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東方幻想腐女録  作者: グラたん
第一章
33/119

第三十一話 地球? 異世界? 幻想郷?

グラたん「第三十一話です!」

 次の日。朝日も昇り始めた頃。


「ぎゃぁぁああああああああああああ!!」

「ごめんなさいぃぃ!!」


 紅魔館の何処からレミリアの悲鳴と咲夜の怒号が聞こえてくる。


「なんだなんだ?」

「めっちゃうるさいですね」

「また何かやらかしたのかしら?」


 目覚まし代わりに聞こえてくるそれを鬱陶しく思いながらも客間から少女たちが姿を現し、目の前をレミリアとフランが通り、咲夜と早苗が追いかけ回している。その後に続いてパルがオロオロしつつも咲夜と早苗を捕まえて宥めた。


「落ち着いて、咲夜! 早苗!」

「くぅぅぅ!!」

「がぁぁぁ!!」


 咲夜はともかくとしても早苗が必死の形相になっているのは珍しく、メンタもあまりイメージ出来なかったため事情を知っているであろうパルに聞いた。


「何やらかしたんですか?」

「それがね……」


 

 時間は過去、皆が起きる五分くらい前に遡る。

 久しぶりに紅魔館へと帰って来た咲夜とパルは全員分の朝食を準備しつつ、レミリアたちの着替えも手伝うため結構忙しい。


「朝食をお持ちしました」


 それでも時間キッチリに仕上げる辺り、咲夜のメイド根性はまだ腐っていない。


「わーい!」

「わーい!」


 久しぶりの咲夜の料理ということもあり、レミリアたちはいつも以上に喜んでナイフとフォークを手に取った。

 しかし食してみると想像していたよりも味が落ちていることに気付く。否、パチュリーが作っていた料理の味が濃かったため舌が肥えていた。


「なんか……味薄い……」

「パチュリーの方が美味しいね」


 言わば、ジャンクフードを食べた後に自作料理を食べるような感覚が一番近いだろう。レミリアたちに言われてパルも食べてみるが、確かに少々腕は落ちたかもしれないと思った。


「くわっ」


 尤も、最近は少し我儘になった咲夜は目を開いた。パルと比較されるならまだしても、よりにもよってパチュリー如きの方が美味しいなど、プライドにかけて許せなかった。例えるなら――般若。

 そんな形相の咲夜を知らず、レミリアたちは言いたい放題しながら食事を進めて……食べ終わると同時にパルは食器を素早く片付けて、レミリアたちは逃げ出した。


「ぎゃー!」

「きゃー!」


 面白半分、本気半分の鬼ごっこをしつつ廊下を飛んで逃げていると、フランが客間から出て来た早苗とぶつかってしまう。


「きゃっ!」

「わ、ご、ごめんなさい!」


 早苗も寝起きだったためか少々不注意であり、フランの体を受け止めた。


「大丈夫だよ~。お姉ちゃんお腹と二の腕ぷにぷにだったもん」


 と、フランは無邪気に言い、早苗は硬直した。ついでにちょっと同じ悩みを感じているレミリアは固まり、咲夜も真顔で固まった。


「くわっ」


 例えるなら阿修羅。そんな顔をした早苗がスペルカードを取り出し、咲夜と共に二人をどつきまわし始めた。



 そうして現在。食器の片付けを終えたパルが咲夜たちを捕まえて居間の方へと連れ込み、温かい紅茶に砂糖を入れて落ち着かせている。

 メンタたちも全員起床し、パルの用意した朝食を手に話を聞いていた。


「決めました。家出します」

「私はぷにぷにじゃありません」


 咲夜は腕を組み、早苗は二の腕を掴みつつ言い放った。それに至るまでの経緯も聞き終えたため、メンタたちは感想を述べた。


「馬鹿ですか?」

「馬鹿だな」

「超どんぐりですよね。咲夜さんも一か月何もしなければそりゃ腕も落ちますよ。何もやってなかったのにそれを棚に上げて逃げようとしたら駄目です。早苗さんはもう贅沢な悩みとしか言えません。むしろご馳走愁傷様です」


