第四十三話 スペルカードバトル
グラたん「第四十三話です!」
霊夢たちは博麗神社の参道付近に出て、周囲には人払いの結界を張って準備を整えつつ作戦を立てていた。
「さて、誰が誰を相手する?」
「メンタは私が相手するわ。運動不足の解消も兼ねてね」
まずは霊夢が立候補し、問題無く通る。
「ならこっちはその他とやるか」
「うん。でも向こうは式神を使うから人数多いよ?」
向こうはフールエンリルたちを含めて六人。此方はパルを含めても二人。
「問題無いぜ、あの程度相手なら遊ぶようなもんだ」
「そうかな?」
魔理沙の余裕にパルは少し警戒する。
「何か危惧することでもあるのか?」
魔理沙は少々訝しんで聞くとパルは心配そうに答えた。
「だって……メンタが入れ知恵している人たちだよ。不意打ち上等とか言ってもおかしくないよ」
「良く分かっているわね」
「妹だからね」
そこは自信満々に答え、霊夢たちを呆れさせた。
「開始前から警戒して置けば大丈夫だよ……ね?」
「そうだな」
それでも普段のメンタを知っているため不安が拭えなかった。
少し離れた所ではメンタたちも人払いの札を張るのを協力しつつ作戦を練っていた。
「まともに戦ったら勝ち目はない」
シンの至極当たり前の意見に枢も頷いた。
「現役の妖怪退治専門家が相手だ。常套手段では、な」
含みのある言い方に自分の性格をよく分かっているメンタは答えた。
「不意打ちは読まれていますよ?」
「だろうな。何せお前の性格は初見殺しではあるが一度知られればそれで終わりだ」
言外に黙っていれば美少女なのに……と言っており、メンタもそれを感付いて顔を顰めた。
「乙女に向かってそれは酷いです」
「悪妬雌の間違い」
「あ、それ良いですね。貰います」
二人の軽口を見計らい、枢は策を言う。
「でだ。これは策の一つなのだが、メンタは霊夢さんを、俺はパルさんを抑える。その間に五対一で魔理沙さんを倒せ。出来るな?」
今回は何方にしても時間との勝負だ。枢の予想ではそれで魔理沙は倒し、次に霊夢を倒せば良いと思っていた。その中でも戦闘力の低そうなパルならば自分でも抑えられるだろうと最大の勘違いをしているのだがメンタもそれに気付かないため、誰も気が付かずに会話は進んでいく。
「自信がありませんか?」
「……うん」
「いや、言い方が悪かったな。やって貰う」
枢の強制的な言葉にメンタはニヤリと笑った。
「スパルタですね~」
「大会の本選では同程度……とは言わないが、相応に強い相手が出てくる。せめて一人前の陰陽師と互角くらいの実力がなければ優勝など到底不可能だ」
一人前の陰陽師は下位妖怪を倒せる程度の実力があれば良く、上位妖怪及び最上位妖怪とも戦える魔理沙を例え五対一でも倒せれば優勝は狙えるだろうと考えていた。
「シンには厳しいことを言ってますが事実ですね。やれますか?」
シンもそれを理解し、しっかりと頷いた。
「……やってみる」
「相手が相手ですから勝てないと思うのも仕方ありませんよ」
そうだな、と枢は首肯し、メンタは右手を上げて音頭を取った。
「では、行きましょうか!」
「おー!」
人払いも終えた所でメンタは霊夢と共に空中の高度6000mへ上がり、両者ともに弾幕を構えた。
「作戦は決まったのかしら?」
メンタは定石通り辺り一面にスペルカードを放出し、設置していく。
「まあ、そうなりますね!」
メンタのスペルカード、速符「音速不可視の援護」が飛び、ステルスが解けて実弾となり霊夢に迫った。
