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東方幻想腐女録  作者: グラたん
第一章
74/119

第六十八話 神衣

グラたん「第六十八話です!」

 空中戦を繰り広げていた魔理沙と魅魔は場所を移動し、近くの湖の上で戦っていた。


「そらそら! どうしたどうした!」


 魅魔の戦闘スタイルは超火力超速の攻撃だ。何の遠慮も無しに雷電砲を放ち、空中に張られた多重魔法陣を展開して魔力弾を放っていく。

 弾丸は直線弾は一切なく、誘導弾、曲線弾、拡散弾と物量のごり押しだ。


「ぐっ――こんのぉおお!!」


 魔理沙は反撃するよりも先に回避を強いられ、湖ギリギリを飛んで誘導弾を誤爆させていく。

 僅かな隙を見つけては魔法式を展開し、星の形を取った弾丸を魅魔に向かって放っていく。だが、魅魔からしてみればまるでお遊戯のような弾だ。


「ハッハッハ! とろいねぇ! 機構符「ソリッドビーム」!」


 高笑いしながら追尾式のビーム砲を放ち、魔理沙も連射弾丸で応戦する。


「恋符「ニードルスプレッド」!」


 ただ、元の魔力総量と強さの違いからか、全ては迎撃できずに避けて距離を取る。


「くはっ……はぁ……はぁ……」


 ものの5分程度で大きく息を切らし、対して魅魔は呼吸一つ乱れずに魔理沙の近くへとやってくる。


「随分息が上がってるじゃないか」

「なんの……まだまだ!」

「強がるのは勝手だけどね……ちょっとやって分かったが、弱くなったな」


 魅魔は魔理沙を見つつポリポリと後頭部を掻き、つまらなそうに呟いた。


「なっ!」


 次いで、確信を付く冷徹な視線を向ける。


「スランプとは全く別だ。前にやった時より数段階弱い。現にあんたの攻撃は一回も着弾していない」


 魅魔の衣装には傷一つなく、魔理沙は全身を打撲して切り傷を多数付けている満身創痍の状態。そこを付かれ、魔理沙は呼吸を詰まらせる。


「うっ――」

「そして――」


 魅魔が短距離音速移動魔法を展開して魔理沙に肉薄し、その懐に拳をうずめる。


「がっ――!?」

「この程度のスピードにもついていけない」


 全盛期であれば躱せたであろう一撃を諸に食らい、お腹に手を当ててよろめく。


「丁度良い、その湖で頭冷やしな!」


 その無防備な後頭部目掛けて両手を合わせて殴り、湖に叩きつける。


「うぐっ!」


 盛大に水飛沫を上げ、揺らめく真っ赤に染また波を見上げながら魔理沙はぼんやりと思考する。

 ――……弱い、か。事実その通りなんだよな……。

 魅魔の追撃を考え、魔理沙はすぐに湖から上がり、近くの陸で飲み込んだ水を吐き出す。


「げほっ! げほっ!」

「無様だねぇ」


 見上げれば魅魔が立っており、魔理沙は悔しながらも認める。


「……全くだ」


 適当な木を切って腰かけにし、先に腰を落ち着けた。


「どっこいせ。――さて、ちと話し合おうかい」


 魅魔の戦闘意志が無い事を確認し、魔理沙もいじけたようにその場に胡坐をかいた。


「どうしたよ、らしくもない」


 魔理沙を知る者、知っている者からすればただ一方的にやられる展開は想像できないだろう。これでも魔理沙は人間としては最上位に位置する魔法使いだ。


「伸び悩みじゃねぇよな。何せお前の限界はもうとっくに来てる」


 そう考えれば選択肢も必然的に絞れてくる。


