第四十一話 みゅぎー! みゅぎー!
グラたん「第四十一話です!」
次の日。
「おはようございます。お義父さん!」
メンタは非常に清々しい表情で教室に現れ、対して頭部から足まで包帯を巻いている枢がそこにいた。
「誰がお義父さんだ!! 全く、昨日あれだけやらかしてよくもまあのうのうと寝て起きて来れたな」
「しっかり運動したおかげが良く眠れました!」
枢の額の血管が数本まとめて切れ、叫んだ。
「黙らっしゃい! お前のせいで今日は教師生徒問わず総員で校舎の修理だぞ!? どうしてくれるんだこの野郎!」
枢がここにいるのはメンタとシン、フールエンリルたちの監視だ。加えて教師の中では一番重傷を食らったのが枢のため軽傷者以外は修理に駆り出されている。理事長に至っては永遠亭からお薬を貰うほど重傷を負い、今は床に伏している。
「良いんですよお礼なんて」
「何処をどう聞いたらお礼になるんだ! このスットコドッコイ!」
それはメンタにとってはご褒美であり喜んだ。
「もっと貶してください!」
枢はもう一周回って呆れ、私室から出て来たシンが突っ込んだ。
「メンタ、それは危険な人」
「あ、シン。おはようございます!」
「おはよ。それと昨日の件だけど……」
シンは一瞬言葉に詰まり、枢も沈黙する。
「……ありがと」
その声は小さく、場が静かであっても聞き取り辛い。
「良く聞こえなかったのでもう一回言ってくれますか?」
メンタは聞き返し、シンはそっぽ向いてしまう。
「もう言わない」
「ま、感謝されるのも悪くないですね」
「聞こえてるし」
メンタの地獄耳に呆れつつ、枢は教材を取りに教室を出ようと踵を返した。他の教師たちが重労働しているのに枢だけ休むわけにはいかず、かと言ってメンタたちを修理に参加させるわけにもいかないので授業をすることにしていた。
「二人とも起きたのなら闘技大会に備えて作戦でも考えておけよ。メンタは門内大会に出ないにしてもシンは参加だからな」
「無論」
「それなら良い作戦がありますよ!」
「聞く」
「はい!」
そんなメンタたちを見つつ枢は教室を後にし、小さく零す。
「……あいつもちゃんとしてれば良い奴なのにな……」
――だが、メンタに渡った情報があれだけで良かった。あれ以上聞かれると本当に不味い事になっていたからな。ましてやシンの――いや、こんなこと俺が考えても仕方ないか。
「さて、荷物を取りにいくか」
思考を打ち切り、枢は一度外の青空を見てから歩き出した。
教室の中へと入り、完全に扉を閉めてからメンタは座りシンと向かい合った。
「さて、作戦よりも一つ聞きたいことがあります」
「なに?」
メンタの真面目な表情にシンも姿勢を正して座り、告げた。
「シン、まだ何か隠してますよね?」
「――っ」
シンは一瞬言葉に詰まり、メンタはやはりと頷いた。
「黙秘は図星ですよ。オレは矛盾だらけの天邪鬼で他人の友情とかは嫌いですが、自分のことは別です。シン、相談してください。オレとて友達が困っていれば助けたいくらいは思いますよ」
メンタは自身がお調子者の薄情者であることは自覚しているが、友人を本当の意味で裏切るクズでは無い。
「……」
シンは沈黙し、少し考える。
「まだそんなに信頼してくれてないですかね?」
メンタも性急過ぎたかもしれないと考え、一旦引くことも考える。別段、これは今後を左右する事案でないことは分かっていた。
「……ううん、メンタを信じる」
が、シンは覚悟を決めて顔を上げる。
「必要なら外に出ますよ?」
「問題ない。そんな規模じゃない」
メンタが危惧したのはシンが妖魔、妖怪に変化した場合、巨大化するのではないかということだ。しかし、シンは変化などしないしいつも着用しているマフラーを取ればそれで変化は終わるのだ。