霊夢はそれを予期したように上空に上がって避け、それを追撃のスペルカード、連符「追撃する星船団」が追いかけていく。このスペルカードには追尾性があり速度も300kmくらいはあるため普通の敵は避けて他の障害物に当てるのだが、霊夢はスペルカード、龍符「連続玉」を前方に投げて相殺して見せる。
「そんな攻撃じゃ当たらないわよ」
余裕の表情でメンタを煽り、メンタは右手を伸ばしてみせた。
「天才系ってつくづくムカつきますね……能力発動!」
「――っ!」
霊夢は大きく距離を取り、防御用のスペルカードを取り出して周囲に素早く張って薄い青色の膜を広げた。
「防符「結界陣」!」
――そういえば隔てり越しに試したことはありませんでしたね。
今までのメンタは相手を視認して発動しており、壁一枚を隔てては試したことがなかった。
両者が膠着し、どちらも攻守を譲らずに力を籠める。
――手応えはありますが……抵抗力が強いですね。それに加えて結界陣によって地道に防がれています。代わりに霊夢さんでも抵抗するのが関の山で他までは手が回りませんか……それはオレも同じですが。
対して霊夢は余裕そうな表情とは裏腹に頭部の血管がはち切れんばかりに力を入れて必死に抵抗していた。見えない攻撃に抵抗するのは一度や二度では無いが、メンタの能力はそれらと比較しても強力な能力だ。
――ぐぐぐ……結界陣を突破して干渉してくるなんて極悪な能力ね! これだから精神系の能力者は! でも――。
霊夢は防御をしたまま近接攻撃に入り、メンタは嫌そうな表情で応えた。
「げっ! 接近戦ですか!」
「精神系の弱点は攻撃されれば意識が次の動作に向いて能力を発動できなくなる! 憶えておきなさい!」
霊夢が拳を突き出し、躱されるのを見越して寸止めして空中回し蹴りをメンタの延髄に叩き込もうと足を回した。
――が、それは予想の範疇ですよ!
メンタもその程度の対抗策は読んでいるため拳を避け、狙って来た右足に対して自身も上段蹴りをかまして相殺する。
「はっ!」
霊夢は攻撃の手を緩めずに更に蹴りを繰り出し、メンタもそれに応じて二撃、三撃と蹴りを入れていく。霊夢は四度目の相殺を受け、勢いの乗ったまま前方を蹴ってメンタと距離を離し、思いっきり足を高く上げて渾身の踵落としを繰り出した。
メンタは間一髪、両腕を交差して受け止め、霊夢は続けてもう片方の足を蹴り上げてメンタの顎を蹴り、宙返りした。
「うぐっ!」
一瞬の隙を逃さず、霊夢は必殺の技を繰り出す。
「隙あり! 龍符「龍命葬」!」
札から巨大な電撃の龍が奔り、一瞬だけ脳を揺らされたメンタは反応を鈍くして下降、そのまま空中を逃げていく。雷撃が迫って来る僅かな時間で呪符を取り出し、対応する。
「呪符「電流逸」! 呪符「水流反」!」
一枚目は電気を左右に広げて電撃の流れを調整し、水を使う事でより効率良く受け流しを図る。
――ここが攻め時!
それが霊夢の思うツボだとしても迎撃しなければ悪手だった。
霊夢はここぞとばかりにスペルカードを展開してメンタに向けた。
「白符「滅却波」! 黒符「六芒星」! 四神符「清青龍」!」
白い波が、黒の六星が、青龍を模した大気の熱が飛ばされてメンタに迫った。
それを見てもメンタは慌てずに迎撃する順番を決めて最適解の札を投げる。
「定符「定められた斜弾導」! 防符「自己防衛の金木犀」! 狂符「歪な空間は次元を超える」!」
波を物理弾幕で乱し誘導し、誘導弾六発を防御し、熱には熱量をぶつけて相殺する。
――ですが、これは布石! この後には必ず大技が来ます!
