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東方幻想腐女録  作者: グラたん
第一章
78/119

第七十一話 ……オワタ。by咲夜

グラたん「第七十一話です!」


 一方で物陰ではレミリアを酷く糾弾する抗議の声が上がっていた。


「何やってんですか!」

「仲良くなってどうするのよ!」

「所詮その程度」


 冷たく白い視線にさらされ、メンタル豆腐のレミリアは久しぶりにガチ泣きした。


「うあああん!! さーくーやー!」

「ヘヘヘ、咲夜さんはここにはいませんよ!」


 メンタのいじめっ子ボイスとは裏腹にレミリアは背後を振り返ってしっかりと咲夜のお腹に顔をうずめた。


「全く……人のデートに水を刺そうとするからですよ」

「なっ――何時の間に来たんですか!」


 守矢神社で働いているはずの咲夜がここにいることは全員が驚き、よく見るとわずかに焼きそばの香りがしているため居残り組も交代制で此方に来ているのだろうとメンタは思考した。


「お嬢様の呼ぶ声あらば何時にでも」

「流石」


 レミリアのことをどれだけ邪見に扱い、塩対応しても結局は親愛しているため呆れつつも構ってしまうのが咲夜だ。


「ぐぎぎ……このままで終われん、次だ!」

「やる」


 続いてシンが立候補し、召喚符を取り出した。



 ベンチに座って冷えたチョコバナナを食べ終わり、麗らかな日差しの中、早苗とスルトは小川付近のデートコースを歩いていた。


「今日は過ごしやすい気候ですね」

「うむ、デート日和だ」


 体感気温は24度くらいだが祭の外れともあってかもう少し低いくらいだろうと早苗は思う。しかし――。

 ――本当は魔法で気温を弄っていて、実際は29度以上あるとは言えんな……。

 よく見れば額や首の汗を拭っている人も多数おり、かき氷がヤケに売れている。


「そういえばここの辺りって春になると桜が綺麗に咲くんですよね」


 早苗が辺りに生い茂る緑葉を眺めながら呟き、スルトも其方に視線を向けて頷く。今は木々も若葉が多い時期だ。


「夏は緑葉が実り、秋は紅葉となる。冬は蕾を実らせ、春に桜。何時通っても風情がある場所だ」

「スルトさんはここに良く来るのですか?」

「うむ。()は良くここを通るしこの先にある丘の頂上にある大樹の上で酒を飲むのが好きだ。特に春や秋になると月見酒が一層美味しい」


 指差す方角にあるのは見通しの良い小高い丘だ。そこには一本の大樹があり四季何かしらの葉や花を咲かせ続けるという摩訶不思議な木だ。昼間は子供の遊び場となっており、夜は妖怪や鬼たちの溜まり場となっている。

 が、そんなことよりも恋心機敏な女子には一人称の方が大事なのだ。

 ――す、スルトさんが一人称変えて来たぁぁ!! こっち、こっちが素なの!? 


「そうなんですかぁ……」


 驚いていたことによりやや区切りの悪い返答になってしまい、スルトはそれを聞いてお酒の話はダメだったかと反省する。


「早苗にはまだ分かるまい」


 ただ茶化すのは忘れない。


「あ、酷い! 私だってこの世界ではもう大人――です!」


 頬を膨らませて怒り、危うく敬語が崩れかけてしまうが、スルトは笑みつつその頭を撫でた。 


「早苗、せっかくのデートだ、お互いに固くなるのは止めよう」


 敬語は日常的に使うが、楽にしていいならしたいというのが本音だ。特にパルや咲夜たちといる時は気持ちが楽なことこの上ない。


 ――キター! 待ってましたこの展開!


「良いかな?」

「も、もち……勿論でしゅしょよ!」


 興奮と緊張のあまり、派手に噛んだ。

 傍らで見ていたメンタたちも笑いを何とか押し殺して耐える。

 ――あ、噛んだ。

 ――噛みましたね。

 ――ぷぎゃー!

