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東方幻想腐女録  作者: グラたん
第一章
64/119

第五十八話 まさか飴玉一つで釣れるとは……

グラたん「第五十八話です!」


 外出した霊夢たちは町へと繰り出し、こいしはお空の背中に乗って超低空飛行を楽しんでいた。


「きゃははは~」

「お嬢ー」

「お嬢にゃ~」


 それを見て、ふと霊夢がこいしに尋ねた。


「そういえば、こいしだったらさっきの問いに何て答えるの?」

「えっと、あの鳥が何とかって問い?」

「そうよ」


 霊夢が首肯するとこいしは笑みを浮かべて答えた。


「私は『鳥が空を飛ぶのは当たり前。だって空を飛べる翼があるんだから』かな! お空も空を飛んでいるんだもん!」

「その通り!」


 お空も同調し、上機嫌に先を飛んで行く。


「……そう。解ったわ」


 霊夢はそんな二人を見て小さく呟いた。

 里に到着し、まずは肉と酒の調達だ。30人前もあれば足りるだろうと霊夢は考え、めぼしい店から片っ端に買い付けていく。


「へいらっしゃい!」

「お肉とお酒頂戴!」

「金ならあるわ」

「へいまいど!」


 こいしとお空にも別の場所を担当して貰い、霊夢はお燐と組んで買い物をしている。その途中で霊夢はお燐に尋ねた。


「ねえ、お燐」

「にゃぁ?」

「最近こいし変わった?」


 霊夢の謎めいた問いにお燐は首を傾げた。


「いんや、いつもと変わらないよ」

「お空は?」

「変なところは無いよ。急に変わったら分かるし」

「そうよね……」

「どうしたん?」

「さっきの答え……ううん、何でもないわ。すぐに分かると思うし。それより火炎烏賊焼きがあったんだけど食べる?」


 霊夢の煮え切らない態度にお燐は不可解そうにするが、続けた言葉くちどめに眼を奪われて鳴いた。


「にゃ~!」


 お燐は、大体食い物を与えると事前の情報は忘れる。



 霊夢たちが地霊殿に戻ると前庭の中央部でパルが金色の刺繍が施された豪華な赤いマントをはためかせ、鮪包丁を構えて誰かを待っていた。


「帰ったわよー」

「来たか」

「は?」


 その言葉と視線は霊夢たちには向けられておらず、その先、霊夢たちが入って来た門の方へ向けられていた。

 とりあえず荷物を厨房へと運んでいくと外からさとりが珍しく大きな声を上げていた。


「アルトリュス――――っ!! ここで……ここでお前を殺す!」

「やってみろ、ヴェルベット!」


 突如として派手な弾幕合戦が始まり、どちらも手を抜いていない本気の状態で戦闘が行われた。


「乱符「ソードショット」!」


 先手はさとりが剣を模した弾幕を飛ばし、パルはそれを切り払う形で迎撃する。


「魔符「炎獄拳」!」


 間髪入れずに身の丈に合わない巨大な爪をパルに向けて放ち、普段のパルなら飛び退いて躱すか、紙一重で躱してすれ違いざまに一閃くらいはするだろう。だが、パルは敢えて鮪包丁で受け止め、わざと押されるような素振りを見せる。


「くっ、中々やるようになったな!」 


 とパルが言うと、


「当たり前だ!」


 と、さとりが返して地を蹴り接近した。

 さとりは肉弾戦よりは後方から濃密な弾幕を得意とするタイプだが、ちゃんと練習してくれる相手がいないだけで素質は高い。

 さとりが正拳で突き、パルは掌底で緩やかに受け流し、がら空きの胴体に向けて膝蹴りを入れて引き離そうとするが、さとりは身を無理やり捩じって体を半回転させて避け、パルは出来たはずの追撃をせず一旦距離を取った。