今まで隠れていた部分が露わとなり、メンタは目を丸くした。
「これが私の本当の姿」
首はあるが、付いてはいない。胴体から僅かに浮遊し、ふわふわと自在に空中を飛んで見せる。マフラーをしていたのはコレを隠すためと首が浮遊しないようにするためでもある。
シンは少し恥ずかしそうに、同時に辛そうな表情でメンタを見た。
「わぁお。まさかの首なし人間ですか」
「……やっぱり気持ち悪い?」
そう言いつつシンは再びマフラーを付け、隠す。
対してメンタはそんな事無いと否定した。
「いえ全然。もっとニャルラトホテプみたいなのを想像してました」
「にゃる?」
ニャルラトホテプ。空想上の怪物で人類悪の一つとして数えられる生物で通称は『形容しがたい化け物』と言われている。キャッチコピーにするなら『這い寄る混沌』。某業界では『ニャル子』とまで呼ばれ親しまれている名前だ。
それをシンが知る由もなく、顔を傾けた。
「要は言葉に出来ない程グロイ奴のことです。正直人型保っていてくれて安心しました。でもデュラハンとは違って常に首が浮いているんですね」
「そうなの?」
それはあくまでも地球のイメージであり、幻想郷にもいないため知っているものは少ない。
「オレのイメージですとデュラハンは首を脇に抱えています」
「大変そう」
「シンは何かデメリットあるんですか?」
シンは首が浮遊しているという点を除けば人間としても通せるためそこまで不都合なデメリットは無い。ましてや人肉を食べる訳でもないため害は無い。
「今のところは特にない」
「そうですか。それにしても……半妖ですか」
「怖い?」
シンは冗談紛れに聞き、メンタは珍しく心から笑んだ。
「面白いと思います。むしろ首を遠隔操作出来たら色々出来そうですね」
「……ぷっ」
「クスクスクス」
少しばかり教室に笑い声が聞こえ、一息落ち着いてからシンは言葉を続けた。
「ふぅ……やっぱり勇気出してよかった」
「で、本命は?」
と、当然のようにメンタに問われてシンは戸惑った。
「えっ?」
「流石に半妖ってだけじゃ納得できませんよ? まだあるはずですよ。本当に致命的な奴が、ね?」
メンタの予想では嫌々ながらも陰陽師院全体が匿う程の理由があると睨んでおり、しかしシンはそれ以上思い当たる節は無く困った。
「……うーん、これ以上は無いと思うけど?」
「あれ? おかしいですね。オレの直感が今何とかしないとゲロヤベェって囁いているんですけどねぇ……」
うーん、と二人で唸り、先にシンが答えを出した。
「……ならもういっそ脳弄ってみる?」
「それ怖い表現ですね。まあ、シンが良いというのならちょっと見て見ますよ?」
メンタは意外そうに驚きつつもシンの表情を見て聞いた。
「これ以上何かあったら枢を問い詰める。やって」
「了解です! 能力発動!」
メンタの右手がシンの額に当てられ、能力が発動される。
指先から指へ、指から手へ、手から腕へ、腕から肩へ、肩から首へ、脳へ。まるで人間そのものを電子化して読み込むように情報リソースがメンタの脳裏へと導かれていく。本来の使用方法は生体に触れなくても鑑賞できる能力だが、触れることによって周囲の不必要な情報を取り入れず、個人に対してのみ発動される。
その情報量はスーパーコンピューターでさえも過剰熱状態して本体の部品も融解しかねないほど多い。
当然それを人間の身でやれば素人が魔導書を開いた時のように脳内出血が起こり、全身から血を噴き出して死ぬ。それこそ常時情報を演算して一部の隙もなく整理整頓するくらいでなければ――。
能力を使ったメンタの脳裏にはシンが無意識の内に溜め込んでいた記憶が映し出されていた。
