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東方幻想腐女録  作者: グラたん
第一章
40/119

第三十六話 今日も家事頑張ろうっと

グラたん「第三十六話です!」

 理事長と話を終え、教室に戻る途中で枢は溜息と共にメンタたちのことを思う。


「全く……あいつにも困ったものだな」


 陰陽師の生徒としての成績と素質は抜群だ。体術や技術のみならず元々なかったはずの霊感も鍛えられている。それは素晴らしく、教えることがない生徒は稀だ。

 枢はもう一度溜息をついて天井を仰いだ。

 ふと、夜中だというのに暗がりから声が聞こえてくる。


「ん? まだ起きている生徒がいるのか?」


 この辺りは女子寮のため誰かがこっそり起きているのだろう。教員であれば女子寮だろうと特に咎められることは無いし、夜分遅くまで起きているのは頂けない。

 枢は起きているであろう部屋まで来るとやはりまだ明かりがついており、取っ手に手をかけ、ちょっと待つ。


「腐腐腐……」

「良いわ、良いわよコレ」

「これぞ禁断の組み合わせハァハァ」

「青と紫も良いけど、数字コンビも捨てがたいわ~」

「軍服モノも素敵…腐伽伽伽伽!」

「湧き上がるインスピレーションに手が止まらないわ!!」

「これとそれ、交換しましょう」

「うん」


 中から聞こえてくる言葉の節々が、このまま突入するのは著しく危険だと告げていた。

 ――何か途轍もないことが起きている気がするな。少し探りを入れてみるか。

 普段は偵察用に使う式神を数枚放り、枢自身はその場を去って近くの石垣に登り、精神を統一し、式神を媒体として視覚を確保する。


「本来ならあまりこういうことはしたくないのだが……何故か胸騒ぎがするから仕方ない。そう、決していやらしいことをしようとか思ってない」


 当然、野郎共なら誰しも思いつくが、どれだけエロ根性があろうと式神を操れる術者というのは陰陽の教師でも少ない。世に出ている陰陽師でさえ一番良い精神を研ぎ澄ませてようやくと言った所だ。そこに煩悩が一つでもあれば上手くはいかない。

 さて……式神の目から見えて来たのは――ある種の地獄だった。

 この時、枢は陰陽師の将来が暗黒物質に包まれるのを幻視した。



 フラリ、フラリと血の気が失せた表情で枢は自室へと戻って来た。


「枢、何かあったの? 顔が青い」


 そこにはシンもおり、男女完全寮制というのにも関わらず寝食を共にしている。一応プライベートな空間はあり、部屋も二つなのだが寝息と物音が聞こえるくらいに壁は薄い。


「……別に」


 枢はそう言うのが関の山であり、先程の光景を一刻も早く忘れたかった。


「そうそう先程メンタからこういうものを渡された」


 が、そう簡単には逃がしてくれない。シンが持っているのはつい先ほども見た『薄い本』。しかも此方は百合が咲いている表紙だ。


「がふっ」


 枢は……普通の男性と比較しても純情な方だ。二次でも三次でも見れば鼻血を噴くくらいには初心だ。今回はインパクトが強すぎて喀血していた。 


「!? 枢が吐血した……」


 しかし陰陽生とあまり仲の良くないシンまで持っているとなると、自然と元凶は絞られてくる。枢の脳裏には血のように赤い髪と目を持ちヤバイこと考えている時ほど笑顔が輝く彼女の姿が浮かんでいた。


「……あいつか。奴が元凶かぁぁぁ!!」


 枢は両手の拳を血が滲むほど握りしめ、叫び、廊下を駆けて行った。


「うむむ? 今日の枢はやけにおかしい」


 残されたシンは呟きつつメンタに渡された同人誌を置き、念の為にとメンタの家に向かって歩き出した。



 メンタの家の玄関に立ち、取っ手を手にかけて開かないのを確認するや一気に蹴り開け放って叫んだ。


「メンタ貴様ァァァ!!」


 が、時刻は夜中。夕食を食べ終わった後にすることと言えば予習と入浴をして就寝するくらいだろう。その入浴の時間帯に今は当たり、流石にメンタも正面堂々と来るとは思ってなかったためすごぶる慌てた。