「夢想封印!」
霊夢の最大の切り札が最大出力で放出され、メンタを消し炭にしようと上空から降り注いだ。迎撃に手を取られていたため回避することは出来ず、防御も一手遅い。
ともなれば一手で反撃して相殺する必要がある。
「やはり来ましたか! ならば、これで! 倣符「完全無双の模倣」!」
敵の攻撃を完全に真似して相殺するメンタの切り札の一つが切られ、しかし迎撃するには敵の攻撃の構造を全て理解する必要があるため拮抗は一瞬だけだ。
「うっ……!」
その一瞬でメンタは回避し、僅かに掠って夢想封印は消えていく。
霊夢も手を叩いておどけてみせる。
「あら、やるわね」
「きっついですねぇ……」
メンタが一呼吸し、霊夢が半回転して接近して裏拳を見舞う。
「でも休む暇は与えないわよ!」
「そうですよね!」
裏拳を掌底で弾き、肘鉄を蹴り上げ、頭突きを頭突きで相殺し、拳をお互いに顔面で受けて涙目になる。
メンタはそこで止まらずに目潰し、急所突き、首外しを繋げて、霊夢が全て避けるのを見計らって膝蹴りを繰り出し、受け止められて掴まれる。そのまま遠心力を利用して背後に回って首噛みをする。
肉をこそげ取られ、続いて肩、二の腕、巫女服ごと腰肉まで食われてようやく引き離す。メンタは顔を上げることなく自由落下し、追撃に備えて上空に向けて目くらましを放出して体勢を立て直す。
戦闘において妖怪にも噛み付きを行う輩はいるが、大抵はその前に夢想封印の餌食となる。霊夢に噛み付きを出来るのは、肉を抉り取るという意味では他ではレミリアくらいだろう。
メンタは口に溜まった肉片を吐き出し、血みどろになった鋭い鉄の歯ごと捨てて犬歯を剥きだして笑った。
それを見て霊夢は不敵に笑い、内心で焦る。
スペルカードの勝負では事前に枚数を言い合い、その枚数全てを攻略した方が勝利するというルールがある。メンタと霊夢が言い合わないのはお互いが実際に使う札の枚数を知っているからだ。
霊夢もメンタもラストスペルを含めて同数の18枚。しかし二人はどれがラストスペルなのかは言わない。しかしラストスペルには強力かつ相手に致命打になるものを用意しなければならないため、霊夢は必然的に夢想封印一択となる。対してメンタはラストスペルが必要になるまで戦闘を長引かせない。
霊夢はメンタのラストスペルを見た事が無いのだ。
よって勝負は毎度霊夢が夢想封印を使った段階で不利となり、そこで勝負はついてしまう。ではその先の勝負は何かというと――ただのお遊びだ。命を掛けたという前提条件はあるが……。
一方で地上にいる魔理沙は既に召喚を終えているシンたちを見せ笑んだ。
「五対一か。パルの方に数匹行くと思っていたんだが当てが外れたぜ」
余裕もしくは格下と見られていることは何らおかしい事では無いが、それは同時に油断でもある。事実、魔理沙は油断していた。
「皆、行く」
シンが開戦を告げ、四匹も同時に動き出した。
「おう! 俺たちが前で抑えるぜ!」
「行くわよ!」
「ガシャとシンはスペルカードを!」
「任された!」
フールエンリルとインアンドセクトが前衛に出て敵を抑え込み、バインパイアが遊撃、ガシャポンドクロとシンは後方支援という形で戦闘は始まった。
「先手を打つ。術符、拘束」
メンタに教わった術符、拘束。今回は豊富にある土を変化させて伸ばし、魔理沙を捕まえようと迫る。
「おっと! 悪いが私の領分は空中戦だぜ!」
魔理沙は数歩走って箒に跨り、空中へ飛んで行く。
「空中戦は足場変化が無いから苦手なんだがな!」
フールエンリルとインアンドセクトが先に追撃して空中に上がり、バインパイアも蝙蝠のような翼を広げて空中に飛んで行く。
地上に残ったガシャポンドクロも飛翔しようとして、シンがいることを思い出した。
「シンは空中戦は出来るのかの?」
「そもそも飛べない」
人間飛べたら苦労しない、という言葉がある。
そうか、とガシャポンドクロは呟いてシンの正面に座った。