「地符「ストライクバースト」!」


 そのパルに向けて地面が隆起して追尾する弾幕を投げ、パルは気を込めた拳を地面に叩きつけ、衝撃波を生み出して迎撃して見せる。

 土煙が上がる最中でスカートの内側ポケットに手を伸ばし、ナイフを1本手に取って能力を発動させつつさとりに向かって投げた。


「甘い!」


 対してさとりは百を超える数のナイフ全てを見切り、的確に最小限の動きで躱し切り、再度パルに接近して足払いをかける。


「っと」


 その迂闊な足を軽く踏んで跳躍し、無防備になっている顔面に蹴りを刺した。


「っ!」


 蹴りに合わせて顔を若干上げ、鼻先を掠めて過ぎるのを待ち、起き上がってすぐさま飛び退くと一瞬前までいたところ目掛けてパルが投げた鮪包丁が突き刺さった。

 冷や汗を掻きつつも体勢を立て直して構え直す。


「お~!」


 それを見ていたこいしたちは一斉に手を叩いて面白がっている。  

 ――さとりの奴、引き篭もっているのかと思っていたけど腕を上げてるわね。パルは手加減……というより役者になりきってるのかしら? それでも弾幕を刀一本で捌く技量は凄いけど――。



 しばらくしてまだ終わらないのを見ていい加減お腹が鳴ったため霊夢が流れ弾を避けながら接近して告げた。


「くっ――!」

「おーい、そろそろお昼にしたいんだけど――」


 霊夢が割り込むとさとりが眼を見開いて――役になり切り過ぎたが故に怒声を浴びせた。


「邪魔をするなっ! あたしが今ここで殺すん――…………れ、霊夢?」

「あ、帰って来たんだね。お帰り~」


 役者になりきっていたパルも観戦している霊夢たちを視て一旦戦闘を中断し、駆け寄って来た。さとりも顔をこわばらせ、黙る。


「食材はお空たちが台所に持って行ったから」

「分かったよ。じゃあ、また後でやろうね。さとり」

「う、うん」 


 パルの言葉を聞いて頷くが内心はかなり恥ずかしい。

 さとりたちも居間へと戻り、こいしたちはパルの手伝いをしに行ってしまったため残された二人は特に会話することなく紅茶を飲んでいた。

 さとりの方を見ると第三の目を自身の方に向けて眼を閉じており、霊夢は紅茶が無くなったのを見てポットを片手に立ち上がった。


「お茶淹れてくるわね」

「ん」


 さとりが小さく返事を返し、霊夢が扉を開けたところで一旦立ち止まってニヤリと笑って振り返った。


「…………アルトリュスー。ここで、ここでお前を殺す」


 酷い棒読みで呟かされたその台詞を聞き、全身が燃え上がるような勢いで高揚し、顔も真っ赤にして叫んだ。


「忘れてええええええええええええええええええええええええ!!」

「あははっ!」


 霊夢は楽しそうに去っていき、さとりは己の迂闊さを酷く呪った。 



 お昼はパルの手料理にとこいしたちが手伝った合作だ。メインは肉。霊夢たちが購入した地底地鶏をきつね色に上げた唐揚げと甘酢で作った南蛮のタルタルソースがけ、塩と胡椒をよく練り込んだ骨付き揚げもある。

 副菜――というよりは第二メインに霊夢の要望の麻婆カレーを作り、六人分に分けていく。勿論付け合わせにピーチグミ(福神漬け)を乗せている。

 そもそも麻婆カレーとはどういうものなのかというと、麻婆豆腐とカレーを組み合わせた比較的まともな創作料理(アニメ飯)だ。無論麻婆もカレーもレトルトでも出来るが、パルの料理でそれは無いためどちらもちゃんと具材の入っている物となっている。