場所は赤い粒子の渦巻く古城。否、古城というにはあまりにも崩壊跡が最近に過ぎる城の内部で、そこには一つの祭壇と理事長と枢がいた。
そこらには魂亡き骸が転がっており、死人のように動き出す気配もない。
枢は危険が無いかどうか周囲を調べ始め、理事長は先に祭壇へと足を運び、そこにあったものを見て顔を顰め、とても悲しい表情で其れを見ていた。
『やはりこの娘は――』
理事長が呟くと枢にも聞こえ、祭壇を上がって来た。
『何かあったのですか?』
枢もそれを見て、理事長は意見だけを述べた。
『あと五年持つかどうかだ』
『そんな……せっかく見つけたのに……』
二人はそれを器としてしか見ていない。
『これも運命ってことかね。だが大会の優勝品ならば……』
『コレを育てるつもりですか?』
『最悪、肉体さえ出来ていれば私がこの娘の肉体を使う』
理事長はそれを見やり、枢は一つ頷いてから意見した。
『素質はありますけど……この娘を乗っ取るくらいなら他の出来上がっている肉体を使った方が良いのでは?』
『そうだな……だが、出来るなら波長が合っている方が良い。頼めるか?』
『分かりました』
枢は首肯だけ返し、それの全身を包み抱き上げた。
『……古の古城の姫、か。誰がこの娘をこんな姿にしたんだろうねぇ……可哀想に』
理事長は去り行きにそう呟いてそれを見て、枢も天井を見上げて息を吐いた。
『本当に……彼らは愚かな生き物です』
枢は周囲を見渡し、もう一度溜息を付いた。
『……そうだな』
理事長も解っていた答えを返され、その場を後にした。
メンタの処理能力ではそこが限界となり、手が自然と地に着いた。慣れないことをしたせいか息も肩が上下しており、シンも能力の後遺症でぼんやりしている。
ある程度、息を整えたメンタは頭痛を堪えつつも脳裏で思考する。
――色々言いたい事とか思うことはありますが……まず、オレの能力って理性を操る程度ですよね? なんで脳の記憶とか見れちゃっているんでしょうか? やはり近々一度魔理沙さんに見て貰った方が良いですかね? なんか能力の本分から外れている気がします。
「……どう?」
意識がはっきりと戻ってきたシンが問うとメンタも思考を中断して答えた。
「分かったことがいくつかあります。まずシンと理事長の寿命が近いということですね。次にシンの肉体は理事長が乗っ取るために育てられていたようです。枢さんもグルですね。そして大会の優勝品という言葉がありました。これは恐らく寿命を延ばせるアイテムだと推測されます」
それを言いつつ忘れないために紙に書き記して行き、シンも一度には憶えきれないため書かれていく文字を目で追っていく。
――シンが一度殺されていることは多分言わない方が良いですよね。
メンタが見た記憶の中には既に首が失われていたシンの姿もあり、それを書かない程度には彼女は優しさがあった。
書き終えたメモを見てシンは首を傾げた。
「……不可解」
シンはそれを全て事実として受け止め、疑問を思う。
「ですね。何かありそうです。一つ一つ検証してみましょうか」
「うん」
メンタは別のルーズリーフを取り出してペンを取り、シンは邪魔にならないように対に座り直した。それを見てメンタもペンを進め始めた。
「最初に寿命についてです。見た感じですとシンと理事長の命の残量は似たようなものですね。でもイコールではありません。理事長の方は単純に寿命でしょうか? シンの方は色々と推測は出来ますが現時点では不明ということにしておきましょう」
メンタは記憶の枢が言っていた『せっかく見つけたのに……』という言葉と『波長を合っている方が良い』という言葉を繋げ、生体を乗っとるのにもリスクがあると書き記す。
