあんたを殺しちゃうかもしれないから」

「それが簡単に出来ないから悩んでたんだよ……」


 でしょうね、と霊夢も内心で思う。


「まー、でも当面は問題ないだろ」


 魅魔の楽観的な言葉に魔理沙は視線を向けた。


「どういうことだ?」

「あ――」


 メンタが何か言おうとする前にてゐはなんてことないように言ってしまった。


「魅魔が、お前に長寿薬飲ませたからな」


 前半を超強調して言い、魅魔はしかめっ面をてゐに向けた。加えて気まずい空気と殺気、白い視線が魅魔に向けられた。


「何か言い残すことはあるか?」

「やっちゃったぜ☆」


 てへぺろ、と魅魔がやっても誰得であり、てゐとメンタは素早く庄子と扉を開けて魅魔を中庭に投げ飛ばし、周囲が破壊されないように防壁術式を展開する。


「マスタァァァスパァァァァアアアアク!!!!」


 キレた魔理沙はそのまま魅魔を追いかけて飛翔し、魅魔は魅魔でトップスピードで逃走を開始した。


「ちょっと決着つけてくる! 修理費はツケとけ! 魅魔様に!」


 飛び去った後で、風圧でお茶が少し零れてしまい霊夢は布巾を片手に溜息を吐いた。


「あんの馬鹿……」


 ふと、メンタは庭に置いてある魔理沙の箒を見てもう一度空を見た。


「あれ? 魔理沙さんって箒無しでも飛べるんですか?」


 霊夢も外を見ながらお茶を飲み、思い出したように話した。


「あー、そういえば箒無しって結構久しぶりに見るわね。これも老齢化の原因だったのかしら」


 ()()()? とメンタは嫌な予感がしながらも振り返った。


「……魔理沙さんと霊夢さんって今幾つですか?」

「私? 私は80ちょいよ。魔理沙も同い年」

「見た目に騙されてたな。うん」

「それを言ったら私は1000歳超えてますし、てゐも同じくらいでしょう?」

「まーな。ぶっちゃけメンタが一番年下じゃねぇの?」


 齢16歳。この場にいる誰よりも若く、しかし誰一人メンタと同じくらいの容姿のため年齢詐称をしていても分からない。


「あ……ガガガガガガガ――――びーびーえーびーびーえー」

「……おう、紫のことだな」

「なっ! 私はまだ18です! ぴちぴちなんです!」


 今1000歳っつたろ、とてゐが突っ込み、


「ハイハイ死語乙」


 とBBA扱いして紫をへこませる。

 メンタは今のを聞かなかったことにして立ち直り、拳を掲げた。


「と、とりあえず! 事変解決です!」

「つーことは、だ。いよいよ本腰か?」


 そう、まだメインイベントは始まってもいないのだ。


「イエス! 思えば長かったですが……やるからには全力です!」

「それは良いんだが、私たちは何処で何をするんだ?」

「あ、そっか。てゐは夏コミ自体初でしたね。えっと、これを見て下さい!」


 懐からマップを取り出し、テーブルに広げて全員に見せる。


「あ、これって中央都市の地図か」

「イエス! そしてブースがここで、内部はこんな感じになっています。オレたちが出店する場所はブースの二番の所です」


 スルトが建築したブースは1から15まで番号が振ってあり、1は入場ゲート、2から6までが物販となっており、7から13までは出展となっている。14、15はコスプレブースになっており、東、西の二か所で大規模ライブが出来るようになっている。


「つまり二番の所に同業者が集まるってことか」

「はい。それとブース内は基本的にコスプレオッケーですよ」

「ってことは!」


 てゐが期待した視線でメンタを見るとニヤリと笑い、奥の部屋を開け、大量に並んだコスプレ服を開帳した。


「勿論、全員分ありますよ。参加する人全員に声をかけてありますから」


 その内の数着を霊夢たちに手渡し、扉を閉める。


「あんたって無駄に器用ね」

「腐腐腐、この分野だけは譲れませんよ。加えて幻想郷には良い物が色々ありましたから実用性のあるコスプレ衣装になっています。勿論、通気性は保証しますし霖之助さんの無駄に凄い魔法技術で周囲の空調を調整できるようにしてありますから暑さと無縁でいられます」


