第X話 浮気の七夕 ~悪乗りを添えて~
グラたん「七夕です! 主役は勿論――」
フラン「あたしだよ!」
神々『俺たちもいるZE☆』
七月七日。今日はやや曇り気味で涼しい日だ。
博麗神社の巫女二人も今日も仕事は無く、セミの鳴く声を聞いてお茶を飲んでいる。
「ねぇ、メンタ」
「はい」
「最近話題のヒモって知ってる?」
「はい、霊夢さんのことですね」
「通称ヒモニート。若い女性におんぶに抱っこして貰って働かないという途轍もない奴のことよ」
「凄いですよね」
「現実にいることが、な」
そこへ箒に乗った魔理沙が空中から降りて来て付け加えた。
「何よ、私はちゃんと働くわよ。仕事がないだけで」
「だったら里でアルバイトでもしたらどうだ? 見た目悪くないし仕事なら山のように入って来るぜ」
HAHAHAと霊夢は嘲笑する。
「魔理沙、お金があるのに働くのは馬鹿だと思わないかしら?」
「良い歳して働かない方が馬鹿だと思うけどな。メンタはどうだ?」
「そうですね~。霊夢さんも大概だと思いますけど、幻想郷にはもっと凄い人がいますよ」
「ほう、誰だ?」
メンタは紅魔館がある方を指差した。
「レミリアさんたちです。片や500年のヒモニートと片や500年の引き篭もりです」
「そう考えると500年前からヒモニートという概念はあったわけか」
「いえ、もっと前からありますよ」
そんな魔理沙の考えをメンタは否定した。
「なに?」
「ほら――」
今度は永遠亭の方を指差し、魔理沙も顔を顰めた。
「軽く1000年を超えるヒモニート、輝夜さんがいます」
そこへスキマが開き、紫が現れて縁側に腰かけた。
「霊夢と違い、彼女の場合は永琳が養っているだけ、という説もあります」
「あ、紫さん。何かお仕事ですか?」
「ええ。とても簡単なお仕事よ」
それを聞くと霊夢はゴロンと寝転がって布団をかぶった。その間、ナノ1秒未満。
「働きたくなーい」
「それで何をするんですか?」
「……真面目に巫女交代かもしれないな」
代わりにメンタが聞き、魔理沙は額に手を当てた。紫は扇子を広げて『曇天』の二文字を見せる。
「ほうほう、つまりあの曇り空を何とかして欲しいってことですね。パル姉の方へどうぞ行ってください」
メンタは精神系能力者であり、物理干渉は得意ではない。パルは物理系最強能力のためそっちに頼んだ方が早いとメンタは考えた。
「事変の解決は巫女の仕事ですよ。それに七夕で、ちょっと痴話喧嘩を止めにいくだけです」
紫の微笑にメンタはあからさまに嫌な顔をする。
「七夕……まさか織姫と彦星の喧嘩を仲裁しにいくとか、ですか?」
予想に反して紫は否定した。
「あの二人が喧嘩することはありません。ただ……」
「ただ?」
「織姫がやっちゃったんです」
「……何をですか?」
殊更嫌な予感がしつつ、断る前提でメンタは聞いた。
「――浮気」
「それはもう当人の問題なので第三者が関わるのは致命的だと思います。よって今回の依頼は聞かなかったことにしますね」
颯爽と立ち上がって原稿の続きを描こうと一歩踏み出し、その腕を掴まれる。
「まあお待ちなさいお嬢さん。まだ続きがありますよ」
「これ以上こじれようがないものに続きがあるんですか?」
「はい。その浮気相手ですが――まさかの霖之助さんなんです」
瞬間、時は止まる。
『――――――――えっ?』
誰もが絶句し、ありとあらゆる生物が息を飲んだ。風は止み、セミも声を止める。
ポツリ、ポツリ、ザァーザァーと雨が降り出した。
白かった雲は黒くなり、ゴロゴロと紫電を纏い始めた。
庄子を、タンっ、と良い音を鳴らしてメンタたちは居間へと入り、全員が真剣な表情で手を組んだ。
「……マジか?」
「紫さん、冗談は要りませんよ」
「そうね。何かの悪い冗談よ」
三人から全否定され、しかし紫は袖から一枚の写真を取り出して机に置いた。
