第二十六話 オスはオスでメスはメスで
グラたん「今回はタイトル通りに一部危険な描写があります。R17を先に予告しておきます」
グラたん「では第二十六話です!」
霖之助が戦っているのはバインパイアだ。勝敗は数秒で着き、霖之助は地面に転がっていた。
「ヒャハハハ! ここ? この腹に空いた穴が痛いんでしょ!? 泣き叫べ!」
「あ、そこそこ。もうちょっと強くぅ――!」
もはや勝敗などそっちのけでプレイが始まっており、遠目で見ていた魔理沙たちはドン引きした。
「うっわ……」
魔理沙は視線を戻し、背後から聞こえてくる声を意図的に遮断した。
「アハハハ! 無様で惨めな優男ね!」
「もっと強く罵ってください!」
次にパルと因縁のあるガシャポンドクロは善戦したと言って良いだろう。
「行くぞ! 業火「硝煙ならざるは波状の形」!」
「どういう意味なのか分からない!」
ガシャポンが開かれると火炎が飛び、それをパルは事もなしに切り裂いた。
「まだまだ! 凍結「戒める刃は氷河の中の牙」!」
「空裂!」
降り注ぐ氷柱の群を空中で薙いで防ぐ。
「なんの! 雷鳴「大いなる大地に降り注ぐ雨」!」
「雨じゃないの!?」
雷鳴が飛び交い、これも切り裂いて左右に退けて見せる。
「ぐっ……ば、馬鹿な。全て防がれたのか……」
前回戦った時よりも戦力差は広がっており仮に大当たりを引いたとしても勝ち目はなかった。パルも感づいており、投降を勧めた。
「もう止めよう? ガシャポンドクロさんじゃボクには勝てないよ」
「あ、諦めるわけにはいかん! レリミア様の願いのためにも!」
ガシャポンドクロの強い言葉にパルの表情も真面目なものに変わり、ポケットの中からスペルカードの一枚を取り出して構えた。
「引けない覚悟があるんだね。なら、もう何も言わないよ」
両者ともに構え、ここにきてガシャポンドクロは最大の引きを得た。
「食らえ! 大当「夢想封印」!!」
パルの足元に八卦陣が敷かれ術符が浮かび上がって取り囲み、球体を描いた。
「スペルカード発動! 罰符「永久への招待状」!」
対してパルが発動したスペルカードはフランドールのレーヴァテインを模した四本の光剣で、周囲にあった術符を切り裂いて陣を破壊し、ガシャポンドクロへと飛翔した。
夢想封印が決まらなかった時点で敗北は決まっていたこともあり、ガシャポンドクロは潔くその身にスペルカードを直撃させ、断末魔を上げた。
「ぬわああああああああああ!」
しかし地面に倒れるだけで命までは取らず、パルはテラスの方へと目を向けた。
「……こっちは終わったけど、皆はどうなったかな」
メンタたちのことは心配しなくても大丈夫なことくらいわかっているため、霊夢たちの方へと歩き出した。
この戦いにおいて最も凄惨な現場はメンタとてゐが共闘してフールエンリルたちと戦っているこの場だろう。
メンタが空中に上がり、てゐは地上で交戦しているが、フールエンリルたちは地上から上がることを許されない。それを成しているのはメンタが持つスペルカードの中でも屈指の弾丸量を誇る弾幕に足止めされ続けているからだ。
「集符「周集斉射する兵士の行進」、左符「左面仰ぐ扇子の如く」、右符「右面仰ぐ扇子の様に」、小符「小さき蜘蛛の餌集め」、防符「自己防衛の金木犀」!!」
繰り出された集符「集符「周集斉射する兵士の行進」は文字通り熟練された兵士の一斉射撃を思わせるような前方への多重弾幕攻撃。しかし両サイドが空くため隙を埋めるようにして左符「左面仰ぐ扇子の如く」と右符「右面仰ぐ扇子の様に」が左右から放射するように撃ち込まれて幅を狭める。それでも隙間が出来るため小規模な弾丸をランダムに発射し続ける小型の球体、小符「小さき蜘蛛の餌集め」を使用して逃がさない。最後に自身の周囲360度を問答無用で近寄らせない防御の弾幕、防符「自己防衛の金木犀」によって対策されている。
一体どこに持っていたといわんばかりのスペルカードの量が放出され続けている。実際に狙いをつけて撃っているのと乱射しているものがあるのだが量が量故に見分けることは困難を極める。
「どんだけ手札あるのよ!」
インアンドセクトが避け、鎌で迎撃しつつも一切の反撃を封殺されて苛立ちを見せる。過去、幾度となくメンタのような輩とも対峙しては倒してきたものだが、今回は桁が違った。