 ブースどころかカルリス全体が数日かけて祭になるため熱さも近年稀に見るレベルになるだろうとメンタは予想しており、熱中症対策も万全だ。


「本当に無駄に凄いわね」

「あら? もしかして霊夢も参加するの?」


 紫がちょっと意外そうに言うと霊夢は嘆息した。


「こんな面白い祭りに参加しない方がどうかしてるわ。他にもレミリアとか神奈子たち、シンに幽々子も参加するわ」

「へぇ……って、ちょっと待って。その間の神社の仕事はどうするのよ?」


 その問いに霊夢は空笑いした。


「あはははは、こんな錆びた神社に参拝客が来た事あったっけ?」


 パルが居た頃は参拝客もいた。その影響もあって信心深い常連客もちょっと増えているが週一や月一だ。霊夢は接客しないし、メンタも平日は修行や制作作業があるためあまり表には出ない。


「ちなみに守矢の方も休業するみたいですのでトントンですね」

「……守矢」


 そういえば、と紫は守矢の状況を聞いた。


「はい?」

「守矢は何か出店するの?」


 メンタは今回出展する予定の業者一覧と情報を思い出し、否定した。


「今の所そういう情報はありませんね。こう見えても情報網は結構広い方ですから」

「と、なれば……上手くやれば参拝客が増えるかしら?」


 例えば際どいコスプレをしたり水着販売したり――と思案しているとメンタが博麗印の旗をその場に立てた。


「博麗神社が如何に良い場所であるかを宣伝すれば増えるかと思います」

「よし! それなら許可します! 守矢から根こそぎ参拝客を奪ってきなさい!」


 それで良いのか、と何故を問うものはこの場にはいなかった。



 夏コミ前日、中央都市カルリスでは既にお祭りの準備が整っており今日は手順の最終確認やリハーサルが進められ、町を歩く子供たちは今か今かと待ちわびている様子だ。今年はスルトの手もあって昨年よりも大規模のため警備も増強されており、自衛部隊も見回りをする予定だ。

 交通も整備されており中央の大十字路を起点に露店が立ち並んでいる。特に北側は貴族が住んでいるため高級飲食店がここぞとばかりに並び、その周辺には有名店が列を成している。

 コミケのブースは町の中央から見て東側にあり、西側は最近開発された気球の試作展覧会と試乗となっている。南側はお祭りの屋台や縁日が待機している。

 メンタたちもブースの近くに来ており、夏の熱さに眩暈を覚えていた。


「突然始まりました幻想郷の武器についての講座です。講師はオレことメンタがお送りします。はい、早速参りましょうね。幻想郷には妖怪がいるため基本的な武器は術符とかスペルカード、弾幕です。しかし対人戦も時折あるので剣、槍、弓、銃、投石器などなどが存在しています。ぶっちゃけどれも妖怪相手には効きませんので装備するなら術符です。イエス! しかし魔導銃というものがありましてこれは魔力の籠った弾丸を生成して打ち、妖怪にも多少なりと効果があるということが近年判明した画期的(嗤)なモノです。制作者はロリの助さんです。しかし倒せるわけではないため光熱魔法を弾丸に込めた閃光弾や音爆弾の需要が大きいです。ちなみに子供に持たせたら失明と鼓膜破壊が確認されてしまい一時は叩かれましたがちゃんと訓練して使えば効果的という結論に達して自衛部隊に支給されているそうです。尤も妖怪は人間の300倍は強いので失明することも鼓膜が破れることもありません。『ちょっと鬱陶しいくらいにしか感じない』と実験に協力してくれた勇儀さん談です」