そこに映っていたのは変装した霖之助と織姫だろう美人さんが腕を組んで映っていた。
紫電一閃。近くで雷鳴が鳴り響き、部屋が一瞬銀色に染まった。
こほん、とメンタは咳払いして電気を付ける。
「ここで戸惑っていても仕方ありません。まずは情報をください」
「待って、メンタ。これは霖之助の問題よ? 下手に首を突っ込んだら大変なことになるわ!」
「そうだぜ! 霖之助一人と三人の命、どっちが大事だ!」
霊夢と魔理沙が猛反発し、しかしメンタは紫の方に視線を向けると、紫は更にもう一枚写真を取り出した。
今度は彦星と思われる男性と無邪気に綿菓子を食べているフランドールの姿があった。
「――戦争が起こるわ」
霊夢の宣言を代弁するかの如く、ピーンポーンという音が鳴り響いた。
すぐに玄関へ来てみるとずぶ濡れのレミリアと傘を持った咲夜が佇んでいた。
「れ、レミリアさん? 咲夜さんも?」
そっと手紙を差し出され、受け取りつつも霊夢はレミリアを中に入れてお風呂に直行させる。メンタは咲夜を連れて居間へと戻り、着替えたレミリアと霊夢が戻って来たタイミングで中身を空けた。
そこには二枚の写真と朱肉の付いた文が書かれていた。
――拝啓、愛しの紅魔館一同様――
七月七日、私は天の国へお嫁に参ります。
つきましては披露宴の招待状を送らせて頂きます。宜しければご参加ください。
あたし、幸せになります!
――フランドール・スカーレットより――
いつもならカリスマオーラ(笑)が全開のレミリアが酷く憔悴した表情で座っており、咲夜も気まずそうにしている。
「……読んだ?」
レミリアの酷く重々しい口調に全員の視線が集まる。
「え、ええ。読みました。――ところでパル姉は?」
メンタが咲夜に問う。
「フランお嬢様と先に天の川へ行きました」
と、言われてメンタは納得する。次いで紫の方を向いた。
「ちなみに天の川って何処にあるんですかねー……」
「宇宙――ではなく、正確には逸話を模した場所があり、毎年そこから銀河プロジェクターで宇宙に反映させているのです」
「その場所とは?」
「幻想郷の北極、そこに浮かぶ島があります。織姫と彦星はそこで暮らしていますよ」
「そう、そうなのよ……」
だから――とレミリアはハイライトの消えた眼で不敵に笑った。
「どうやってパァティを台無しにしようかって咲夜と一緒に聞きに来たのよ。おほっ、オホホホホホホホホホホホホホホホ」
「壊れたぜ」
全員が首肯し、壊れたレミリアの代わりに咲夜が説明を続けた。
「しかし私たちが行って壊せば良いというものでもありません。七夕の儀式を楽しみにしている子供たちは大勢います。なので、解決案を共に考えていただけないか、と思った次第です」
「なるほどね。こんな見え切った茶番に何でわざわざ出てくるのかと思ったら――」
ふわり、とレミリアの髪が舞い、殺気が辺りに放たれる。
「茶番? フランの大事な一生を決めることが茶番? 腐、腐腐腐……」
「こういうことです」
「面倒くさいですね……」
咲夜が言いたいのはそっちではなく、こっちを何とかして欲しいということだ。
「とりあえず、浮島に行ってみましょうか。織姫さんと彦星さんの事情と霖之助さんたちにもあって話を聞いてみましょう」
「そうですね。紫さん」
委細承知と紫もスキマを開いた。
「はいな、スキマ」
くぱぁ、とスキマが開いてメンタたちは浮島へと向かった。
浮島。正式名称、天の川リゾート。
北極とは言っても年がら年中陽射しが強く、リゾート地に持って来いという立地のため神々の手に寄って遊び場と化したこの世の楽園。また七夕には織姫と彦星がやってくることからイベント区としても大いに賑わいを見せている。
例え、外は雨と落雷が伴おうとも酒の肴には丁度良い。
「なんということでしょう。今では血沸き肉躍る古の戦場と化していました」