「ならば助力してやろう。フールエンリルたちが時間を稼いでいる間に習得してもらうぞ」
「どうやって?」
シンが首を傾げるとガシャポンドクロはニヤリと笑って自身のコイン投入口を指差した。
「――課金だ」
ガシャポンドクロの能力はガシャポンを引き、相手に攻撃することだが能力を対象に付与することも出来、能力を重ね掛けすることも出来る。
今回必要なのは『飛翔する程度の能力』『対象に定着する程度の能力』『空を自在に飛ぶ程度の能力』『平衡感覚が優れる程度の能力』等々が必要となる。
課金。それは人によって受け取り方が違う言葉であり、現代社会の命題の一つ。
『課金したら負け』『課金勢にはなりたくない』『所詮はデータ』と否定的意見が多いが、逆に『これはガシャを回しているのではない。俺は社会を回しているんだ』『課金はサービスの一環。食事と同じ』『無課金は金が無い奴の言い訳』等々、肯定的な意見も多い。
さて、少し話は変わって東の陰陽師院では生徒たちによる『陰陽購買部』というものがある。主に嗜好品やゲーム、漫画等の娯楽商品を販売している部活だ。その売り上げの一割は陰陽師院に納めなければならないがその他については自由となっている。そこに集まるのは生徒だけではなく教師たちも時折巡回という名目で立ち寄って買っていくことが多く、陰陽寺院内で十二姫の次に勢力の強い団体だ。
嗜好品を買うためのお金は何処から出てきているのか。主に親からの仕送りから調達したり教師から夜間の警備を承ったりして稼いでいる。
では、その陰陽購買部で稼いだ資金の行先はというと寺院設備の改良や寮の食費、次年度の奨学金や嗜好品を入手するためのルート開拓に使われている。
シンもお世話になっているためメンタの手伝いや枢のお遣いなどで稼いでおり、貯蓄もそれなりあるが自身への投資はしたことがないため少々迷ったが、空中戦闘が出来るようになることを考えれば課金してもおつりがくると考えて財布に手を掛けた。
余談だがガシャポンドクロは自分が使う分には無料だが、他人から課金されると課金された分だけ強くなるという特性がある。
一回100円を千回近く回し、シンは心身ともに息絶え絶えになりながらも能力を取得することに成功し、財布は寂しくなった。
空中では魔理沙が三匹と交戦しており、基本的に避け、逃げながらの戦闘となっていた。
「そらそらそら!」
フールエンリルが正面から殴り、爪で切り裂こうとして襲い掛かり、魔理沙は避け、時にはバレルロールをしながら逃げつつ攻撃も加えていく。
「おっとと! 当たったらヤバそうだな! 恋符「ミッドレーザー」!」
星を纏ったレーザービームが直線で飛び、フールエンリルに当たる寸前でバインパイアが弾幕を広げてフールエンリルの前に立った。
「闇符「姿隠し」!」
レーザービームを透過してやり過ごし、魔理沙は舌打ちした。
「おうおう、厄介なことしてくれるぜ!」
正面を見ると回り込んだインアンドセクトが重密度の弾幕を魔理沙に向けて放った。
「蟲符「黒光り」!」
全て黒く輝いており、よくよく見るとカサカサと飛び動いているのが見え、その正体を知って魔理沙は全力で降下した。
「――黒? 違っ、それ、ゴキブリじゃねぇか!!」
人間の天敵、台所の魔王。Gには追尾性が付与されており、音速近いスピードで魔理沙を追いかけていく。
「ゴキブリの飛翔速度は昆虫界の中でもかなり早いのよ!」
「ざっけんな! よりによってそれを選ぶな!」
「相手が嫌がる攻撃は有効打の証拠よ!」
その通りであり、魔理沙はマスタースパークを撃とうと木札に手を伸ばした。
「くっそ! 恋符――」
「おっと! そうはさせねぇぜ!」
追いすがって来たフールエンリルが爪を振るい、伸ばした手を箒に戻して驚く。
「っ!? さっきよりも早い!」
先程の二倍のスピードで魔理沙に迫り、フールエンリルは獰猛な笑みを浮かべて追いかけていく。
「ハッハッハ! 行くぜェェ!!」
ドンっと大気を振動させるような音に魔理沙は舌打ちして言い当てる。
