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東方幻想腐女録  作者: グラたん
第一章
41/119

第三十七話 プギュァァァァァァァwwwww

グラたん「第三十七話です!」

メンタ「過去最低のタイトルですね」

グラたん「他にも色々候補はありましたがやはりコレだと思いました!」

 メンタが入学してからまた少し経ったある日の陰陽師院。

 陽は完全に昇り、今日は陰陽師院の生徒教師全員を招集した朝礼がある日だ。


「眠い」


 普段ならまだ寝ていても良いはずの時間帯に叩き起こされたシンは眼をこすりつつグラウンドへと集まり、隣には起こした張本人であるメンタがいる。

 そのメンタは、起こされたシンよりも不機嫌な表情で枢に文句を垂れていた。


「朝礼とかクソかったるいものを何で聞かなきゃいけないんですかね? しかも理事長が座って話すのに対してオレたちは立ちっぱなしですよ。これは体罰に相当するため現代社会ではクビルート一直線ですよ」

「どこの現代社会かは知らないがここでは理事長が法だ」


 そんな軽口も程々に理事長が高台に昇ると二人は口を閉じ、周囲の騒めきも収まっていく。理事長は全体を見渡してある程度静かになった所で声明を上げた。


「あー、諸君。おはよう。今日は良い天気だな」


 メンタは急にご機嫌な表情に変わって空を見上げた。


「曇ってますけどね!」


 その声は理事長の方にまで聞こえたが他の生徒もいるためスルーして続けた。


「今日皆に集まって貰ったのは他でもなく、闘技大会についてだ」


 メンタは、今度は声を小さくしてシンに聞いた。


「闘技大会ですか?」

「闘技とは言っているけど実際は幻想郷で最強の陰陽師を決める大会。でも武器が許可されているから闘技。また、陰陽師以外の人や妖怪も参加可能」


 シンの説明を聞き、メンタは納得した。


「バトロワですね」

「バトロワ?」


 シンが聞きなれない単語に首を傾げる。


「バトルロワイヤルです。要するに殺し以外なら全てが許可されていて誰でも参加出来て賞金もほくほくな裏社会の競技です」

「なるほど。あながち――」


 間違っていない、と言いかけて枢が修正を入れた。


「あんなのと一緒にするな。それに参加できるのは基本的に呪符が使える者のみだ。人間や半妖ならともかく妖怪や獣の参加はほぼ無い」

「式神とかはどうですか?」

「妖怪の参加は不可だ。戦闘中の参加も認められていない。代わりに式神や召喚は可能だ。ま、限度はあるがな」

「意外と面倒ですね」

「あとで教えてやるから今は理事長の話を聞いてろ」

「はーい」


 改めて理事長の方に向くと長い前置きは終わっており、内容に入っていた。


「今年もこの時期が来て皆のやる気は一段と高まっているようだ。今年も例年通り門内の選抜戦を執り行い、上位四名のみが参加できる」


 ――……意外に厳しい条件ですね。この門内だけでも二千人は軽くいますからね。

 と、メンタは密かに思う。


「参加の諾否は君たちに委ねよう。腕に自身があるのなら参加し、無ければ辞退すると良い。しかし、皆も知っている通り我が門下生だけでも万を超えるため、試験をして絞っていく。時には命の危険さえも付き纏うだろう」