そこで一度ペンを止め、次の行に移動した。
「次に大会についてです。これはもう優勝一択ですね。万が一の時は理事長が何かしらの方法で乗っ取る予定みたいです」
「でも分からない。何故、今乗っ取らない?」
シンの問いにメンタは推測ですが、と言って続けた。
「情報を鑑みるに肉体的成長を待っていたみたいですね。それと陰陽師の資質もあったみたいですし、何よりも古の姫の血筋というのがネックですね」
「それは良い。だけど寿命についてが一番気になる」
シンは言いにくい言葉を一拍おいてから聞いた。
「私は何時死ぬ?」
メンタは少しも躊躇わずに確定事項としてシンに告げた。
「あと一か月ってところですね。ぶっちゃけ今年優勝しないと理事長の寿命伸ばせそうにありませんし……ですよね、枢さん」
「気付いていたのか」
扉の向こうで気配を殺して聞き耳を立てていた枢は諦めて立ち上がり、教室の扉を開いた。
メンタは自分が人間の中でも異常者である自覚がある。人を人と思わずに理性を飛ばし、操り、邪魔であれば躊躇いも無く消す。それを常人とは言わない。例えどれだけ優れた陰陽の資質があろうともそれはただの人でなしだ。
そんな異常者を手元において駒とし、挙句に闘技大会に出すとまで言われればメンタとて理事長の焦りに気付く。先の記憶と関係すればシンの肉体が乗っとれるまで成長し、はたまた大会の優勝賞品を得られるかもしれないチャンスが同時に到来する時期を待った可能性が高い。
15歳。幻想郷では成人として見なされる年齢であり、シンは今年で15歳を迎えた少女だ。であれば必然的に『今年』という推測結果が出てくる。
「勿論です。ついでに言うとその顔は知られたくなかったことまで知られたって顔ですね」
メンタはいつも通り人の不幸面をメシウマし、枢は最大限の嘆きと共に吐いた。
「俺の、お前への認知がどれだけ甘かったか良く分かった。楽観的希望は持つものではないな」
枢としてもまさか記憶を読み取られるとは思っていなく、しかしメンタは更に気色の悪い笑みを浮かべて答えた。
「いえいえ、楽観的で大丈夫ですよ」
「なに?」
枢の反応はメンタが予測した通りだった。
「要するに今日聞いた事実はオレが全部黙って入れば済む話ですし、今年何が何でも勝つのなら手段は拘りません。良いですよね? というか拒否してもオレがやりますけどね」
「無論。こっちは命掛け、対価としては安い」
この陰陽大会で文字通り命を掛けて戦いに挑むのは一人のロリBBAと一人の妖魔。それを支えるもとい殺害精神で挑む少女が一人。
枢はそれを聞いて溜息を吐き、覚悟を決めて顔を上げた。
「……はぁ、分かった。なら俺も腹を据えよう」
「今までの罪を清算する切腹ですね!」
メンタが襖を開くとそこには白装束と短刀が置いてあり、奥に掛けてあるのは何処から入手したのか不明な日本刀だ。
「そんな事言ってない。ただ、教師である以上露骨な協力は出来ん。多少便宜を図るのが関の山だし試合自体は俺とメンタの実力を借りることは出来ない」
枢の呆れ顔にメンタはロッカーを閉じ、不敵な笑みで答えた。
「でも犬ッコロたちはありですよね」
「え?」
「……まぁな。ルール上は問題ない」
枢は今日使う予定だった資料の一番底から三枚のプリントを取り出した。
「事前に脳が逝っちゃうほど強化して暴走気味に門下生を虐殺です!」
「それやったら反則負けだ。ほれ、正式なルールだ」
メンタの軽口には軽口で答え、メンタとシンにプリントを渡した。
門内大会基本ルール
1、門内大会には予選と本選があり予選通過者のみ本選に出場できる。
2、予選にシード権は無いが、本選は予選の優勝者がシード権を得られる。
3、優勝者には理事長の権限で可能な範囲で願いを叶えて貰える。※1