 見事な完成度の昼食を食べ、満足する。


「美味しかったー」

「お口に合って何よりだよ」

「お腹一杯~」

「あんな作ったのに意外と食べきれるものなのね」

「さとりとこいしが一杯食べてくれたからだよ。お皿片付けるね」


 パルがお皿を持って立ち上がり、お燐とお空も手伝いや片付けに回り退出する。

 あらかた片付け終わり、居間では霊夢たちが余韻を楽しみつつも鋭くこいしを注視した。


「さてと……食べたら運動しなくちゃいけないわね」


 霊夢がこいしに対して敵愾心をむき出しにしながら札を向け、さとりも警戒する。


「ん?」


 当人は首を傾げつつ霊夢の方を振り返り無邪気そのものの表情で笑んだ。それを見てさとりは眉をしかめ、いつもの半眼を更に細めた。


「そろそろとぼけるの止めたら? さとり、あんたも気付いてるんでしょ」

「ええ」

「何のこと?」


 まだシラを切らすこいしに対して霊夢は先の問いを持って答えた。


「私は『鳥は何故空を飛ぶのだと思う?』と聞いたわ。貴方は『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』と答えた。……よくもまあ、さとり相手にほざけるわね。その本を知らなくても意味くらいは解るわよ。注釈すれば――」

「『貴方はこの地底の魔王なのに何故民と関わろうとしないんだ。その地位と権利があるのに使わないのは王にあるまじき行為だ』とでも言った所かしら」


 先の問いは原作の通りの答えともう一つの意味を持ち、さとりは前者を、霊夢は後者を聞いている。

 チェイルズ・オブ・ベルセリャの原作においても『鳥が空を飛ぶのは餌を得るためである。しかし自由ではない』と記されている。

 この内約は『権力を得るのは簡単だ。だが対価になるのは不自由である』となる。

 鳥は自身を示しているため、こいしの『当たり前』はさとりに対する言葉の刃なのだ。


「な、何を言ってるの? 私はただ――」


 しどろもどろになりつつも、こいしは弁明しようと試みるがそれを霊夢が言葉を被せて斬り捨てた。


「あんた、建前がヘタクソ過ぎ。さとり相手にするんだったら正直に答えた方が身のためよ。さて、さとりが本気になる前に答えて貰うわよ。本当のこいしを何処にやったの?」


 僅かの沈黙の後、こいしは口元を不気味に歪めて苦笑いした。


「……ちっ、予想以上にバレるのが早い。流石は博麗の巫女と地底の魔王だ」

「あら、本当にそうだったみたい」


 霊夢の意外そうな声を聞き、こいしもどきは素っ頓狂な声を出した。


「へっ?」

「霊夢、つまらない嘘は要らない」


 が、さとりには場の緊迫を和ませるジョークが通じないので半眼で睨まれる。


「はいはい。で、何処?」

「言うと思うか?」


 質問を返し、再度霊夢は問う。


「……こいしを何処にやったの?」

「ぷいっ」


 では止むなし、と霊夢はこいしもどきの背後に回って首を十字首固めする。


「ぐえっ!」

「何処?」


 鋭い視線はそのままに身長差を活かして徐々に締め上げていく。

 そこへお茶を淹れ終わって戻ってきてしまったパルが眼を丸くして驚いた。


「お茶入ったよー――って何してるの!?」

「あ、戻ってきちゃった」


 お盆をテーブルに置き、霊夢を止めにかかる。


「こいしが苦しそうだよ! 止めてあげて!」


 その手をさとりが止め、首を横に振るって否定する。


「パル、そいつはこいしじゃないわ」

「で、でも」

「形に惑わされないことね。妖怪には変化術っていう人に化ける術があるのよ。狸とか狐がいい例ね。でもそいつは他よりも高等な術の使い手、油断しないで」


 さとりの少々威圧的な声にパルも事態を察し、霊夢たちを視てゆっくりと拳を握った。


「敵……で良いの?」

「まだ手を出しちゃ駄目よ。こいしの居場所を聞き出さないといけないからね」


 こいしもどきは苦しみながらも不敵に嗤う。


「くっ……クク、無駄だ。どうせ今頃は……」


 そこで業を煮やしたさとりが第三の眼(サードアイ)を開いてこいしもどきの顔の前まで持って来る。赤い眼がこいしもどきを射抜き、全てを見透かすような視線に彼女は怯え竦んだ。