 理事長はそこで一旦区切り、不敵に笑み、腕を組んだ。


「だが、最終試験まで残った者たちには来年度の学費は無料! 次いで学食も無料にし、私の権限で出来ることであれば何でも一つ願いを叶えてやろう!」


 その太っ腹な宣言に生徒たちは騒めき、メンタとシンも驚いた。


「うわっ、本当にそういうこと言う人いるんですね。あ、同人誌の売買の許可も貰えるようにできるんですかね?」


 メンタの発言に枢が至極真面目な顔で止める。


「やめろ」

「文化祭のときだけでも良いので」

「黙れ」


 その黙らない口にガムテープを張り、メンタはすぐに取って捨てた。


「ああ、言い忘れたが一つのチームの人数上限は未定だ。あと願いも節度ある物を期待しているぞ。以上だ。次に表彰だ。十二姫じゅうにきは前へ」


 はて、とメンタは首を傾げてシンが説明した。


十二姫じゅうにきって何ですか?」


「門内で覇を競う十二人の陰陽師たちのこと。大体半年に一回のペースで順位やメンバーが入れ替わる」

「順位なんてあったんですか?」

「順位と言ってもあるのは十二から上だけ。それ以下は全員同列」


 と言うと今まで黙っていた生徒たちがシンを睨んだ。


「そう思っているのはお前だけだ落ちこぼれ」

「あんたと一緒にされるのは不愉快よ」


 次いで、メンタは恰好の獲物を見つけて不気味に笑った。


「うっわ、引きますねー。自分のことを棚に上げて下をせせら笑う奴を見るとゾクゾクするんですよねー。鳥肌もんですよ」


 痛い痛い、と両手で腕を擦って鳥肌を押さえる。


「どういうこと?」


 シンは首を傾げて聞くとメンタは更に笑みを深めて答えた。


「イタいんですよ。厨二とかの類と同じです」

「厨二?」

「つまりは自分は弱いけど下には下がいるからそいつら弄って笑っておこうっていう連中のことです。ぶっちゃけ向上心が無いって言い換えてもいいですよ。あ、ちなみに厨二というのは『俺は他の奴等とは違う』とか思っている恥ずかしい奴等のことで『自分には特別な力がある』とか『自分なら世界を救える』とか思っている正義馬鹿のことです。でもどちらかというと悪役に染まる人の方が多くて片腹痛いんですよね。それにしても陰陽師でもこんな奴等がいるとは思いませんでしたよ。あ、それと目障りなんでさっさと消え失せやがれです。いや本当見ているだけで鳥肌止まらないほどキモイのでお願いですから消えてください。言ってしまえばゴキブリとかと一緒なんですよね。分からないならハッキリ言っても良いですよ。害虫って」