「うわぁ!? 何々何ですか! 夜這いですか! というか着替え中なのでさっさと出て行ってください!」


 実に現在は胴着を脱ぎ、スカートを降ろして下着に手をかけたところだった。

 枢はそれに眼もくれず叫ぶ。


「おーまーえーがッ、あの腐った本を作ったんだな!?」


 しかしそうまで言われてはメンタも叫び返した。


「腐っ!? し、失礼ですよ! あれは淑女の嗜み用に作った本であって表現から描写までかなり手ぬるい本なんですよ。それにそんなに配布していません。此方側の素質がある彼女たちには色々お世話になっているためそのお礼のつもりで――」

「今すぐ止めろ! 作るな!」


 言葉を遮り、枢は一切合切を否定する。


「何言ってんですか!? アレを作るのはオレの生きがいです! それを奪われたらオレに何が残るって言うんですか! 人間には想像の自由が許されているんですよ! 権利の侵害です!!」


 幻想郷にも紫が作ったルールの一つに『想像の自由』があり、原則として書籍化やアニメ化する場合、他人が不快にならないように――とあり、枢もそれは知っているのだが。


「知るかそんなもん!!」


 枢は天に叫んだ。


「あなたそれでも教師ですか!?」


 そこへ騒ぎを聞きつけたシンがやってきて一言。


「騒がしい。近所迷惑」

「ちょっとお前は黙っていような!? 真面目に、今後の陰陽道が穢されるかどうかの瀬戸際だからな!」


 だが、そこでメンタがキレた。


「何言ってやがりますか! 菅原道真を世に出した時点で陰陽道なんて既に穢れてやがるんですから今更一人二人腐女子が世に出た所で大した問題じゃないですよ! 金のやり取りしてないだけマシでしょう! この一冊だって本来なら860円(税込)で売れる代物ですからね!? 元の世界の学校の文化祭でコレ売ったらぼろ儲けしましたけど、その代償かわりに学校が腐海に沈みかけた否、生徒8割が此方側に染まった時先生たちが動きやがって友達(共犯者)もろとも1週間停学食らったことがあるからこれでも自重したんですよ! ついでに言えば理事長だって年齢詐称のロリババアで犯罪スレスレなんでやがりますよ!!」