4、出場者は予選三日までに登録を済ませること。
5、代理、偽名による出場は認めない。
6、戦闘は陰陽術を使用すること。※2
7、戦闘終了後はスペルカードルールを適用する。※3
8、以上を以て正々堂々と戦う事。
※1、公序良俗違反しないこと。
※2、術符、呪符、召喚符、式神、九字に加え、各自の武装使用を許可する。
※3、試合後の私怨及び復讐は禁止。
追記:陰陽生同士で殺傷が行われた場合、両者退学とする。
理事長より
「おお! 手が早いですね!」
メンタは喜び内容を吟味し、シンはプリントを机に置いて枢を見上げた。
「でもこれはまだ他の生徒の手に渡ってないんじゃ……」
「実際は明日配られる予定だったが、別に一日早いだけだ。差して支障はない」
メンタは勢いよく両手を左右に広げて朗らかに笑った。
「ようこそダークサイドへ!」
「俺も理事長もとっくにそっち側だ。俺たちがグルだったってことにも気が付いているんだろ?」
枢は今更だというように机に肩肘を付いた。
「ええ」
「うん」
溜息を吐き、半眼で言葉を続けた。
「つくづく面倒な能力だと思うが、それ以上に応用が利くところが怖い。しかし俺としてはそんな強力過ぎる能力の代償の方が気になるのだが……差し支えなければ教えて欲しい。こんなでも一応お前たちよりは先人だからな」
枢の提案にメンタは寸分迷わず頷いた。
「まあ、もう知らない仲ではないので教えても良いですよ。と、言いたい所ですがどうもオレの能力が変化というか進化しているみたいなんですよね」
「能力が進化? そんな話は聞いたこと無いぞ」
それは枢だけでなくシンも、理事長ですら知らない話だ。陰陽生は基本的に『魔法を扱う程度』の能力者だがそこから進化した者はいない。
「そうとなると元々違っていた可能性もある」
「先に行っておきますがオレの能力を調べてくれたのは魔理沙さんなのであまり疑っても仕方ないとは思いますよ」
メンタも魔理沙が能力を見間違えるほどBBA化はしていないだろうと考える。
「それなら当人に聞くのが一番早いだろう。明後日は大会が開催される最後の休日だ。外出も許可される」
枢の提案にメンタは頷き、次の件を問う。
「そうしましょう。では、他の件について色々と知りたいことがあります」
「なんだ?」
「今年、門下生の中から出てくる十二姫の中でオレ以外の三つの座を争う害虫たちのことです。式神にも上限があると言っていましたから可能なら全員分のデータと他に注意しなければいけない害虫のデータも欲しいですね」
それには教師である枢も流石に苦面した。
「それはアレか。俺に門下生のデータを持ってこいと? 個人情報だぞ?」
「無理ですか?」
無理、と言われると実はそうでもない。枢は理事長と共に陰陽師院創設時からいる年長者であり長寿の秘薬を飲んでいなければ白髪の老人か白骨死体でもおかしくない年齢の人物だ。それだけ理事長とも付き合いは長く、教頭に似た立場でもあるため理事長の目を盗んで個人情報をプリントアウトするくらいは造作も無い。
「……抽出出来るのは基礎的なデータと能力だけだ。個人の家とか家族構成は教えられない」
それでも教師としての矜持があるため必要最低限まで譲歩した提案を出し、メンタもそれ以上無理を言わずに頷いた。
「それだけでも十分です。お願いします」
「メンタが頼もしく見える」
腐腐ンッ、とメンタは薄い胸を張って答えた。
「パル姉が言っていました。『メンタはやれば出来るのに何でやらないの?』と。答えはオレが本気になれば大抵何でも出来るからです! そしてそれ以前に本気になる理由が無いからDES!」