「どうしても言わないなら、もう良いわ。心に聞くから」


 そうして、さとりの『相手の心を悟る程度の能力』が発動する。



 さとりの能力は精神に関する能力で、メンタ同様に心の中や脳の中を覗き見ることが出来る。また、そこから過去を遡ることも難しくはない。

 さとりの脳裏に見えたのは地底のとある草原の様子だ。そこには大規模な舟と兎耳の兵士たちがおり、野営しているようだ。その彼女たちが見つめる一点には本物のこいしが囚われている。


『むむぅー』

『まさか飴玉一つで釣れるとは……さとりの妹だからと気を引き締めていたが拍子抜けだな』

『わざわざ決戦装備も用意したのにな……』

『隊長、準備が整いました!』


 隊長と呼ばれた兎耳の彼女は部下と思われる兵士たちに号令をかける。


『良し、では始めるぞ。さとりには私が接触する。お前たちは手筈通りにやれ』

『了解!』


 兎兵士たちはこいしをその場に縫い留め、その手に錠をして地面に繋いだ。隊長は小さな袋を取り出してその中身、ピンク色の粉を自らに振りかけた。


『……やはり子供姿は慣れないな』


 それはこいしの声であり、姿までも瓜二つだ。

 隊長は一度肩を回し、地霊殿へ向けて歩み出した。


 

 あまりにもチョロイ手口で囚われた我が妹に対して、さとりは思いっきり溜息を吐きながら見えた情報を霊夢たちに伝えた。


「情報はこれだけね」


 ある程度の情報を紙にまとめてはみたが、霊夢はペンを片手に頭を悩ませた。


「場所が分からないんじゃどうしようもないわね」


 返り、さとりはそれを否定して答えた。


「いいえ。地底で草原なんて場所は極僅かしかないから総当たりしても大丈夫。それに敵の狙いが私なら向こうから何かしてくると思う」


 地底に草原がある場所は全部で五か所程度しかなく、そのいずれも大規模な草原や高原となっている。また、徒歩で移動出来る距離ということを考えればそう遠い場所ではない、と思う。

 そうね、と霊夢は一度相槌を打ってから懐に手を入れて状態解除の薬を隊長の顔面に叩きつける。変化の解けた隊長に視線を向け、パルはてゐやイナバを思い出しながら首を傾げた。


