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東方幻想腐女録  作者: グラたん
第一章
56/119

第五十一話 膝枕+酒=お願いします

グラたん「第五十一話です!」

 宿屋は恒例の如く貸し切られており、大広間には大量の料理とお酒が用意されていた。席は適当に座り、紫の音頭で宴は始まった。


「それでは道真討伐と大会の優勝を祝い、新しい仲間に乾杯しましょう!」

『かんぱーい!!』


 グラスの打ち合う音が鳴り響き、宿屋は一気に騒がしさを増した。

 とある一角ではメンタがシンたちのように寄って今までの経緯を聞き情報を共有していた。


「精神系の能力って使用した本人が死んだら解けるんですね」

「みたいだな。あの後のレリミアのブチ切れ方は凄かったらしい」


 枢の近くではレリミアのとばっちりを食らって切り傷だらけのフールエンリルと装甲板が痛めつけられたガシャポンドクロがイナバたちの手当てを受けていた。


「あづづづづづ!!」

「我慢なさい。男でしょう」

「アバババババ!!」

「はいはい。プラグ繋ぐから動かないでね」


 バリバリと電撃が奔り、その度にガシャポンドクロが呻く。


「とばっちりも半端なかったみたいですね」

「怖ぇーなー」


 メンタもてゐも身を寄せて笑んだ。


「まあ、レリミアさんには同情くらいならしてあげますよ。あんなのに操られてたんですからねぇ」


 あんなの、とは言うが――と枢は意見した。


「道真もお前には言われたくないと思うぞ」

「たしかに」

「フォフォフォ」

「同感」


 全員から総受けを食らい、メンタは意外そうに両手を伸ばした。


「えっ? 何ですか? 精神支配されたいんですか? そういえば夏コミ用のネタが欲しいって知り合いが言ってましたねぇ」

『すいませんでした!!』


 フールエンリルたちの一斉の謝罪にメンタは悪い笑みを浮かべた。


「あはっ、プライドの欠片も無しですか」

「笑える」

「くっ――」


 メンタとてゐの二人に馬鹿にされたとてフールエンリルたちは動かない。否、動いたら腐の餌食になることは分かっていた。


「……気になったんだけど、あの試合のとき赤毛の雰囲気が明らかに普通じゃなかったけど何でなの? いや、いつも普通だとは思わないけどね」


 インアンドセクトの問いにガシャポンドクロたちも頷いた。


「確かにのぅ」

「変だったわね」

「ああ。それな」


 てゐにまで頷かれてメンタは本当に驚いた。


「そういえばてゐたち知らないんでしたっけ? オレ、さっきの試合とは別のデスゲームの生還者なんですよ。だからネタを言いまくって気を紛らわさないと辛くって」


 普段通りの口調と笑顔でサラリと重いことを言うメンタに対して同じ体験者であるフールエンリルたちは硬直した。


「お前、デスゲーム2度目なのか!?」

「そうですよ」


 メンタは頷いて揚げ物を食べつつ酒を飲んで陽気に笑む。


「そんないきなり重大そうなこと言われてもどうしろって言うのよ!」

「どーもしなくていいんじゃないですか? 昔の話ですし」


 昔とは言うが枢の感覚からすればそう昔のことではないだろうと思わせた。長年を生きる妖怪からしてもメンタの15という年齢はまだ生まれたばかりの赤子とそう変わらない。


「何時の話なんだ?」


 枢が問い、メンタは首を少し傾げて思い出していく。


「え~と、デスゲに閉じ込められたのは5年前、逆算したところオレが10歳のときになりますね。生還したのは1年後、と言ってもクリアしたのは11歳の時ですし、完全に脱出出来た時には誕生日は過ぎてましたから13歳になりますね」