「おお、メンタよ。暑さで壊れるとはなんと情けない」


 そこへてゐたちが合流し、メンタは果てしなくどうでも良い抗議を中断して拳を高く掲げた。


「はい、冗談はこの辺にして――やってきました、カルリス!」

「イエー!」


 パチパチパチ、と神奈子、諏訪子、紫の三柱も盛大に拍手する。


「前日ということもあって賑やかですね」

「この規模の祭りは中央都市では十年祭や百年祭以外にはあり得ないからな」

「おー、前は未完成だったけど完成品は一味違うね」

「大きい~」


 感想も程々にてゐは辺りを見回した。


「そういや早苗たちはまだ来てないのか?」


 移動手段にスキマ、転移、御柱砲等々があるものの、やはり当日に直接向かうのは自殺行為兼初心者のすることだ。玄人は前日には現着し、荷解きをして宿待機だ。


「早苗ならパル、咲夜、妖夢たちと買い物に行ってしまった。レミリアたちは食べ歩きをしているぞ」 


 当然、神奈子たちもそこの所はメンタからくどく言われているので早苗も今日から数日はカルリスに滞在予定だ。レミリアたち、妖夢たちも現着しているため今朝方に宿のチェックインを済ませるなり早苗たちと合流して町を見物しに行ってしまった。

 咲夜に関してはレミリアが(食べ歩きしたいが為に)寛大に許可したため今日はパルたちと一緒に自由行動をしている。


「なるほど……」

「さて、まずは物資を入れてしまいましょう!」


 物資と言ってもメンタの場合は空間収納術式ストレージがあるため、他の業者たちのように必死に運ぶ必要はない。

 ブース内に入ると設置業者が蠢いており、同人誌即売会の人たちも衣装の調整や販売箇所に物資置きをしている。


「おお~!!」

「広い!」

「既に沢山の人がいる!」


 しかし会場が広すぎるため約2000人がそこにいたとしてもガランとしている印象を受ける。


「うむ、第一回目ということで参加者も多いからな。出店の方は些か少ない気もするが想定内だ」


 そこへスルトもやってきて合流する。スルトは今回の最大出資者でありイベント各所の挨拶周りをしており、物販の盗難や暴力沙汰を防ぐ措置にも一役買っている。

 ただ、総監督もしているため忙しいことに変わりなく、一言告げると満足気にフハハハハハハハと高笑いしながら去っていった。


「で、ここが私たちの場所か?」


 第2ブースの一等地と言っても良い場所が今回の売り場であり、メンタは空間を開いて大量の段ボールを取り出していく。


「そうです。よいしょっと」

「おわっ!? あ、これ例の本!」

「ほほー、面白い活用法だね」

「この腕輪のおかげで空間収納術式が拡張出来ましたので絶賛活躍中です。あ、ちなみに物資搬入はこれで終わりです。最後に辺りに防御結界張っておきますね」


 範囲の四隅に術符を張っていき、最後に品の上にも術符を置いて術式を展開する。


「何か凄く強力な結界張ったな」


「頑張って書いた作品を窃盗されたら堪りませんからね。あと勝手にですがオレの作品を勝手にパクった品出した人は爆破します。いや結構本気です」


 今回張ったのは単純な盗難防止用の結界ではあるが、メンタが許可した以外の人が内部へ入ろうとすると30万Vの電流が流れる仕組みになっている。


「お前に狙われるような事する阿呆はいないと思うが……」

「人の数だけ人の思考がありますから用心しておきます。ちなみにこの本一冊一冊にも探知術式張ってありますから盗まれてもすぐに分かるんですけどね」

「爆殺する気満々だね~」


 売る際には術式札を抜くため購入後にパクられるのは仕方ないとメンタは考えている。そして用意していたコスプレ衣装もブース内に置き、ヴェールを被せておく。


「後はコスプレですが……これは明日でも良いでしょう。着付け合わせは自動調整で何とかなりますし」


 自動調整魔法は基本的に魔法が使える者なら誰でも使える基礎中の基礎魔法のため使えない者からすれば羨ましい限りだ。それを一般人でも使えるようにしたのが術符による自動調整技術だ。仕組みは単純で、陰陽の術符を用意し、事前に魔法を付与するだけだ。それを衣装の内襟やポケット等に縫い付ければ完成となっている。