「兎耳? 獣人?」


 さとりと霊夢は隊長の姿を知っているらしく、小さく舌打ちした。


「そういうこと……」

「幻想郷において兎耳を持つ者と言えば、月の民以外はあり得ないわ」

「月……」


 パルは隊長をじっと見つめ、赤い月を思い描いた。

 ともあれ、目的は決まったため霊夢は立ち上がり、さとりもお燐たちを呼んだ。


「詳しい事は後で話すわ。今は里の方に行ってみましょう」

「お燐、お空」

『はい』

「貴方たちは他の里で聞き込みをして頂戴」

『了解!』


 二人が一斉に退出し、さとりも近くにあった茶色の外套を羽織った。


「外に出るのは嫌だけど……私も外に出るわ。霊夢、パル、協力してくれる? 勿論あとで報酬は払うわ」


 依頼という形であれば霊夢も動くだろうと思い、さて地霊殿の貯金はいくらあったかしら、と、さとりは考える。


「それなら当然――」 


 300万円は最低限――と言いかけた所でパルがさとりの手を取った。


「要らないよ。姉が妹を助けるのに理由なんていらないんだから!!」


 ちぃ、っと霊夢は内心で舌打ちする。逆にさとりは少々意外そうにパルを見上げ、やはりその心を読んでしまう。


「パル……」


 そこ善も悪も無く、ただ『助けたい』。それだけがパルの心を占めていたことに対して、さとりはまた驚いた。


「行こう! 絶対にこいしを取り返すよ!」

「……ええ!」


 パルが手を伸ばし、さとりが不敵な笑みでその手を掴んだ。

 霊夢はちょっとだけ居心地の悪さを感じ、ふと外を見た。


「何このアウェイ感……。それよりも、外がやけに明るいんだけ……ど」


 一拍置いてパルたちも窓から外を眺め、町の方向が赤く燃え上がっている様子を視界に捉えた。


「まさか……」


 先にさとりが窓から外へ飛び出し、続いてパルと霊夢も顔を見合わせて頷いてから開いている窓に足をかけて飛翔する。

 町は紅蓮の炎に包まれて燃え上がり、土の壁は焼けて落ちる。町の中には親衛隊以外の人食い妖怪がこれを機にと多数出現しており、お空たちと戦闘している姿が見受けられる。

 離れていても聞こえる悲鳴と叫びにパルは口元を抑えた。


「里が燃えてる……酷い……。さとりをおびき出すためにここまでやるの? これが月の民のやり方なの、霊夢?」


 霊夢は先程よりも冷酷な視線で町を見下しながら答えた。


「そうよ。奴等は目的のためなら何だってする。放火、強盗、殺人、虐殺、人質……挙げたらキリがないわ。奴等は前に一回幻想郷に侵攻して来ているのよ。私の力を狙ってね。その性で幻月大戦と呼ばれる、幻想郷でも滅多にない大規模な戦争が起きた。その時に紫も一回大怪我をし、私も死にかけた。最後は博麗大神龍を目覚めさせて奴等を再起不能なくらいボロボロにして撃退したんだけど……」


 さとりに視線を向け、パルも一度歯を噛み締めた。


「今度はさとりを狙って?」

「正確にはさとりの持っているサードアイでしょうね」


 霊夢がさとりが首から下げている半眼の眼を指差し、パルも頷く。


「その大きな眼のことだね」


 さとりはやや嫌悪しつつ独白する。


「……そう。これは古明地の者ならば全員が持つことになる第三の目。また、悟り能力を使うために必須な物。でも、悪用すれば人の心を操る道具にもなり得る」

「実際にそれを使って地底を静かな場所にしようとして――ぶっちゃけ威力が強すぎて事変になって私がボコしたってわけよ」


 さとりは右手を頭に当てて溜息を吐く。


「おかげでずっと五月蠅いまま」


 でも、とパルは続けた。


「だとしたら尚更渡せないね」

「そうね。さ、そろそろ消化しにいくわよ。さとりとパルは一緒に行動しなさい。囮作戦よ」

「うん、分かった」


 詳しい事は後。先に避難と消火活動を霊夢は優先して飛翔し、水系統のスペルカードを手持ちに加える。


「行こ、さとり」

「ええ」


 パルの伸ばされた手に自身の手を重ね、町の方へと飛翔していく。


「…………本当心地良いわね」


 手と心の温かさにさとりは笑み、本当に小さく呟いた。



 突如現れた人食い妖怪の襲撃に町は大混乱し、四方から迫る火炎の波を避けようと住民たちは必死になって逃げ惑う。


「こっちからも火が来てるぞ!」

「何だと! それじゃ逃げ場何てないじゃないか!」

「ママー! どこー!」

「うわああああああん!!」

「畜生! なんでこんなことに!」

「とにかく何処か一か所を集中的に消化して逃げ道を作るんだ!」


 一部が理性的な判断が出来てもそれを実行できる人数は居ない。結果的に彼らも逃げることに専念せざるを得ない。

 そんな様子を空中から見ていた霊夢が舌打ちし、炎に向けてスペルカードを放った。


「水符「破乱水嵐」!」


 直径5mはある巨大な4つの水の玉が炎に向かって落下し、粗々しく炎を押しつぶして消化する。

 