 シンがメンタと枢の間に入り、メンタの半裸を隠すように自身で覆う。


「メンタもマジギレしない」

「うむ、その通りだ」


 その後に続いて理事長も入り、枢は驚いた。


「理事長? 何故ここに?」

「何って品を受け取りに来たんだが? 出来ているか?」

「はい! 勿論です!」


 理事長の言葉を聞き、メンタは用意していたブツを理事長に渡した。

 それこそ、枢がしっかりと目に焼き付けた例の同人誌のカバーであり――。


「テメェもしっかり腐ってんじゃねぇか!?」


 枢は眼を見開いて声を荒げた。


「おまっ! 仮にも理事長に向かってテメェはないだろう!?」

「二人とも落ち着く」


 シンに諭されて全員が一度冷静になる。


「う、うむ」

「くっそぉ……いつの間にこんなことに……」


 枢が床に手を突いて泣き、メンタはそういえば、と尋ねた。


「ところで理事長先生」

「なんだい?」

「そういえばまだお名前聞いてなかったので教えてもらえますか?」


 一瞬空気が張り詰め、シンは口にした。


「今までの流れ全部無視した」

「無視ですよ」

「構わないよ。私の名前は安倍晴明だ」


 理事長としても基本的に尋ねられないだけで秘匿しているわけでもないが、何故か生徒教師問わず『理事長』で済ましている。


「え、マジですか?」


 そしてその名を聞いた者は大抵メンタのように驚く。


「マジだが?」

「え、嘘すよね? だって安倍晴明って大抵が男で凛々しい顔していて二次グラフィックで包容力とお金がありそうな典型的なイケメンのはずですよね? いやそうであるべきなんです。なのに何で女性なんですか? 全世界の腐女子を敵に回したいんですか? いやむしろ何で女性に生まれてしまったんですか? 死にたいんですか? 確かに陰陽師である点は理解出来ますよ。それに見合った努力もしてきたのだと思います。ですが、やはり安倍晴明は男でありしかるべきですよ。そういうわけでちょっと整体しましょうか。全体的にサイボーク化して理想の身長と体型を手に入れましょう。年齢は15~21辺りで。理想の身長は175……いえ、169がいいですね。身長コンプレックスはおいしいです。中性的な顔立ちならなお良しです。え、下半身ですか? そこは陰陽師の術とか魔法とかで何とかなりませんかね。というかそれ以前にホルモンバランスから変えないといけませんね。ついでに受けと攻めのどちらでもイケる両刀使いとかどうでしょうか? え、オレですか? オレは女の子専門なのでお断りします。あ、いっそ枢さんの体を貰ってはどうでしょうか? オレが見立ててもかなり理想な身長体重肩幅筋肉量で髪をもう少し弄れば立派なプレイボーイに変貌すると思いますよ。それこそスルトさんや道真みたいないやらしけしからうらやましいことになると思います。それとも道真とは正反対なキャラタイプが良いですか?純粋誠実ド天然ですね?色んな人から思いを寄せられるけどそれに気付かない感じでギャルゲー風味を出しましょうか。攻略キャラは5人、1.ツンデレ幼馴染、2.頼れるお姉さん、3.甘えたがりの妹ポジション、4.生意気な年下、5.真面目は委員長タイプ。隠しキャラがいても良いですね。良いですよね?答えは『ハイ』か『はい』か『イエス』か『もちろん』のどれかでお願いします。拒否したら理性すっ飛ばしで引っこ抜きますんで出来れば自分から進んでやってくれるとオレとしても大変うれしく思います。え、枢さん? 許可って必要なんですか? だって理事長先生の部下で下僕で奴隷ですよね? それなら許可とか全く必要ないと思うんですよ。あ、勿論、枢さんより良い人がいるならどうぞ。でもスルトさんは駄目ですよ。あの人既にハイプァーリア充様ですから。でももし理事長先生がNTR好きやホスト好きなら止めません。その場合守矢が怒り狂って攻めてくると思われますがやはりそこは門下生を石垣や装甲板のように使い捨ててでもやってほしいですね。勿論シンとか女生徒を使ってのハーレムプレイもオッケーですよ。いやでもその場合男性より今の理事長先生の方がロリ教師×生徒という究極的な方程式が成り立つ――まさか理事長先生はこれを見越して……そう考えるのならば男性に生まれなかった理由も説明がいきますね。いやはや御見それいたしました」