 ぎゃー! っと思いつつも早苗は赤面しつつスルトを見上げ、


「ククク」


 と微笑している姿を見て更に顔を赤くしつつ抗議する。


「わ、笑わにゃいでくだしゃいよぅ!」


 もう一度噛むのは不意打ちだったのかスルトは不覚にも噴いた。


「っ!」

「す、スルトさんの馬鹿ぁぁあああああ!!」


 早苗が涙目になりつつ前方へと走り去って行き、スルトは笑いを飲み込んで後を追いかけていく。

 何とか早苗を捕まえて公園に移動し、ベンチへと座らせて宥める。


「ぐすっ」

「すまない。早苗があまりにも可愛いからつい、な」

「ぷいっ」


 それは笑ったことへの怒りか、それとも羞恥か判断は付きにくいがこのままではどうしようもないとスルトは思う。


「何か飲み物を買ってこよう。少し待っていてくれ」 


 こういう時は何かブツを与えて鎮めるのが一番である。スルトが立ち上がり、早苗はむくれたままそっぽを向いている。


「もぉ~……あんなに笑わなくても良いのに……」


 スルトがいなくなったのを見越して視線を地面に向ける。

 ――でもスルトさんもあんな風に笑うんだ……。

 冗談めかしたり面白ければ笑うことはあっても不覚を取る姿は初めて見たためか、ちょっと意外だった。その笑みもやや子供じみているように思えてしまった。


「出撃」


 物陰、それも早苗たちからわざわざ反対方向に待機していたシンたちが動き、メンタたちは少し離れた場所で盗聴している。


「ようよう姉ちゃん、今暇?」

「ホッホッホ、えらい美人よのう」


 言わずもがな、不良に変装したフールエンリルたちだが人型の偽造術式を付与してあり臭いも人間に近いモノを付けているため感がよくても気付きにくい。


「うわベタですね」

「あれで演技してるつもりか?」

「イタいですね」


 丈の長い学ランにリーゼントスタイル。目にはサングラス、煙草、マスクと、メンタが嘆くレベルで酷い不良の姿がそこにあった。

 しかし擬態偽造のレベルは高く、早苗も気付いてはいない様子だ。


「いえ、待っている人がいますので」


 だろうな、とフールエンリルたちは内心頷く。

 ――なんでこんなことしてんだ、俺。

 ――言うでない。

 それどころか愚痴まで零すが、どうせやるならちゃんとやろうと考えて心まで不良になり切る。


「まぁまぁ良いじゃないの」

「一緒に遊ぼうや」

「悪いようにはしない」

「ヘヘヘ、良い面じゃねぇか」

「いいつまみになりそうだぜ」


 まずはフールエンリルが早苗の腕を掴み、無理矢理連れて行こうと試み、バインパイアたちがすぐに周囲を囲んで包囲網を作る。


「あの! 離してください!」

「げへへへへ」


 早苗は強引に腕を引いて剥がそうとするがフールエンリルは負けじと掴み続ける。

 予想外に良い展開にメンタとてゐは思わずカメラの録画に手を伸ばし、待機する。


「――っ! スペルカード! スカイサー――」


 が、そこは守矢の巫女。()()()()()()()()()()()()()()()()と考えて袖からスペルカードを取り出し、その手をシンが素早く抑えて術式封じを行う。

 ナイス、とアイコンタクトを躱し、さあ連れて行こう――とすると背後に身も心も凍えるような邪気を放つスルトがいた。

 大気は震え、小動物は一斉に逃げ出し、小石が浮かび上がって地面が罅割れていく。


「余の物に手を出そうとは――覚悟は出来ておろうな」


 ゾクリと背後を振り返り、シンたちは動きを止めずに各自一斉に散開した。地上を、空を、過去最高のスタートダッシュを切って逃げる。


「うげっ」

『げぇ、関羽!!』


 ネタは忘れずに言い、各自の正面空中に大規模魔法陣が浮かび上がる。しかしメンタの訓練を受けて以来キチンと成長しているフールエンリルたちからすれば如何に強い魔法が正面にあろうとも避ける手段はいくらでもある。