「今日のオレは最初から最後までテンションクライマックスですよ!」
加えて弾幕の隙間を搔い潜っては攻撃してくるクソ兎が今も高笑いしながらフールエンリルの背に飛び蹴りを加えては離脱していく。
「ヒャッハハ!」
「ぐっ! て、手強い!」
捕まえようにも常に視線を上空へと向けていなければメンタの弾幕は防げない。それを分かった上で、てゐは挑発する。
「オラオラ! ちゃんと戦わねぇとその臭ェケツに手ェ突っ込んで奥歯ガタガタいわせてやんよ!」
「鬼かこのクソ兎!?」
気絶したら本当にやりそうな発言にフールエンリルは心底恐怖する。
「敗者は何されたって文句言えないんですよ!」
上空からメンタが叫び、せめてものとインアンドセクトが叫び返す。
「じゃああんた等負けたら踏んづけて飼い殺してやるわ!」
ただ、この二人相手に言葉で優位性を取れる者は少ない。
「ごほうびです!」
「引くわ!?」
あくまでも『我々の業界では……』と前置きがあるのだがインアンドセクトたちがそれを知る由もない。
「隙あり!」
動きが止まった一瞬をてゐは見逃さずに服の中から鉄の金づちを取り出してインアンドセクトの膝めがけて振るった。
「必殺弁慶殺し!」
ボギッと骨を叩き折る音が鳴り、足が挫かれる。
「っぎゃあああああああああああ!」
「このっ!」
フールエンリルは被弾するのも構わずにカバーに入り、それを狙ってメンタは弾幕を集中砲火させる。
「ハッ! トロいんですよ!」
「グオオオオオオ!!」
インアンドセクトが下にいるため避けることはできず、両腕を犠牲に頭部を庇ってすべての弾を被弾させる。
「ヒェア!」
弾幕が終わり、全身から血を垂れ流すフールエンリルの背後からてゐが出現し、後頭部に蹴りをかまして吹き飛ばす。
「ぬがっ!」
ただし飛ばした方向は霖之助たちが戦っている方向であり、二人ともに巻き添えを食らっていた。
「ふぇがっ!?」
「ほがっ!」
霖之助たちを巻き込んでフールエンリルは地面を数度転がり、メンタとてゐは危険な笑みを浮かべて彼らを捕獲していく。
「犬ッコロは手足縛って猿轡しまして――と。虫けらは手ェ縛って寝っころがしてこの厭らしいバンパイアもどきは手足縛って椅子に括りつけて――」
「よーしそのままそのまま。カメラよーし」
手慣た手つきで四人を縛り上げ、ハイタッチを交わした後、メンタは気絶しかけている霖之助とインアンドセクトに向かって両手を伸ばした。
「能力発動!」
「えっ?」
「がぁぁ……」
メンタの能力が発動され、二人の理性は一瞬にして奪われ、ゾンビの如く起き上がり、捕縛されているフールエンリルたちに向かって歩き出した。
「こっちは準備良いですよー」
てゐも手を上げて準備が完了したことを教え、次いでフールエンリルが死に体のままメンタたちを睨んだ。
「おいコラ待て待て! お前等人の嫁に何してんだ!」
「そりゃ○○○○ですよね?」
「夏コミ用の○○○○だ。メスはメスで、オスはオスで」
「純愛なんて求めてねーんですよ。安心してください。こう見えても強姦系は嫌いなんで」
ゾクリ、と今まで感じたことのないタイプの恐怖に襲われ、次いでてゐの発言により強い驚愕をもって叫んだ。
「説得力ねぇな!? ってオスはオス!? お前等何考えてやがんだ!」
「腐腐腐……」
「苦腐腐腐……カメラ回すぜぇ~。三、二、一」
霖之助たちが近寄り、てゐが興奮した表情で高画質動画の録画スイッチを入れる。
「や、止めろ……おい馬鹿待て半妖怪! 俺はオスだぞ!」
理性の失われた人形と化した霖之助たちは問答無用で膝をついた。
「ひっ! ね、ねぇちょっと待って! 女の子同士でそういうのは嫌、イヤァァァァァァァ!!」
「アー!」
フールエンリルたちにとって二度と忘れることのない地獄の祭りが始まった。
霊夢たちが担当したテラスの方は制圧が終わり、レリミアと咲夜を前庭に下ろして試案していた。
「で、どうする?」
「どうって言われてもね」
「咲夜……」
戦いの終わっているパルも合流し、咲夜もあのままの姿では……、ということでいつものメイド服を着用させている。洗脳されているせいで表情は変わらずに無く、ずっと待機している。
その所有権があるレリミアは縄で捕獲されて玄関に座らされ、霊夢たちを罵倒していた。
