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東方幻想腐女録  作者: グラたん
第一章
77/119

第七十話 オペレーション・リアジューメッセヨ

てゐ「人の不幸は!」

メンタ「蜜の味です!」

グラたん「第七十話です!」

 守矢神社で一夜を明け、大広間の布団を片付けて長テーブルを置きその上に朝食を置いていく。和洋折衷――というよりは御飯派とパン派がいるため両方用意しておけばよいだろうとのことだ。

 ちなみに博麗神社は和食が主であり、守矢神社は早苗とスルトが交代で作っているためその日の気分次第で献立が変わる。

 御飯派の朝食は白米、豆腐の味噌汁、朝採れの鮭、大根と白菜の漬物だ。パン派は食パン、クロワッサンと各種ジャム、コーンスープ、野菜サラダが用意されている。


「美味しい!」

「絶品ですね!」

「ん~!」

「ウマウマ」

「お箸が止まらない~」

「はふはふ」

「これ、真似してみよっと」


 守矢勢と紅魔館勢は基本的にパン派であり、永遠亭勢、博麗勢等々は御飯派が多い。

 スルトも満足気に頷き、少し心配そうに早苗を見た。


「口に合って何よりだ。ところで早苗よ」

「は、はい?」

「何か変なものでも入っていたか?」


 早苗は視線をお味噌汁に向け、首を傾げつつ答えた。


「い、いえ……いつもよりお味噌の味がしないなぁ、って思いまして」

「ふむ……」


 早苗からお椀を貰い、一口飲んでみるが味見した時と同様の味がする。不意に、これは間接キスに当たるのではないかと邪な考えが頭を過ぎるが、続けられた言葉を聞いて思考を振り払った。


「……いや、普通に味はするぞ」

「えええ?」

「疲れているのかもしれんな。何せ昨日は集中して訓練したからな」


 そうかもしれない、と早苗も頷く。


「今日は巫女仕事は休んでも――」


 タンっと大広間の扉が急に開き、朝は弱くて大抵起きて来ない諏訪子が血相を抱えて早苗を呼んでいた。


「早苗ちゃん! 早苗ちゃん!」

「諏訪子様、そんなに慌ててどうしましたか?」

「事件、事件なのだ!」


 諏訪子がそういうのであれば多分事件なのだろうとは思うが、意識を集中させても妖魔の気配は感じられないし、日常の暖かな空気だけが感じられた。


「……諏訪子様、今食事中ですので冗談なら後にして貰えますか?」


 冷ややかな視線で諏訪子をあしらい、何処からともなくガビーンという効果音が聞こえそうなほど諏訪子は破顔した。


「何か塩対応なのだぁぁ!?」

「残念だけど本当に事変みたい。博麗神社の方面で強力な魔法を使う妖怪が出たんだってさ」


 同じく里での集会を終えた神奈子も同じことを言い、早苗は呆れ、メンタたちはピタリと箸と手を止めた。


「神奈子様まで何を言ってるんですか。そんな強大な力を持つ妖怪ならとっくに私が探知出来ている筈です」


 まるでお通夜の如き静寂と空気の重たさに早苗も違和感を覚えて辺りを見渡した。


「えっと……」

「え、何ですか皆さん揃って……」


 メンタはそっとパルに視線を向け、ここは自分が言うべきだろうとパルはちょっと気まずそうにしながらも早苗に告げた。


「あのね……気を悪くしないで欲しいんだけど……その妖怪ならボクたち皆感知出来てるんだよ?」

「え?」


 パルの言葉に続き、メンタも補足する。


「ぶっちゃけこんなのんびり朝食食べていて良いのかなとは思っていました」

「え? え?」

「でも強いと言っても霊夢さんならすぐに片が付く程度だと思いましたので皆で黙っていたのですが……」

「……も、勿論、き、気付いていたわ、よ?」


 てゐがとてもウザイ顔でプキャー、と口元に手を当てて嗤い、メンタも転身して嘲笑した。


「嘘乙」

「プキャー」


 原因を考えていた咲夜は推測も交えつつ、原因に思い当たった。


「もしかしたら昨日の影響がまだ残っているのかもしれませんね。神降ろしは精神と肉体の両方をすり減らしますから、少々五感が使えなくなっていても不思議ではありません」


 昨日の無理も承知な習得方法をすればそうもなろう――と咲夜は思ったのだがそれならばパルもそうなるのではないか、と視線を向けたが意外とそうでもないらしく、パルは首を傾げていた。