 流石にそこまで言われて黙っている奴はいない。


「喧嘩売ってんのかゴラァ!」

「やんのかゴラァ!」


 特にシンを目の仇にし、下に見ている男子生徒たちは憤った。

 メンタは一瞬だけ笑みを引っ込め、侮蔑の笑みを浮かべて右手を口元に当て、左手はお腹に手を当てて煽った。


「今朝礼中なんで後にして貰えますか? ああ、害虫だから分かりませんか。プークスクスクス」


 文章にすればwが10個は付きそうな煽りに生徒たちは青筋を浮かべた。


「煽ってる……」

「やるなら後にしろ。メンタも煽るな」


 枢は見かねて双方の間に入り、制止する。


「煽ってませんよ。そもそも害虫に言葉通じるとか思ってませんから」


 メンタの言葉に枢は溜息を付きたくなるのを堪え、抑えようと試みる。


「お前な……それを屁理屈と――」

「屁理屈ですか? え、もしかして枢さん害虫と言葉話せるんですか? 凄いですね。オレはちょっと生理的に無理なんでちょっと尊敬しますよ~」


 今度は枢の額に青筋が浮かぶが、教師としての威厳を保つために無理やり抑えて終戦を促す。


「……もう良いから黙ってろ。お前たちも後にしろ」


 生徒たちも教師相手では分が悪いため捨て台詞を残した。


「けっ! お――」

「覚えてろよ。それはやられ役の三流の台詞」


 ただ、シンも黙っていなかった。


「あ、あんたねぇ……! い――」

「今に見ていなさいよ。それはやられる一歩手前の悪役の台詞。おすすめしない」


 シンの煽り文句にメンタは手を叩いて喜び、


「自分より雑魚だと思っていた人に向かって悪役の三下みたいな台詞言おうとしてツッコまれるって、今どんな気持ちですかぁ? どんな気持ちですかねぇ!?」


 お腹に当てていた手を生徒に向けてメンタは激しく煽り、生徒たちも遂にキレようとして、先に枢が声を荒げた。


「さっさと戻れ! どっちもだ!」


 枢の声によってメンタたちは少し離れた場所に移動させられ、その合間にメンタはシンの口撃に感心していた。


「結構言いますね」

「無論。それよりも表彰始まった」


 しかし、シンもこれ以上枢に睨まれたくないため一旦黙って指を理事長のいる高台へと向けた。


「では、今季の十二姫を表彰する」


 理事長の表彰にメンタはつまらなそうな表情を作って離脱しようとする。


「興味ないんで先戻りますね」


 それを予測していた枢はメンタの頭部を鷲掴みにして止めた。


「ダメだ。最後まで見て行け」

「えー……」


 メンタが愚痴を漏らつつも列に戻り、シンは表彰台に上った十二人を見て説明した。


「解説すると右からアナプロ、シーケン、シベント、レジア、ボンク、エポロ、コルボト、記紀、シメイ、ハンス、虞応、元棟」


 なるほど、とメンタは呟いて――嗤った。


「右からハム、ベーコン、豚丼、ボロニア、ウインナー、焼き豚、生姜焼き、生レバー、モツ煮込み、ハツ、ロース、豚足ですね」


『誰だ今変な名前で呼んだ奴!?』


 表彰台に上っていた十二人が一斉にメンタを見て声を上げた。

「地獄耳ですねぇ」

「いや、辺りが静寂だったから良く響いただけ」


 枢は内心怒りながらもガムテープを取り出して構えた。


「お前等次喋ったらガムテープ張るからな」


 シンはそれで黙り、メンタは驚いた表情を作って……叫んだ。


「――犯される!?」


 ブチッ、と血管の切れる音が高らかに鳴り、メンタの口から頭部を何周も周ってガムテープを張った。

 メンタはムゴー、ムゴーと叫ぶがガムテープが取れることはなく、まして取ろうとしても髪の毛も一緒に抜けてしまうため迂闊に引っ張ることは出来ず、黙って不貞腐れた。

 その後も理事長の発表と表彰は続き、やがて終わりを見せた。


「以上で表彰を終える。皆、精進せよ!」




 