 ガシャン、と足元からは光の鎖が伸びて片足を拘束した。各自が体全体を捻り、もしくは手套を振り下ろして鎖を破壊しようとするが傷一つ負わせられない。

 そしてスルトは嗤いながら魔法を発動させた。


天罰ネメシス!!」


 超巨大な聖属性電撃魔法(簡単に言えば魔理沙のマスパ千発分の威力)がシンたちを直撃した。


『ガババババババババババババ!!!!』


 メンタは思わず録画ボタンを押し、骨が透けて見えるという現象を映像に記録した。 

 ボトリ、ベチャっという音を立てて黒焦げたモノが空中から落ちてくる。スルトはそれを見ることもなく早苗の傍に寄り、身の回りを確かめた。


「何かされなかったか、早苗?」

「だ、大丈夫です。でも、悲鳴とか上げてないのにどうして分かったんですか?」


 その問いにスルトはニヤリと笑い、告げた。


「無論、早苗自身に危機が迫った場合すぐに転移できるようにしてある。そのための警戒もな」


 ククク、と笑うが実の所は離れていても早苗のことはずっと『視て』おり、周囲に不穏な気配がしたらスルトが飛んでこれるよう早苗の背に魔法陣を仕掛けてあるのだ。


「そうそう、飲み物は紅茶で良かったか?」


 午後の紅茶と書かれたペットボトルを渡され、早苗は上機嫌にそれを受け取った。


「はい。ストレートティーは好きなんです!」


 ――特にスルトさんが淹れてくれたティーは。

 それは内心だけに留め、キャップを開けて一口飲む。


「ほほう、憶えておこう」


 スルトは近くにいるメンタたちとそこらでくたばっているシンたちを一瞥し、雰囲気ぶち壊しだと考えて早苗の手を取った。


「少し移動しようか」

「は、はい!」

  


 スルトたちが居なくなったのを見計らって、レミリアたちはスルトと早苗の後を追い、メンタたちはシンたちを助けるべく物陰から飛び出して一か所に固めた。


「これ洒落になりませんよ! てゐ!」


 魔法陣とダメージから見ても聖属性の魔法を食らったことは明白であり、スルトが手加減した様子も無かったためメンタは焦っていた。


「あいよ! ケツからぶっこむぜ!」


 てゐは相変わらず冗談めかしているが、メンタを冷静にさせるための行動であることは理解出来た。


「何をですか!?」

「どちらにしてもこの傷だと永遠亭に連れて行くしかありませんが……」


 咲夜が診断しても重症であり、しかし永遠亭に到着するまで持ちこたえられるわけもないのは明白だ。かと言って町の病院に連れて行ってもフールエンリルたちは妖怪であるため診断は不可能だろう。


「任せてください! こういう時の必殺の呪文があります!」


 そこまで考えた時、メンタは勢いよく叫んだ。


「えーりん! えーりん!」


 片手を天高く掲げて振り下ろし、挙げて振り下ろすこと三回。


「呼んだかしら」


 何処からともなく永琳が召喚され、『馬鹿な』と思っていたてゐは眼を見開き、毛を逆立たせて戦慄した。


「げぇ!? 師匠ゥ!」

「あら、私を呼ぶ声がしたから来たのだけど気のせい?」


 帰ろうと踵を返そうとし、メンタは素早く裾を掴んで引き留めた。


「真面目に助けてください!」

「よろしい。患者は……彼女たちね。――てゐ」

「へい!」


 その場に仮設テントを広げ、救急セットをブルーシートに置いた。


「緊急治療を開始します。まずは表面の焦げを――」


 白衣とマスク、手袋をし、右手にペンチ、左手にメスを持ち、メンタたちは後を永琳に任せてスルトたちの行方を追いかけた。 



 ハプニングもあったが結果的に早苗の機嫌が直り、傍から見てもイチャイチャしている二人は町中へと戻り、縁日のコーナーへとやってきていた。


「はわあ!」


 お祭りも幻想郷に来てから知ったもので、地球に居た頃は一生縁の無いものだと早苗は思っていた。

 縁日は子供用と大人用が上手い事調整されており難易度も相応という形になっている。ざっと見渡しただけでも的当て、輪投げ、糸引き、細工割りと言った物から魔法当て、人叩き、飲み比べ、食べ比べなど類を見なさそうなものまである。