「身体強化系か!」
「前はいう暇なくやられちまったが今回は言えるぜ! 俺の能力は身体能力を倍速で上昇させる程度だ! 時間が経過すればするほど俺ァ強くなる!」
「チィ! 面倒な!」
――だが戦闘中ずっとな訳がないはずだ。何処かにリセット条件は必ずある。それを見付かないとな。
フールエンリルの能力は10秒に一回ずつ身体能力を倍増させることが出来、強い代わりに敵の攻撃を一度でも受けるとリセットされる条件がついている。そのため手数が多い敵は苦手であり、バインパイアやインアンドセクトが透過したり迎撃してくれなければ真価は発揮できない。
「速符「四連星」!」
魔理沙が札を向けると四つの星がフールエンリルに向かって放たれ、十分に強化されたフールエンリルはそれらを見切って躱し、迎撃していく。
ちなみにフールエンリルの当たり判定は結構曖昧であり、攻撃されたと認知しなければ能力解除には繋がらない。
「当たらねぇなあ!」
「こっちもあるわよ! 行きなさい!」
勢いに乗って来たインアンドセクトが今度は大量の蜂を放出し、魔理沙は全力で逃げ始める。
「げっ! 蜂か!?」
「赤足長スズメバチよ。刺さったらあの世行きと思って良いわ」
くそっ、と舌打ちし、その背後に音も無く回り込んだバインパイアがいた。
「よそ見厳禁よ」
その首と頭を掴み、首に牙を突き立てて吸血する。
「ぐあ!」
「んー……っと」
吸血は一瞬だけで良く、魔理沙が体を回転させる頃には距離を置いていた。
「このっ!」
バインパイアは不敵に笑い、告げた。
「ふふふ、私の能力は吸った血によって強さが変わる程度よ。さて、貴方の血はどうかしらね?」
「恋符「マスタースパーク」!」
魔理沙の切り札が発射され、魔理沙の血によって強さが変化したバインパイアは悠々と避けて見せる。
「あはは! 当たらないわよ!」
バインパイアの能力は自身の身体能力×対象の血(身体情報)となり、吸った血が強ければ強いほど自身も強くなる。普段はフールエンリルの血を吸って強化するのだが敵が充分弱っていたり足止め出来ていれば血を奪うことも出来る。
――くそ、予想よりも厳しいぜ。攻撃しようとすればフールエンリルが止め、隙が出来ればインアンドセクトが埋めるように攻撃し、大きく避ければバインパイアが背後から強襲する。正直、舐めてた。手強いぜ……。これでガシャポンドクロとシンが加わったら――なんて考えたくもないな。ともかく一人でも多く倒しておかないと――。
と、そこへ下方から火球が飛んできて、箒を持ち上げるようにして避け、体勢を立て直す。
「危なっ!」
「待たせた」
本来であれば空中に居る筈のないシンがおり、10万円分課金されて第三形態まで至ったガシャポンドクロがガシャポンを片手に立っていた。
「遅いぜ嬢ちゃん!」
「思ったより引きが悪くて手間取った」
「フォフォフォ、久しぶりにこんなにたくさん引いて貰えたからのぉ。どれ、今回は少々派手にやろうか!」
シンとガシャポンドクロが参戦したことにより、厳しかった魔理沙は確実な敗北を予見した。
――悪いな霊夢、パル。こりゃぁ……負けるぜ。
「行く!」
五対一という状況になる前、戦闘が開始した時点でマスタースパークを撃っていればこんなことにはならなかっただろう、と魔理沙は遅まきながら考える。
魔理沙が撃墜したのはそれから十数分後の話だった。
地上の魔理沙たちから少し離れた場所ではパルと枢が対峙していた。
「何時でも良いよ」
パルはいつもどおり鮪包丁を片手に構え、対して枢はパルとの実力差を図りかねていた。
――さて、どうするか。パルさんの手持ちはあのでかい刀のみ、近接型か? それともフェイクか……何にせよまずは術符で様子を見るか。
「行くぞ! 術符・火炎!」
枢の最も得意とする術符をパルに放ち、手を休めずに次を投げた。
「術符・連射!」
それをパルは鮪包丁の先端で逸らし、左右に退けて見せる。
「マジか…」
「全力で来ても良いですよ?」