 朝礼が終わり、生徒たちは各自教室に戻り、メンタとシンは中庭で枢から説教を受けていた。


「お前等な、もう少し節度を持て。あと表彰中に喋るな」


 なんとかガムテープを取り終えたメンタは涙目で言い放った。


「ついカッとなってやりました。反省しています」

「凄い棒読み」


 そう、表情だけなら反省しているようにも見えるのだが口から出た言葉は反省の欠片も無い棒読み。

 枢が更に説教を加えようと口を開くと、先程の生徒たちが此方へと向かって来た。


「よぉ、シン。さっきは良くも舐めた口聞いてくれたな」

「今日という今日は再起不能にしてやるわ」


 加えて高台からメンタを見ていた十二姫のアナプロとシーケンも来ていた。


「確かに先程の言動は目に余るな」

「そうだな」


 その流れ全てを無視してメンタはシンに聞いた。


「そう言えば十二姫なのに野郎がいるのはどうしてですかね?」

「十二姫はあくまでも呼称。男の人が居てもおかしくはない」

「空気読めない野郎共ですね。ドブに落ちて死ねばいいんですよ」


 フッ、とアナプロは鼻で笑う。


「やれやれ……身の程を知らないようだね」


 ハイハイ、とメンタは人差し指を向けた。


「優汁豚男、乙」


 アナプロはその意味不明な言葉を聞き、不快そうに息を吐いた。


「意味は良く分からないが非常に不快な言葉なのは良く分かった」

「ちょっと顔貸して貰おうか」 


 シーケンがメンタに手を伸ばし――メンタはその手を無視して周囲に声をかけた。


「一人一人やるの面倒くさいんでそこらに隠れている人たちも出て来て良いですよ~」


 中庭はガーデンにもなっているため背の高い樹や茂みも多くある。その中から十二姫の数人が姿を現した。


「ほう」

「気付くか」


 ただ、枢だけはこの後すぐにでも起こる事柄を予測して離れた。


「……やるのは勝手だが派手なのは使うなよ。あと地面と建物に被害出したらやった奴が修理しろよ」

「はーい」


 メンタは元気よく返事をし、袖の中から不可視の魔法を付与したスペルカードを取り出して自分の足元に仕掛けた。


「決闘方法はどうする?」


 そんなことは露知らず、アナプロは舐めた表情でメンタに尋ねた。


「そっちが決めて良いですよ」

「ならば相手が気絶するまでだ」

「了解です。他の条件はどうしますか? 何かハンデいりますか?」


 メンタの言葉に観戦していた生徒たちが騒めき、十二姫も失笑した。

 中でもアナプロは特に油断して言葉を続けた。


「フッ、弱者からハンデを貰っても何も嬉しくはない。むしろこっちがハンデをやろうか?」

「ならハムさんたちは体術、呪符、術符、スペルカード、武器その他等々、右手と左足使用禁止と、10分間攻撃無しで良いですかね?」


 メンタの酷いハンデに全員が突っ込み、アナプロは笑った。


『ざっけんなオイ!!』

「ハハハ! 面白いがそこまでしてはやれないな」


 怒り狂った生徒たちが各自メンタたちを取り囲み、その手に術符を持って構えた。シンも身構え、枢は自身が絶対に被弾しない位置までしっかりと後退して行く末を見守った。


「では――」


 と、アナプロが攻撃を宣言しようと右手を上げ――メンタは自身を起点にしてシン以外の全てをふっ飛ばすつもりでスペルカードを発動した。


「爆符「連鎖する(アプダクション)雷轟爆裂(・ヴィーナス)」!」


 その叫びを聞く前に枢は建物の影に身を隠して頭を守り、次いでガーデンを全て吹き飛ばす大爆発が起こった。いくら十二姫と言えどもメンタがスペルカードを持つ程とは思っていなかったため何の防御術式も起動出来ずに天高く舞い上がり、黒焦げたまま地上に落下した。オマケに周囲に居た生徒たちも軒並み瀕死になって落ちて来た。


「かーらーの、呪符「漆黒の夢見る乙女(ナイトメア・メイデン)」!」


 メンタの攻撃はまだ終わらない。何も、スペルカードは一枚だけでは無いのだから。

 呪符「漆黒の夢見る乙女(ナイトメア・メイデン)」は精神干渉系のスペルカードで眠っている相手の脳を侵食してメンタが入力した悪夢を起きるまで見続けることになる。気絶していようが寝ていようが死んでいなれば効果はある。