「何からやろうか?」


 スルトが視線を彷徨わせつつ聞くと早苗は自分の得意分野で良い所を見せようと店舗を指差した。


「あれをやりましょう!」


 その先にあるのは的当てだ。的当ては点数スコアによって景品が貰える仕組みだ。この店舗では60点以上からとややレートが高いが商品券、金券、TV、ゲーム機と言った具合に品揃えも良い。点数以下でもお菓子か飲み物が貰えるため食いつく人は多い。


「どっちが多く点を取れるか勝負です! 本気ですよ!」

「ほほう、面白い」


 早苗の自信ありげな表情を見てスルトも笑みを深めた。


「らっしゃい! おっ、デートですかい!」


 店舗のお兄さんが早苗たちを見て茶かし、スルトは肯定してお金を払う。


「うむ、二人分頼む」

「あいよ! 矢は一人十発だぜ!」

「十発か」


 現在のスコアボードを見ると71点が最高得点であり人気ゲームソフトが売り切れている。ちなみに100点を取ると最新薄型TVが貰えるらしいが取られたら赤字は間違いないだろう。

 先に早苗が弓矢を番え、数回弦を鳴らして反応を確かめる。そして確信的な笑みを浮かべてスルトを挑発した。


「ふっふっふ、ハンデあげましょうか?」


 それは少々意外だったのかスルトは真面目な顔で否定した。


「いいや、本気なのだろう? ハンデは必要ない」

「むぅ、私、地球では仮にも弓道部だったんですよ?」


 ハブられていたり破壊されないように弓道具一式を毎日持ち運ぶ苦労こそあったが学生時代には唯一真面目に取り組んで全国ベスト8入りまで果たした実力もあり、魔法か錬金術、体術以外は使わないスルトには不利な勝負と言える。


「尚の事だ。さて、始めようか」

「むぅぅ! 絶対勝ちます!」


 ククク、とスルトは微笑しつつ弦を引いて狙いを定める。そしてふと思いついたように店主に視線を向けた。


「ああ、店主よ」

「へい?」

「万が一壊したら弁償はする」

「へっ?」


 矢を放ち、心地良い音が鳴る。その結果は5点とそこそこの得点だ。

 ――弦の最大はこのくらいか。飛距離は10m前後。風力、速度演算中――。

 一歩半下がり、先程より腕を少しだけ上げて顎を引く。

 その様子を見ていた店主がスルトを見て豪気に笑った。


「ハッハッハ! その腕じゃ弁償はしなくてすみそうですな!」

「ハッ!」


 言葉を被せるようにして早苗の気合いが発せられ、ダンッ、と的に矢が命中する。結果は9点と初回から高得点を出し、行く人も立ち止まって歓声を上げた。


「おおー」

「おー、彼女さん上手いですねー」

「勿論です!」


 褒めに対して当然とばかりに早苗は返し、次の矢を番えた。


「ふむ……」


 9、8、8、10、と次々に高得点を重ねていき、観客たちも一矢放たれる度にどよめき、大きな歓声を上げた。


「これでラスト!」


 タンッ! と中央の10点を直撃し、累計で92点という恐ろしい得点を得られて店主の顔がやや青ざめる。90点以上、95点未満の得点はペア温泉旅行2泊3日、換金すれば10万円はするだろう品だ。


『おおおおお!!』

「くっ! 畜生! もってけ!」

「私、出来ればお茶が欲しいです」


 早苗が商品を辞退すると店主の顔が現金にも明るくなり、サービスだ、と言ってスルトの分も渡した。  

「やるな」

「ふふん、そういうスルトさんはまだ九回残ってますよ」


 早苗の言う通り、動作や的中率に見とれていたためスルトの手は止まっており、店主もそれほどの腕では無いのを分かっているため強気で急かした。


「おう! 後がつっかえてるから早くしてくれよ!」

「それとも自信ありませんか?」


 降参する? という早苗の余裕の態度に対してスルトは笑みつつ弓を的に向けた。


「いや、もう感覚は掴んだ。本気の勝負である以上手は抜けないな」


 矢を片手で掴み、()()()()()()()()()