 そう、贅沢な悩みなのだ。特に身長と一部の肉付きなどメンタたちにとってはもぎ取ってでも欲しいものの一つであり、恨みがましい視線を注視していた。


「メンタも揶揄わないの。ほら、咲夜も、いないとパチュリーがまた困っちゃうよ。早苗も運動すれば良いだけだよ」


 パルの正論に咲夜と早苗は歯を食いしばって唸った。


「うぐぐ」

「ぬぐぐ」


 次いで贅肉筆頭格とも言える二人が追撃した。


「そうよそうよ。運動しなさい」

「運動しろ~」


 紫がスキマを広げて現れ、後から幽々子と藍、妖夢の三人が姿を見せた。ただし従者たちは主の方へ口撃した。


「紫様もですよ」

「幽々子様は食事量を減らせば痩せます。ええ、間違いなく」


 位置的にはパルの背後だったため、パルは驚いて振り返った。


「わふっ!? またいつの間に増えてる!」

「あら、藍さんに妖夢さん」


 咲夜とこの二人は面識があり、藍の場合は紫の御伴として紅魔館で何度か食事をしたことがあり、妖夢は庭師としての一面もあるためガーデニングを一緒にすることがある関係だ。


「咲夜さん。帰って来ていたんですね」

「途中で紫様の面倒を見ていたから分からないけど、パチュリーは大丈夫かしら?」


 二人が気にかけているのは個人の事情によって帰宅せざるを得なかったため置き去りにしたパチュリーのことだ。二人ともにパチュリーが病弱なことを知っているため今に至るまで気が気では無かった。


「パチェは一命を取り留めているわ。安心して」


 咲夜が微笑むと二人が驚愕した。


「死にかけてる!?」

「本当にすみません!」


 妖夢たちが謝ると、紫と幽々子は立腹して腰に手を当てた。


「ちょっと、なんで謝ってるのよ」

「それじゃあ私たちが悪いみたいになっちゃうでしょう?」

「ほぼ貴方たちのせいですけどね!」


 妖夢のツッコミが入り、紫たちは笑いながら空いている席に座って勝手に紅茶やらお菓子やらを抓みはじめた。


「ところで此方の方は?」


 藍がパルと早苗を見て、メンタたちを紹介して欲しいと促すと咲夜は紹介を始めた。


「彼女は紅魔館で新しく仕えることになったメイド、パルよ。こっちは守矢神社の巫女の早苗。あっちはお馬鹿シリーズよ」


 お馬鹿に否定はしないがメンタは抗議した。


「ちょっと待ってください! 勝手にクソニートと一緒にしないでください! あと藍さんの九尾をモフモフしたいです。というか毛並み綺麗すぎて一、二本貰っても良いですか? あ、勿論一本は枕にして一本は自分用にしたいです。ダメですよね、はい。言ってみただけなので無視してください」

「甚だ不本意だ! クソニートと一緒とか死んでも死にきれないぜ! あとそっちの霊魂連れている白頭が結構ストライクゾーンなんでちょっと色々剥いで揉んでも良いか? 答えは聞いてないぜ!」

「誰が馬鹿よ! というかあんた等も失礼ね!」


 馬鹿二人の抗議に霊夢も反撃し、パルは半場スルーしながら補足した。


「そっちの赤いのが妹のメンタでそっちの兎さんが永遠亭のてゐだよ」

「へぇ……え?」

「妹? 嘘……」 


 誰もが同じ反応を返し、慣れてしまったパルは特に何も言わず、メンタはここぞとばかりに喋った。


「ちゃんと血の繋がった妹ですよ! 確かに色々、色々、色々! 似ていませんが生まれから今に至るまで姉妹です! あと妖夢さんと幽々子さんのコンボは良いネタになるのでどっちか夏コミ用のコスプレしてみませんか? あ、最近は実用性のあるメイド服も作れるようになってきたので動きやすさは保証しますよ。あとドレスとかゴスロリとかも合いそうですよね。特に妖夢さんの体型はちょうど良いので弄り甲斐がありそうですね。藍さんはパル姉と同じくらいと見積もりましたので少し派手な奴が良さそうですね。敢えてヘビメタ系にしてみるのも面白そうですがここはアニキャラ方面で攻めて行った方が映えそうですね。勿論、手当やお昼と休憩はありますよ。此方もプレイヤーさんには万全を期して貰うため支援は惜しみません。更には――」