「鬼……」

「悪魔だ……」


 シンも、建物の影から頭を覗かせた枢も揃って呆れた。


「あ、夏コミ用にカメラ回しましょう」


 ポン、と手を打ち、その手をいつの間にか傍に来ていた理事長が止めた。


「そこまでだ。それ以上我が門下生を虐めるなら私が相手になろう」


 理事長は予測では『虐めてないですよ~』と言うだろうと考えていたのだがメンタの答えは斜め上を行った。


「あ~すみませんが今回ロリ枠は作ってないので出演の方は出来ません。また今度にさせてください」

「誰がそんな事言った! はぁ……それよりもだ。随分と派手にやってくれたな。十二姫全員が重傷とはな」


 理事長が溜息を吐き、シンはカメラを持って来ていた。


「カメラ持って来た」

「それじゃあ三脚台にセットしてください」

「人の話を聞け!」


 シンは三脚台を組み立てつつ、メンタはカメラを弄り回して理事長に答えた。


「長くなりそうなので片手間に聞きます。あ、出来れば漢字込みで十文字以内でお願いします」


 理事長は数秒間考えてから答えた。


「――お前等早く授業に行け」


 メンタはカメラを弄る手を止め、理事長を見た。


「うわ、本当に十文字に纏めやがりました……。仕方ありませんね。行きましょうか」

「良いの?」

「はい。何の問題もありません」


 実際は理事長に無茶振りしたつもりだったため、答えられてはどうしようもない。メンタはシンの組み立てた三脚台をテキパキと片付けて肩に担いだ。


「終わったのか?」


 建物から枢も出て来てシンが持って来た他の機材を手にし、理事長は半眼で枢を見た。


「枢、お前も随分と肝が太くなったな」

「ええ……まぁ……」


 どこか疲れたような表情で枢は呟き、理事長もそれ以上は突っ込まずに保健室へ術符を飛ばした。


「良いんだが悪いんだが……」


 メンタとシンは中庭を一瞬見て、教室へと足を向けた。


「それでは戻りましょう!」

「おー」


 中庭は、あれだけの爆発があったにも関わらず木々はおろか花びらの一枚さえも飛んでいない。人だけを正確に狙っていたのだ。


「……やはり化け物だな」


 誰もいなくなった中庭で理事長だけがそれに気付き、小さく零した。

 教室に戻ってきたメンタたちはHRの合間に今後の作戦を練っていた。


「さて、これから闘技大会に向けて色々と策を練ろうと思う」


 枢が先にそう言ったのをメンタは意外と思い、割とまともな質問で返した。


「授業はどうするんですか?」

「勿論やるぞ。午前中だけな」


 やはり、とメンタは少しだけ思案した。

 メンタの観点からすれば、教師というのは授業を行うための装置であり、教科書を読んで生徒個人のデータを纏めるシステムに過ぎない。

 ――やはり人間相手だと勝手が違いますね~。

 そう思いつつもメンタは返答した。


「意外ですね。枢さんなら反対すると思っていました」


 すると枢は少々眉間に皺を寄せた。


「お前等のやり方はアレだが向上心とやる気は本気なのは知っているからな」

「嬉しい評価ですね」


 メンタは喜ぶが、その気苦労に見合った報酬を枢は貰っていない。そも、それが教師という職業であるのだが、教師としてはまだ若い部類に入る枢は知る由もない。


「して、策は?」


 シンの問いにメンタは一瞬だけ間をおいて、ニヤリと笑みを浮かべて立ち上がり、黒板の前に立ってチョークを手に、答えた。


「そうですね……大会前日の夜に全員の食事に下剤混ぜましょうか。下剤と言っても種類は色々ありますが医務室で直されては意味がありませんので遅効性のモノを使います。幻想郷では魔法があるため薬学自体発達していないのは皆さんご存知の通りで解毒魔法を使われれば大抵の下剤は無力化されてしまいます。医務室の先生も永琳さんやてゐたち程ではありませんが手練れの魔法使いです。しかし、解毒魔法とは厳密には人体の新陳代謝を活性化させて汗を出し、体内の毒物を排出させる魔法です。アルコールやニコチンなどの物質も肝臓や肺を活発化させれば実のところ治ってしまいます。尤もそのおかげで薬学は進歩せず、野山に薬草がほったらかしになっていましたが……。さて、ここからが本題です。今回使用する予定の下剤は毒草『カロペリン』を使用します。効能は主に嘔吐・下痢・咳ですがこれらに加えてカロペリンには神経毒があります。何故神経毒があるのかというと秘密はその生態にあります。そう、カロペリンは爬虫類、霊長類を捕食する人喰い草でもあるのです。攻撃方法というまでもありませんが生態上得物をおびき寄せて自身を触らせて即効性の毒物を盛り、普段は見せない蔦で得物を縛り上げてシッポリムフフと頂く植物です。対処法は簡単で毒はおよそ一時間で切れます。当然カロペリンも知能がありますのでまた毒を刺してきますが人間の行動速度よりは遅いため落ち着いて火の術符や火系統の魔法で殺しましょう。収穫するのであれば蔦を焼いた後に胴体を切りつけて中から出てくる毒液を採取しましょう。手袋と対毒ガラス瓶は忘れずに持って行きましょう。調合は毒液、エイの尻尾、小麦粉、植物油、幻想兎の血、幻想蛙の油を用意します。最初はガラス瓶に入ったままの毒液を火で温め、小麦粉と植物油を投与します。この時点で既に下剤は完成ですがまだ即効性です。遅効性にするにはエイの尻尾に含まれる毒を幻想蛙の油で弱め、幻想兎の血を入れて弱火で半日かけて煮ます。幻想兎の血には毒物の効果を遅らせて弱める効果がありますが弱火で煮ることによって遅効性の効果だけが残ります。これによって遅効性の神経毒効果付き下剤が完成するのです。余談ですが色は透明になりますのでくれぐれも中身が無いと焦らないでください。持ったらちゃんと液体の重みがあります。混ぜる方法ですが……まあこれはオレがやりましょう」