『えっ?』


 周囲全員の驚く声、外したと思わせるような乱雑な弦の弾き方。


「ふん!」


 限界引き絞った弦を離し、矢が放たれる。勿論、そのままであれば半分以上は落下するか別の場所に当たって得点など得られないだろう。

 乱数調整という言葉がある。場の風力、熱気、条件、魔力等、それら全てを演算することによって()()()()()()()()()ことが出来る文字通り人類には縁の無い技術だ。

 ドガガガガ、という音を立てて矢は全部10点を突き刺した。


「俺の勝ちだな」


 累計95点を勝ち取ったスルトはこれ以上の無いドヤ顔とやり切った感溢れる笑顔で額の汗を拭った。

 誰もが唖然とし、祭の熱狂が遙か遠くに聞こえるほど場は静寂に包まれた。


「早苗?」


 ――やり過ぎたか?

 スルトはやや心配そうになりながらも弓を置いて早苗の方を向き、その早苗は両手を強く握りしめて俯いていた。


「す……」


 早苗が何かを小さく呟く。


「す、す、スルトさんの馬鹿ぁぁあああああああああああ!!」


 そして勢いよく顔を上げて泣き目のまま罵倒して踵を返し、駆け出していく。


「お、おい、早苗!」


 少々呆けた後、スルトは急いで後を追いかける。去り際に弁償代と書かれた紙と1万円を置き、続いて10点×9本を食らった的が限界を迎えて真っ二つに割れた。

 ゴトンと的の下半分が落ちても観客たちは茫然とスルトたちが去った方角を見続けていた。



 物陰から一連の流れを見ていたメンタたちは総じて目を覆っていた。


「ありゃ典型的にダメな奴だ。どれくらいダメかというとその場で平手打ちを食らうレベルだ」

「えげつなさすぎますね。ああいうのは当てられるとしてもわざと外して好感度上げるのが基本です。ギャルゲーの好感度アップと一緒ですよ」


 てゐもメンタも、否、全員が眼を覆って天を仰いで批評する。


「本気って言っても限度があるでしょうが。能力使って視てたけど乱数調整とか汚いわ。人類が使えない技術を使ってでも勝ちたかったのかしら」

「早苗ちゃん可哀想なのだ」


 レミリアと諏訪子の評価に全員が頷いた。次いで、レミリアは咲夜を見て聞いてみた。


「咲夜なら出来そう?」

「ナイフなら100%当てられますが、弓矢は6割が関の山かと思われます」

「そんなに難しいのか?」


 弓どころか遠距離武器に対してあまり知識の無いてゐが聞き返す。


「弓矢の扱いは余程熟練した者以外は扱えないと言わしめるほどです。その点、早苗さんは十分に熟練した腕前だと思います」

「ってことはスルトさんが異常なんですね」

「そもそも九射必中なんて馬鹿げたことあいつくらいしか出来ないわよ」


 しかし、と神奈子は前に聞いた話を思い出す。


「でもスルトが言うには5km先の物体を正確に射貫けるくらいにはなりたいって言ってたよ。何でも異世界には20km以上先の岩を破砕する弓矢使いもいるらしいよ」

「なにそれ怖いです」


 地球のスナイパーライフルでも最大射的は800mくらいであり、1kmの物を当てられたら化け物と称されるレベルだ。メンタもシャイトゥーン・フォルフェクスを装着した状態で超電磁砲レールガンを発射しても600mが関の山だ。