メンタは特別な才能はあるが人間としてのスペックは人類の域を出ない。その点、パルも実のところは最強に近い人類に収まっている。
パルの場合は先天的な天才性で全て何とかなってしまい、持前の運の良さも相まって苦労したことはあまり無い。
メンタの場合、天才性は無く、運の良さも生まれる前にパルに吸い取られているため、人類最強の奥義である『努力』でパルの後を追いかけ続けている。それでも家事と戦闘は勝てないがその他の分野であればメンタに軍配が上がる。パルはそれを我がごとのように褒めれくれるが、出来なかった時や心が折れそうな時には『ん? ああ、これはこうすれば良いんだよ』と心身共に折って来るため喜び半分辛さ半分でもある。
「ダメじゃねぇか」
枢の鋭い突っ込みが入り、シンも無駄に出来るメンタについて納得した。
「それで、今日はどうする? 何か対策を立てるのかそれとも修行?」
シンの問いに若干現実逃避していたメンタは意識を戻して否定した。
「いえ、表向きはいつも通りに基礎をやりましょう。最終的に物を言うのは体力と基礎力です」
枢も頷きかけ、苦渋に満ちた表情で呻いた。
「そうだな――ってそれをお前に言われると酷く悔しい」
「少なくとも二人よりありますからねぇ」
とニヤニヤ笑い、シンは自分の席について教科書とペンを取り出し、メンタも席に座った。
「分かった。授業に励もう」
枢も立ち直って教壇に立ち、教科書を開き、片手にチョークを持って気合いの入った声で開始を告げた。
「了解だ。では、授業を始める!」
そこにはいつもの風景が広がっているが三人の表情はより活き活きとしたものに変わっていた。
時にして同時刻。
幻想郷の南に位置する森林の奥地にある南の陰陽師院には一人の来客があった。その姿は漆黒のローブと黒の外套で包まれており、外套には天を突く龍の赤い角と血のような色をした魔術の紋様が書かれている。その手には一枚の書類があり彼は黒い仮面の下で笑いながら告げた。
「ふむ、これが今回の内容か。やめておいた方が良いのではないか?」
「あ……ああ……ああ……」
頷いている彼――南の陰陽師院の理事長は虚空を見つめたまま頷いている。
「ククク……これも一興。安倍晴明に渡すとしよう」
「ああ……あああ……」
黒衣の彼は笑い、そのルールを書いたのが誰であるのかを知りながら、部屋の奥でやりたい放題している阿呆を一瞥して去っていく。
「……」
通りかがった教室で一人座っているレリミアを横目で見て――黒衣は歩いて行く。
「奇縁。幻想郷とはよく言ったものだ」
レリミアは黒衣を知らず、黒衣の彼もまた其のレリミアは知らない。
ここは幻想の郷。
眼下に見えるのは東の陰陽師院。その一角にはメンタたちの姿もあり、今日もまた元気に騒ぐ姿を見せている。
「これもまた奇縁なのだろう」
黒衣の彼――スルトはそんなメンタたちを神の如く優しい邪悪な笑みで見ていた。
きっかけは紅魔館でパルと出会った時だ。その時は模擬試合があり、思い出すことなく共に会食してしまったが、その夜に思い出せたのは行幸だろう。
そのおかげでスルトは恨まれずに済んだのだから。
しかしスルトは――二人から殺されたとて文句は言えない。それだけのことをしでかし、一時期は二人の距離を物理的に切り裂いている。
だからこそスルトは言わない。
否、それさえも全てはスルトの手の中で遊んでいる事象に過ぎない。
スルトは――邪神である。
~オマケ~
◇◇◇◇◇◇第一部・出会い◇◇◇◇◇◇
俺はパル姫親衛隊リーダー、メジェド。なりは小さいし目からレーザーで攻撃するくらいしか出来ないしょぼい神格だ。これというのもファラオの代行であるニトクリスが近くにいないからだ。彼女さえいえば俺の真の力を引き出せるというのに……っ!