 と、メンタの勧誘をパルが割って入りスルーさせる。


「あ、メンタのいつもの癖だからスルーしてくれていいよ。あらためて、ボクはパル。よろしくね」

「東風谷早苗です。早苗で良いよ~」

「魂魄妖夢です。よろしくお願いします」

「八雲藍です。いつも主人がお世話になっております」

「もっと柔らかくて良いよ? ボク、固いのは苦手だからさ」


 気質と言うべきか、パルの雰囲気を見て妖夢と藍は改まって肩の力を抜いた。


「はい、分かりました」

「確かに固い言葉って何か肩こりますからね」

「で、あんた等は何しにきたのよ」


 霊夢が聞くと、背後から紫たちの騒ぎ声が聞こえて来た。


「ちょっと、そのお饅頭私のよ」

「私が食べるの~」

「出てけ!」


 情けない主の代わりに事情を知っている藍が言葉にした。


「今日来たのはご迷惑をおかけした謝罪と今回の事件についての報告です」

「報告ねぇ。何か分かったの?」

「彼女たちから話を聞いたところ、博麗大結界を突破したのは菅原道真という人物のようです」


 藍の説明にメンタは垂れ流していた勧誘を切り、会話に加わった。


「道真ですか!? そ、そうですか、ついにあいつが……」


 てゐが聞くとメンタはサムズアップで否定した。


「知ってるのか?」

「言ってみただけです」


 代わりにパルが知っている知識で答えてみせた。


「菅原道真は日本の歴史に出て来た人物だね。主に平安時代に陰陽師の一人として活躍し、最後は謀反の疑いで殺されちゃった人だよ。現代でも悪役方面で使われることが多い人でゲームとかだと裏ボスや強キャラとして出てくることが多い、よね?」