「おおっ! 火が消えたぞ!」


 それを見て住民の一人が叫び、霊夢が声を張り上げて指示を下した。


「急ぎなさい! 精神的に余裕がある奴はそこらの子供も拾って逃げなさい!」


 霊夢の一喝に狂乱していた者たちも冷静さを取り戻して空中を見上げ、次いでそこらで泣いている子供たちを担いで町の外へと逃げ出していく。


「お、おう!」

「ほら、行くぞ! お前の母ちゃんもきっと逃げてるはずだ!」

「う、うん」


 冷静な者たちは二手に分かれ、一方はこの場に残って一か所集中で水バケツをリレーし、もう一方は複数人に分かれて避難誘導を開始する。

 だが炎の勢いは強く家から家へ燃え移って僅かな隙間をも飲み込もうとうねる。

 霊夢がもう一度スペルカードを発射し、勢いを弱めていく。


「ったく、ちょっとは自分たちで何とかしなさいよね。……で、パルたちの方は上手く釣れたかしら?」


 同じく何処かの空中にいるだろう二人を思いつつ、そこらに潜んでいるだろうクソ兎共を睨んだ。



 同じ時にさとりとパルは町の門付近から中央にかけて消火活動をしていた。


「冥符「大瀑布」」


 さとりの津波を模したスペルカードが町中に降り注ぎ、町の住民たちを津波で飲み込んで町の外へと引っ張り出す。


「――……やかましい。頭が痛い」


 ただでさえ騒がしいというのに悲鳴と負の感情を直接心に食らってさとりの眉間がみるみる険しくなっていく。


「行くよ、業炎霧散デモン・ディスパーション!」


 パルも炎を対象として数値をゼロにすることで消化を試みる。

 炎が消えれば住民たちはこぞって門の方めがけて走っていく。


「火が消えたぞ!」

「逃げろー!」


 逃げろ! 逃げろ! と大人が我先に逃げていく。子供は泣き叫び、座り込んで放置されてしまう。


「うああああああああああああん!! 怖いよおおおお!!」

「お母ぁああああああああさぁぁああああん!!」


 悲しみと恐怖、その二つの感情だけが大幅に強調され、声と心の叫びを二重で食らい続けたさとりは視線を我慢から憎悪に変えて()()()()()()()()と弾幕を振り上げた。


「――っ! うるさい!!」


 その殺気を明確に感じ取ったパルが今の場所から急いでさとりの方へ移動し、振り下ろされる直前で手首を掴んで止めた。


「さとり! ダメだよ!」

「離せ……ッ!!」


 なんとか振り下ろそうとするがパルがそれ以上の気を込めた腕力で抑え、もう片方を手で第三のサードアイをそっと閉じる。

 心の声が聞こえなくなり、さとりも落ち着きを取り戻した。


「……ごめんなさい」


 パルは一回頷いて手首を離し、固まって縮こまっている数人の子供たちの元へ降りたった。


「ほら、君たちも立って逃げて」

「う……ううっ……」


 だが恐怖を取り払うことは簡単ではない。こういう時は言葉より腕力に物を言わせた方が良いことを知っているパルは子供たちを担ごうを手を伸ばし、背後から来る気配を感じて身構えた。