パルは空いている左手を空に向けて、指先だけ自身に向けて挑発する。が、枢はそれだけで実力差が図れてしまい降参したい気持ちに襲われていた。
――今ので分かった。パルさんは俺たちとは次元が違う……勝てないな、これは。
だがそれで諦めるかとそうではない。勝てないからと諦めていては陰陽教師の名が廃るし、パルにも失礼というものだ。
「全力……で、行くぞ」
「うん、どうぞ」
枢に出来るのは最大限敬意を込めた最大出力の無駄な抵抗だけだ。
枢も滅多にしない全力の術符放出。その数は五百枚を超えており、普通の陰陽師であれば天武の才と言われてもおかしくない領域の数だ。
それら全てが火球の術符であり、呪符を使うことによって威力を向上させてパルの上空に球体が出現する。
「カァァァァァァ!!」
加えて威力強化と速度上昇を付与した本気も本気の攻撃だ。下位妖怪であれば消し炭、上位妖怪なら耐えられ、最上位妖怪も火傷くらいはする。
「ふふっ」
火球が落ちてくる中で、パルはそれを見て笑い、枢はあまり余裕がない中でその笑みを見てしまった。
パルは鮪包丁を天高く掲げ、火球を見もせずに体内に留めていた気を鮪包丁から上空に向けた放出した。
「覇斬!」
二つに斬るのではなく火球を飲み込んだ消滅。桁違いの出力が火球を消し飛ばし、全力を使い果たした枢は膝を付いてパルを見ていた。
「今のが全力?」
枢の人生の中でも一、二を争うくらいの攻撃を容易く消して見せた彼女を、枢はもう笑うしかなかった。
「ああ……。降参だ」
――シンにあれだけ偉そうなことを言った手前、合わせる顔が無いな……。
そう考えつつ立ち上がり敗北を宣言しようとするとパルが告げた。
「んー、枢さんならもっと出来そうな感じもするけどね」
格上からの助言に枢は笑みをこぼし、否定した。
「今の俺が出来るのはここまでだ。……もう一度修行し直すかな」
そういえばもう長いこと教師の仕事ばかりしていて修練を重ねていなかったな、と枢は考え、パルもその気配を読み取って微笑んだ。
「それだったらここでやろうよ! その方がボクも楽しいし!」
主に自分の為だったとしてもやってくれるのであればこの上無い相手だろう。枢は少し迷ったあとで頷いた。
「……分かった。頼む!」
――今の俺に出来ること……いや、俺も強くならなければ……何も守れはしない。メンタにもシンにも置いて行かれたくはないからな。
枢は術符を構えつつも体術の構えを取り、パルも鮪包丁を下段に構えた。
「それじゃ~、行くよ?」
それが聞こえた終わった時には枢は空を見ており、空中で戦っていたメンタたちも一時そちらに眼を奪われてしまった。
枢の体はズタズタに切り裂かれており、上空から落ちて来た時は錐もみ回転していた。
「ぶべらっ!」
「うわぁ!? ど、どうしよう!!」
地面に頭から激突し、手加減していたパルは目を丸くして驚き、紫に助けを求めていた。
博麗神社の居間に戻って来たメンタたちをパルは手当てしていた。そこには救急箱だけでなく輸血パックや医療用の包帯、八意製薬のお薬まで用意してある。
「あづづうううううう!!」
打撲や噛み傷を食らった霊夢が消毒液を掛けられて酷く叫ぶ。
「貴方も馬鹿ねぇ」
紫がお茶を飲みつつ呆れ、隣ではR18も厭わない姿になった枢が叫んでいる。
「ぐああああああああ!!」
「何故こんな無茶した……」
比較的ダメージが少ないシンたちが枢と霊夢と押さえつけ、魔理沙もオマケで押さえていく。
「それにしても五人掛かりとはいえ、魔理沙さんを倒すなんてやりますね」
霊夢の陰陽玉やルール無視の夢想封印の連発を食らってボロボロになったメンタがシンを褒め、シンもフールエンリルたちを褒めた。
「フールエンリルたちのおかげ」
「ガハハハッ! 五対一ならこんなもんだぜ!」
「ま、上々の戦果ね」
そうですね、とメンタも笑う。
「何にしてもこれならシンは大丈夫そうですね。犬ッコロたちもこれで役に立たない愚図だったらどうしてくれようかと思ってましたよ~」