「はい、その通りです。付け加えるならばBLネタで安倍晴明とのカップリングが多いです」


 ほほう、と食いついたのは紫と幽々子。メンタはそっちの相手をし、藍が続けた。


「で、その菅原道真が幻想郷の方に迷い込んだらしいです」

「へぇ」

「ほう」

「それに伴って幻想郷から派遣した陰陽師が彼を追っています。彼が元凶であるため霊夢さんたちにも捕縛もしくは討伐を依頼したいと思っています。如何でしょうか?」


 こういう事件や事変は博麗の仕事であるため早苗に異論は無く、霊夢は一度早苗を見て何のリアクションも無いことを確認してから頷いた。


「報酬によりけりね」

「私は事件解決に協力するぜ。勿論、メンタもな」

「はーい」


 魔理沙とメンタが返答を返し、藍は事前に決まっていた答えを返した。


「報酬は霊夢さんが飲食その他一年分。魔理沙さんは魔導書、メンタさんは――」

「あ、それならオレは武器が欲しいですね。この前拝借した銃はいつの間にかパル姉に解体されていましたので」


 そう言って何処から取り出したのは香霖堂から拝借した拳銃だ。結局一回も使うことなく、先の戦いで依姫の手によって分解されていた。


「やってないよ!?」


 無論、パルにしてみれば完全に濡れ衣のため否定はするが、メンタの半眼に少したじろいだ。


「分かりました。では香霖堂に新武装を注文しておきますね。最近、ちょうど面白そうな物が手に入りましたので期待して良いですよ」

「マジですか! ヒャッハー!」


 メンタが飛び上がりそうなくらい喜ぶ反面で霊夢は訝しんだ。


「随分太っ腹ね」

「いや、その分大変なんだろうな」


 魔理沙も同様だが、早めに済ませてしまいたいというのが紫の思惑だ。


「そうですね。ただし、今の道真はレリミアさんたちを失い、この幻想郷に入るために相当力を使ったためかなり弱まっています」

「それならすぐ終わるんじゃねぇの?」

「チッチッチ、窮鼠猫を噛むという言葉があります。どんな鼠でも必死になれば猫にも勝てるって奴ですよ」

「はい。獅子は兎を狩るのにも全力を尽くすという言葉通り、此方も抜かりありません。皆さん、宜しくお願い致します」


 藍の宣言を聞いて霊夢たちは頷き、仕事を引き受けた。


「りょーかい」

「分かったぜ」

「了解です」


 では、と藍は紫に視線を向けた。


「紫様」

「ん」


 紫が饅頭を食べながら霊夢たちの方に手を伸ばし、スキマの中へ放り込んだ。


「え」

「ちょ」

「今からで――」


 三人を取り込んでスキマが閉じていく。それを見終わり、用件を済ませた藍がテーブルの方を振り返った。


「さーて、私のお饅頭……が……」


 そこにあったのは空になった皿と水の如く紅茶を飲みまくる紫と幽々子がいた。


「ぷはー、紅茶も良いわね」

「ゴクゴクゴクゴク」

「止められなかった……」


 妖夢も頑張って止めていたのだが途中からレミリアたちも加わってしまい、止めることは叶わなかった。


「美味しかったわ」


 レミリアたちも満足そうにしており、妖夢はテーブルに手をついて頭を下げ、しかしパルと早苗が別のテーブルにお菓子と紅茶を広げ、咲夜がお菓子の追加をレミリアたちのテーブルに投げた。

 そのお菓子に群がる様子はもはや甘い物に集るGと言っても過言ではない。


「大丈夫、藍の分も取っておいてあるから」

「予測通りですね」

「紅茶も入ってるよー」

「これが、友達!」


 今までまともな友人がいなかった藍と妖夢は無性に感動した。



 ティータイムが始まって少しすると晴れていた外が暗くなってきており、ポツポツと小雨が降り始めていた。窓の外では美鈴が妖精たちとはしゃいでおり、咲夜は今日は洗濯が乾かなそうだと溜息を付いた。


「今更だけどメンタ大丈夫かなぁ」

「まあ、霊夢さんたちがいるから大丈夫でしょう。あの人たちはああ見えて強いから」


 メンタの実力は先の戦いである程度分かっているとは言え、一応心配にはなる。


「そう? それなら良いんだけどね」

「意外と過保護じゃないんですね」


 早苗の疑問にパルは頷いた。


「メンタもこの世界基準だともう成人しているんでしょ? それならメンタが思うようにさせてあげるべきだと思うんだ。あんまり過保護だと人の成長は止まっちゃうからね。まずは自立だよ」