「――っ」


 魔理沙は顔を引き攣らせ、頭を垂れた。


「図星かい。だが、同時にどうしようもないことでもある」


 魅魔だけでなく、霊夢、レミリア、永琳たちとは違い、魔理沙は本当にただの人間なのだ。限界値は彼女たちよりも遙かに低い。


「そりゃ、そうだけどよ」

「周りがまだ強くなる中で頭打ちが来てるのは辛いわな。それに最全盛期はもうとっくに過ぎてる」


 なれば、後は緩やかに衰退するしかない。


「紅魔事変が懐かしいぜ……」


 一番活躍出来ていたであろう事変。妖魔とも対等以上に戦えていた全盛期を思い出しては嘆く。


「人間である以上、天命寿命には逆らえんわな」

「やっぱりか」


 ほう、と魅魔は意外そうに息を吐いた。


「なんだ、気が付いていたのか」

「自分のことだからな。本当、悔しいぜ」


 寿命。幻想郷においては絶対的に超えられない種族差の壁。


「――『幻想郷では十代前後の肉体から成長しない』だったか。しかも突然寿命が来てポックリ逝っちまうと来たもんだ。今のあんたは確か『――才』くらいだったか」

「止めろ、マジで悲しくなるから」

「あの薬師に不老長寿の薬でも作って貰えば良いだろ? 現に紅魔のメイドとかも飲まされるみたいだし」

「アレ飲んだらもう人じゃねぇよ」

「違いない」


 少し苦笑いして間を置く。

 地球とは違い、幻想郷には『唐突死』という特有の現象がある。女性は0歳~3歳を幼児、4歳~9歳を幼女、10歳以降は少女の姿のまま死ぬまで変わらない。男性も同様に身長差はあれど基本的には少年の姿のままだ。実年齢詐称など良くあることで20歳と言っていたのに実は80歳だったということもあり得る。そして骨格や筋肉量、脳の形など、一個人全てを全盛期の状態で留めておくのが幻想郷という世界のルールだ。

 しかし姿は全盛期でも老衰は避けられない。年齢を取るにつれて人間は衰えていく生き物だ。そして常に全盛期の姿を保つ故に劣化が早い。

 幻想郷における人間の平均寿命は40とされている。魔理沙は稀なほど大きな魔力を持っているため既に倍近くは生きている、知る人ぞ知る伝説的な魔法使いだ。 

 つまり、いつ死んでもおかしくないのだ。


「で、どうすんだ?」


 魅魔の唐突な言葉に魔理沙は顔を上げた。


「どうって?」

「今のあんたじゃ霊夢たちの足手まといにしかならない。これから起きるであろう事変にも役立たずで終わる可能性が高い」

「そりゃ…………」


 しかし魔理沙にはもうどうすることも出来ない。先でもフールエンリルたちに敗北し――否、それ以前から負けは続いている。

 魅魔は懐から小瓶を二本取り出して地面に置き、二本指を立てた。


「今、あんたには二つ選択肢がある。一、寿命を引き延ばしてでも霊夢たちと一緒に居る。最も大きい事変解決はもう出来ないだろうから里に下りてガキどもに魔法を教えるくらいになるだろうけど」


 それでも良くて30年。早ければ数年で死ぬだろうと言外に告げられて黙る。


「それじゃ、二。これを飲んで魔に落ちる。言わばあたしみたいになるってことだね。この暮らしも存外悪くないよ」


 チッと魔理沙は唾棄する。


「化け物になれってか」

「決めるのはあんただよ。第三として、このまま人間として死にたいんならあたしから言うことはもう無いね。今後会うこともないだろうよ。だが、こっち側に堕ちるんなら、ちっとばかし手伝ってやんよ」