「妖怪!?」


 その姿は鬼。鬼の集団がパルたちの方へやって来たので身構え、鮪包丁を取り出して一撃で斬り捨てる居合の構えを取った。


「ま、待て! 俺たちは良い妖怪! お前、家族助けた!」


 パルの構えを見て死を予感しつつも必死に両手を上げて弁明し、パルは彼らを見てふと地底に来る途中に会った鬼たちの家族を思い出した。


「家族……あ、もしかして!」

「姉さんには返し切れない恩がある」


 パルが構えを解き、さとりも驚きつつ降りてくる。


「俺たち、もう人喰わない」

「……本当?」


 パルがさとりに確認を取ると、さとりは第三の眼をちょっとだけ開いて鬼たちの心を読んで眼を閉じ、思わず微笑んだ。


「本心みたいね」


 さとりが言うのなら間違いないだろうとパルも思い、道を開けた。


「分かった。信じるよ」

「感謝する。ガキども、人の居るとこ連れて行く」

「アイアイ!」

「大人しくシロ、ガキドモ」


 一転して子供たちの表情は先程よりも絶望にそまり、間違いなく食われることを予感して全力で暴れる。


「たぁぁぁすぅぅぅけぇぇぇてぇぇえええええ!!」


 その子供たちを鬼たちが俵担ぎで持ち上げてスタコラと去っていく。

 そんなシュールな光景にさとりは心から苦笑いし、パルを見上げた。


「パル、貴方の心って本当に綺麗なのね」

「えっ? 急にどうしたの?」


 気付いてないらしいパルに対し、さとりは羨ましそうな表情を見せた。


「人食いの妖怪が人を食べるのを止めるなんて存在意義に関わる大問題よ。それを覆してまで貴方のために働こうとするなんて……羨ましいわ」


 そうかな? とパルは思う。


「ボクに出来るならさとりでも出来ると思うよ?」


 思った事を口にしてみたが、それこそさとりは大きく首を左右に振るって否定した。


「無理よ。それはパルだけの特権。他の誰かなんて居ない。人と妖怪が繋がっている……本当に夢みたいな話」


 かつての地底ではあり得なかった光景。現在では徐々に変わりつつあるとは言ってもそれはさとりの手柄ではない。ただの時代の変化だ。

 パルはさとり頭を胸に埋めて微笑んだ。


「でも、さとりもボクと繋がってる。生き方も、寿命が違っても友達になれるんだよ。尤も、ボクは半分妖怪みたいだけどね」


 そう言われてさとりは鼻を啜ってみるとパルの方からは人間の臭いが漂ってきた。


「半妖……でも人間側ね。特に匂いが」

「臭う?」


 さとりを離し、自分の臭いを嗅いでみるが良く分からない。

 そんな姿を見せられてさとりは笑みを浮かべた。


「くふふ、こればっかりは妖怪の特権ね」

「みたいだね」


 少しの時間笑い合い、里を見回すと火の手もだいぶ収まってきており戦闘音や悲鳴の数は激減していた。


「消火活動もほとんど終わったみたいね」

「でも、ここからが本番だね」


 パルは鮪包丁を肩に構え、さとりも右手を軽く握って肩幅に足を開いた。

 ぐるりと見渡せばいつの間にか兎兵士たちに囲まれており、さとりは警戒しながらも第三のサードアイを開いて彼女たちの思考を手に取る。

 ――まさか……?

 ――おいおい、マジか。

 ――夢でも見ているのか?

 ――まさか、そんな……。

 予想に反して兎兵士たちは戸惑い、パルを視認すると一斉に銃器を降ろした。

 ――何かしら? やけに奴等の心が懐疑的だけど……。

 さとりは更に警戒を強めつつも問う。


「こいしは何処」

「返してほしくば我々と一緒に来て貰おう。其方の御方とも一緒にな」


 ――御方? パルのことみたいだけど……。

 兎兵士の答えに視線だけパルを一瞥して戻す。何にしても彼女たちが何故か此方とあまり敵対したくないのは間違いなさそうだ、とさとりは思う。


「分かったわ」


 さとりが拳を下げたのを見てパルも一旦鮪包丁を空間内に仕舞う。


「さとり、大丈夫そう?」

「今は、ね。でも動かないと状況は前に進まない……それよりパル、貴方って月に住んでいたことある?」


 唐突な問いにパルは首を傾げる。


「うん? 無いけど、どうしたの?」

「奴等、やけに貴方を見ているからちょっと気になったの」

「ボクを?」


 パルが眼を向けると兎兵士たちが一斉に目を逸らし、足並みをそろえて歩き出した。その後に続いてパルたちも歩き出し、さとりはちょっと困惑する。

 ――姫だ! 間違いない!

 ――あの容姿、ポニーテイル、一人称、どれをとっても姫様だ!

 ――私……私は、この日を夢見てたんだ!

 ――ワイもう死んでもいい! 姫様万歳!

 ――万歳!

 ――万歳!

 ――万歳!

 ――万歳!


万歳ハイル!!』


 高まり過ぎた小声が彼女たちの精神を統一させ、斉唱された。


「わふっ!?」

「……可愛い」


 分かっていたさとりは耳をそっと塞ぎ、パルは驚いて変な声を上げてしまう。有頂天な彼女たちの心境など知る由もなく、パルは内心で少し警戒を強めた。

 さとりは微笑しつつ横目でパルを警戒した。

 ――それとは別に……パル、見極めさせてもらうわよ。


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