無い物ねだりをしてもしょうがない。幻想郷に来てからもう200年近く経っているから諦めも付く。
そんな俺が彼女と出会ったのは紅魔館で白い悪魔に虐められていた時だ。
「みゅぎー! みゅぎー!」
「全く……」
俺はいつもの如く紅魔館の食糧庫に忍び寄り、食料を食べて逃げようとして、いつも通り斬殺されようとしていた。
いや文字通り今日も斬殺されたのだが、白い悪魔がいなくなった後で前庭の草むしりをした彼女は日陰で休んでいた俺の元に来た。
「かひゅー、かひゅー」
「大丈夫? 喉乾いてるの?」
彼女は自業自得で斬殺されて掠れた声しか出ない俺を見捨てず、華に撒いていた水を持前の能力で増やして飲ませてくれたのだ。この際、飲ませたのが柄杓であっても俺にとっては女神様のようだった。
「ありがと……」
「でもあんまり敷地に入らない方が良いよ? 咲夜、入って来る妖怪と妖精には厳しいからね」
とは言え、これ以外生きる道が無かった俺は頷きも否定も出来なかった。
「う~ん……えいっ」
彼女は唐突に敷地の外、壁の向こう側に手を向けて何かをし、そして俺を抱えて壁の上に立たせた。
「――っ!?」
眼前にあるのは数えきれないほどの食料の山。俺は驚いたまま彼女を見上げると、彼女は微笑んで告げた。
「こういうことしたら咲夜が怒りそうだけど、一週間に一回くらいなら許してくれると思うんだ。それで食料被害が減るなら越したことはないし……」
彼女はそう呟き、落ちている食料を我先にと取っていく妖怪や妖精共を見ていた。
「さてと、ボクは仕事に戻るね」
彼女はそう言って草むしりの作業に戻って行き、俺も白い悪魔に見つかる前に敷地の外へと降りたつ。
自分の一週間分の食料を取り、巣穴へと持ち帰る。
――駄目だ、このままじゃダメだ。
仮にも俺は神格。ファラオに仕えるメジェドの一人。人間の娘っ子に食料を施され、それに満足するなどあり得ない。
――恩返しがしたい。
そう思ったのはすぐの事だった。
それから俺は人が変わったように周囲と関係を持ち、彼女が食料をくれることを伝聞して飢えている妖怪たちを集めた。
それだけではダメだ。彼女がくれる食料を当てにやってくる妖怪は多くなり、やがては白い悪魔や赤い吸血鬼が出てくる事態になってしまうだろう。そして善意から施してくれた彼女が怒られてしまう。
――あり得ない。
そんなこと断じてあってはならない。俺はそう思い、自身をリーダーとして周囲の妖怪共を纏め、『食った分だけ働く』という制度を作った。
そう、これが始めだった。
最初は近くの里に行き、ゴミ拾いや大型妖怪の退治を自主的にこなすと言った地道な働きだった。だがそれを積み重ねることによってそこの里人から僅かではあるが食料を貰えることに成功した。
特に妖怪退治は里人にとってはありがたいらしく、比較的話せる人間と話をつけて俺たちが里を守る代わりに食料の提供をして貰えることになった。
数が増えれば規模も大きくなる。
気が付けば紅魔館から博麗神社までの里や町を裏から守る組織として台頭していて、最近博麗神社にやってきた腐巫女に虐げられている上位妖怪、八尾の狐や四又の猫、死霊リッチーや外来妖怪ぬらりひょんも俺たちの傘下へと入って行く。
聞けば、その腐巫女の姉が紅魔館のメイドである彼女らしく名前はパルというようだ。しかも彼女に助けられたという妖怪は多く、彼女の手によって長年居座っていた付喪神が成仏したという話もあった。
そんな彼らも取り込み、俺はこの場所を『パル姫親衛隊』と名付けた。反論は無く、俺たちは紅魔館周辺を拠点として活動を広げていった。
時には対立することもあり、烏共や鬼の総本山である妖怪山と決戦し、敗走することだってあった。しかし誰も解散はしない。
その目的は何時だって『パル様のために!』と掲げられてきた。
俺たちの命はパル様の為にあり、害を成す者は全て排除する。
それが俺たちパル姫親衛隊だ。パル様こそが我が聖母であるのだ。
我が光はここに見つけたり。我が主はここにあり。
「出撃だー!」
『オオオオオオオオオ!!』
俺たちは今日もパル様の為に動き回る。