 ちなみに考案したのはメンタであり、別段これで儲けるつもりはあまり無かったため陰陽購買部と香霖堂を通じて各地の町に手頃なお値段で提供している。ただし丸パクリされて声高らかに手柄を横取りされるのは嫌なので札の中央には『香霖堂』と赤い文字で書いてある。

 メンタが『香霖堂』と書いた理由は二つあり、一つは霖之助に恩を売るため。一つは幻想郷で香霖堂は割と有名なブランド店ということだ。骨董品ガラクタから雑貨まで扱っており、修理も出来る場所はかなり限られてくる。また半妖でありながらも人側の立場にいるため商人の間柄で頭が上がる者は数少ない。


「香霖堂の変態店主め……やるな」


 神奈子も霖之助の立ち位置と店の名の威力は知っているため口ではそう言いつつも内心では感心していた。


「あんなのでも一般大衆にしてみれば上位存在ですからね。さて、オレは周囲の偵察に行ってきますが皆さんはどうしますか?」

「私はブース内を見回って来るぜ」

「地の利を憶えておいて損はない」

「神奈子と一緒に歩くのだ~」


 では行くところは同じですね、とメンタは言って歩き出した。



 一方で早苗、パル、咲夜、妖夢、それから遅れて合流した藍の『従者の会』五人は和気藹々とする町並みを眺めつつ、今日の目的であるデパートへとやってきていた。全長300m敷地1kmというカルリスでも超巨大規模の店であり全15階建てとなっている。

 このデパートは最近建てられたばかりではあるが内包する店舗は100を超える。その上、洋服屋、メイク、マッサージ、宝石店、喫茶店、本屋、飲食店、アミューズメントパーク、展望台、映画館、デパ地下と、女性にとっては夢が詰まった場所だ。しかし男性も楽しめるようにゲームセンター、漫画図書館、ボーリング場、カラオケボックス、バッティングセンター、アニメイトなどの一面もある。


「こ、ここが噂の……」

「ごくり」 


 早苗と妖夢は思わず生唾を飲み、入り口に掲げられている『ファンタズマ』というデパートの看板を見上げていた。


「い、行きましょうか」


 デパートなる場所に初めて入る藍も姿勢を正して一歩踏み出し、早苗たちも後に続いてゲートをくぐった。


「いらっしゃい、いらっしゃい!」

「いらっしゃいませー!」


 勢いよく聞こえてくるのは店員たちの元気良い高らかな挨拶。 


「ざわざわ」

「がやがや」


 人の声がまるで分からないほどに混雑した人混み。中央通りは吹き抜けとなっているため賑やかさも比較にならないほど大きい。


「うわぁ!」

「っ……す、凄い」


 パルは眼を輝かせ、咲夜は少々圧倒されたように半歩後退った。


「ま、まずは服、でしたね」

「い、行ってみましょう」


 妖夢と藍が先んじて一歩踏み出し、その後に早苗たちも続いた。



 洋服、化粧品、小物は女性の代名詞とも言える。女子力が高くなければそれらを扱うことは出来ない。ちなみにこの中で最も女子力が高いのは早苗、次にパル、藍、妖夢、咲夜の順番だ。

 さて、洋服と言っても多種多様であり店舗ごとに色使いや特色が違い、今回パルたちがやってきたのは可愛い服と異国文化が混じったような服装が立ち並ぶ店だ。オマケに香水らしき匂いも漂っており甘ったるさが増している。


「これが女子の世界……っ」 


 店内に入った藍と妖夢は周りを見渡し、明らかに自分より高い女子力を持った女子が化粧品が何やら、アクセサリーがあーだこーだ、と話しているが想定以上に何を話しているのか分からない。


「これでは……」

「……いけませんね」


 くわっ、と目を見開いて目の前にある筆ペンのような化粧品を手に取ってみる。


「……これは一体何に使うんでしょう?」 

「ペン……赤み2割増し?」


 『最近話題!』と書かれていても何の話題か分からなければ流行に乗れはしない。

 そこへパルたちも合流し、手に持っている化粧品を見て早苗が説明した。


「それはコンシーラーといってファンデーション――こっちの化粧品の後に使うものです」

「コンシー……? ファンデーション?」


 そこからか、と早苗は自信満々の笑みで妖夢たちに迫った。


 