 霊夢がメンタたちの方に寄るとなにやらどんよりした空気が流れていた。


「…今、お祝いしているはずなのにここだけ空気が暗い気がするわ」

「霊夢~、こっち来なさい!」


 こういう時は関わらずに退散するのが良いと霊夢は知っており、少し距離を置いて紫に掴まった。

 して、フールエンリルたちは一斉にメンタに共感してしまい、男泣きしながら立ち上がった。


「赤毛、辛かったら何時でも言えよ」

「何か食べたいものはある? 取ってあげるから遠慮なく言いなさい」

「今日はいっぱい飲んで、いっぱい食べて、いっぱい寝るといい」

「これ、美味しいわよ」


 急に親切になった四匹に対してメンタは怪訝そうに、困惑もする。


「え? あ、う? ど、どうも?」

「いや待てよ。お前がいるってことは……パルさんもなのか?」


 枢がパルを見つつ聞くとフールエンリルたちもそれに気付いて食いついた。


「ええ、そうですよ。と言ってもパル姉は途中からですが。いやぁ、パル姉が来てくれなかったらきっと今も発狂して同じ境遇の人たちをめった刺しにしていたと思うともう涙が出てきますね。パル姉ありがとうございます! そういえば先程の会話で気になったのですがフールエンリルさんたちもデスゲームをやったことがあるんですか?」


 マシンガントークで話題をすり替えられ、今度はフールエンリルたちの過去話になる。


「まあな」

「あれは……確かお嬢と会う前だったっけ?」

「そうね。その当時の私たちは妖怪の中でも良い奴等に分類される方でね……それを付け狙われて人間共に囚われて連れて来られた先がお嬢の屋敷だったってわけ」


 ほほう、とメンタたちは姿勢を正して興味深く聞いていた。


「だがな、あん畜生のせいで俺たちゃァ酷ぇ目に遭わされたのさ。確か『蠱毒の呪法』って奴の贄だ。俺たちの他にも百匹くらい良い悪い関係なく妖怪が一つの部屋に連れ込まれて、餌も与えられなかったから仕方なく餓死した妖怪を食って食って食い繋いで生きていたんだ」


 思い出すのは生きて来た中でも一番酷い時期だった話だ。妖怪が妖怪を食い、生きる。正に蠱毒のやり方で使用者には莫大な富が得られ、送りつけた相手は地獄のような生活が待っている。

 フールエンリルたちはその部屋ごと別の人間の元へと移され、苦しい毎日を送っていた。


「当然、悪い妖怪にもつけ狙わてのぉ。こちらもおいそれと殺されてやるわけにはいかんから殺すしかなかった」

「そんでもって、私たちの状況に気付いたお嬢が自分の父を殺してまで私たちを助けてくれたのよ。お嬢もその当時くらいから吸血鬼に目覚めていたみたいだから同族意識が芽生えたのかもね。でもそのおかげで私たちは助かった」


 一族の中でも優れた容姿と身体を持つが故に一族から疎まれていたレリミアはこれを機に人間たちを片っ端から殺し、やがてフールエンリルたちと出会った。


「部屋から出た時は私たちしか残っていなくて……体力も精神も限界だったから、その時のお嬢は――ううっ……もうお迎えの天使みたいで……」

「そんでもってお嬢から話を聞いたのは俺たちが落ち着いた後だ。いやぁ、もうその時から俺ァお嬢一筋だったな。妖怪人生で一番感動した出来事だった!」

「それは私も同じよ!」

「お嬢には返しても返し切れんほどの恩がある」

「本当……ぐすっ……」


 四匹は苦労譚を語るが実際は、屋敷を逃げ出したレリミアが丁度良さそうな奴隷妖怪を見つけて解放し、割と高圧的に従えていたのだが四匹の中ではそれでも自身等を助けてくれた恩人となっている。


「お前等も苦労してたんだな……って、メンタ?」


 枢も思わず涙が出たくらいには重い話であり、ふとメンタの方を見ると彼女も彼女で眼を丸くして驚いていた。


「め、め……めっちゃ重いんですけど!? オレも大抵不幸街道歩んでますけど共食いさせられる状況って相当ですよね! いやもうそれ知っちゃうと犬ッコロ呼ばわりが難しくなってしまいますね。あ、結局呼び方は変えないので安心してください」

『おぉぉいっ!?』


 結局良くも悪くもそこがメンタの味であり、ちょっと共感意識が生まれた四匹と三人は微笑しつつ酒を交わした。


「いつも通りで安心したぜ」

「でもまぁ、アレだ。お前のイカレ精神が元からじゃなくて安心したぜ」

「きっと元はそこらの人間のように良い娘だったんでしょうね……」


 バインパイア呟くとメンタも自身のことなので頷いて語った。


「あはは、そりゃあ昔の自分がまともだったってことは、自分でも自覚してますよ。昔からパル姉は女神みたいな人でしたから、オレも自分の持つ全てを惜しみなく使って勉強、運動、人間関係、習い事、内面、外見、その他諸々を磨きパル姉の妹として恥じぬようにしていました。学校では複数の意味で神童扱いでしたし」