「うう……不覚です」


 泣きつつもちゃっかりスルトに抱き着く。


「致し方ないな」


 スルトも承知した上で早苗を慰め、打って変わりメンタも真面目な表情でフォローに入った。


「でもあの程度なら霊夢さん一人でも大丈夫だと思いますよ。それに事変が起きれば行方不明の魔理沙さんも出てくると思いますし」


 加えて、と諏訪子も続けた。


「何より博麗方面で事変解決したら面倒ないちゃもん付けられそうだし」

「うん、あり得る」


 紫はともかくとしても頼まれても居ないのに手伝ったら霊夢に何て言われるか概ね予想が付く。


「早苗の体調が治るまではボクもここにいるからさ。良いですよね、諏訪子様、神奈子様?」


 献身とは得ても妙ではあるが、妙案とばかりに二柱は食いついた。


「むしろ大歓迎なのだ~」

「何日でも滞在してくれて良いよ」

「サラッとスルトさんを無視しましたね」


 メンタが突っ込むとパルは一度メンタを見て、続いてスルトを見て思い当たった。


「ふぇ? あっ……」 


 こんなでも、居候主夫でも一応神だ。


「良い、許容範囲内だ」


 が、スルトは特に気にすることもなく視線でメンタを牽制する。


「あぅぅ……ごめんなさい」

「懐広いですねー。……とりあえず、てゐ」


 その視線に肩を竦め、てゐが先程から用意したプラカードを手に取った。


「おう!」


 勢いよく掲げ、ハイタッチして叫んだ。


『博麗神社完全敗北のお知らせ!』


 ――それで良いのか……同士メンタ。

 レミリアから呆れ交じりの視線を受けてもメンタは逆にウインクする始末。それを見て案外丁度良く拮抗しているのかもしれないと思い直す。

 食卓に視線を戻し、余所見しつつブルーベリージャムに手を伸ばすがそこに瓶はなく、空を切った。


「あら? ジャムは――」


 視線を戻すと隣にいたフランと橙がブルーベリージャムをふんだんに使ったサンドイッチを頬張っており、瓶は空になっている。


「美味しいね~」

「はむはむ」


 ならしょうがないとイチゴジャムを探すが――。


「パル、次使う?」

「ありがと、咲夜」


 微笑する咲夜の手からパルに渡り、多分当分は帰って来ないだろうと思う。ではマーマレードでもいいや、と探す。

 だが、やはりというべきが嫌がらせのようにテーブルの端に置かれており、仕方なく咲夜を顎で使う事に決めた。


「咲夜、マーマレードジャムサンドイッチが食べたいわ」

「はい。麻魔紅蓮塩辛まあまあレッド・ジャムですね、どうぞ」


 予見していたかのように咲夜がサンドイッチを献上し、レミリアは満足気に受け取る。そして勢いよく頬張る!


「あひぃぃいいいいいいいいいいい!?」


 七味唐辛子に塩辛、紅蓮ソースをたっぷりと塗ったサンドイッチ。疑似的に火を吐けることでも有名なレシピだ。


「さぁぁくぅぅやぁぁ!!」


 レミリアが泣き目で振り返ると、咲夜はその場からいなくなっていた。



 朝食を終え、今日一日巫女を任されたパルたちは着付けを済ませ、諏訪子たちが待っているお堂の方へ歩いて来た。


「おおっ! よく似合っていますね!」

「そ、そうかな?」


 守矢巫女服は基本的に早苗以外は着ないため早苗の体型に合わせて作られている。パルとはそんなに変わらないため少し帯を締めるだけで充分だ。


「早苗の十着ある予備の一枚だけど、何処かきつく無い? きつかったらお姉さんが直してあげようハァハァ」


 危ない手の動きを察知し、神奈子がその手を抑える。


「こらこら神奈子、そんなことしたら依姫に怒られちゃうよ。だからお姉ちゃんが着付け直しを手伝ってあげようハァハァ」

「大丈夫ですよ」


 そんな悪意をものともせず撃沈させ、馬鹿二柱はとぼとぼと去っていった。 


「これが守矢の神……オワタ」

「神様ってこんなのばかりなんですか?」


 妖夢とイナバが溜息を吐き、呆れる。


「あたしもー!」

「何故私まで……」


 続いてフランと咲夜も何故か着替えさせられて手伝わされることになっていた。

 思っていたより二人の巫女服が似合っているためレミリアは先程の私怨からカメラを取り出して能力を発動し、咲夜を何時か脅すネタを確保しようと試みる。


「あら、二人とも良いわね。カメラカメラ――」


 時間は停止し、レミリアの手からカメラが跳ね上げられて宙を舞った。

 パチン、と指を鳴らして停止を解除し、ポチャっという音が聞こえた。レミリアは手元にあったはずのカメラが無い事に気付き、急いで近くの池を覗き込むと防水加工を剥がされたマイカメラが池の中に沈んでいた。