 不意に従者三人は目頭が熱くなり、心が痛くなった。


「それ、レミリア様に言って聞かせてあげたいわ」

「ウチの人たちにも」

「幽々子様にも」

「紫様にも」


 その当人たちは知ったことではないとばかりにお菓子を食べ続けていた。


「ガツガツ」

「ムシャムシャ」

「うまうま」

「うまうまー」


 情けない主たちの姿を見て、咲夜は一度溜息を付いてから今まで疑問だったことを聞いた。


「アレらは少し放って置いて、パルの話を聞きたいわ」

「ボクの?」

「正確にはパルとメンタの話、ね」


 そう言われて早苗たちも納得した。


「あ、それ私も興味あります! パルさんの地球は私の所と違うかもしれないから」

「早苗も地球出身だったの?」

「はい」

「それを言うなら私やパチェ、チャンポメイリン、レミリア様にフラン様も地球出身よ」


 驚きの事実を聞かされ、パルは少し大げさに驚いた。


「そうだったの!?」

「ええ。妖夢と藍は?」

「私も生前は地球出身ですよ」

「私は……うーん、どちらかというと幻想郷出身ですよ」

「その話も気になるなー」


 地球と言っても、全員違うかもしれない地球から来ているという条件が付く。自分の知らない世界というのは興味を抱く話題だ。


「ともあれ、まずはパルからお願いできる?」

「うん、いいよ。と言っても何を話そうかなぁ……」


 パルの疑問に早苗は少し思案してから思い至る。


「そっか。自分がいた地球だと当たり前なことだから分からないんですね」

「それなら質問形式はどうかしら。その方が答えやすいと思うわ」


 咲夜が解決策を提示すると藍が最初に質問した。


「じゃあ、まずは住んでいた場所は何処?」

「ボクとメンタが居たのは日本だよ。中国の隣」


 そこは変わらないみたいね、と早苗は思う。


「へぇぇ、確か日本は世界で三番目に安全な国と呼ばれていましたね」

「え? 日本は世界第一位――ってそこも違うのかぁ」


 早苗の世界では、日本は武力がほとんどない国家として知られており米国と中国の庇護を常に受けている状態だ。また信仰国家という側面もあるため熱心な宗教者は絶えない。中には悪質な宗教も存在するがそこらへんは一番厳しく罰せられるためデメリットの方が大きく、実行に移す輩は大抵馬鹿と相場が決まっている。

 しかし神様が多い分、弱い宗教はあっという間に潰れてしまう。早苗の信仰する守矢神社も衰退を迫られていたところを紫に助けられて幻想郷へ来た経緯がある。


「じゃ、次の質問。現代で流行していたことって何でしょうか?」

「流行かぁ……色々あるけど一番はVRMMOだね」


 パルの発言に早苗は腰を浮かして驚き、咲夜たちは何のことだか分からないと首を傾げた。


「ぶ、ぶい?」

「ええっ!?」

「そのぶいなんとかはどういうものですか?」


 流石にパルも驚くが説明をしはじめた。


「むしろ知らない方がビックリだよ。VRというのは、人間が電子機器を通して全く別の世界に行くシステムのことだよ。MMOは大人数でその別世界にいる魔物を倒したり魔王と呼ばれる存在を倒すゲームって言って分かるかな?」

「そのゲームについては分かりましたが、つまり、例えて言うのなら私たちがその電子機器を使用して地球に行けるようになる、という事ですか?」

「うーん、ちょっと違うかな。VR自体が人為的に作られた物で、電子ネットワークの世界、もっと簡単に言えば本の中の世界に入って自分たちが主人公になれるってわけ」

「ほ、本の中に……」

「それは楽しそうですね」


 パルは電子機器と言ったが実際はもっと違う未知の技術だ。それを知る者はここにはいない。


「早苗は知ってるみたいだったけど、早苗の居た地球にもあったの?」

「い、いいえ。私の居た地球ではまだまだ夢物語の想像の産物とさえ言われていたものだから、まさか実在するなんて……」


 早苗の居た地球では小説などにはよく登場するが、そこまで技術が発達していないため電子機器や家庭ゲーム機を通してのネットワークが精一杯だった。そのため真の意味でヴァーチャルリアリティが発達している世界があるのは心躍ることだった。


「そのVRではパルも主人公になっていたりしたのですか?」

「ボクは主人公には成れなかったなぁ。それにメンタのこともあるし」

「メンタさん、ですか?」


 全員が思い浮かべるのはいつもへらへらニヤニヤしている掴めない赤毛の少女。


「うん。早苗なら分かると思うけどボクたちの世界にあったVRMMOはたった七年前にデスゲームになったんだ」


 パルの言葉に早苗は更に目を輝かせそうになるが自重した。創作物の中にしても必ず付いてまわるのが『死』だからだ。


「デスゲーム……その言葉から推測するとゲームでありながら自らの命を懸けていた、ということ?」

「そう、メンタは七年前ゲームの中に閉じ込められ、クリアするまでの一年間ずっとそのデスゲームの中で生き続けていたんだ」

「パルさんは?」


 敢えて早苗が踏み込まなかった領域に藍は聞き入り、パルの暗い表情を見て迂闊さを呪った。


「ボクはその当時はゲームをしていなかったから現実の方にいたよ。でもね、現実もデスゲームと変わらなかった。ううん、下手をしたらゲーム内に居た方がまだ良かったかもしれない。デスゲームが始まると同時に魔王軍と呼ばれる全く別世界の存在が地球を襲った。日本の軍隊も抵抗したけどたった一日で制圧されてしまったんだ」


