第四十二話 穀潰し?
グラたん「第四十二話です!」
町の男性は言う。ここ最近、博麗神社の雰囲気良いな、と。
町の女性は言う。あの美人巫女さんがいるからでしょう、と。
老人は言った。あの娘が博麗神社に居る限りは安泰じゃのう、と。
老婆は言った。若いのに一人で切り盛りして凄いわねぇ、と。
そんな大盛況の博麗神社でパルは働いており、誰に対しても笑顔を向けていた。
「いつもお疲れ様」
「ありがとうございます!」
「頑張ってね」
「階段の下までご案内します!」
男性からは好意を向けられ、女性からは親しまれ、老人たちからの受けは良く、子供の悪戯は軽くあしらう。
前数日は連日で訪れる参拝客もいるほどでその理由は『ジョギングのついで』、『朝一番の陽射しが良く見える』、『月が綺麗だ』等々がある。
余談だがその手の輩は帰り道で不幸な事故に遭って当分来れなかったとか。
博麗神社の母屋ではそんなパルの様子を見もせずに御煎餅を齧ってモンハグをプレイする霊夢の姿があり、魔理沙もいよいよ呆れて口出しするようになっていた。
「お前もパルを見習って働いたらどうだ?」
その問いに霊夢は顔はTV画面に固定したまま答えた。
「それはNEET同盟鉄の掟の第三条に反するわ」
魔理沙は、ほほう、と半眼になって聞いた。
「具体的には?」
「自分の手を煩わせてはいけない。他人を顎で使ってこそ真のNEETである」
「このクズが」
「第五条。何を言われても動くな。働いたらその時点でNEET失格、よ」
「お前マジで一回清水寺から飛び降りた方が良いな」
霊夢は正真正銘のクソニートへと変化していた。
NEET同盟条約
第一条、保護者の脛を齧るのは当然の権利である。
第二条、引き篭もるのは悪ではない。悪いのは我々を受け入れられない社会である。
第三条、自分の手を煩わせてはいけない。他人を顎で使ってこそ真のNEETである。
第四条、課金は無駄ではない。我々は努力と時間を買っているのである。
第五条、何を言われても動くな。働いたらその時点でNEET失格である。
第六条、オンラインは何を言っても良い。それはロールプレイングである。
第七条、嵌め殺しはズルでは無い。出来ない奴が悪い。
第八条、学問は敵だ。学校は鬼ヶ島だ。レベルが足りないのに行くのは愚かである。
第九条、仮想を誇れ。我々の現実は仮想である。
第十条、いつまでもあると思うな親と金。無くなったら生活保護法がある。
以上
階段の下までお婆ちゃんを送ったパルは向かい側から駆け寄って来る実妹を見つけた。
「あれ、メンタ?」
「ただいまです! パル姉!」
階段を上がるにつれて楽しそうな聞き覚えのある声が魔理沙の耳も届き、霊夢にNEET終了を告げた。
「ん? メンタの奴が帰って来たみたいだな」
「なんですって!?」
クエストを終了した霊夢は思わず起き上がり外を見た。
「これで契約もおわ――」
確かにそこにはメンタの姿があり、枢たちの姿もあった。
霊夢は魔理沙を押しのけて叫んだ。
「魔理沙! 私、ちょっと紫呼んでくるから決してパルを返さないで!」
「お前な……」
魔理沙は呆れつつ、母屋の居間から出て来た霊夢をパルは掴まえて居間の方へと戻って来た。
「その心配はまだ大丈夫みたいだよ」
と、パルが言うと霊夢はすごぶる喜んだ。
「本当!?」
「……どういうことだ? って、お前等は」
その後に続いて枢、シン、メンタの順番で入ってきて簡単な挨拶を交わしていく。
「久しぶりだな」
「ご無沙汰してる」
「只今帰りましたー! で、魔理沙さん、今すぐにもう一回オレの能力見てください!」
メンタに詰め寄られ、魔理沙は少し驚きながらも聞いた。