ただし棘に猛毒を含んだ言い方をされ、フールエンリルたちも閉口する。
「笑えねえ」
「うん」
「式神も最大で五匹まで出せるからな。あづづ……」
薬品を頭から掛けられてようやくテレビ放映が許可される姿になった枢が起き上がり、パルが諫める。
「結構深い傷なんだから動いちゃ駄目だよ」
「その傷付けたのパル姉ですけどね」
メンタの突っ込みにパルも首肯して続けた。
「うん……思ったより手加減が難しくて……」
人類相手に手加減するということ自体おかしい、とシンは思うが沈黙して置く。
「ちなみに枢さんはパル姉にどこまで対抗出来たんですか?」
メンタの酷な問いに枢はそっぽ向いた。
「……聞くな」
「惨敗だったよね」
パルが何てことないように笑んで答えると枢が後ろに倒れて泡を吹いた。
「ぐぅ……」
「パル姉、そうやって無自覚に心の傷を抉るの止めてあげてください。見ているこっちまで痛々しいので。まあ事実ですけれど」
少し笑いがあり、霊夢がメンタに向かった。
「ともあれメンタもシンもまだまだ修行不足よ。特にメンタ、あんたは今日から毎日ここにきて私と稽古よ。その訛っている腕で公式戦なんか出せないわ」
訛っていると言うが単に霊夢が稽古の相手が欲しいだけであり、メンタも解って頷いた。
「何時にもなくやる気だな」
魔理沙が聞くと霊夢は尤もらしい理由を付けて答えた。
「こんなのでも私の教え子で博麗神社の看板娘なのよ? 中途半端に出して程度が知られるのが嫌なのよ。下手したら依頼も減るかもしれないし」
「地味に打算高いな」
「でもオレも望むところです!」
霊夢にしろメンタにしてもまだまだ伸びる余地があるため紫も微笑み、魔理沙もそんなものかと思う。
「それじゃボクともやってよ、メンタ!」
そして一番メンタが戦いたくない実の姉が手を上げると、メンタは真顔で答えた。
「――遠慮しても良いですか?」
「なんで!?」
パルは本当に理由が分からないで驚いた。
「お前が強すぎるからだろうな。ま、でも霊夢やパル以上の対戦相手は早々いないから良いと思うぜ」
「それはそうなんですけれどね……」
メンタの歯切れの悪い答えに代わり、シンが手を上げた。
「私はやる。強くありたい」
「俺も鈍くなった勘を取り戻すためにも来る」
そんなシンと枢を見てメンタも少し考える。
――なーんか皆さんやる気満々ですね。おいて行かれるのも癪ですし、参加しましょうか。
「分かりました。パル姉、お願いしても良いですか?」
待ってましたと言わんばかりにパルの目は輝き、立ち上がってメンタの手を掴んだ。
「遠慮は無しだよ? さ、戦ろう!」
「え、今からですか!?」
「勿論!」
メンタの後に続いてシン、枢たちも外に出てパルに相対した。
最初はメンタからでありパルは鮪包丁を大振りに振るって顔面を強打した。
「行くよー」
「おんぶれいらっ!」
シンたちにすれば格上であるメンタが何の抵抗も無しにぶっ飛ばされ、博麗神社の外壁を形まで付けて飛んで行き、山の木々を薙ぎ倒す音を聞いて、茫然としていた。
パルは次に枢に狙いを定め、峰で空中を叩いて大気を揺らがした。
「えいっ、えいっ!」
「がふっ、げふべべべべべ!」
枢が、やられ役の雑魚のように吹っ飛んで行き虫の息となる。
そんな二人を見てパルは腰に手を当てて立腹した。
「もう! 真面目に戦ってよ!」
パルにしてみれば戦う間もなく終わってしまっているためつまらないのだ。
「もう瀕死だぜ」
「無理も無いわ」
魔理沙と霊夢もパルの気持ちが分からなくも無いため首肯し、続いてシンたちが前に出た。
「次、私」
「何時ぞの雪辱だぜ!」
「行くぞ、パル!」
「うん、いくよ!」
パルは鮪包丁を地面に突き立て、正面に正拳突きを繰り出して空中に罅を入れ、大気を圧縮してシンを場外にふっ飛ばした。
「げばぁ……」
「へばぁぁぁぁ……」
残る四匹は余波で山の彼方に飛んでいき、姿を消した。
「……もぅ、皆弱いなぁ……」