 シンも枢もちょっとした講義を聞き、述べた感想は一言だった。


「きったねぇ……」

「セコイ」

「戦略的と言ってください。まあ冗談ですよ。実際、策らしい策は無くても大丈夫だと思いますよ」


 あれだけ説明しておいて実は大丈夫と言われて素直に頷く人は少ない。


「何故だ?」

「先程、布石を打ちましたから」

「……?」

「――……そうか。さっき十二姫を汚い手で叩き潰したのはそういうことか」


 シンは首を傾げたが枢は心当たりがあるのか、納得した。


「はい」


 メンタも不気味に笑い、シンは問う。


「どういうことか分からない」

「つまり、敵討ちしにきた奴等を返り討ちにするんですよ。そうすれば大会に出場する輩を理由付きで退場させられます」

「だが、その分今後のリスクもある。寝ている間も狙われるし風呂に入っている間は恰好の獲物だ」


 いくらメンタとて日中日夜寝ずに過ごすのは不可能だ。そんな枢の懸念に対してメンタは厭らしく笑った。


「そもそも正攻法でも余裕で勝てるような相手に、オレがそんなことさせると思いますか?」

「……無いな」


 枢は心の中で合掌し、メンタは『フヘヘ』と高笑いした。

 会議も終えたところで鐘が鳴り、今日の授業が始まった。



 そんなメンタたちの様子を伺っているのは陰陽生の面々。その表情は義憤に塗れており確固たる意志を秘めていた。


「十二姫の仇は俺たちが取る!」

「汚い手を使いやがって!」

「そうしないと勝てないからよ」

「でもやったんなら相応の覚悟はあってのことよ」

「やるぜ……」


 彼らは術符を手に教室ごと焼き払おうと思案していた。


「行くぞ!」

『おお!』


 一人が一歩を踏み出し――――何かを踏み抜く音がした。

 


 授業の最中、その音を聞いたメンタは一人嘲笑した。


「腐腐腐、獲物が罠にかかりましたね」


 授業が終わって昼休み。枢を教室に残してメンタとシンは先程の陰陽生たちのところへとやって来ていた。


「大漁大漁、馬鹿ですね。フハッ」


 彼らを捕えているのは囚われれば熊でも身動きできないと言われる砂鉄を編み込んだメンタ特製の捕獲ネットだ。それを陰陽生が破れるはずも無く、絡まっていた。

 メンタはそれを見て満足そうにニヤニヤニヤニヤニヤニヤとしている。


「ぐっ……」

「汚いわよ! 正々堂々戦いなさい!」


 そんな彼らの声を聞き、メンタは精一杯変顔を作り、煽った。


「え、何でですか? 何でそんな非効率な手段取らないといけないんですかねー? というかこんな見え見えの罠に引っかかる方が馬鹿なんじゃないんですかね? デェェスカネェェ? プギュァァァァァァァwwwww!!」