「そ、そりゃ構わないけどさ……急にどうしたんだ?」
「前に診断した能力が違ってきているらしい」
枢の答えに魔理沙は疑心し、水晶玉を取り出した。
「んな阿呆な……。ま、もう一回やってみれば分かるか」
座布団の上に水晶玉を固定し、メンタが手を置くと光だした。
「何々…………」
そんな変な事があるだろうか、と魔理沙は水晶玉に表示された結果を覗き込み黙った。
「ど、どうでしたか?」
メンタがおずおずと聞くと魔理沙は驚いて後退った。
「……オイオイマジか!? 本当に能力変わってるぞ!?」
魔理沙の声に霊夢も覗き込み、驚愕する。
「はぁ!? な、なんでそんなことが起こるのよ!」
「私だって分からねぇよ!」
二人の怒号の応酬をパルが手で物理的に止め、聞いた。
「それで、どういう風に変わってたの?」
口を手で抑えられた魔理沙と霊夢が落ち着いたのを見計らってパルは離し、魔理沙は答えた。
「見てくれ」
水晶玉には能力が枝分かれしたように二つ分岐されており、パルはそれを読み上げた。
「えっと……『脳を支配する程度』と『何かを腐らせる程度』?」
「能力者の中でもレアな二重能力者だ」
「……げぇぇ」
魔理沙はそう言い、霊夢は嫌そうに呻いた。
「げぇ、って失礼ですね!」
メンタは激しく抗議するが枢も同意し、シンも頷いた。
「いやこれは酷い」
「よりによって精神系なのね……」
ほぼ全員が溜息を吐いて、だが、と魔理沙は続けた。
「さっきも言ったが能力が進化するなんて聞いたことがない。しかし今ここに前例が出来てしまった」
「何か不味いの?」
パルがお茶とお茶請けを持って来て出し終わり、座ってから魔理沙は腕を組みつつ答えた。
「本当に特殊な例なのかもしれないが、こんなことが起きるのには大抵何か理由があるはずなんだ。もしこれが何かの事変なら……」
「他の人たちの能力も変化もしくは進化するかもしれないということよ」
霊夢がお茶を啜り、メンタは先程の仕返しにと口を開いた。
「霊夢さんの能力がこれ以上悪化したら本格的に事変扱いですね!」
「これ以上クズっぷりが増したら真面目にアレだな」
二人の口撃に霊夢はスペルカードを構えてから聞いた。
「何よ。ハッキリ言って良いのよ?」
こういう場合は他者に、しかも権力が最も強い人に回すのが正解だとメンタは知っている。
「パル姉はオレたちが何を言いたいのか分かりますか?」
「穀潰し? ……あっ」
パルは直感的に思いついた言葉を口してから手で口を抑えた。
「安心したぜ。パルもちゃんと思ってくれていたんだな」
魔理沙がしみじみと頷き、霊夢は腕を目に当てて泣き真似をした。
「くっ……よってたかって私を虐めて楽しいの? うう、可哀想な――」
私、と言い終わる前にメンタが非常に愉快そうに笑いながら被せた。
「超楽しいですね」
「同意」
二人の首肯に霊夢はパルに泣きついた。
「パールーぅ」
「自業自得だと思うよ。せめて家事とか神社の手入れとか巫女仕事してくれれば庇ってあげられたんだけど……何もしてなかったからね」
最後の砦だったパルに槍を向けられ、そのまま霊夢は散った。
「ぐぼぁ」
霊夢は地に伏し、小さくなって呻く。
「それでも約束を律儀に守るお前は偉い」
「だって紫さんからちゃんとお給料出てるからね」
パルが予見していたかのようにそっと霊夢の隣にお茶を出し、スキマから出て来た紫がお茶を片手に答えた。
「ずずぅ……パルは良くやってくれています。この錆びた神社が今はあの全盛期のようで……ううっ、もう一度こんな綺麗な姿を見られるなんて……」
「この人は?」
シンが紫を指差し、その手を枢が掴んで降ろしてから答えた。