 出来た姉を持つ妹の大体はひねくれて育つ。勉強から生活態度まで全て比較されて育つため奮起するのは馬鹿馬鹿しくなって適当な人生を歩むのが普通だ。

 その点でメンタはパルの事が好きでたまらない性格のため、せめて姉の足を引っ張らないように同世代の子の何十倍も努力した。表では教師に評価され、裏では家族の厳しい視線に耐えつつも姉の背を追いかけていた。

 逆にパルはそこの辺りは無縁に生きており、褒められて当然の人生を歩いている。


「あんた何気に出来ないこととかなさそうよね」

「おぬし、今からでも遅くは無いから少し性格を直したらどうだ?」


 ガシャポンドクロたちに問われ、メンタは笑いながら否定した。


「無理ですよ~。デスゲ内であんな事されたんですもん」

「…何されたか、って聞いても大丈夫か?」


 枢が問うとメンタは笑いを苦笑いに変えた。


「抉りますねぇ。まあ皆さんよりは重くないですよ?」

「11歳の時にデスゲやってたってだけでも十分重いわ」

「それで、何されたんだ?」


 魔理沙が促すとメンタは酒を注ぎつついつも通りのマシンガントークで進めた。


「いや、デスゲ開始1か月で幾度となく裏切られただけですよ。ある時は魔物の餌にされ、ある時は一服盛られて、またある時は戦闘中に後ろから焼き殺され、最後は闇ギルドに掴まってそれこそ拷問死みたいなのを何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度もされました。見た目は大人でも中身は子供ですから利用しやすかったんだと思います。あ、でも強くなってから裏切ったゴミ虫クズ豚共も闇ギルドの奴等も裏切られたオレを見て嘲笑ってた奴らもちゃんと消して復讐は終わったものの、腹の虫がおさまらなくて片っ端から幸せそうな顔してる人を襲ってました。そうそうパル姉がログインするまで気づかなかったんですけど、町では『血濡れ妖精ブラッディ・エルフ』とか呼ばれてたんですよね。キャラ自体もエルフの種族でした。武器は短剣二刀流です! いや~、あの時は噂の根元の最前線の奴を物理的に切り刻んじゃいましたよ」


 なるほど、とメンタの今を納得する反面で彼らは叫んだ。


『重いわ!!』


 だがメンタにしてみれば『殺す』以外は普通のプレイヤーだった。


「デスゲ内には漫画やアニメもありましたから、それで精神保っていたと言っても過言ではありません」

「なるほど、腐に染まったのもそこらへんが理由か」

「……腐はパル姉のおかげでもあるんですけどね」 


 そのあからさまな地雷に全員の表情が凍り、てゐだけが繰り返しを要求した。


「りぴーとあふたみー?」

「……腐はパル姉のおかげでもあるんですけどね」

「……マジ?」


 はい、とメンタは答えて懐かしむように天井に眼を向けた。


「パル姉がオレを助けるために自分からデスゲームに突撃してくれたあの運命の日、デスゲームによって死んだイカの眼をしていた俺をハイライトの消えた女の子にしてくれたのは紛れもなくパル姉ですよ。精神的にも壊れかけていたオレの無茶振りを全てこなしてくれたパル姉のおかげで俺は腐に目覚めることが出来たのです!」

「良し、あの娘が腐ってないことだけは分かった」


 加えてメンタの目はデスゲーム以前ならばハイライトがあったという事実が判明した。


「あの娘が腐っていたらこの世の女は全員死んだも同然よ」

「ちなみにその無茶振りは何させたんだ?」


 確か、とメンタは告げて思い返す。


「最初の頃は精神が不安定状態でまともに起き上がることも難しく、食事とか水も喉を通らなかったのでパル姉が口移しでやってくれましたね。他にも宿屋を貸し切りにして一日中裸エプロンで看病して欲しいとか冗談で言ったら羞恥に耐えながら本当にやってくれました」


 メンタが茶化すように言うが周囲の反応はまるで違った。特に想像豊かなてゐや霊夢、魔理沙、諏訪子、神奈子たちはパルならばやりかねないと考えてちょっと妄想し、一斉に酒やら血やらを吐き出した。