目の前に広がるのは『浮気結婚式』と堂々と書かれた横断幕とそれを囃し立てる神々。主導しているのは面白いこと大好きポセイドンだ。
メンタたちが来ているのは近くの喫茶店『ボトムズ』の個室。オススメのジェラートである赤い氷菓子の乗ったパフェを突きつつ、一際どんよりとした空気を纏わせた織姫と会っていた。
「私……こんなになるとは思って無くて……」
「と、織姫さんは供述していますが今どんな気持ちですか、彦星さん?」
相対するのは彦星。此方はレミリアの要望によって首と手に錠をかけられている。
「お宅のお嬢さん方にはご迷惑をおかけして本当に申し訳なく思っております」
「はい、テンプレ乙です。さあここでフランさんに聞いてみましょう。悪い男に騙された感想をどうぞ!」
メンタの五倍増しのパフェをがっついていたフランはニコニコしながら答えた。
「お姉ちゃんの困った顔が見れて満足~」
「なるほど。では次に霖之助さん、何か一言お願いします!」
「まあそんなことだろうとは思ってました」
霖之助も肩肘付きながら溜息を吐き、不作法にストレートティーを口に含んだ。
一通りの事情を聴き終え、霊夢はペンを置いた。
事件の顛末は三日前に戻る。
一年に一度しか会えない設定で浮島リゾートへとやってきた織姫と彦星は神々ホテルで今年の演出の打ち合わせを行っていた。
「う、浮気?」
「はい。今までそういうのが無かった方がおかしい、と神々会議でもっぱらになりまして……今年は趣旨を変えて見てはいかがでしょう?」
「それは……」
二人は名実ともに既婚者であり、浮気などしたこともなかった間柄だ。いきなり浮気しろと言われて出来る訳がなかった。
「勿論、演技で構いません。お忍びで幻想郷に降りても良いと紫様から承っております」
――なにっ。
と、二人は戦慄する。浮島リゾートに来ることはあっても滞在期間は二泊三日であり、前日は打ち合わせと会食、リハーサルとなっており、次の日は本番、三日目は挨拶と会食の予定が詰まっているため今年は何かあったのかもしれないのと二人は考えていたが、まさかこんなサプライズがあるとは思っていなかった。
更に、とマネージャーは続けた。
「今年からは少々予定を早めてお越しいただければ観光も自由と――」
『乗った!』
かくして台本と役を承った二人は幻想郷に降り、浮気相手を探しているという名目でまずは町へ来ていた。
浮気しているという設定なのだから最初は二人でおり、自然と分かれるのが適切だろうと考えてそれはもう非リアたちの熱烈反吐がほどのリア充っぷりを見せつけてしまう。
三日前はデートで終えてしまい、二日前。この日は役になりきるべく別々に行動することにした。
まずは織姫。適当にフラフラと歩いていると面白そうな古道具店を見つけ、寄り道してみる。――店名、香霖堂。
「いらっしゃいませ」
彼女は思った。『冴えない店主だ』と。しかし顔立ちは悪くなく、高身長で清潔感もある。店内も小綺麗に纏まっており埃も無い。
浮気相手としては悪くないと考えた。
「今日は暑いですね。どうぞ、ごゆっくり」
加えて気遣いも出来る。やはり、悪くない。
彼で良そうだ、と彼女は行動を開始した。
「ねぇ、店主さん――」
「はい?」
「私と付き合ってみない?」
彼、森近霖之助は3秒で頷いた童貞である。
一方で彦星は中々優れた容姿にも関わらず牛飼いということから獣臭さがあり、女性受けも男性受けもしないという星の元に生まれている男性だ。
そんな彼を受け入れてくれるのは間違いなく織姫だけである。
――そう考えていた時期が俺にもありました。
「きゃは☆ これ美味しいね!」
目の前にいるのはフランドールという少女。連れて歩けば迷子保護者かロリコンの二択にしかならないという怪物。