「咲夜ァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」


 レミリアは絶叫し、咲夜を問い詰めようと振り返るがやはりそこに姿は無かった。


「ところで早苗は?」

「早苗なら――」

「あ、あの、変じゃないですか?」


 声がする方、玄関を見ると白と若草色ストライプのサマードレス姿の早苗の姿があった。顔もナチュラルメイクをしており肌も日焼け止めを塗っている。

 それというのも今日は先の戦いの報酬で得た『スルトとのデート』のためいつもより気合い増しだ。


「わぁ! 凄く似合ってるよ!」

「おっほう!」

「バッチリ!」

「そうでしょうか? ……ちょっと落ち着きませんが……」


 早苗が我が身を振り返り、本当に大丈夫だろうかと咲夜に視線を向けた。


「見立て通りよ」


 それに対して頷き、レミリアは意外そうに驚いた。


「あら、咲夜のコーデだったの?」

「はい、私は普段巫女服が普段着ですので」


 早苗も基本的には巫女服を着るため御洒落自体することがない。そも、同世代の友人がおらず幻想郷に来てから女子力というものを知ったため感覚は咲夜と同じかそれ以下だ。


「くっ、あの鈍かった咲夜さんが」

「くっ、他人に教えられるくらいになって」


 その点、人並以上に女子力が高いメンタとてゐは思わず口元を抑えて感動する素振りを見せた。尚、涙は眼薬を使用している。


「なっ……!」


 そんな咲夜たちはさて置き、神奈子と諏訪子は孫娘を見るように温かい視線で早苗を見ていた。


「こっちは任せて行ってきなって」

「でも、本当に一日もお任せしてよろしいのですか? パルたちだって疲れているはずなのに……」


 早苗の心配に対しパルは笑みを向け、早苗の手を両手で包んだ。


「大丈夫だよ。ボクたちの事は心配しないで楽しんできて!」


 次いで、メンタたちも腐的な笑みを浮かべて応援する。


「アシストくらいはしますから!」

「それに一日持たなかったら夏コミに参加出来ないし!」

「早苗ちゃんがいなくても私たちがいるのだ!」


 ――ふ、不安だらけだけど…………。


「わ、分かりました。行ってきます!」


 全員の支援と応援に押され、心配は尽きないモノのパルと咲夜たちが居れば多分大丈夫だろうと思う事にして早苗は鳥居に向けて一歩を踏み出した。


『いってらっしゃい!』


 早苗は待ち合わせ場所である町へと飛翔し、パルたちはそれを見送って一息付いた。


「よし、それじゃ――」


 頑張ろう! とパルが言う前にメンタ、てゐを筆頭としてレミリア、諏訪子、神奈子、シンは我先にと鳥居に向けて走り出した。


「野次馬隊行ってきまーす!!」

「デート中に頭から水ぶっかけてやるぜぇぇ!!」

「ちょっとメンタ!?」

「それ最悪でしょ!」


 パルとイナバが手を伸ばすが一歩遅く、メンタたちは大空へと飛び立っていく。


「うおお!」

「覗き見万歳!」

「行ってくる」

「咲夜! フランを任せたわ!」


 少し遅れてレミリアもフランを咲夜に任せて高画質カメラとカートリッジを持ち、飛翔する。


「お嬢様!?」


 咲夜は時間を止めてレミリアを捕まえようとするが、能力を発動するよりも早くレミリアが時限式で仕掛けたスカート捲りの魔法に足を取られてむざむざ逃がしてしまう。


「蝶々さん~、はむはむ」

「フラン様それ食べないでください!」


 一方でフランは蝶々を見ては口に入れて美鈴が素早く口をこじ開けて止める。


「スルトは渡さないわよ!」


 メンタたちに触発されたように幽々子も悪乗りしようと飛び立とうとし、妖夢に間一髪で留められる。


「三角関係ほどややこしいものは無いんで止めてあげてください!!」

「ヒャッハー! ブンヤの血が騒ぐ!」

「負けるかー!」

「人の恋心は酒の肴だー!」

「おうよ!」


 そして射命丸、椛、萃香に勇儀も続いて走り出し、はた迷惑なデートが始まろうとしていた。