パルとしてはもっと戦いたいし互角以上に打ち合える人が良い。
「なあこれもうスルトとかに頼むしか対戦相手がいなくないか?」
と、魔理沙が言うと背後にスルトが現れて大きく飛び退いた。
「ふむ、呼んだか?」
「あんたそうやって気配消して出てくるのやめなさいよね」
霊夢も紫に散々やられてはいるが時折心臓を悪くするため、あまりやって欲しくはない。
「すまんな。して、パルよ。どうやら燃焼不良みたいだな」
スルトが問うとパルは振り向き、頷いた。
「もしかしてスルトさんが戦ってくれるの?」
「構わんよ。来い」
スルトが魔剣レーヴァテインを手に持ち、パルも鮪包丁を片手に喜々として飛び込んだ。
「うん!」
二人の姿が視界から消え、何処からか剣戟の音だけが響いて来る。
残された魔理沙はその音を聞きつつ霊夢に問う。
「お前ならアレくらいできるのか?」
「……私も真面目に修行した方が良いかなぁって思いつつあるわ」
要するに出来ないと言っており、当然参加すら出来ない魔理沙は意外そうに驚いた。メンタも霊夢も本気でやればパルと打ち合うことも出来るだろうが、それはほんの一瞬に過ぎない。持って三十秒が限界だろう。
それなら、と紫が霊夢たちの前に立った。
「稽古なら私がつけてあげましょうか?」
霊夢は本当に意外そうに紫を見つめ、首肯した。
「紫……そうね、お願いしようかしら」
普段なら拒否する霊夢が乗って来たことに紫は意外性を感じつつ、良い傾向だと思う。
「あら珍しい。誰に感化されたのかしらね」
「追い上げてくる奴等がいるからだろうな」
「行くわよ」
霊夢が飛び込み、続いて魔理沙もスペルカードを取り出しつつ紫に尋ねた。
「私も良いか?」
「ふふっ、どうぞ」
「よっしゃ! いくぜ!」
上空も地上からも剣戟音と爆発音が響き、ようやく戻って来たメンタたちは地獄絵図だったと後で告げた。
午後になると稽古も一段落付き、パルはメンタを連れて町へ買い物に出かけていた。
今日から数日間、枢たちも寝泊まりするため母屋では全員は入りきらないだろうと考えパルたちが買い物に行っている間に霊夢と魔理沙は紫の協力の元に博麗神社の増築をすることにし、枢やシンたちも扱き使って母屋の背後にある山を広げていく。
その過程でメンタも体験した魔力の扱い方や肉体言語の使い方を学ばされて心身をすり減らしていくことになる。
その切り崩して平らにした山の木々は幻想郷内の別の場所に移動し、植えられるため環境を破壊することにはならない。木材も必要な分だけ切り倒しているため無駄は出ていない。
博麗神社の麓にある町へやって来たパルとメンタは食べ歩きをしつつ買い物を楽しんでいた。服装もチュニックだったり半袖ゴスロリだったりと一貫性は無いが二人は心から笑んでいた。
「こうして歩くのも久しぶりだね」
「そうですね。こっちに来てからは色々とありましたからね」
数か月とはいえ、幻想郷に来てからパルは紅魔館でメイドをし、メンタは巫女仕事や陰陽生として生活している。お互いに会う機会も多く、離れ離れというほど離れてはいないため寂しくは無いが一緒にいる時間は少ない。
「オレがいない間、博麗神社はどうでしたか?」
「ん~、こっちは平和だよ。だけど霊夢が……」
パルは博麗神社のことを話し、メンタはここ最近の陰陽寺院のことを話し談笑する。
そんな折にも無粋な妖怪は来るもので、ガンガンと櫓から銅鑼が響いて在中している陰陽師や戦士たちが一斉に町の外に飛び出していく。
「ボクたちも行こうか」
「そうですね~」
パルとメンタもイベントごとは大好きなので町の外に急ぎ、走りながらギャァギャァと騒ぐ妖怪に向けて弾幕を放った。
「集符「周集斉射する兵士の行進」!」
「罰符「紅魔の奏でる百重奏」!」
マッハ2の弾丸が妖怪たちに当たり、その身を爆散させていく。
本来であれば十分苦戦しただろう陰陽師たちは唖然とし、殲滅し終えたパルたちは笑みながら町中へと戻っていく。
カフェで一息入れ、女子二人の会話は弾んでいく。