「ゴブハッ!!」

「ブハッ!」

「むぐぅ!?」

「ばぶぅぅぅぅぅぅぅううううううう!!」

「ぶふぅぅぅぅぅぅぅううううううう!!」

「げほっ! げほっ!!」

「あの娘……どこまで献身に……くっ!」

「色々納得したわ。色々と……」


 加えて聞き耳を立てていた枢は一度パルを見て脳内で裸エプロンを想像し、ハート形の鼻血吹いてノックアウトした。


「そ、そこらへん、もっと詳しく!」

「良いですよー」


 てゐに食いつかれてメンタは機嫌よく続きを語り出した。



 一方でパルたちはメンタたちから離れた場所でレリミアを膝枕で慰めていた。


「よしよし」


 パルは頭を優しく撫でて落ち着かせようと試みるが傷はかなり深いようでレリミアは呻いて泣き続ける。


「ううっ……ぐずっ……あんなクズ野郎に靡くとか……一生のふかきゅ……」


 しかも若干酒も入っているため女々しさも数倍になる。

 それを見ていた早苗が度数の高いお酒を飲みつつ小さく零した。


「羨ましい……」


 すぐに気が付き、早苗は我に返る。

 ――はっ!? いやいやそれよりも話を進めないと!


「早苗がして欲しいなら後でやったあげるから今は待ってね?」


 口に出ていたことを恥ずかしいと思いつつも早苗は小さく呟いた。


「……お願いします」


 早苗が言おうとしていた展開を咲夜は予想してパルに問う。


「ところでレリミアさんは今後どうなるのかしら?」

「枢さんから聞いた話だと陰陽師の所で生徒たちの修行相手になるらしいよ。レリミアさんの方はボクたちの方で引き取ることになったんだ」

「ということはメイドさんになるの?」


 早苗の疑問にパルは確かに頷いた。


「そうだよ。咲夜とレミリア様にはもう伝えてあるって紫さんが言ってたよ」

「それなら安心ね」

「うん!」


 頷くと同時くらいに先の話で噴いた諏訪子と神奈子の酒が飛んでくる。早苗はともかくとしても膝の上にレリミアを乗せていたパルも動くことが出来ずに頭から酒を被った。


「うわわ!?」

「きゃっ!? って、諏訪子様と神奈子様!!」


 その二人はメンタに詰め寄ってしまい、早苗の怒声も聞いていない。


「と、とにかく拭いてください!」

「タオル持ってきますね!」


 妖夢とイナバが素早く手拭きを使ってパルと早苗を拭き、レリミアも起き上がって不快そうな表情で顔を拭いた。


「ありがと~」


 一番多く被弾したパルは着替えを余儀なくされ、それなら風呂に入ってしまおうと藍が提案して彼女たちはメンタたちに悟られないようにコッソリと浴場へ向かった。





 緋色の月にも生物が住んでいる以上、都市や城がある。月面都市アンバルディアの城では偉そうな彼女が椅子にふんぞり返って苛立った表情で兎兵士たちの報告を聞いていた。


「ほう、で?」

「で、ですから闘技大会にて道真殿は死亡し、レリミア殿たちも洗脳を解除され、幻想郷の結界はゆか――いえ、女狐によって張り直されました」

「つまりぃ、私の大事な大事な生涯を五年もかけたのに成果ゼロ……そう言いたいんだな、オイ」


 兎兵士たちは答えずにお咎めだけを待つ。


「クズが! ざけんな! お前等も揃いも揃ってクソじゃねぇか!! あまつさえ一人も捕えず討てずでおめおめと帰還しましたとか何考えてんだクソ兎野郎!!」


 怒声も兎兵士たちは慣れた様子で嵐が通り過ぎるのを待つ。

 そこで扉が開き、早次の報告が飛んできた。


「報告します! 西の神殿の結界の罅が拡大し、もう間もなく崩壊する兆しを見せております!」

「ああああああああああ!! またか!!」


 彼女は非常に怒り狂い、しかし封じておかなければいけないため立ち上がった。


「荒れているな、豊姫」


 扉から灰色のフードローブを被った中性的な声色をした人物が現れ、彼女に問いかけると彼女は意外にも怒りを修めた。


「ああっ!? ……なんだ、お前か」

「次のフェイズが整った」


 ほう、と彼女――豊姫は目を細めた。


「あと10年と聞いていたが……随分早いな」