 スルトは、朝食後すぐに諏訪子たちに追い出され、今日お祭りがある守矢神社から飛翔して10分ほどの距離にあるコーリアの町で待機していた。

 無論、デートということもありいつもの着流しではなく、紺色の和装に加えて背中に『神』の金刺繍が入った外套を羽織り、仮面も外している。


「あ、あの付き合ってください!」

「お茶でもどうですか!」

「美味しい喫茶店を知っているんですけど一緒に!」

「この婚姻届けにサインを!」


 当然、イケメンがそこにいれば群がるのが女性の性。額に小さい龍角があろうがなかろうが格好良い、イケメン、お金持ち、リアル神様、主夫の五拍子が揃っていればまず文句をいう輩はいないだろう。


「スルトさん、お待たせしました!」


 ようやく解放される――とは口に出さないが若干相手疲れていたスルトは早苗を見るなり女性たちに微笑みつつも丁重に断った。


「すまないが今日は先約があるのだ。また後日にして欲しい」


 その全員が元凶たる早苗に視線を集中させ、もう一度スルトに視線を向けた。


「へっ?」

「うむ」


 早苗は何が何やらと言いたげだが、女性たちは守矢の巫女であれば仕方ないと引き下がり、それでも遠巻きに眺める者はチラホラ見受けられた。

 スルトはそれらを気にすることもなく早苗の方に歩み、少々意外そうに眼を開いた。


「ほほう。普段の巫女服もさながら普段見ない姿を見るとまるで暖かな高原を照らす太陽のようだ。髪の一房だけを髪飾りで纏めたのはサマードレスに組み合わせたからであろう。ふむ……これだと余の方が少々見劣りしてしまいそうだな」


 諏訪子、神奈子からベタに褒められることはあっても異性からそういうことを言われた経験がまるでない早苗は顔を赤らめながら視線を外した。


「そ、そんなことありませんよ! ……むしろ私が下手しないか不安なのに……」


 早苗がやや暗めの顔で俯き、スルトは後半の小声は聞こえなかったことにして視線を祭囃子の方へ向けた。

 さりげなく手を差し出し、早苗も喜んでその手を取った。


「さて、まずは何処を回りたい?」

「ま、まずは――」

 


 その茂み、木の陰、草陰から視線を覗かせるのはメンタたちだ。


『爆ぜれば良いのに』


 スルトたちが移動するとメンタたちも一般人では気付かないような気配の断ち方を見せつつ後を付けていく。


「それにしても凄い浮いてますね、非リア的に死んでほしい神様ナンバーワン!」

「スルト、凄いイケメン」


 メンタもスルトが仮面を外している所を見た事はなく、大抵の場合は何かしら事情があるから仮面をしているのだと思っていたが、まさかイケメン過ぎるが為とは思っていなかった。

 隣を走る椛は器用にハンカチ噛みを披露し、思いっきり悔しがっている。


「ぐぎぎ……あの隣に何故私はいないぃ……」

「それは事前にデート申請しなかった椛が悪いのだ」

「OUZ」

「でも、だからこそやりがいがある!」


 先を行くてゐが物陰から顔を出してスルトたちの様子を伺い、手ぶりで全員にストップをかける。そっと見てみればスルトたちが人混みの中で屋台を見物しており、時には足を止めていた。


「メンタ、水の術符くれ」

「はい」


 阿吽呼吸で術符を渡し、決して妙では無いタイミングを見計らっている。てゐが狙っているのは上空、それも不幸な事故に見せかけるため様々な条件が重なるのを待っていた。

 そして機が熟せば行動あるのみ。


「発射!」


 てゐが狙った先は、屋根の上にいる幼女だ。その手には花に水をやろうとバケツに水を持っており、そのバケツに水の術符が炸裂した。すると急な重さに幼女は足元をふらつかせてバケツから手を離してしまい、普通なら真下に落ちる所をてゐは『人を幸運にする程度の能力』を使って因果律を無理やり変え、()()()()バケツは器用に一回転して水だけが早苗の頭上目掛けて落ちていった。



 幻想郷のお祭りは東西南北もしくは風習によって違い、お客が一か所に固まらないように時期も地域ごとに微妙にずらしている。加えて材料や資金の都合も出来るように、と各地に点在している在中神や紫が打ち合わせをしている。