 パルの口から語られたのは早苗の想像を遙かに超える事柄だった。今まで騒いでいたレミリアたちも空気の流れが変わったことを察し、押し黙って聞き耳を立てていた。


「い、一日? それに魔王軍って……?」

「本の中ではよく見かける魔族で構成された軍隊だよ。それが現実になってボクたちを襲った。本当に幸いだった、というべきか病院にいたボクとメンタは人間と仲よくしようと画策していた魔族たちに助けられたんだ」


 魔族、魔王軍。そんなものは想像の中でしかあり得ないことだ、と早苗は思ったがパルの表情と口振り、そして性格からしても嘘ではないと思い直す。


「……それ以外の人たちは?」


 パルは一旦口を開きかけ、閉じて、悔しそうな表情で続けた。


「死んだよ。皆魔族に殺された。ボクやメンタの友達も、ボクの両親も魔族に殺されていた。それを知った時は魔族を酷く恨んだよ。でも、そうでない魔族がいることもボクは知った。ボクとメンタを引き取ってくれた魔族もそういう人たちだった。魔族は皆、人間に両親や家族を殺された戦災孤児で作られた軍だからボクたちの気持ちも分かってくれていたみたいなんだ。その後、ボクは今まで通りとはいかなかったけど元に似た生活を送れるようになった」


 パルの脳裏にいるのは懇切丁寧に接してくれた犬耳の少女と部下たち。丁度その頃の地球はどこもかしこも酷い有様で日本とて虐殺の餌食になっていた。

 しかしそれも少しの間であり、アジア大陸周辺を管理する犬耳の少女は日本を起点として魔族が人間に対して行っていた虐殺を止めさせ、人間たちは一部の例外を除いて奴隷として扱うことを決定付けた。


「その、助からなかった人たちはどうなったのですか?」

「奴隷だよ。魔族社会を形成するための模範的な奴隷になってた。でも日本はまだ良い方だったんだ。中国やアメリカ、ロシア、フランスの方はもっと酷い。魔族の腹いせで殺されることだってあるし凌辱されることだって珍しくない。日本は日本を統率している閣下が日本に思い入れがあるみたいで人間にとっては世界で一番安全な国になっているんだ」

「そう……そんなことが……」

「メンタさんはどうなったのですか?」


 そして一番聞かなければいけない所を早苗は自ら踏み込んだ。


「……ごめんね、それはメンタがボクだけに話してくれたことだから教えられない。でも一つだけ言えることがある。メンタは……あのデスゲームで壊された」


 そのデスゲームの名は『YourWriteOnline』。『YWO』という略称で人間たちに呼ばれ続けている世紀の裏切り者によって作られた狂気の檻。

 パルが一瞬だけ見せたドス黒い感情に咲夜たちは息を飲み、レミリアたちも身構えさせられた。それを察してかパルは微笑み、続けた。


「だからボクはメンタがどんなことをしても大抵は味方だよ。メンタにはそうするだけの理由があるし、それをやることが許されると思っているよ」


 パルの言いたい事は早苗たちにも充分伝わった。しかし、それは同時に狂気の類であることも早苗は気付いたが今は押し黙った。


「分かったわ。もう深くは聞かないし、聞かれたくない、話したくないことは誰にでもあるでしょうから」

「うん」

「はい」

「そうですね」


 咲夜が流れを一旦切り、言い出しっぺである自分のことを話すことにした。


「次は私の話をしましょうか」

「咲夜は何処の国でどうしていたの?」

「……私が最初にいたのはロシアだったわ。その時はどこもかしこも戦争の真っ只中であまり覚えていないの」

「ロシアかぁ」

「戦争と言われてもあんまりピンとこないですね」


 その辛さを妖夢も知っているらしく少々伏せて続けた。


「戦争は悲惨です。人と人とが敵意を持ってお互いを殺し合います。酷い時は友人同士で殺し合ったり兄弟間でも殺し合います。あれは本当に生き地獄です」

「妖夢もその口みたいね」

「はい……。あ、すみません。続けてください」


 とは言っても咲夜自身もあまり良い思い出ではないため話そうにも話せないかった。そこへ早苗が質問した。


「ということは咲夜や妖夢は学校に行ったことがないんですか?」

「あの当時は生きることで精一杯だったわ。学校もあったにはあったけど行けるのは貴族か金持ちのみ。そうして生き繋いで彷徨った末に出会ったのがレミリア様たち。こっちに来たのはそれから数年後くらいだったわね」