 ただ、メンタの答えが予想の遙か斜め上を行ったことを除けば至って普通だ。


「そんなこと一回も考えたこと無い」


 うん、とシンも頷いて続ける。


「しかもその理屈だと理事長が卵子の状態から知能を持っていたことになる。普通にキモイ」


 かもしれない、とメンタも思い直してバスローブを羽織る。


「まあ何はともあれ……とりあえず枢さんを独房にぶち込んでくれませんか?」

「構わんよ」

「うん」


 不意に独房入りをさせられることを聞いた枢は顔を上げて聞く。


「えっ? 何故?」


 理事長は生ゴミを見る目で告げる。


「そらお前、私への暴言、夜間の大騒ぎ、そしてメンタが着替え中に押しかけたから強姦未遂。十分だろ?」

「あっ……」


 それに今更ながら思い当たってメンタを見た枢は恥じる。


「ぐっすん、昨日の夜に猛った枢先生に襲われて身も心も穢された――なんて言いふらしたら社会的に抹殺出来ますよね。笑えます」


 それこそ枢一個人を完全抹殺できる事柄を口にし、隣にいるシンを呆れさせた。


「酷い棒読み」

「うっ……それは確かに申し訳ない。独房にも甘んじて入ろう。しかし、それとは別に腐った本は没収だ」


 枢が同人誌に手を伸ばし、理事長が叩き落とした。


「許可しない」

「何言っているんですか。こんなことが男子生徒たちに知られたら陰陽道が二分割しますよ」

「ああ、それならば――」


 メンタが作り置きしていた別の作品を手にし、最も過激なシーンを選んで見開きにして枢の眼前に突きつけた


「ぱらららっぱっぱっぱー。男性向け~です」


 枢は一瞬戸惑い、その内容と描写を理解するや盛大に鼻血をぶち撒けた。


「ぶはっ!」

「よし今のうちにコイツを縛って独房に入れるぞ。シン、手を貸せ」

「はい」


 枢の鼻に適当にティシュを詰め、メンタも協力して枢の肉体を縛る。理事長が足に括りつけられた縄を手に持ち退出しようとするとメンタがふと思ったことを口にした。


「明日の授業はどうしますか?」

「私が教える。以上」

「じゃ、また明日」


 理事長の後に続いてシンも枢の手足に括られた縄を手にして運びだして行く。

 扉を直し、鍵を閉めた後でメンタはほくそ笑んだ。


「計画通り、ですね。腐腐腐……箱入りの女子ほど、何も知らない白の華を黒く染めることほど容易いものはありませんからねぇ」


 久腐腐腐腐――と不気味な高笑いを残した。



――紫――

 時は少し遡り、菅原道真を捕獲した紫はスキマを使ってレリミアたちを生け捕りにしてある牢獄まよいがへとやってきた。


「よっこらせい」


 そこにはレリミアたちを監視させていた藍が待機しており、レリミアたちは特に何をするわけでもなく大人しくしていた。


「おっさんみたいですよ紫様」

「だって面倒くさいのよ」


 そんな他愛も無い会話は程々に、紫はスキマの中から道真を目の前に落とした。


「はい、皆様御注目。此方で貴方たちの主、菅原道真です」

「ぶくぶくぶくぶく」


 未だ気絶から治らず、男性としては最悪の結果を迎えた人が悶えていた。

 レリミアは思わず牢屋に飛びついて両手を伸ばして泣いた。


「いやぁぁ!! 道真様、なんてお姿に!!」


 囚われているフールエンリルやバインパイアたちはその所業を誰がやったのか一目で理解した。いや、理解してしまうほどのトラウマを植え付けられているのだ。


「こ、これは……」

「間違いないわ、これは!」

「あの赤毛の仕業だ! 絶対間違いない!!」

「あのクソ赤毛めっ!」


 四人の脳裏には不気味に笑み続ける赤い悪魔の姿が思い浮かんでいる。


「一発で分かるのもある意味凄いですね」

「あの人ですので」

「あんた、道真様になんてことするのよ!」


 しかしそんなことを知らないレリミアは紫に食って掛かる。


「私ではありません。さて、これで貴方たちの元凶は捕まり、異変は終わりを見せたわけですが……貴方たちの処分はどうしましょうか?」


 と、そこで道真が意識を取り戻した。


「う、うぐぐ……一体何が……」

「あ、道真様!」

「おおレリミア! それに皆も! あぐぐ……」


 それなら、と紫も道真に視線を向けた。


「本人が目覚めたのなら質問を変えましょう。菅原道真、貴方はどうやって博麗大結界を突破したのですか?」


 道真は少々呆けた面をし、紫に視線を向けると表情を怒りに歪めた。


「ぐっ……その声は紫か! ええい忌々しい女狐め!」


 言われ慣れている紫は涼し気に受け流して続けた。


「質問に答えなさい」

「はんっ! 誰が教えるものか!」


 紫は溜息を吐いた。


「仕方ありませんね……あの娘を連れてきますか」

「ぐぅっ……」


 道真も、つい先程やられた赤い髪の悪魔を思い出して呻く。

 しかしフールエンリルたちの脳裏にはそれよりも最悪の光景が鮮明に映り、いないはずの虚空から腐腐腐という独特の笑い声が聞こえてきた。そして二度と見たくないあの笑みも――。