しかし、だ。世の中の悪意を知らない彼女は物であっさりと連れた。
決め手は――『お嬢ちゃん、こっちでおじさんとパフェでも食べないか?』と犯罪臭ただよう言葉に釣られてフランはついて行ってしまった。
「ひそひそ」
「なに? ロリコン?」
「お父さん……お兄ちゃんかしら?」
「仲良いわね~」
だが、『ロリコン』というレッテルはもう剥がれない。
「あっ、フラン様! こんなところに居た!」
そこへ甘味処の席へやってきたのはメイド服姿のパルだ。パルは彦星を見て、お辞儀した。
「多分フラン様が何かご迷惑をおかけしたと思います。保護してくれてありがとうございました」
「え、あ、や、これは……」
口ごもる彦星に代わりフランは元気よく答えた。
「パルお姉ちゃん、一緒に食べよ!」
そう言われると弱いが、一応彦星の方に伺いを立てようと視線を向ける。
「えっと……」
それを『獣臭い』と受け取った彦星は遠慮して立ち上がった。
「俺、獣臭いですよね。すみません」
そそくさと居なくなろうとして、パルは手を掴んで止めた。
「そうかな? ボクは構わないよ」
この時、彦星は急に罪悪感が込み上げて来てしまい、全て白状した。
「あ、あの、俺、本当に……」
先に言っておくと彦星は気弱属性を持つチキンである。特に女性耐性は低く、カツアゲされればコケコッコーと鳴くような弱い男だ。
「じゃあ!」
そう言ってフランは立ち上がり、彦星の腕を掴んだ。
「あたし、お嫁さんになる!」
「え、ええええええええええええ!?」
その表情は完全に面白がっており、眼付きは肉食獣の如く輝いていた。逆に彦星は手を出す相手を完全に間違えたとばかりに絶叫した。
「良いよね、パルお姉ちゃん?」
「面白そうだね! それじゃ、まずは招待状を造らないと!」
彦星は後に『逃げたら、キュッとしてドーン(意訳:心臓を握って殺す)だからね。責任、取ってくれるよね? ね?』と幼女に脅されて仕方なくやりましたと供述する。
また、パルさんに神父役をやってくれる人に心当たりがあるというので頼んだら――『ほう、ロリコンの神様と名高い余に祝福して欲しいと。ククク、これは是非とも神々を招集せねばいけないな。ああ忙しくなりそうだ』と、とんでもない大物連れてきたのでもう逃げられないことを悟った。
して、現在。
「つまり役柄上で浮気していただけであり本格的な意図は無かったけどスルトさんのおかげで話に尾ひれがついて大変なことになってる、ということね」
「はい……」
「『演出は俺に任せろ!』って雷神様が張り切って雷雨を降らせ、風神様が暴風雨に変えてしまい……もはや天変地異としか……」
二人の情けない供述に霊夢は呆れた。そしてその両肩に手をおいて朗らかに笑った。
「やっちゃったものは仕方ないわよ。もう諦めて結婚しちゃいなさいよ」
「そーだ! そーだ!」
「おうおうイエーイ!」
フランも便乗し、霖之助も泣きながら拳を振り上げた。
「じゃあパル姉、オレたちはケーキでも作りましょうか。ダブルで結婚式なので20段×2で40段タワーケーキですね」
「そうだね。腕が鳴るね!」
我かせずとばかりにメンタとパルは去ってしまい、咲夜もレミリアを連れて退出してしまう。
「あいつら……」
結局霊夢に仕事が回り、魔理沙も苦笑いする。
「で、これからどうするんだ? まさか、マジで結婚式するつもりか?」
「私は良いわよ。タダ飯は大歓迎だし」
霊夢の軽口に頭を叩いて黙らせ、霖之助が商売人の表情で用紙を取り出した。
「ま、妥当案としては結婚式にごめんなさいするのが一番良いと思いますよ。負債はマネージャーに負って貰うとしましょう」
「それが良いわね」
霖之助の提案に霊夢も、織姫たちも頷いた。
「さてと……」
霊夢は思案顔で立ち上がり、外を見た。
「先んじてあの雲を何とかしないといけないわね」
「だな。一丁やるか!」