「思っていたよりも結界がザルだったのでな。ああ、それと――」


 灰色の人が畏まっている兎兵士たちの隊長を一瞥し、告げた。


「依姫の居場所が分かった」


 それには豊姫も興味深そうに笑った。


「――へぇぇ、何処よ?」

「幻想郷」


 兎隊長は体を振るわせて、顔が上がりそうになるのを必死に堪える。


「幻想郷、ねぇ。……オイ、お前」


 豊姫はそんな兎隊長を見下した。


「……はっ」

「次の作戦指揮はお前がやれ。そんでもってあいつを縛って来い。抵抗したら手足ぶった切っても良いし人質でも取れ。良いな?」

「――はっ」


 その声は僅かに喜色を伴っており、しかし小さすぎる返事に豊姫は切れた。


「聞こえねぇよ! このクズ兎!!」

「ハッ!」


 兎隊長は大きく返答を返して素早く踵を返した。


「此方へ」


 灰色の人が兎兵士たちを促して退出し、残された豊姫は外聞問わずに声を荒げた。


「ちっ、どいつもこいつもクズばっかだな! さっさとあのクズ妹を見つけないとオチオチ昼寝も出来ない。ケッ!」


 この言葉は誰にも聞こえることなく、彼女は王を気取り続ける。



 場所は変わって、灰色の人が保有する飛空艇の一室にて兎隊長は次の行動を打ち合わせていた。


「災難だったな」

「……いえ。しかし……何故、依姫様が幻想郷に……」


 灰色の人は一つの映像を兎隊長に見せる。その映像は灰色の人が独自に幻想郷に飛来させている使い魔の一体が見た映像だ。

 移っているのは紅魔館と薄紫色の髪をポニーテイルに結んだ少女と赤毛巫女服の少女だ。戦闘は激しさを伴っているがある時を境に映像は止められた。

 神纏。それが出来るのは依姫だけだ、と灰色の人は知っている。


「私とて偶然発見したに過ぎない。それに言っただろう、次のフェイズが整ったとな」

「では――」

「逸るな。あやつに情報を伝えたのもお前を幻想郷へ送り込むためだ。それに彼女たちにはもっと強くなって貰わねば困るからな」


 灰色の人がそういうと兎隊長は耳を垂れて畏まり、膝を付いた。


「分かっております。全ては依姫様のために」

「いずれ月を滅ぼすために――」


 灰色の人が兎隊長に作戦を伝え、彼女は退出した。

 作戦が艦内放送で告げられると船内は一気に騒がしくなり、灰色の人は放送を切って防音を強化した。

 ここは月面。外を見れば外縁部から地球や火星、太陽を見ることが出来る。中でも地球は月面からそう遠くないため一番視界に入りやすい。


「欠けたピースはやがて集まり、人知れずの楽園で大きな歪を生み出す。今麗らかな一時を過ごし少女たちは近し時に月光の元に集いて彼の者を討つだろう。時に孤独な王女は何からにも囚われず何を知ることもなく怠惰を傍に置いて永遠を過ごす。やがて生まれながらに業を背負わされた王女はこの地に舞い戻る。彼の者を討ち果たした時そこに汝の姿ありきか――」


 と、嘯いて灰色の人はローブを取って素顔を晒し、金色の髪の毛が僅かに揺れて垂れる。


「なんて予言は似合わないな。未来は誰のモノでもないけれど、誰の手でも書き換えられる。月と君を今の姿にしたのは君だったな、依姫」


 彼女が視線を向けた先にあるのは神殿だ。そこには依姫の本体が閉じ込められており、今は豊姫が必死に押さえつけているのが見て取れた。

 その様子を彼女は船内から見守っており遠く離れている依姫に向かって言葉を紡ぐ。


「抜け殻に言ってもしょうがないのは分かってるんだけどさ……。流石に五年も愚痴る相手がいないのは暇でね。私の神様も幻想郷で昼寝してるし」


 はぁ、と彼女は溜息を吐いて視界を切り替える。


「さて、私も次のフェイズに行くよ。いつかその身に禊が訪れ、浄化の義によって身に纏う邪気が払れんことを。私たちには貴方が必要だから――」


 それだけを虚空に残し、彼女はベッドに倒れ込んだ。

 

 近く、彼女たちは幻想郷を来訪する。




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