「……あれ? でもそれだと咲夜っていくつなの?」 


 その問いに藍と妖夢だけでなくレミリアたちも全身を固めた。


「うーん? 元々が何歳なのか分からないから何とも言えないわ。それに幻想郷では肉体の成長は止まってしまうし、パチェの性でほぼ不死に近い寿命だし……」

「え? 不死?」


 ああ、と咲夜は呟いてから虚空を見つめた。


「あれは忘れもしないわ。この幻想郷に来てしばらく経ったある日、パチェが私を死なせるのは惜しいからってジュースに蓬莱山の長寿薬を混ぜて私に飲ませたのよ。私は人間として死んでも良かったのに……」

「あ、それ私も諏訪子様に飲まされたわ」

「ってことはボクも知らぬ間に?」

「ううん、それは無いわ。パチェも私にやったことはかなり強引だったと謝っていたし、飲ませるなら本人の合意を得るはずよ」

「ほっ」


 それなら大丈夫だろうとパルは安堵して早苗に繋げた。


「それじゃ次早苗ね」

「早っ! えっと、私の地球は時間軸的には多分咲夜よりも未来でパルよりも過去って所かな。憶えている限りだと私のいた時代は戦後80年後だったから」 


 早苗は言うが、実際は平行世界のためその推測は間違っているが気付く者はいても口にする者はいなかった。


「ということはかなり平和な時代だったの?」

「うーん平和と言えば平和だったかな。私のいた日本は電車やガソリンを使った車が走っているような時代で、でも世界の何処かではまだ紛争やテロが起きていたわ」

「でも学校は行っていたんでしょ?」

「うん、あの頃の私は高等部一年生で巫女も兼任していたよ。巫女のお仕事もあるから部活や委員会は出来なかったけど毎日が充実していたと思うわ」

「楽しそう……」

「でもそれなら何で幻想郷に来たの?」

「それは守矢神社の二柱の神奈子様と諏訪子様の信仰が年々薄れてしまったから。神様は信仰心が無いと消えて無くなっちゃうらしいの」

「そうなんだ……」


 その話は初めて聞いたが神様がいなくなるのは嫌だなぁ、とパルは思う。


「パルの地球では神様にお祈りはしないの?」

「ボクの方の地球、日本では昔は八百万の神様が信仰されていたんだけど、魔族の神様ともう一人の神様が『この地球に神はいない』って言っちゃってね。一時は宗教的な問題も起きたんだけどそのもう一人の神様が隕石落として鎮圧して、魔族の神様を崇める様に指示したんだ」

「酷く横暴な神様ね」


 咲夜の言う通り横暴だ。しかし――。


「でもその神様は『何もしない神などいないも同然。それならば彼女を崇めよ。さすれば魔族も人間も平等に癒し、戦を沈め、我らが平和を約束しよう』って言って、本当に何でもかんでも宣言した通りに出来ちゃったから人間たちは今までの神を捨てて魔族の神様を崇め始めたんだ」


 かなり矛盾のある内容かつ無茶だったが当時の地球はそれに縋ってしまうくらい人間たちは絶望していた。


「現人神のような存在ですか?」

「んー、多分本当に神様だと思うよ。諏訪子様や神奈子様、紫さんを見ていて分かるけどあの人と同じ感じがする。いや、うーん……あの人より魔族の神様の方が似ているかな。もう一人の方は悪そうな気配があったからね」