七夕をするためにはまず晴天が必要だ。次いで星空。曇りなど論外だ。
「あたしもやるー!」
フランもレーヴァテインを出現させて外に飛び出し、高笑いしながら雲を切り始めた。
午後七時。幻想郷も地球も月も皆が楽しみにしている七夕の様子。主役である織姫と彦星は天の川の両端に待機し、その隣には更に新郎新婦の姿がある。
余談だが宇宙に移る光景は影だけのため霖之助たちの姿は微塵も映らない。
さて、結婚式の会場には所せましと神々が並んでおり、奥には白ローブのスルトの姿があった。中央前にはパルとメンタの渾身作の40段ケーキがあり、二人はやり遂げた感、溢れる表情で端に座っていた。
「ドレス綺麗~」
「はい、本当にお美しくなられて……ううっ」
フランの傍には咲夜がついており、写真を連写している。
「まさかスーツを着ることになるとは思いませんでした」
霖之助も乾いた笑いのまま佇んでいる。
「ククク、さあ挙式を始めようか」
スルトの一言で辺りは静寂に包まれ、四人が前に出る。
やはりというべきか、バタンという音と共に扉が開かれ紅蓮のドレスに身を包んだレミリアが姿を現した。背中では翼がはためき、見る者を圧倒するような魔力を放出して会場を威嚇する。
「ふふふ、我が妹を勝手に挙式させようなど烏滸がましいにも程があるわ。今、この場を紅蓮で染めてくれてやるわ! さあ、死にたい奴から前に出なさい!!」
『ひゅぅ、シスコン!』
それを見た神々は煽り、フランは痛恨の一撃を繰り出した。
「お姉ちゃんガチ過ぎ、キモっ」
レミリアが無防備にボディーブローを食らったように数歩よろめき、立ち留まる。
「ま、まだよ。わ、私より先に結婚など許さないわ。絶対にあってはならないのよ!!」
「ウザっ☆」
言葉の直撃アッパーを食らい、レミリアの体が宙に浮いて背後に倒れていく。何処からかカンカンカンとコールが鳴り、扉が閉まっていく。
「なに今のコント?」
「さあ?」
霊夢と魔理沙が首を傾げ、好機と織姫と彦星は祭壇に上がって手を繋いだ。
「織姫! 俺が悪かった!」
「彦星! 私も浮気なんてしないわ!」
「では神の名の元に誓うが良い」
スルトの宣言の後、織姫と彦星は抱き合って仲を取り戻した。
『さあ新郎は御退場だZE☆』
空気を読んでメンタは素早く動き、神々は急いで大砲に火薬を詰めて式場の大扉を開く。余談だが大砲は人を飛ばすための特注の口径となっており、火力も通常の3倍だ。
「え?」
彦星は訳が分からないまま簀巻きにされて大砲の中に詰め込まれ、点火される。
『撃て! 神々名物ナンデモキャノン!!』
ドーン、と爆音と共に彦星は海辺へと飛んで行く。
「よし、じゃあ飯だ!」
「ビール持って来い!」
神々曰く『結婚式? 墓場の間違いだろ?』『俺たちは墓場に埋まる新郎なんてみたくない。これは助けてやってるんだ』『入籍? 鬼籍の間違いだな』『神々の黄昏なんて起こさせない。俺たちは絶対面白い事をしているんだ』『60年かけた結論だ。断言しよう、これは救いだ』。
「ああ! 彦星!」
織姫は急いで海へと駆け出し、メンタはメシウマしながら飯を食っていた。
しばらくしてパルとメンタは海岸に出て星空を見上げていた。
「織姫と彦星ってあんな感じなんだね」
「そうですね。地球にいたら絶対に逢えませんでしたね」
しょりしょりとかき氷を食べつつ、時折キーンとなりつつもメンタは笑みを浮かべる。
「そういえばあの後レミリアさんはどうなったんですか?」
「レミリア様は永遠亭に送られたらしいよ?」
「えっ……そんなに重症なんですか?」
「心の傷が深いみたいで一週間安静だって」
少々唖然としつつ、ふと空を見上げた。
「フランさん、毒舌ですからねぇ」
「うん」
流れ星が一筋流れ、
――遠い所に来てしまいましたね……。
――あ、また流れ星!