「ウザっ!?」


 百人中百人がウザイと評判の変顔を決め、メンタは彼らを地上に降ろした。


「さてと……」

「下ろすの?」


 シンの言葉に陰陽生たちは情けをかけられると思ったのか憤慨した。しかしメンタは首を横に振るって否定した。


「いえ、ちょっと山に行って丸太に括りつけて川の上流に捨ててきます」

『鬼かテメェ!?』


 陰陽生たちの心が纏まった叫びを聞いてメンタは照れる。


「褒め言葉です」

「いてら」


 そんな陰陽生たちを――ネット込みの重量にして500kgはある――メンタは引き摺りながら山の上流へと向かっていく。

 余談だがネットの内側には動く得物を確実に弱らせるために小さい棘がいくつも付いている茨網のため引き摺られるということはその棘が肉を引き裂いていくというオプションも付く。

 メンタは彼らが痛いと叫ぼうが止めろと言おうが止まることなく、むしろ喜々として野山を駆け上がって行く。時にはわざと岩場を駆け登ったり、わざわざ川の上を八艘飛びして更なる傷と痛みを負わせていた。 

 そしてたどり着いた先は一本の太い丸太のある上流だ。少し先は3mくらいの滝壺になっており妖怪も出ないため夏場は子供たちの泳ぎ場となっている場所だ。


「ねぇ! お願い! やめて!」

「もうやらねぇから!」

「本当に死ぬから止めてくれ!」

「嫌ぁ! 死にたくない! 死にたくない!」


 それを全部知った上でメンタは何ら躊躇いもなく彼らを丸太に括りつけた。


「あはは、大丈夫ですよ。この川は博麗神社の麓の里に繋がっていますから二日くらい流れていれば里に着きますよ。下手に暴れなければですけどね。あと――」


 そこで言葉を区切って近くの茂みから取り出したのは十二姫の内の半数だった。


「彼らも括りつけますからちょっと重りは多いので沈まずに到着する確率は五分五分ですね。よっと」


 六人は既に意識を取り戻しているがメンタのスペルカードを食らって怪我をしている。水に浸ければその痛みは増加する。


「や、やめろ! やめてください!」

「こ、この人殺し!」


 メンタはその叫びにも特に何とも思わず丸太のロープを切った。


「ひ、ひぃ!」

「あ、あんた何やってんのよ!」


 その問いには答えず、お清めの塩を彼らに振りまいて、メンタはとても清々しい笑顔で手を振って彼らを見送った。


「それじゃ~、良い旅を~」

「い、嫌だ! 嫌だ!」

「いやぁぁぁあああああああ!!」


 少しして彼らは滝壺に落ち、盛大な水飛沫を上げた。


「どんぶらこっこ、どんぶらこっこと流れて行きましたとさ。結末は彼らのみぞ知るってところですね。さ、ブンヤ烏が騒ぐから帰りましょうっと」


 事実、頭上にはメンタの鬼畜っぷりを世話しなくメモしてカメラのシャッターを切っているブンヤ烏こと射命丸がいた。

 メンタは飛翔し、彼女に会釈してから陰陽師院へと帰って行った。



 時間は少し戻り、書類整理を終えた枢は昼食を取ろうと教室の扉を開くと『ぎゃあああああああ!!』 と何処からか生徒たちの叫び声が聞こえ、急いでその方向へ向かうといくつもの血痕があり、その先には丁度メンタが大きな網を陰陽師院の外へ降ろしている最中だった。

 枢は嫌な予感に襲われてすぐさま正規門から先程メンタが居た位置まで来て、血痕及び何かを引き摺っていた方向へ走った。近年稀に見る全力疾走を慣行しているのにも関わらずメンタの姿は一向に見えてこない。

 崖を昇り、激流の川を迂回し、ようやく追いついた頃にはメンタの手にはもう網が無く、丸太に括りつけられていた。

 枢はそこでようやく網の正体を知り、今度は急いで崖を下り、受け止めるための術符を展開する。


「間に合えッ!」


 枢は教師の中でも優れている陰陽師であり、生徒十数人を受け止めるだけの力量はあった。所謂『蜘蛛の巣』と呼ばれる粘着性のある術符を組み上げて起動し、今、正に滝壺に落ちて溺死しようとしている生徒たち全員を保護して近くに引き上げた。