 化粧品のコーナーには試し塗りをするコーナーと実際に購入品を使用することが出来るコーナーがあり、妖夢たちは精神的疲労を感じるまで顔を弄られて行く。

 ただ、元が白い肌のためファンデーションは僅かに付けるだけに留まり、逆にチークやアイシャドウを駆使して血色を良く見せる方向で仕上げていく。所謂ナチュラルメイクで充分だ。不自然にならないように口紅も薄いピンク色を付け、妖夢たちに鏡を見せる。


「……――誰!?」

「す、すごいです!」

「ふー、いい仕事したわ」


 早苗も満足気に親指を立て、妖夢と藍はすぐに今使ったものを買い物籠に入れる。


「こっちも出来たよ~」 


 パルの声がする方を見ると、化粧品によって生まれ変わった咲夜は元々色白の肌はそのままに透明感を前面に出しつつ赤みを入れて血色を良く見せている。他にもつけまつげやマスカラがあったが咲夜には似合わないだろうとパルは判断していた。


「うわっ! 咲夜さん!?」

「妖夢さんに藍さんも良くお似合いよ」

「あ、ありがとうございます」 


 その背後ではパルと早苗が香水コーナーで三人に合いそうなモノを選んでおり、気付いた時には既に遅くパルに手を引かれていた。


「咲夜は柑橘系かな? 妖夢は南国系で藍はさっぱりした感じが良いよね」 

「いいえ、咲夜さんは紅茶系、妖夢さんと藍さんは塩な感じが良いと思います」


 妖夢たちは視線でお互いを牽制し、最初の犠牲者を選ぶべく譲り合う。女子力が低いことを抜いても早苗とパルの意見が対立しているならば最初の一人は両方を食らわされる可能性がある。特に鼻が機敏な藍は咲夜と妖夢が後退るのを決して許さなかった。


「じゃ、まず妖夢さんから」


 そんな思惑とは無関係に早苗が妖夢を掴み、席に座らせる。早苗が持っているのは宣言通り海の香りがする香水だ。


「こっちは藍だね」


 パルも同様に南国フルーティーな香水を手にしており、軽く藍の腕に噴射した。そこから香るのはマンゴーフルーツとヤシらしきモノ。隣からただよってくる磯の香りと相まって藍の嗅覚は壊れた。


「くっふきゅー」


 藍は気絶する瞬間に手元にあったご意見用紙とボールペンを手に、『香水』『ダメ』とダイイングメッセージを残して気絶した。

 

「藍!?」

「藍さん!?」 

「どうしたんですか!?」

「気絶してる!」


 そこで四人も藍が九尾の狐であり香水系統はめっぽうダメなのに無理していたことに気が付き、急いで妖夢と咲夜の分を購入してその場を離れた。

 近くの休憩所で藍を降ろし、少し様子を見る。香水の香りは一時的なものなので少し休憩すれば大丈夫だろうとパルは思う。

 案の定、藍は眼を覚ました。


「う、うん? ここは……」 

「あっと。藍が起きたよ」

「藍さん、大丈夫ですか? 気分はどうでしょうか?」


 心配されていることは分かったが、気絶から起き上がってすぐに質問が飛んできても答えられない。


「だ、大丈夫……だと思います」


 あまり自信は無いが身体的異常は感じられないため藍はそう答えた。


「ごめんね。藍が匂いに弱いとは思って無くて……」


 あっ、それで――と藍はパルたちの態度と理由に気付く。


「パルたちに悪気が無いのは分かってます。香水も微量なら問題ありません」


 微量、実に水1滴程度までなら――という思いが果たしてパルたちに届いているのかどうかは定かではないが、分かったと頷かれては追及は難しい。

 