「八雲紫様だ」
「おおっ、このお方が」
シンが驚き、紫は初対面ともあってか体裁を取り繕っては机の下で霊夢たちに蹴られている。
「ちなみにいくらくらいで雇われているんですか?」
メンタが聞くと紫はすまし顔で答えた。
「基本給が月3万でそこにお賽銭やお布施の十分の一をボーナスとしています」
「おいおい……いくら何でも安くないか? 霊夢の生活費考えたらもう少し給料上げないとと厳しくないか?」
霊夢はそこらのニートとは格が低くゲーム内課金まではしていないが幻想郷の一般的な一月当たりの収入と生活費が5~8万円であることを考えればブラックとも言える。
「いえ、二人の生活費は別で出しています。今のはあくまでもパルのお給料です」
「巫女のお仕事が忙しいから使う暇無いんだけどね」
それを聞いて全員が霊夢に半眼を向け、霊夢はそのまま不貞腐れた。
「私としてはもっとお給料上げてあげたいのですが……」
「ボクが断っているんだ。貰ってもしょうがないからね」
その分、野菜等々の食材費や博麗神社の改築費に充てているため紫としては結構心苦しかった。
「……魔理沙さん、ちなみにですけど本格的にパル姉を雇ったらどれくらいになりますかね?」
「パルの自前の生活能力を鑑みて、更にパルの能力も加えると本来なら月100万は超えると思う」
「いいえ、実際に博麗神社を任せるのでしたら月300万以上になりますね。それに加えて今の出来高を加えると……およそ500万は超えるかと思われます」
「そんなに参拝客が来ているのか?」
ええ。と紫は頷いた。
「パルが来てから一日に参拝するお客様は日に8~50人程度。この内の九割はパルと話したいがために来ています。そして一人頭平均100円と考えると……」
「待て待て。一人100円は多いだろ? 守矢の方でも一人5~10円が相場だぜ?」
その十数円も早苗やスルト目当てのための口実であるため負けていると言えば負けている。
「フフフ……パルの宣伝効果は非常に高いのですよ」
美少女に巫女服、加えて猫耳カチューシャともあれば箔は充分だ。紫は怪しく笑い、メンタもパルを見直して笑んだ。
「それなら年末は特に客が多いはず……」
「お、おい、シン」
シンが口を出すと枢が止めた。幻想郷において紫は大妖怪としての側面もあるが基本的には神として崇められているため一般人がおいそれと話せる相手では無い。
紫はそれを手で制して聖母の如く微笑んだ。
「構いませんよ。確かにそれはそうなのですが……くぅ――」
だが紫は口惜しそうに歯噛みした。その事情を知っているパルが代わりに答えた。
「先に早苗に年末年始は一緒に巫女やって欲しいって頼まれているんだ」
「つまり経済的社会的に滅ぶ、と」
その言葉は霊夢の心にも刺さり、呻かせた。
「しかし代わりに私たちは幻想郷の中心である最大規模の町カルリスで巻き返しを狙います」
「カルリス、ですか?」
メンタが聞き返し、枢とシンが驚いた。
「今度闘技大会がある場所」
「むしろ今まで知らなったのか」
「町の名前なんて会話で一度も出て来てませんからね。しかしその巻き返しって、どうやるんですか? 霊夢さんなんて働きもしないでしょうし」
メンタの言葉に霊夢は当然のように頷いて枢たちの評価を著しく下げた。
しかし次の紫の言葉に全員が驚愕した。
「夏コミよ」
「はっ?」
「へっ?」
「なにぃ!?」
「良いんですか!?」
メンタは喜々として喜び、そんな危険な許可を出すくらいに博麗神社は追い詰められるのかと魔理沙たちは驚愕した。