「この鬼! 外道!」
それというのも倒した方法が問答無用の強襲と不意打ちであるため否定することはできないが、それを対処できなかったレリミアを見て二人は溜息を吐いた。
「ここまで弱いと興冷めだぜ」
魔理沙の言葉にレリミアは憤るが、先にパルがしゃがみ、レリミアと視線を合わせて問いかけた。
「とりあえず咲夜を解放して欲しいな」
「ふはっ! この私に命令なんて良い度胸ね!」
それでも――とパルは説いていくが霊夢は一周回って感心した。
「あんた自分の立場分かって言ってる?」
知ったことか! と言う前にフールエンリルたちを片付けたメンタたちが玄関前へとやってきた。
「こっち終わったので来ましたー」
「ってもう終わってんじゃねーか」
霊夢はある程度予想出来ながらも霖之助の所在を訪ねた。
「霖之助は?」
「向こうで倒れてますよ」
視線を向けるとそこは放送規制がかかるような風景になっており、霊夢は興味を失って逸らした。
「あっそ」
「で? コイツが今回の元凶か?」
てゐがレリミアを見つつ聞くと魔理沙が頷いて現状を説明した。
「そうだ。さっさと咲夜を解放しろと言ってるんだがな……」
その流れをすべて無視してメンタがレリミアの周囲を回って色々調べ始めた。
「うぽっ! 幼女縛りですか? これ縛ったのは魔理沙さんですね。しかも縛り方がかなりエロいですね。服の上から縛るにしてもわざと肉が盛り上がるようにしているのは正にテクニシャン! しかもスカートから伸びる太ももがまた良いですね。というか襲って良いですか?」
てゐも続いてニヤリと下種く笑った。
「幼女か……幼女なら奴隷服と手錠は必要だな。確か紅魔館には地下牢獄があったからそこを改良してプレイルームにしても良いな。最初は軽く蝋燭プレイから始めてみようか?」
「そこのケダモノ共を襲わせても良いですよねー」
メンタの指さす方向には放送規制現場があり、そこに死んだイカのような目をした霖之助とフールエンリルが虚空を見つめていた。
「……ふひっ」
「……ふはっ」
そういうことにあまり慣れていないレリミアは背筋を震わせて身を引き、小さな悲鳴を上げた。
「ひぃ!?」
魔理沙も仮にアレらに襲われたら身が持たないだろうなぁ、と思いつつ真面目に投降を勧めた。
「悪いことは言わないからさっさと降伏した方が身のためだぜ」
「こ、降参する! 降参するからその娘たちを止めて! 真剣に命の危険を感じたから!」
レリミアは四の五の言うことなく何度も頷いて降参し、霊夢は両手を天高く上げて背伸びをした。
「良し事変解決! こいつらは紫に引き渡すから荷台に乗せていくわよー」
「待って待って! 咲夜が先! ね、咲夜を正気に戻して、レリミアさん」
パルの言葉にレリミアは俯きながら首を横に振った。
「……ごめんなさい。それは出来ないの」
じゃあしょうがない、とメンタとてゐが立ち上がって裁縫箱を取り出した。
「よーし、拷問プレイですねー」
「まずは生爪を剥がすぜ~。ペンチ持ってこーい」
「生憎、ペンチは持ち合わせがなくて、裁縫針で良いですか? 江戸の日本では拷問の時に大きめの針を爪と肉の間に差し込んで…」
二人を無視し、パルは続けた。
「なんで出来ないの?」
「そ、それは私の能力のせいよ。私の能力は他人を洗脳して操る程度。だけどそれには条件が合って発動するには相手に触れる必要がある。でも解放するには私が二人以上操っている状態で誰かがその二人を倒す必要があるの」
レリミアは幻想郷では貴重な二重能力者だ。一つは条件付きではあるが『味方を蘇生出来る程度』の能力を持っており、もう一つは咲夜を洗脳した能力だ。
霊夢たちもフールエンリルたちが何度も出てきていることから察しはしていたが今は関係ないことと割り切る。
「面倒くさい能力だな」
魔理沙が呟いて、霊夢が恐ろしいことを抜かす。
「ということはもう一人誰か操ってそれを全員でリンチすればいいわけね」
「それならそこらに良いのが一杯いますね」
メンタが肉体的にも精神的にも死んでいる霖之助たちを指差して、魔理沙を呆れさせた。
「お前本当に鬼だな」
「あ、気絶しているのは論外だから」
しかしレリミアの発言でパルは少々困った。
「ってことはもう一人誰か必要ってこと?」
「そんな物好きいるわけが――」