 さて、お祭を見物していた早苗は事前に考えていた予定や行動を全て捨て、気ままに楽しんでいた。 


「わああ、凄くにぎやかですね!」

「見て分かる通り守矢の祭りだからな」


 否、お祭りの熱気に当てられて全て頭から抜け落ちたのだ。


「あ、チョコバナナですよ! 水あめ! リンゴ飴! 射的!」


 早苗に手を引かれ、急くようにはあちらこちらを連れ回される。早苗のことだからゆっくり回るのかと思っていたが意外な子供っぽい一面を見れてスルトは笑んだ。


「ははは、食べ歩きもまた一興」


 しかし常に警戒は怠っておらずメンタたちの気配――主に殺気と嫉妬――に気付いていながらも放置していたが術式が展開した感触を覚え、周囲を見渡すと屋根の上から早苗に向かって水が落ちてくるのが見えた。

 早苗は有頂天になって気が付いておらず、スルトは転移、瞬間移動を考えたがそれをすると周囲の人間に驚かれて後々面倒なことになると考えてしまい、とりあえず加減しつつ早苗の腕を引いて自分との位置を調整しつつ立ち位置を入れ替えた。


「早苗! あブッない!」

「きゃっ! って、スルトさん!?」


 それはもう無様なくらいに頭から水を被り、周囲の人たちも驚いて円を作るように離れた。


「ぐっ…………」


 上空を見上げるとそこにはメンタたちの姿ではなく、幼女と母親の姿があった。


「す、すみません! 大丈夫ですか!」


 母親が階下を見てすぐに謝罪し、スルトもメンタたちであれば強制転移も止むなしと考えていたのだがそうではないのなら怒る必要もないと笑みを浮かべた。


「問題ない」


 片手を上げて許す対応し、怒ると思われていた見物人たちが一斉に呟いた。


『か、神対応っ』

「と、とりあえず乾かしましょう、ね!」


 早苗が買っていたチョコバナナ二本を片手に持ち、もう片方の手でスルトの手を掴んでその場を離れた。

 余談だが、後に手を引いていたのが守矢の巫女だと分かり、神対応がきっかけで守矢への信仰心がちょっと増えたとか。



 物陰でその一連を見ていたてゐは水投下作戦オペレーション・リアジューメッセヨを失敗し、悔し紛れに地団駄した。


「何故だ!? 何故水ぶっかけられて高評価なんだ!」

「ちぃ、泥でも混ぜるべきでしたね」

「ふふふ、爪が甘いねぇ」


 なにっ、とてゐは発言主であるレミリアを見て、手ぶりだけでスルトたちを指差した。レミリアもそれに応じて頷く。


「次は私がやるわ。見ていなさい、この素晴らしき能力の無駄遣いを!」

 レミリアが『運命を操る程度の能力』を行使し、現場を離れようとするスルトたちのその後を覗き、運命を違えた。


『マジで無駄遣いだ……』


 レミリアの能力は欠点らしい欠点は無いが、強いて挙げるのならば戦闘向きではないということだろう。どちらかというと内政や大勢に向けて発動するため個人的使用はあまりしない。

 ましてやその気になれば世界一つくらい簡単に裏から支配できる能力を私怨と快楽のためだけに使うなど無駄にも程がある。



 現場を離れて人気を避けた小川付近にやってきたスルトたちは一息付き、これはこれで思い出になると良い方向に思った。


「災難でしたね」

「童女のしたことだ、仕方あるまい」


 服を温風魔法で乾し、皺を伸ばして新品同様の仕立てに仕上げる。


「やっぱり魔法って便利ですね」


 早苗は術式や巫女に関する技術が主のため魔法に関しては便利だなーくらいにしか知らない。そのためスルトが魔法や錬金術を使っている姿を見ると羨ましく思う。 

 しかし使用者からすればやや複雑だ。


「使い方次第だな。どんな魔法も便利ではあるがそれ故に扱いが難しくこの世界に置いては適正者の方が少ない。……能力があるからそこまで必要はなさそうだがな」

「そうですね」


 その内、簡単な魔法くらいは教えてみようかとスルトは思いつつ早苗が手に持っているチョコバナナに視線を向けた。


「うむ。ところで早苗よ、手に持っているチョコが溶けてきているが良いのか?」

「へっ? わわっ!」


 気付くとチョコが溶けて手に付いており、気温がやや暖かいこともあり偶然にもチョコの融解は加速する。

 そこでレミリアが弄った運命が発動し、水柱が立つ音が聞こえた。見れば子供が川に落ちており橋の上から母親が身を乗り出している。橋の高さは8m程もあり、川の周辺は石垣や砂袋で補強されているため仮に大人が飛び込んでも捕まる物が無い。