それぞれ違う想いを抱きながら夜空を見つめていると、再び流れ星が落ちる。
――メンタとずっと一緒にいられますように。
――パル姉とずっと一緒にいられますように。
キラリ、キラリと立て続けに落ちていき、二人はずっと星空を眺めていた。
~オマケ~
――咲夜――
七夕の日、今日は曇り空。そんな折に紅魔館に一通の速達の手紙が届いた。
招待状?
開いてみるとフラン様と彦星なる輩が手を繋いでいる写真と結婚しますという文章が入っている。写真の撮り方からしてパルが撮ってフラン様が悪戯で送って来たのだろう。
「あら咲夜。手紙?」
ああ不味いところにきた。お嬢様はフラン様のことになると血相抱える人、出来れば隠しておきたかった。
「はい、結婚の招待状のようです」
「あらあら、おめでたいわね。誰から?」
「フラン様ですね」
「フランが結婚? ああ、血痕ね。途中でお腹が空いて食べちゃったのね。ふふ、全く仕方ない子ね」
そう言いつつ本気の眼で写真を奪い取り、両目を血走らせてそのまま町の方へと飛んで行ってしまわれた。
私も美鈴に門番を頼み、その後を追いかけることになる。
町中で何とかレミリア様を取り押さえ、フラン様がパルと一緒に浮島という場所に行くのを発見し、危うくグングニルが飛びかけた所で雨が降り、レミリア様はこれ以上ないほど悲しそうな顔で博麗神社へと向かって行く。
さて、私は傘を持ちつつ招待状の内容を彼女たちにどう伝えるべきか考える。正直、戦闘になる可能性は至って低い。神話上、織姫は機織り職人で彦星は牛飼いだ。そんな彼らに戦えるとは思えない。
ならばこっちの面倒くさいお嬢様をどうにかするのが先決だろう。
お嬢様がインターホンを鳴らし、玄関が開いていく。
――スルト――
俺はスルト。邪神である。
しかし結婚式の招待状とは珍しいな。……ほう、フランドールと彦星が結婚するのか。ついに奴もロリコンに目覚めたと見える。
「スルトさん、手紙……ですか?」
彼女は早苗。この守矢神社の巫女にして余の嫁だ。……正式に籍を入れてないから口先だけなのだがな。
「うむ。余に神父をして欲しいと書いてある」
「……彦星……え、いやまさかですよね?」
早苗は察し良く彼が本物の彦星であることに気付いたようだ。
「無論だ。せっかくだし皆で行くとしよう」
挙式場は浮島リゾートか。それならイベント後に早苗とデートすることも出来るだろう。あ、水着も持って行かないとな。
「諏訪子、神奈子――準備万端かっ」
「なのだー!」
「酒だー!」
守矢の二柱、諏訪子と神奈子。既に水着に着替えて浮輪とビーチボールも膨らましているという状態。その手には日焼け止めとクーラーボックスがあり背中には簡易テントが装備されている。
「では先に行っていると良い。余は後から早苗と行く」
それをどう受け取ったのか二馬鹿はニヤリと笑った。
「じゃ、先にいくのだ~」
「覗きは程々になよ、スルト」
俺はやや苦笑いしつつ見送る。ここで見ると言えば問題となり、見ないと言っても早苗が怒る。面倒くさい。
さて、準備するか。