「……私は――」

「悪いがあたしにもやることがあるからね、五秒以内で決めて貰うよ。あんたの人生を決める五秒だ」


 魔理沙は口ごもり、魅魔は無常にカウントしていく。


「五」


 ――どうする、か。これを飲めば人外行き。飲まなければ人間か。

 ある種、霊夢たちと付き合っていくにはそうするしかないのかもしれない。


「四」


 ――今の私は霊夢たちの横には立てない。役立たずだ。

 一人で飛ぶことも敵わず、威力ある攻撃も八卦を通じてしか届かない。


「三」


 ――分からない。どっちにも居たいし、どっちも嫌だ。

 今までの中でも一番思考は加速し、問答を繰り返す。


「二」


 ――でも……。


「一」


 終ぞ、魔理沙は答えることが出来なかった。


「……そうかい。じゃあね、魔理沙」


 魅魔は立ち上がり、魔に落ちる方の小瓶は拾って飛翔する。もう片方は教え子へのせめてもの情けだろう。


「私は……人間だ。魅魔様とは、……霊夢とは違う」


 なんてことはない。魔理沙は優れてはいるが普通の人間だ。何一つとして特別な存在ではない。猶、幻想郷においては。

 霊夢は、博麗の巫女であり幻想郷の均衡を保つ役目を背負った不死的な存在だ。

 メンタは、どちらかと言えば人間側だろう。だが博麗神社に身を置いているということは何かしら特別な役割を持って幻想郷へと来た存在なのだろう。

 レミリアは、幻想郷の中でもトップ5に入る妖怪だ。幻想郷の東側一帯すべての妖怪を従えるボス。霊夢に負けてカリスマ(笑)と面白くなる前は間違いなく幻想郷を統べることが出来た魔王だ。