 その後は再びお店巡りをすることになり、美味しい匂いにつられてあちらこちらの店舗に目移りしていく。

 近日中に夏コミ(正式名称は『守矢神社主催・中央都市カルリス清涼夏祭り大会』)があることもあり何処も客入れ時と大手を振るっている。勿論、イベントもたくさんありパルたちがいる特設ブースもその一つだ。


「さあさあ、クイズ大会挑戦者募集中! 子供も大人も寄ってらっしゃい!」

「次回開始まで10分を切ったよ! 10問中8問以上正解でデパート内で使える商品券10万円分を進呈! 全問正解すれば主催者が出来る範囲で何でも一つ願いを叶えてくれるよ!」


 威勢の良い声と共にデパート6階のアミューズメントブースで行われているのはクイズ大会だ。子供連れで知識に自信ある人なら参加可能という太っ腹な条件だ。


「商品券10万円分……ごくり」


 ここにいるのはメイドに従者。10万円分ともなれば相応に良い食材やら衣服が購入できると考えてしまうのは仕方のない事だ。


「なんでも一つ……ならば、幽々子様の一年分……いえ、一か月分の食費を肩代わりして頂ければ――っ」


 白玉楼の経済管理とお世話をしている妖夢の主は幽々子だ。巷では【暴食】の名を冠する幽々子の一か月の食費はおよそ600万。一日三食で20万使うため一か月分だけでもありがたい。