「あいつ……本当にロクなことしないな……」


 久しぶりの全力の救出に枢は息を途切れさせ、助かった生徒たちは命あることを喜び、抱き合った。


「……ぐずっ」

「……ぐずっ」

「赤毛怖い赤毛怖い赤毛怖い……」


 メンタ――否、狂気の赤毛は彼らの心身に消えないトラウマを植え付けた。





 授業も終わり、夕方。

 メンタは問答無用で理事長室に連行され、枢が扉の前に陣取った。

 枢は酷く疲れた顔をしているが理事長の額には深い皺が刻まれていた。


「メンタ。何でここに呼ばれたか分かるかね?」


 理事長の手元にあるのは枢が書いた報告書と被害に遭った生徒たちの名前だ。それを見てメンタは凄く嫌そうな顔で言った。


「ケッ、余計なことしてくれましたね。おかげでもう一回流す嵌めになりそうですよ。二度手間させないでくださいよ。面倒くさいんですから」

「お前マジで一回反省しろ」


 枢は呆れて呟き、理事長は机を軽く二回叩いた。


「今までは敢えて黙って来たが、今回の件は流石に見逃せないよ。明らかにやり過ぎだ」

「やられる前にやれって言葉知ってます?」


 メンタの飄々とした言葉に、理事長は頭痛を覚えつつも続けた。


「そうだとしてもだよ。人にトラウマを植え付ける程じゃないはずだ」


 しかし、メンタは意外そうに驚いていた。


「え?」


 枢もその様子に疑問を持ちメンタに問う。


「待て。何で疑問出した? 何もおかしなところは無かったぞ」

「いや疑問ですよ。なんでトラウマ程度で済んでいるんですか?」


 枢は今後こそメンタの異常性を感じた。


「程度? お前それ本気で言ってるのか? 本当は殺す気だったのか!?」

「むしろ何で自分の害になる奴を殺さないんですか?まあ、確かに今回はかなり手抜きでしたけど……」


 果たして、枢が声を荒げようとするのを見計らって理事長は枢を手で制した。


「もう良い。メンタ、お前は門内の大会は欠場だ」

「えー」


 メンタの抗議する声に再度枢が動く前に理事長は続けた。


「ただし闘技大会には出す。それまでは自宅で謹慎しろ」

「それならまあ良いですよ」


 メンタは良心の呵責は一切なく、ただの利益損得だけを考え、結果的に理事長の命令に頷いた。理事長もそれで済んだことに頷いた。


「話は以上だ。枢は残れ」

「了解です! それじゃ失礼しますね!」


 メンタが退出し、残ったのは理事長と枢。押し止めていた手を降ろし、枢は少しばかり冷静になった口調で理事長を問い詰めた。


「何故ですか。何故あいつを大会に出すと言ったんですか」


 声をこそ荒げなかったが、枢の言葉は充分怒気が籠っていた。


「あの賢しさと殺意は大きな武器だ。使わない通りは無い」

「ですがアレは諸刃の剣です。敵だけならまだしも此方側まで――それも、陰陽師としての生命まで断たれかねません」


 理事長は全ての感情を押し殺して答えた。


「ならばそれまでだ」

「なっ――」


 枢は驚愕するが、それ以上に理事長は言葉を強めた。


「枢、お前も分かっているはずだ。我々にはもう後が無い。今年勝たねばいよいよ死ぬことになるだろう。私自身も……シンも……」


 その真意を枢は知っているが、複雑な心境でもあった。


「それは……分かっています。でも――」

「何も言うな。全ての責任は私にある。もうしばらくシンを頼む」

「……了解です」


 枢も退出し、一人になった理事長は緑茶を淹れつつ呟いた。


「やるしかない……。もう、時間が無いんだ……」


 窓から外を見上げると陽は落ちており、今日を終えた生徒たちの声が聞こえてくる。

 空は暗く、赤い月が昇り始めていた。



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