 そしてパル。世の理不尽を体現したかのような天才で、物理最強の能力を保有し、月姫・依姫を内に置いている正に特別な存在。

 紅魔館、永遠亭、守矢神社、地底――どこにしても化け物と呼べる奴等が蠢く魔窟。その中でどうして人間である自分が劣らないと思えるのか。


「どうしろってんだよ」


 ――ただの人間が化け物に勝てる訳ないだろ。

 その小瓶を拾い、魔理沙は一度守矢神社の方を見上げ、帰路に着いた。



 守矢神社の階段を駆け上がり、前庭へとやってきたメンタたちは鳥居を潜り抜けて目の前に広がる惨状に突っ込んだ。


「はい、絶賛意味不明です」

「開幕一発目で言われる身からしたらあんたの言ってることの方が意味不明よ」

「スルーしますね。……でも真面目に洒落になりませんよ、これは」


 正面にはパルと早苗が待っており、辺りには何をしたのだろうと思わせるクレーター。その当人たちは気長に背伸びをしていた。


「……ん~」

「準備運動くらいにはなりましたね」


 彼女たちの前には先に突破したはずのフランたちが重なって全滅しており、霊夢は鋭い視線で尋ねた。


「パルに早苗、それにオマケ共も、これはどういうことかしら?」


 パルたちは霊夢とメンタを視認するや、叫んだ。


「スルトさんと戦うためだよ!」

「デートが掛かってますから!」

「油揚げのお風呂!」

「手料理!」

「チーズフォンデュ!」

「美味しく頂かれます!」

「美味しく食べます!」

「添い寝!」


 欲しかない本音の解答にメンタは突っ込んだ。


「欲望丸出しですか!? って依姫さんまで!」

「お久~」


 依姫がメンタに手を振り、霊夢は呆れてメンタに視線を向けた。


「何よ、メンタは知ってたの?」

「レリミアさんの事変の時に少々……ほら、瞬殺された時です」

「ああ……そういうことだったのね」


 しかし依姫に口止めされていたため言えなかったのですが、陰陽師院に入るきっかけを貰えたので良しということにしましょう、とメンタは考える。

 上空から風を切る音。ひゅるる~どかーんと土煙を上げて派手な登場をしたのは魅魔だ。


「そして将棋をもう一局!」


 いざ戦闘か、という空気での発言のため恐ろしいほど白けた空気が流れた。


「全力で滑りましたね」

「え? え?」


 メンタの突っ込みに魅魔はキョロキョロと辺りを見渡す。


「ま、どっちでも良いけど……それで、あんたらは敵対するわけ?」


 霊夢の問いにパルは喜んで拳を振り上げた。


「勿論だよ!」

「一応聞いておきますが、隕石アレ落ちてきたら全員即死ですからね?」


 あれ? と早苗は続けた。


「そもそも落とす気はないって言ってましたよ?」

「……言いかねないわね」

「落とす気が無い……なら、何のためにあんなことしたんでしょうね」


 メンタの問いに霊夢は多分、と先に行ってから続けた。


「どうせ快楽目的でしょうね」

「うわ…………」


 メンタは長々と絶句し、しかし、と霊夢は考えた。


「でもそれが事実ならわざわざ戦う必要は無いわね」


 が、それを否定したのは当の本人であるスルトだ。


「否だ。戦って敗北するならまだしも戦わずして終わることは許さん」


 背後から現れたスルトに対し、霊夢とメンタは驚愕した。


「す、スルトさん!?」

「え、ちょっと、あんた何でここに居るのよ! あいつらは!?」

「もう片が付いた」


 スルトが上空を指差し、見上げるとダーインスレイブがなくなっていることに気付き、続いて鏡空魔法を発動してレミリアたちが入り口の前で全滅している姿が映し出された。

 霊夢は納得し、先程の問いの確認を取る。


「そう……。それで、隕石落とす気がないってのは本当なの?」


 誰か言ったな、と推測を付けてスルトは肯定した。


「むっ、まあそうだが」

「ならさっさと術式を解除しなさい」


 スルトは腕を左右に広げ、否定する。


「断る。それでは面白く無かろう」

「本当に快楽目的でしたね……」

「あんたね……」


 若干呆れたのもつかの間、スルトは少々思案して上空に向けて魔法陣を展開し、隕石に向けて発車した。


「ふむ……事実を知ってやる気が削がれたか。ならば!」


 魔法の直撃を受けた隕石は急に挙動が変わり、幻想郷目掛けて落下を始めた。

 それを見た紫たちは眼を丸くした。


「ま、まさか!」

「げぇ!?」

「あんた正気なの!?」


 スルトは両手を上に向け、僅かに飛翔し、外套をはためかせるという魔王ポーズを決めて霊夢に問う。


「フハハハハハ! さあどうする博麗の巫女よ!」

「最悪っ! 全員、隕石の迎撃に当たるわよ!」


 霊夢が空を見上げると同時にスルトは注釈した。


「そう急ぐこともない。術式自体は魅魔を倒せば解除され、隕石も消滅する」

「スルトテメェ――!?」


 魅魔は絶叫し、スルトを掴んで前後に激しく振るった。