「冬は守矢にお客を取られるから止むを得ないわ。こっちも何かしらの手段で対抗しないと真面目に負けて滅ぶわ。何せ向こうには鉄壁の二柱と天下無双の一柱そして無限回復の巫女が居るわ。それに加えてパルも行くとなれば……もう年末で勝ち目は無いわ」
「それは分かりましたが、その天下無双の一柱って誰なんですか?」
メンタの問いに紫は意外そうに聞き返した。
「あら? あの人言ってなかったの?」
「誰なの?」
霊夢も興味を持ち身を乗り出して聞いた。
「スルトよ。ほら、早苗の恋人の」
……えっ? と霊夢は驚いた声を上げた。
「あいつ神様だったの!?」
「道理で……」
「神……様……ごくり」
全員バラバラの答えを返し、パルに至っては戦闘狂としての面を伺わせていた。
「神様ですか。しかし彼の者はあまりにも悪しき気配を漂わせております」
「その割には凄く良い人」
枢とシンが真逆の評価を下し、紫は微笑みつつ答えた。
「邪神スルト、って言えば分かりますか?」
「邪神スルトとは北欧神話に出てくる邪神の中でも一際ヤバイ力を持っている邪神でそれこそロキやアンラ・マンユと同格と言われているくらいです。更に言えば極炎を使いこなし、炎の巨人ムスペルヘイムを引き連れて聖樹ユグドラシルを攻め立てたと言われている神様ですね」
メンタが自身あり気に答えると北欧神話を知っているパルも頷いたが、紫は否定した。
「残念ながら違うわ。メンタが言ったのはあくまでも人が描いた物語の話。あの人、邪神スルトは破壊神であり銀河系一つくらいなら指一本で滅ぼせるくらいの強さを持っています」
紫の壮大な妄想にメンタは軽く手を振った。
「冗談乙です」
「冗談だと思うのなら、一度あの人と本気で対峙してみると良いでしょう」
戦りたい! とパルは目を輝させ、それ以上パルを刺激させないように魔理沙が先に続けた。
「……例えそうだとしてもアイツを見る限り、こっちが下手を打たなきゃ攻撃してくることも無いんだろ?」
「はい。スルトは誰の味方でもあり、誰からでも求められる存在です。しかし敵には一切容赦しません。……尤も彼の思惑通りであることの方が多くて最終的には皆が救われているということも珍しくありません」
救いがあるというところにメンタは疑問を持った。
「それ、本当に邪神のやることなんですか? 邪神の定義を検索し直した方がいいですよ」
「『どうせ戦うなら結末はハッピーエンドの方が良い』とあの人は良く口にします」
紫の口真似にメンタは口を曲げた。
「へっ、所詮そんなの口先だけでやがりますよ」
そういうと今までの会話を聞いていたかのようにスルトが答えた。
「ふむ、それは心外だな。余は例え口約束でも約束事を破ったことは一度もない。何故なら約束を守ることは信を得ることであり信仰を得ることでもあるからだ。そんなことをしなくても余は生物が存在する限り死ぬことさえないがな」
スルトが言いたいのは神としての概念だ。
善神は生物の信仰、祈り、願いを得て現界し、存在出来る。その信仰を得る方法は様々だが約束を守ることも信仰を得ることに繋がる。
逆に邪神は生物の悪感情を得て存在するため何もしなくても汚い現代社会に蔓延することは造作も無い。それこそ息をするように自然とそこにいるが、その大抵は神界の数少ない邪神や破壊神の手によって駆逐されるため存在出来ている方が奇跡と言える。
また、現存する勇者や英雄の手によって倒されることもあるため神々が動かなくても良いという理由もある。
「うわっ!?」
「い、いつの間に……」
「メンタがカルリスの話を始めた辺りからずっと居た」
「マジか」
スルトは頷き、少々困ったように顎に手を当てた。
「うむ。しかしそこまで信頼がないと今回の夏コミを成功させるための費用を出す件は白紙に戻すしかなさそうだ――」