「それよか追いかけなくて良いのか?」


 萃香が問うとメンタは思考を戻し、向かった先を見て地図を広げた。


「大丈夫です。行先は恐らく――」


 早苗が逃げた方向は祭から離れた町の外れだ。町は全体的に祭なので町の外に出ているのかもしれないと説明し、メンタたちは再び後を追いかけた。



 メンタの予測通り、早苗たちは町から出ており、少々開けた場所で痴話喧嘩していた。


「ううっ……」 

「本当、すまない」

「やっです! 酷いです!」


 先程とは比較にならないほど早苗は怒っており、さしものスルトも思案に暮れていた。

 ――うむぅ……困った。いっそ妖怪でも出てくれないだろうか……。

 物理的ではあるが、現状打破のきっかけくらいにはなり、上手く立ち回ることで早苗を宥めてかなり下がったであろう好感度を取り戻せるとスルトは考える。

 尤も、女心はそんなことでは多少しか揺らがないし余程のことでも早苗は内心許せなかった。

 そして近くの茂みから顔を覗かせたメンタたちは超小声で叫び、両手を握りしめた。


『ざまあ!!』

『ヒャッハー!』


 これ以上ないメシウマとパパラッチにより失敗続きでダダ下がりだった士気は今や最高潮に持ち直した。では、次はどうするかと言えば決まっている。


「ところで次はどうするのですか?」

「私! リベンジしたい!」


 先程屈辱に等しい失敗をしたレミリアが立候補し、対してメンタたちは白い視線を向けた。


「と言われても前科一犯ですからねぇ」

「次しくじったら咲夜に犬耳と首輪つけて貰わないとなぁ!」

「はぁ……」


 てゐの提案に咲夜は諦めたような溜息を付いた。


「だ、大丈夫よ咲夜! 私を信じなさい!」


 これでもかっ、と威厳オーラ(笑)を溢れさせて咲夜を信じさせようとするがこういう時は大抵失敗すると分かっている咲夜は明後日の方向を向いた。


「……オワタ」

「ちょっ!?」


 ボソリと呟かれた言葉を耳聡く聞き、レミリアは眼を丸くした。


「さあ、やりますか? やりませんか?」


 人差し指を上に向けて前後に揺らすというメンタの挑発的な態度にレミリアは歯噛みしながらもスルトたちに手を向けた。


「や、やってやるわよ! 能力発動!」

『ハイ! 無駄遣い!』

「黙らっしゃい!」


 綺麗に揃った声にレミリアは思わず癇癪を上げ、意地でも成功させるべく運命を弄り、途中で丁度良い獲物を見つけて此方側に引き寄せようと運命の糸を引いた。

 レミリアの表情が嗤いに変わり、視線を東側に向けた。その様子を見て全員が魔力を通して遠視を使い、レミリアが呼んだであろう物体を見つける。


「……あれってまさか」

「来たっ!」

「でもあれは……」

「うはぁ……」

「スクープです!」


 其れは魔物。全長10mくらいの人型だが魔力量はそこらの陰陽師では太刀打ちできないほど強く、頭部には魔法使いのような鍔の長い帽子が被さっている。

 咲夜だけは非常に嫌な予感を覚えていた。



 不意に、魔理沙は目が覚めた。

 暗い闇の中から、まるで眠れない真夏の夜が過ぎ去ったかのような嫌な目覚めだ。視界を開くと背後には霊夢がおり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()で魔理沙を追いかけている。

 ――なんで私は霊夢と戦ってるんだ? それよか、昨日は確か……ドンドン体が重くなって……眠くなって……その後はどうしたっけ?

 目覚めたばかりの思考で状況を整理し、昨日の出来事から思い出す。


「陰陽玉!!」


 背後から霊夢の技名が聞こえ、魔理沙は俊敏に動くが、それは読まれていたかのように陰陽玉は誘導弾として魔理沙を直撃した。


「ガアアアアアアアアアアアアアアア!」


 ――うぐっ! まるで自分の体じゃないみたいだ。

 背中に奔る激痛。脳にまで直接響くようなけたましい叫びに酷い頭痛を覚える。


「ウアアアアアアアアア!!」


 前のめりに倒れそうになり、寸でのところで踏ん張って駆け出す。


「まだ……っ!」


 霊夢がホーミングアミュレットを取り出し、殺意をむき出しにしながら弾幕を放って来る。


「負けられない、負けてたまるか……!」


 それを直視させられ、魔理沙はいよいよ理解する。

 ――霊夢……これってやっぱり……私なのか? だったらもう……っ。

 意識は同化し始め、悲しみと痛みを伴った叫びが木霊する。


「ううう……アアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 死にたくないという思いと『化物』という事実が魔理沙の意識を引き裂いていく。


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