「邪悪な気配……か……」


 早苗はふと守矢神社に住んでいる神様のことを思い出し、パルは聞いた。


「何か心当たりでもあるの?」

「ううん、多分気のせいだから気にしないで。次は妖夢だったね」


 妖夢にバトンが渡されるが半分魂の妖夢に地球の頃の記憶は無い。


「そうは言っても一度死んでいますから地球に居た頃の記憶はほとんどないんですよ。むしろ幻想郷でお爺ちゃんに育てられた記憶の方が多くて……」

「そっかぁ。しょうがないね。藍は?」


 ついに来た、と藍は意気揚々と続けた。


「私が化け狐だった時は村という村を襲って山の鹿を食い散らかしてました」

「……」

「……」

「……」

「……」


 全員が押し黙り、背後では紫は苦笑いし、幽々子とレミリアは面白そうに聞き耳を立てていた。当の藍は盛大に滑ったことに気付いて叫んだ。


「なんでドン引き何ですか! だって当時なんて本能赴くまま生きてましたし! オホン、とは言ってもある程度悪さをすると陰陽師やらなんやらが私を討伐しようとしましてね、勿論返り討ちにしました。それでもって悪さをし過ぎた私の元に紫様がいらっしゃったのです。当然、当時最強を気取っていた私は紫様に襲い掛かりました」

「秒殺だったけどねー」


 紫の援護が藍を直撃しつつも会話は進む。


「紫様が能力使って私を簀巻きにしましたからね。それで敗北した私は紫様に拉致され、千年近く監禁と洗脳を受けていました」

「人聞きが悪いわよ。あの時は従者が欲しくて、でもどうせ従者にするなら強くて可愛い狐が良いでしょ? そこに居たのが藍なのよ。尻尾とか凄くモフモフで抱き枕にすると最高なのよね~」

「酷い時は拷問や尋問を受け、この躰を何度凌辱されたことか……」


 ふと、咲夜も似たようなことをされかけた経験があることを思い出した。


「つまり抱き枕にされて耳元でいびきをかかれ、酷い時は全裸にされたということね」

「ううっ……思い出しただけでも涙が……」

「でも途中から急に従順になったのよね」


 多分、精神に負荷がかかり過ぎて逃げた先が家事しかなかったのだろう、と咲夜たちは揃って思った。


「わ、私の話は以上です!」

「う、うん、分かったよ」


 一通り話が終わり、紅茶を飲んで一息入れる。


「それにしても皆さん本当に違う地球から来ていたのですね」

「そうね」

「もうビックリだよ」


 微笑しているとおやつを食べ終えたレミリアたちが騒ぎ出した。


「咲夜ー、お腹空いたー」

「空いたー」


 時計を見れば時刻がいつの間にか昼になっていた。本来ならすぐにでも作るのだが――今朝の事件のこともあるため咲夜は少しそっぽ向いて答えた。


「雑草でも食べてなさい。どうせ私の料理は――」


 こういえばレミリアたちはすぐに形だけと分かっていても謝るだろうと咲夜は内心で思う。


「じゃあパルー」

「咲夜より美味しいから作ってー」


 そのあまりにも残酷で無邪気な言葉は咲夜の心を深々を抉った。


「なぁ――――」


 顔は酷いことになり、椅子ごと背後に倒れた。


「ああ! 咲夜さんの表情が落書きに!」

「わぁ!? ちょ、ちょっとレミリア様もフラン様も咲夜に謝って! 咲夜! 咲夜! 気を確かに!」


 咲夜が気絶し、パルと早苗が急いで咲夜の肩を揺するが反応はない。


「ちゅ、昼食なら私たちでも出来ますからお手伝いしますね!」

「パルと早苗は咲夜をお願いします!」


 藍と妖夢も立候補し、動き出した。


「分かったよ!」

「咲夜! 目を覚まして!」


 頬を叩いたり耳元で囁いたりするがハートブレイクした咲夜に声は届かない。その背後では主たちがひな鳥の如く騒ぎ出した。


「お腹すいたー」

「空いたー」

「妖夢ー、御飯ー」

「私、とんかつ食べたーい」

「A5ステーキ!」

「杏仁豆腐!」

「満漢全席!」


 我儘を全開にした要望に妖夢と藍は声を揃えて振り返った。


『だまらっしゃい!!』


 場はすぐに騒がしくなり、その声は紅魔館の入り口まで聞こえて来たという。


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