「いえいえいえいえそんなことおっしゃるわけありませんよお代官様。さささ、此方にどうぞお座りください。夏コミの成功はスルトさんというスポンサーあってこそです。あ、肩でも揉みましょうか? それとも守矢神社の宣伝を村という村に、町という町に流して信仰心を守矢神社に集めて見せましょう。是非とも守矢神社様とスルトさんには夏コミのスポンサーとして投資をお願いしたく存じます。ついでに霊夢さんや魔理沙さんの秘蔵写真をお渡ししましょうか? それともいっそ博麗神社を爆破してみせましょうか? 我々にはどうしてもスルトさんのお力が必要なのですよ。何どぞお願いします」
メンタは人類最終兵器の一つ『掌返し』を繰り出した。加えて必殺技の『媚び諂い』と『ゴマすり』、『賄賂』、『おべんちゃら』とコンボを繋げてみせた。
「いっそ清々しいほどだな」
「というかその秘蔵写真って何時撮ったのよ?」
「博麗神社爆破したら怒りますよ」
魔理沙、霊夢、紫も反応を返して肩を竦めた。
「すごい執念」
「狂気さえ感じるぞ」
シンと枢もメンタの夏コミにかける思いを見て震え、その中でパルだけは笑みを浮かべて頷いていた。
「いつも通りだね」
『マジで!?』
その光景を見てスルトは笑っていた。
「ククク、案ずるな。夏コミの件は既に紫と打ち合わせ終わり、会場は建設中だ。日程は後程渡す」
「了解です。ではオレは日程が知らされるまでの間、同人誌を販売する方(同士)たちの人数の確認と出来る範囲での宣伝を早急に致します。また、幻想郷は夏コミ初心者が多そうなので今回は特別にレンタル用のコスプレ衣装を制作させていただきます」
そこには絶対に成功させるという執念がか今見え、同時に楽しんで貰いたいという気持ちがあるのも確かだ。
「フッ、お主も悪よのう」
「腐腐腐、お代官ほどではございませぬよ」
タイミングを見張からい、紫が会話に入る。
「それでスルトさんは何故此方に?」
「今度の陰陽師が集う闘技大会について少し気になることがあってな。その確認をしようと思っただけだ」
紫は少し思案してスキマを開き、スルトを促した。
「……分かりました。では此方へ」
「うむ」
二人が居間から消え、霊夢たちは問い合う。
「何の話かしら?」
「一瞬だったがかなり深刻そうな表情だったぞ。何かあったのかもしれないな」
「それか道真の件ですかね?」
多分、と魔理沙は頷いた。
「一番あり得そうだな。っと、そういえば思い切り話が脱線したが、メンタ、何で今日能力について聞きに来たんだ? 闘技大会もそろそろだろ?」
「それについてなんですけどね……オレ、不戦勝で本選に勝ち上がりました」
全員が沈黙して各自で予想を立てる中、枢が言葉を告げた。
「その説明についてなんだが――」
「凄く汚い手を使って相手を戦意喪失させたんだろ?」
と、魔理沙が言って枢は頷いた。
「それが分かってるならもう何も言わん。事実その通りだ」
「で、本当にそれだけのために帰って来たの?」
霊夢が問うとメンタは姿勢を正した。
「いえ、それともう一つ報告とお願いがあります」
「お願いの方は聞くだけよ」
その顔は面倒くさいと言っている。
「それでも良いです。まずは報告をしますね、シン」
「式神召喚」
シンが外に向けて四枚の式神の札を飛ばし、庭にフールエンリルたちが姿を現して着地した。
「よっと」
「ほほう、ここが」
「綺麗な場所ね」
「よく手入れされているわね。本当に博麗神社なの?」
四匹に意外そうな表情で辺りを見回して、居間でお茶を手に取っていた魔理沙は勢いよく噴き出した。
「って、こいつ等って――!」