浮島リゾートへとやってきた俺はまずメンタとパルに頼まれてケーキ作りに参加させられていた。料理、それもスイーツ関係に関しては一切妥協したくないので全力で作ってしまい、終わった時には良い汗を掻いていた。
その後、シャワーを浴びてから神父服に着替え、織姫と彦星を待つ。彼女たちの隣には霖之助とフランドールがいる。ダブル結婚式とは珍しい。
ふと既視感を覚え、かつてもこんな結婚式をしたことを思い出す。その時の俺は略奪する側で派手に結婚式を壊した記憶がある。
そんな回想をしていると本当に結婚式が始まり、レミリアが言葉の刃でノックアウトし――(中略)。
結婚式も無事に終わり、俺は早苗と共に海辺へと来ていた。
「うわぁ! 綺麗ですね!」
浮島故に星空と距離が近い事もあり、海は宝石が詰まったように輝いている。早苗はサンダルのまま駆け出して水飛沫を立てながら海岸を走っていく。
「スルトさん! こっちこっち!」
「ああ、行こうか」
楽しそうな彼女に釣られ、俺も星降るの海を駆けていく。
――霖之助――
初めてモテ機が来たと勘違いしました。相手は織姫さん。まあそこそこ美少女でモテそうだなぁという容姿をしています。
付き合って欲しいと言われてホイホイついて行き、実は偽浮気の相手だったと知った時は心から泣きました。
現在、私は結婚式(仮)の会場で神々の酒に付き合わされています。
「ぢくじょぉぉぉ!」
酔ってます。この上なく酔ってます。
「まあまあ、愚痴れ愚痴れ」
神Aはそう言い、私の杯に酒を注ぎます。
「人生そんなもんだ!」
がっはっは! と神Hは豪快に笑って酒を注ぎます。
でも、でもですよ? 私とて一応良い歳の男性ですし、お付き合いくらいはしたいわけですよ。野郎の純情を弄ぶのは許せないわけですよ。
ちなみにこの神々は本物の神様たちです。今回は面白い事があるとスルトさん経由で話が通っており、ここに集まっているみたいです。中には香霖堂を訪ねて来てくれる神様も多数いるわけでして――それはありがたいんですけれど大半が野郎神様なんですよね。メンタさんからの委託販売も受けていますのでこそこそ繁盛はしています。
「うう……ぐすっ……」
今日はもう酒を浴びる程飲み、嫌な事は忘れましょう。そうしましょう。
その願いを聞きつけたようにガラガラガラと大きなガラスの壺が運ばれてきました。
「あれは――」
顔を上げて見てみると神Cがしたり顔で壁に寄りかかっている神Kを指差した。
「あちらのお客様から『俺の奢りだ☆好きなだけ飲め』とのことです」
並々とガラス壺にウォッカが注がれ、私は褌一張羅まで向かれました。
「良いことあるぜ、兄弟」
キラッと白い歯をむき出しに神Uが私を俵担ぎにして跳躍し、ウォッカの壺に放りなげました。
「がぼぼぼぼぼぼっぼぼぼぼ」
死にますけどね!!
神様は何時だって気まぐれで、何時だって残酷です。そこに善神も邪神も悪神もありません。彼らは『純粋なる快楽主義者』なのですから。
要は、面白ければ隣人を平気で死地に放る輩の集まりです。
私たちは神々の玩具でしかないのです。
私の意識はそこで消えています。