 ましてや今日は祭ということもあり着物を着ている人が多く、人目もある。この場で一張羅になって川に飛び込む勇気がある者は今現在いない。

 少し離れた民家の屋根からはレミリアたちがその様子を見ており、スルトを試していた。


「さあ選びなさい。子供か、早苗か!」

「うっわ……」

「ドン引きだわ……」

「エグいですね!」


 子供を救えば早苗がチョコ塗れになり、早苗を助ければその合間に子供は水を吸った服の重さで溺れ死ぬ。


「がぼぼぼぼぼぼぼぼ!」

「むっ」

「うわああああああん!」


 スルトは視線を両方に彷徨わせて一瞬悩み、人命には代えられないと駆け出した。


「ぬぅ……すまん、早苗!」


 早苗を捨てたスルトの行為にレミリアの目が輝き口元が不敵に笑った。予測ではこれで早苗の好感度はダダ下がりとなり最低でもこの後、気まずい思いをさせられる。

 スルトは飛翔し、水魔法を行使して少年を空中に打ち上げて拾い、橋の上へと着地した。


「少年、大事無いか?」

「えっぐ……う、うん」

「左様か。――乾きよ」


 服も乾き、周囲の人々はホッとして視線を外したり拍手、口笛を鳴らした。母親もすぐに駆け付け、感謝を述べた。


「す、スルト様! ありがとうございます!」

「良い、が、あまり目を離さない方が良い」

「はい!」

「おじちゃんありがと!」

「ぐっ!? う、うむ……」


 子供と母親に感謝されることはスルトにとっても守矢にとっても有益ではあるが、おじちゃん呼ばわりは精神的にダメージがあった。

 やや凹みつつも早苗の元に戻り、そういえばこっちも大変なことになっていることに気が付く。


「お……うおぅ…………」

「す、スルトさん……チョコがぁ……」


 チョコが早苗の手を侵蝕し、何故か袖の方にまで侵入している。早苗自身は両手身動き取れず泣き目になっている。


「うむぅ……」


 さてどうしたものかと数秒たっぷり悩んで、早苗の手を取って舐めるという蛮行に及んだ。


「ひゃっ!」


 その行為には早苗も驚くが満更でもないのが飛び退かなかった。


「せっかくのデートなのにすまない、早苗」

「い、いえ……あの子供が助かって良かったです……けど」


 このチョコをどうしよう、とスルトに困ったように視線を向けた。


「……一つ面白い物を見せてやろう」


 スルトが両手に魔法陣が出現させ、その数は9個。


「水よ、纏え。分離、除去、隔離、再現、固定、融解、収束開始――」


 両手の間に真水を作り、早苗の両手から流れているチョコを全てその水の中に収束させる。その中からゴミや塵を除去して落とし、チョコの成分を再現しつつ形状を固定して一度融解し、再収束させる。

 服と手に付いていたチョコが一滴残らず空中で固まってバナナにチョコがコーティングされて元に形に再現され、早苗は驚きつつもチョコバナナを見つめた。


「凄い、元通りになっちゃった」

「小さい汚れは全て取り除いてあるが……食べれそうもないなら余が貰おう。もう一度先の店に行くのもやぶさかではない」


 スルトとしては余程の毒物でも食べることが出来るため早苗が食べられそうにないなら、と提案したが早苗は首を左右に振って否定した。


「いえ! ここは半分こしましょう!」


 その脳裏でデートノルマ3『食べさせ合い』を思い出していた。


「ほほう、そう来たか」

「さあ、口を開けてください!」


 早苗にチョコバナナを向けられて食べさせられ、笑みつつ咀嚼して飲み込む。


「もぐっ……やはり早苗に食べさせてもらうと格別だ」


 勿論、デート経験豊富なスルトは感想も忘れずに、しかしさりげなく口にして早苗の心と好感度を高揚させる。


「そそそ、そうでしょうか? つ、次は私にも!」

「ああ」


 チョコバナナを受け渡して一口食べさせ、


「ん――っ!」


 蕩けるような笑みを浮かべて早苗は喜んだ。

 恋は駆け引き。押しつつ押されつつ足して引く。どちらかが一歩踏み込めば相手との距離は縮まり、知らなかった素顔が見れる。

 ――()もそろそろ素直になるべきだろうな。

 早苗の好意はずっと知っており、しかしスルトの方からは外堀と内堀は埋めても内面までは晒さなかったため、そろそろ頃合いだろうと考える。


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