「あ、あんたたち何考えてんのよ!」
霊夢と魔理沙が一斉に飛び起きて弾幕を構え、対してパルは友好的に手を振って答えた。
「皆さん、お久しぶりです!」
「ん、おお! 何時ぞやの嬢ちゃん!」
「フォフォフォ、ここで働いていたのとはな」
強者としての余裕か、はたまたお人好しが過ぎるのか、霊夢は悩むが相手方に攻撃の意志が無いのであれば当面は放っても良いと考えて弾幕を仕舞った。
「一応この四匹は今はシンと式神契約を交わしている」
「そ、そう……。式神? あれ? 式神ってそもそも自分で作り出した奴を式神って呼んでこの場合は召喚っていうんじゃ――」
霊夢の説明通り、そも式神は術者が自ら作り出した使い魔のような存在であり生物を取り込んで作ることも出来るが非常に燃費が悪いため、そこで紫が開発したのが召喚符だ。言わば召喚符は式神札の派生であり、そもそもは藍や橙を使うための札として開発したものだ。
霊夢が説明に疑問を覚えて聞くと枢が詳細を答えた。
「いや、紙から出現すれば一応式神扱いだ。それに術符の方はメンタが作った奴だな。よくもまあこんな細工を考え付くもんだ」
「うん? 何か違うのか?」
魔理沙も陰陽の知識はそれなりにあるが本職ほどではないため聞き返した。
「本当に分かりにくいわよ。見た目はただの式神召喚の札だけど中の術式は召喚式、つまり二重偽造構造になっているのよ」
はい、とメンタはいつもの調子で答えようとして訂正した。
「実際は犬ッコ――フールエンリルさんたちの能力を制限しないための術式も組んでますから三重です!」
その訂正を聞いた四匹はメンタの視線の先にいる存在、パルに眼を向けて戦慄した。
――おい、聞いたか?。
――あの赤毛、パルを見て言い直したわ。
――つまりパルと一緒に居れば変な名前で呼ばれずに済むということだな。
――そうと分かれば後は早いわね。
「何にしてもこいつ等を仲間に出来たのは行幸だ。色々情報を聞き出せるしそこらの陰陽師なら手も足も出ないぜ」
魔理沙が感心し、パルもちょっと意外そうに続けた。
「意外と評価高いんだね」
パルの言葉に一度斬殺されているフールエンリルたちは頷き、魔理沙は半眼で批評した。
「お前等の戦闘力がおかしいんだからな」
確かに、と枢も頷いた。
「こいつ等の戦闘力は妖怪の中でも上位に入るからな」
霊夢もパルが異常に強いのは分かっているため触れずに話題を変えた。
「それで、もう一つは?」
メンタは割と真摯な態度で霊夢に乞う。
「お願いというのは修行についてです。流石にオレもこのままでは何処かで敗北するかもしれませんから……稽古をつけてください!」
「ふぅん……良いわよ」
何の気まぐれか霊夢は頷き、メンタは嬉しそうに拳を固めた。
シンと枢はこうやってメンタが喜ぶ顔を見るのは初めてのため少しだけ驚いていた。
「本当ですか!」
「ただし三対三でね。ちょうど六人いるわけだし」
「五対五じゃなくて良いんですか?」
メンタが問うと霊夢は不敵に笑った。
「式神はご自由に。どう?」
「オレは構いません」
「良いの? 実質七対三だけど」
シンが問い、幻想郷に来てからは何回も戦っているメンタは頷けた。
「良いんですよ。というよりやってみれば分かります」
「というか俺も戦うのか?」
そのメンバーの中では最弱である枢が聞き、メンタは気の抜けた応援をした。
「瞬殺されないように頑張ってください」
「一応これでも師範だからな? まあ、それで良いというならやろう。博麗の巫女と雷光の魔法使いの力を見せて貰おう」
「……最も警戒すべきはパル姉ですけどね」
その小さな呟きは枢に届くことなく掻き消えた。