「隕石を破壊するよりは現実的だと思うが……ククク。そうそう、早苗たちは全力で魅魔を守れ。やらなければ願いは全て破棄する」

「くっ!?」

「ええ!?」

「嘘!?」

「それだけはダメ!」


 まさかの言葉に全員がマジの眼で霊夢たちを睨み、急いで魅魔の前に立った。必然的にスルトも守ることになり、思惑通りに行ったことにスルトは嗤った。

 流石にこの数を相手には出来ないと霊夢は上空に向かって霊符を投げた。


「ちっ! なら隕石を破壊するわ! 夢想封印!」


 しかし薄い緑色の防御壁に弾かれ、元凶であるスルトを睨んだ。


「遠隔絶対防御だ」

「あーんーたーねー!!」


 一方で様子を見ていたメンタは引っかかりを覚えて思考していた。

 ――でもそれって普通に考えたら勝利しても敗北してもどちらでも良いってことですよね。あのスルトさんが本当に快楽目的だけのためにこんなことするとは思えませんが……。


「くそっ! あんたたち、覚悟しなさい!」


 隕石がダメなら仕方ない、と霊夢はヤケクソ気味に紫たちを睨んだ。


「そうね。フランの仇くらいはやってやるわ」

「お嬢様、どうか無理はなさらないでください」


 背後から軽症を負ったレミリアと咲夜が現れ、レミリアはそのまま前線へ、咲夜はフランたちを回収しに動いた。

 ――レミリアさんは冷静ですね。気付いていそうです。

 フランがやられたのであれば冷静さを欠いてもおかしくはないが、レミリアがヤケに冷静なことにメンタは気付き、一瞥する。

 次いで追い付いて来た藍と妖夢も抜刀して構えた。


「幽々子様、事変に加担するなど言語道断です。御覚悟!」

「紫様、御考え直しては頂けないのですね。仕方ありません。御覚悟!」


 普段の恨み辛みも込みでやや早口で口上を述べて妖夢たちは張り切る。


「なら、私と幽々子でレミリアたちを相手しましょうか」

「そうね」

「椛、見張りお願い」

「了解です!」


 紫たちも負けられない己の欲望のためにレミリアたちをスキマで連れ去り、私欲と私欲がぶつかり合う醜い戦いが始まった。

 残されたメンタと霊夢は同じく相対するパルたちを視て臨戦態勢に入った。


「容赦ないですね……」

「メンタ、あんたはパルたちの相手を頼むわ」

「霊夢さんは早苗さんたちが相手ですね」


 片や1対2。片や1対3。負けは濃厚だろう。


「あの三人相手だとちょっとキツイけど」

「それはオレも同じです。――では、シャイトゥーン・フォルフェクス起動!」


 パルが相手であれば最初から全力を出して超短期決戦で決着を付ける他ないとメンタは考え、腕輪を起動してシャイトゥーン・フォルフェクス装備する。

 警戒していたパルはそれを見て思い当たる。


「あ、それってもしかして」


 イエス! とメンタは叫んで解答する。


「パル姉が届けてくれた装備です! ……なんでパル姉相手に使わなきゃいけないのか不思議ですけれど」


 パルはメンタの恰好を見て素直に喜んだ。


「格好いい!」

「そ、そうですか?」


 メンタも手放しに喜ばれてちょっと照れ、しかしパルも負けじと依姫に視線を送った。


「負けてられないね、お姉ちゃん!」

「うん! こっちも全力だよ!」


 お互いに呼吸を合わせ、パルの能力で数値を弄ってから合言葉を唱えた。


神衣かむい!!』


 するとパルの足元から青色のオーラが出現し、背中には上から四対八枚の羽が生え、薄い青色のロングコートを羽織っている状態へと至った。更に魔力を練ることによって三日月の髪飾りと白色の小手と具足を顕現し、まるで聖騎士のような姿へと変わった。

 メンタはまさかとは思いつつも問う。


「か、神衣!? それってチェイルズシリーズの奴ですよね!」

『勿論! 行くよ!』


 鮪包丁を腰溜めに居合の構えを取り、メンタは反射的に両手に展開した大ばさみを交差して一閃を防ぐ。

 鈍い音が鳴り、意識が飛びかけるほどの衝撃に歯を食いしばる。


『奥義、ラグナロクスラスター!!』


 体勢を立て直す前にパルが光の槍を10本も生成して投げ、メンタも負けじと防御壁を起動する。


「ま、負けません! 障壁起動!」


 正面に薄い青色の障壁が展開し、光の槍を弾く。


『防がれた!』


 意外だったのかパルは驚き、メンタはそれを好機と見なして背面のブースターに魔力を注いで突撃体勢を取る。


「今度は此方の番です!」


 まずは高低差を活かした上段からの斬撃を繰り出し、そこから軌道を読ませない乱舞へと繋げる。


「はぁああああああああああ!!」


 右、左、斬り上げ、振り下ろし、開き薙ぎ、斬り上げ、斬り降ろし、袈裟、小連斬、左払い、両刺突。パルはそれら全てを見切り、防がれる。


『一撃は強力だけど――まだまだ甘いよ!』


 次の振り下ろしを受け止められ、上段に弾かれてメンタは大きく仰け反った。この致命的な隙をパルは逃さずに腕輪を破壊しようと試み――しかし今のメンタは二本の腕だけではない。