「道真様はお逃げください! ここは私が食い止めます!」 


 そこから四匹の行動は早かった。


「行けい! 火花「精霊鳳仙花」!」

「こっちは俺が行くぜ!」

「吸血符「アバランチ」!」


 例え相手が幻想郷最強の怪物であろうとも、レリミアだけは何が何でも逃がそうとする統一された意志の元に彼らは牙を剥いた。

 フールエンリルの拳が妖怪に対しては激痛を与える牢を破壊し、飛び出した。


「お、おう……」


 道真は四匹の行動に疑問を思うが助けに舟とばかりに逃げる準備を整える。


「逃がすと思って?」


 紫もただで逃がさない。妖気を放出して四匹を圧迫し、足を止める。


『無論だ!!』


 四匹は――それでも抗って一歩を踏み出した。


「逃がしません!」

「この命に代えてでも!」


 藍も動き、第二形態に移行したガシャポンドクロが巨体に見合わない俊敏な動きで掴んでかかり動きを止めた。


「恩に着る!」


 道真はまず自分が逃げることを最優先にして逃走した。


「くっ! なんて邪魔な!」


 藍は九つの尻尾に妖力を込めて打撃し、防戦を選んだガシャポンドクロの身体からネジや装甲板が飛んで行き、罅入っていく。


「まだまだ!」


 耐えること。ただそれだけで良いならガシャポンドクロは腹を決して耐える。その脳裏に浮かぶのは第二形態の自身を一撃で屠った最強パル。それに比べたら藍の攻撃はまだ弱い。

 その隙にフールエンリルはレリミアの華奢な体を掴み、道真目掛けてブン投げた。


「道真殿!」

「ひゃぁぁ!?」


 それを両手でキャッチし、担ぐ。


「お嬢を頼む!」

「行って!」

「行け!」

「ここで全滅するよりは良いわ!」


 四匹の声を背中で聞き、道真は出口目指して去っていく。


「お、おう!」

「嫌ぁ! 皆!!」


 レリミアは両手を伸ばすが道真の逃げ足は速く、あっという間に見えなくなる。

 取り残された四匹と紫たち。紫は首を傾げつつ藍に問う。


「なんで私たち悪役なのかしら?」

「紫様! 逃げられてしまいます!」

「分かっているわ。でも、決死の覚悟をした輩は手強いのよ。あれらは放って置くしかないわ」


 正面にいるのは藍に勝てはしないが無事では済まないほどの上位妖怪。


「よう分かっておるな」

「最古の妖怪ですから。しかし、覚悟は出来ていますね?」


 紫は笑み、フールエンリルたちも深い笑みを刻んだ。


「へっ、やってやるぜ!」

「ここが天王山――行かせない!」

「死んでも止める!」


 藍は数歩下がって紫を前にする。


「……何故こうまで信頼を得ているのか謎ですね」

「彼らは何方かと言えばレリミア嬢に心酔しているみたいね」


 そんな軽口を最後に鋭利な爪や牙を剥きだしにして四匹は紫に襲い掛かった。


「行くぜ!!」


 対して紫は一尾だけに妖力を込め、一回転して薙ぎ払う。


「チェスト!」

『ぶべらっ!』


 されど上位妖怪。紫の渾身の一撃を食らっても肢体が弾け飛んでおらず、壁に激突して気絶していた。


「でしょうね」

「さてと……霊夢たちに取り逃がしたとか言ったら流石に馬鹿にされるわよね?」

「ええ」


 藍の即答に紫は溜息を吐く。


「かと言って藍が行ってくれるとも思えないし」

「命令は基本絶対服従ですけどね」


 藍は紫の式神扱いだ。故に命令は基本的に良く聞くが断ることも出来る。しかしこの場合の過失は紫にあるため、紫は再度溜息を付いてスキマを開いた。


「しょうがないから私が捜索するわね」

「要するに里に行って遊びたいということですね」


 藍の身も蓋もない表現を紫はスルーして血まみれで気絶している四匹を見た。


「あ、それとそこの四人も捨てなきゃね」


 そう言って四匹をスキマに放り込み、適当な場所に繋いで捨てた。


「それはもう少しオブラートに包んでください」

「ポリ袋か麻袋で十分よ。ああ忙しい忙しい」


 藍の諫言虚しく、紫はスキマの中に消え去った。

 紫がいなくなった後で藍は深い溜息を吐き、気分を切り替える。


「さて、今日も家事頑張ろうっと」


 例えそこしかストレスの逃げ場がなかったとしても。



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