「しかし知識に自信があるともなると……それに私たちは5人……」

「誰が子供役をやるかによっては……」


 ふと、咲夜と早苗がお互いの言葉をヒントに顔を上げた。


「そうよ、別に二つに分ける必要は無いわね」

「五人掛かりでなら多分行けますっ」


 隣で聞いていた藍と妖夢も腹黒く笑みを作り、無言で合意する。


「……で、誰がお母さん役しますか?」


 五人掛かりであれば当然子供は四人で大人一人が鉄則だ。もしくは誰かが父親の役を担うかすれば良いのだが――。

 咲夜は真面目な視線でパル、藍、妖夢、早苗の順番に見回していく。 


「パルは85、藍さんは87、妖夢さんが71、早苗さんが88。そして私が76――無理がないように設定を考えれば藍さんが妥当だと思います」

「そうですね。そうなると父親は妖夢さんか咲夜さんか……背丈を考えれば咲夜さんが無難でしょうか?」


 藍も同意し、さらっと妖夢のコンプレックスを突きながら煮詰めていく。


「分かりました。……妖夢さん?」


 咲夜も合意したが、妖夢の様子が変なことに気が付き、気にかける。


「だ、大丈夫です。そう、全ては食費のために……っ」 


 まるで身売りをするかのような葛藤に悶えながらも妖夢は頷き、咲夜はパルの手を握った。


「パル、能力の使用を許可します」

「へ? さ、咲夜?」


 しかし今の会話に全くついていけていなかったパルは困惑しつつも状況を整理し、まさか、と思いながらも確認を取る。


「……まさか、出場するの?」

「藍さんが母親、私が父で、パル、妖夢さん、早苗さんが子供役です。具体的には身長・体重・体型を縮めてくれれば良いわ」


 咲夜の本気の表情を確認し、パルは強く頷いた。


「分かったよ。ただ、元に戻す時の身体情報が必要だから全体的に触って良い?」


 女性同士とはいえ、能力使用上の仕方のない事とはいえ、公衆の面前でセクハラ発言をしたパルに対し、咲夜は時間を止めて近くの休憩所まで四人を担いで移動させた。

 続いて早苗も移動したことを理解して素早く人避けの術符を周囲に投げて張り、藍も妖力を発揮して近くの監視カメラを動作不良に陥れた。


「か、構いません!」


 まずは妖夢が犠牲になった。胸、腰、尻、足に続いて身長、体重を割り出していく。


「……71、58、73……153、42……」


 幻想郷でも身体測定と健康診断はあるが日々の鍛錬と無病息災から妖夢は己の身体検査などしたこともなく、正確に3サイズと身長体重を図ったことは無かった。


「かふっ」


 結果として無常な現実のツケを払わされることとなり喀血した。


「妖夢さん!?」


 早苗が差し伸べた手に掴まり、妖夢は二の足を強く踏んで意識を保った。


「大丈夫です。まだ、こんなところで倒れるわけにはいきませんから!」


 勝負は始まってすらいないのに倒れることは許されないと自分を鼓舞し、言い聞かせる。その姿はパルの能力によって小さくなり、服装も子供サイズになっている。


「次は早苗だね」

「は、はい」


 やや緊張しながらもパルの身体検査を受け、色々ぷよぷよな部分も触られて行く。


「90、61、92……158、46……」

「あふっ」


 つまり贅肉が付いているという現実を叩きつけられ、妖夢同様にその場に倒れた。その姿も徐々に子供へと戻っていき、たわわだった胸も絶壁に等しくなる。

 余談だが先程88と見積もった咲夜は若干抑えていたらしい事実に歯噛みしていた。


「よし、藍と早苗はどうする? 身長とかちょっと高くする?」


 そんな無自覚に死体を量産するパルは二人に聞き、確かに父親役が母親役と同じ身長というのは珍しいと考えて咲夜は前に出た。


「それなら身長を少し伸ばして頂戴」

「うん、分かった」


 ぺた、ぺた、と触られて行き、不意にレミリアが持っていた同人誌の内容を思い出し、こんなシチュエーションもあったような……と思想に耽る。


「72、58、71……156、32って紙の米俵一個分しかな――っ!?」


 パルが叫ぶと咲夜はその口をそっと止め、黙らせる。咲夜も自身が若干痩せていることは知っているが米俵如きと一緒にされたくはなかった。


「咲夜さん、ちゃんと食べないと過労死しますよ?」

「ううっ、分かってはいるのよ。でも紅魔館で働いていたらいくら食べてもすぐ消化されちゃって……」


 床に手を突いて泣き、なんとなく状況を理解出来た藍たちはそっとその肩に同情の手を置いた。

 が、パルの能力によって肩幅はやや大きくなり、胸は絶壁になるまで削られ、胴は痩せ気味ではあるが重心を落とされ、中性らしき体型へと変化する。身長も170cm近くまで上げられ、感動と虚しさが一気に押し寄せてくる。


「えっと、藍はどうする? 胸とか大きくしておく?」


 その流れを全て無視してパルが藍に問い、B70代の二人が殺気にも似た視線を向ける。


「そこまでする必要はないと思いますが……パルにおまかせします」

「じゃあちょっとだけ大きくしてみよっか。身長も、ね」


 そう言って藍の体に触れ、正確な数値を読み上げていく。


「87、59、93。身長は167、耳ありだと172cmで体重は52――」

「それは言わないでください!」


 原因は単純に油揚げと日々の美味しい食事にあるのだと分かっているため敢えて苦しい現実は見たくなかった。


「じゃあ90、59、93で身長は142cmくらいにしてみよっかな」


 要はロリ巨乳という一部には絶大なる需要を誇る体型に変えられ、ついでに人間らしくするために耳を隠し、髪の色素も茶色に変えていく。

 ……藍は自分の大事な何かを失ったような感覚に陥った。


「ちなみにパルは自分の体型は大丈夫なの? 数値とか分かる?」


 ロリ化した早苗が聞くと、パルは何てことないように答えた。


「ボクの数値? 上から87、56、88だよ。身長は152、体重は42kg」


 クッ、と早苗は強めに呻き、妖夢と咲夜も歯を強く噛み締めた。


 その理想的な体型を捨て、132cmまで身長を縮めたパルはクルリと一回転してみる。


「ん~……やっぱり慣れないね」


 身長が縮んだり大きくなったりすると重心もズレが生じるため、慣れるのには相応の時間がかかる。


「あと5分でーす」


 と、そこへステージの方から声が上がり、藍たちは形振り構うことなく歩き出した。


スルト「またか。其方は二度も同じ過ちを繰り返すのか」

グラたん「うぐっ……」

スルト「前作でリアルお正月なのに夏ネタをやるという暴挙をしたというのに……」

グラたん「狙ってやってないんですよぅ……」

※事実です。前作でやらかしたのも事実です。

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