「ですが! 超電磁砲!!」


 腰に装備されている魔力式超電磁砲を立ち上げてパルに照準する。


『っ!!』

「ゼロ距離射撃、どう対処しますか!」


 超至近距離で放たれた魔力の弾丸をパルは魔力そのものに干渉して数字を零へと落とした。


『無効化!』


 砲撃の電流が消えて弾は霧散し、メンタは絶叫した。


「相変わらず酷い能力ですゥゥ――――!!」

『貰った!』


 片手袈裟を降ろし、メンタの胸部装甲を軽く掠める。


「うおっと! まだまだです! ディス・チャージ!」


 足装甲のブースターを起動して空中に逃れて距離を取りつつ決め手となるコマンドを叫ぶ。


『逃がさないよ!』


 パルは周囲に鮪包丁二千万本を飛来させ、更にスルトの『光の束縛』を模した鎖を魔力で作り上げて数を増やし、メンタに向かって飛ばす。


「倣符「完全無双の模倣ハンプティー・ラージャ」!」


 パルの鮪包丁はよく見ているため迎撃も容易く、次々に飛んでくる鮪包丁を同じ鮪包丁をぶつけて破壊していく。

 だがそれでパルの動きは止まる訳が無い。メンタは次の一手を先に繰り出した。


「ちょっと止まっていて貰いますよ! 弾幕――乱符「桜舞い散る光の世界セクメト・ニーア」城符「堅牢堅守の白亜のディ・ミウール・ゴス」戦符「大戦車が奔る荒野の戦場ボッグ・カムラン」蒼符「晴天既に死す地にミリッツ・シユウ」邪符「戦場に舞う邪なる女神ウーロ・ヴォロス」玖符「虚ろな瞳の巨人ディル・コンゴウ」救符「真に見上げるは赤き目録ティスカ・トリヴォッカ」碧符「太古爛漫なる業火のヤーバール・ラーヴァナ」緋符「天を突かば落陽せし神戯バルク・アマテラス」舞符「才色兼備が謳う華蝶の乱舞マディス・アイテール」集符「周集斉射する兵士の行進アドヴァンス・ゼウス」左符「左面仰ぐ扇子の如く(リウィット・ピター)」右符「右面仰ぐ扇子の様に(アウェック・マータ)」小符「小さき蜘蛛の餌集め(アンジュラ・テイル)」鏡符「黒物流と白魔弾の水面鏡ミラァズ・キュウビ」狂符「歪な空間は次元を超える(ディメイト・カリギュラー)」乱符「乱戦突破の散餐拍子ピチュティム・ツクヨミ」防符「自己防衛の金木犀クロックス・メイデン」連符「飛翔する連少射追ビット・オブ・サリエル」速符「音速不可視の援護イレイズ・グアドリガ」新符「乱れ交じわらぬ夜影ミッドナイト・ハンニバル」爆符「連鎖する雷轟爆裂アプダクション・ヴィーナス」!!」


 恐らくパルの足止めくらいにはなるだろう精鋭の弾幕を一気に放出し、超密度となった弾幕がパルに向かって降り注ぐ。無論、被害を防ぐために大半はスルトが相殺をしている。


『うわっ! 凄いね! でもボクだって負けないよ!』


 そう言って鮪包丁を刺突型のまま腰溜めに構え、先端に依姫が纏った雷神の雷を収束していく。雷は発光し、白色の輝きとなって発射を待つ。 


『奥義、雷神の怒拳トール・ハンマー!!』


 全力の弾幕を一直線に貫く極太の雷撃――メンタは絶叫した。


「嘘ですよねぇぇええええ!!?」


 なりふり構わず緊急回避し、地上を見ると跳躍してきたパルが目の前にいた。


『予想通り!』

「しまっ――」


 勢いの乗った下段からの切り上げを上体を逸らして避けようと試み、直撃こそ避けられたが右腕を深く切り裂かれてしまう。


「うぐっ!!」


 ここを最大の好機と見て、パルは十八番である必殺技を繰り出した。


『今! 覇斬!!』

「それだけは!!」


 メンタもそれを食らえば確実に人生終了のためブースターを最大にしてでも回避する。


『当てる!!』


 が、ここにきて直線攻撃だと思っていた覇斬を振り回すという暴挙にメンタは驚愕した。


「げぇぇ!?」


 なんとかバレルロールして回避し、守矢神社の結界に沿うようにして機を伺う。


『くっ――なら増やす!』

「止めてくれませんか!?」


 メンタのお願いも虚しく50本に増えた覇斬が周囲に展開し、完全に逃げ場を失ってメンタは息を飲んだ。


「死にます! 冗談無しに――」

『行っけぇぇぇえええええええええええええええええええ!!』


 裂帛の気合いと共にメンタを殺す刃が振り下ろされる。

 ――逃げ場はありませんね。ならば!

 こんな状況化でメンタが取れる行動はただ一つ、パルの方を向き自滅覚悟で特攻することだ。


「攻撃するまでです! 紅蓮桜花ヘヴンズ・ヴェウィリーズ!!」


 今まで溜めた魔力を一気に解放し、文字通り武装が全て紅蓮に染まった過剰暴走状態オーバードライブとなったままブースターを展開し、両手の二刀を最上段に構えてマッハ2による突進を繰り出した。


『ここで攻撃してきた!?』

「やあああああああああああああ!!」


 桜のような魔力残滓が飛び、パルが放った覇斬をギリギリで避けて斬撃を叩きつける。息もつかせないラッシュを繰り出し、パルに距離を取られないように肉薄し続ける。


『でも、その程度なら!』

「全部迎撃しないでください!」


 それは布石。パルもメンタの猛攻を凌ぐことで精いっぱいであり、しかし正確に全て弾いて行く。


『無茶言わないでよ!』

「うえいっ!」


 メンタが渾身の力を込めた蹴りをパルの手頸に当てて鮪包丁を手放させる。


『あっ――』

「終わらせます!」


 一瞬の間、勝機を掴んだメンタは二刀を合わせて鋏にしてパルの胴体を勢いよく挟みこむ。


真鋏閃切断レギアス・クロージュ!!」


 紅蓮桜花ヘヴンズ・ヴェウィリーズ状態でしか繰り出せない、この武装の最大の技。理論上、決まれば大妖怪ですら上下泣き別れに出来る必殺技だ。


『まだだよ!!』


 が、パルは迫る鋏の刃を神纏・ヘパイストスで瞬間顕現した小手で掴んで止め、メンタは諦めずに全エネルギーを攻撃に転用した。


「最大出力です!!」


 背面のブースターすら加熱して焼き切れかけ、徐々にパルの腕の幅が狭くなっていく。


『う……ぐぐぐ……』

「押し切ります!!」


 勝てます! とメンタは確信する中、パルは踏ん張りつつも至近距離にいるメンタを見た。


『め、メンタ……』

「今日は勝たせて貰いますよ、パル姉!!」


 メンタの力強い勝利宣言を聞き、パルの表情は一転――()()()


『ゴメン、今の演技』


 パルの姿、パルの声で()()は無常に告げた。


「――――――――え”っ!?」


 漫画であれば左右反転してキャラも背景も全ての色が反転したであろう、そんな悲痛な一語がメンタの口から飛び出した。


『神纏・スサノオ! えいっ!』


 赤いオーラを纏った素手は、バキッと鋏を粉砕し、メンタはもはや泣き顔で――否、泣いて叫んだ。


「ぎゃアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」

『ゴメンね。奥義、千切り!』


 メンタは思った。


「オレはキャベツじゃないんですよぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 慟哭と共にメンタの懐に掌底が撃ち込まれ、力なくパルに支えられた。

 パルも戦闘終了と同時に神衣を解き、半泣きの状態で依姫を睨んだ。


「ううう……お姉ちゃん……っ!」

「やっぱ不味かった?」


 苦笑いする依姫に対し、うん、と大きく頷き、叫ぶ。


「本気の勝負で手を抜いちゃ駄目だよ!!」

「パルに怒られたぁぁ!」


 自業自得なのにも関わらず依姫は手を付いてその場で落ち込んだ。


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