霊夢の言葉を遮るようにメンタとてゐが勢いよく手を上げた。
「オレ! オレやります!」
「いや私がやる! 意識飛んでるなら揉んだり舐めたりしても洗脳されていたってことで正当化されるから!」
確かに正当化はされるが、霊夢たちは引いた。
「最悪」
「だな」
そんなことはお構いなしにメンタとてゐは拳を出して構えた。
「じゃんけんですね」
「負けないぜ!」
「じゃーんけーん」
「ぽんっ」
メンタがチョキを出し、てゐがパーを出したことによって勝敗は決した。
「ウボアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」
「よっしゃー! さあ早く洗脳しやがれです!」
てゐが泣き叫び、メンタが狂気にも等しい喜びの雄たけびを上げてレリミアの縄を解いた。
「え、ええ……?」
無理矢理に洗脳するのは精神系能力者の特権であるがそれを自分から喜び勇んでやると宣言したのはメンタが初めてであり流石にレリミアは困惑した。
「もう、望むようにしてあげてくれ」
魔理沙が諦めた表情で聞いて、メンタは喜々として頷いた。
「良いの? 仲間でしょ?」
「友情ごっこはどうだって良いんですよ! あくまでも欲望に忠実に、ちょっと悲劇的にエロスティックなくらいがちょうど良いんですよ!」
「どーにでもなれー」
レリミアも幾分か投げやりにメンタの腕を触り、能力を発動させる。
「ヒャッハー!! さあ禁断の姉妹プレイですよパル姉ェェェ!!」
「ふぇ? ど、どうなってるの、魔理沙?」
パルはあまり事情を呑み込めてなく、メンタの急激な発狂はいつものことだが念のために魔理沙に聞いた。
「メンタが洗脳されただけだ。メンタと咲夜を倒せば元に戻る」
「酷い棒読みね」
霊夢が苦笑いしながら茶々を入れ、パルは理解して頷いた。
空気を読んでいたレリミアが間を置いてから二人に指示を出した。
「攻撃、開始!」
この場合、両方ともに手強いのだが霊夢はパルにメンタを押し付けて咲夜の方にスペルカードを飛ばした。
「こっちは何とかしておくからパルはメンタを頼むわね!」
「分かった!」
頷き、戦闘区域が被らないようにパルはメンタを連れて少し離れた。メンタもそのあとに続いて、いつもより八割増しで厭らしい笑みを浮かべ、手を小指から気持ち悪いほど滑らかに折り曲げては戻し、波を作っていた。
同時にてゐも同じことを考えていた。
「ひゃふっ、一度メイド服を剥いでみたかったんだ! そして倒した後は下着を剥いで虞腐腐腐腐……」
一瞬ではあるが咲夜が自発的にナイフを飛ばし、てゐの脳天に直撃させた。
「死ね!」
「あふぅ!」
「今、一瞬だけ洗脳が解けた気がするんだが気のせいか?」
魔理沙の問いも空しく、咲夜の自我は再び抑え込まれて戦闘が再開された。
メンタを引き連れて少し離れた前庭へと移動していたパルは鮪包丁を右手に持ち、いつもより動きのおかしいメンタの様子を見ていた。
「ふへへっ。ふへへへへへへ!」
その不気味な表情と声色の裏でメンタは思考する。
――洗脳の能力と言えどもオレの能力は理性を操る程度で同じ精神系なら条件は互角です。つまり、相殺が可能ということですね。全ては洗脳されていたから、ああなんていう素晴らしき免罪符ですかねぇ! 何をしても全て許されるマジィィックワァァドゥゥ腐腐腐腐!!
普通、同じ精神系能力者でも相殺は難しいとされているのだが、無駄に才能のあるメンタはレリミアの洗脳をいとも簡単に克服し、今は最高に等しい状況をどうしてくれようかと考えていた。
「メンタ、大丈夫?」
もはやパルの言葉も届かず、メンタの思考は加速する。
――はっ! ということは今ならパル姉の理性をすっ飛ばして襲っても問題ナッシングですかね!? ワオッ、素晴らしき洗脳DES!
「ぐへぇぇぇへへへへへへ」
「今、元に戻してあげるからね。武装開放、能力発動!」
能力、の一言を聞いてメンタも少々頭を冷やす。
――そういえばパル姉にも能力があるんでしたね。ちゃんと見てなかったのですがどんな能力なのでしょうか? いや、概ね検討はついてますよ。多分、攻撃型の能力ですよね?
前回の防衛戦でパルの戦い方をじっくりと観察していたメンタはパルの能力がどんなものなのか考えてはいた。予想では身体向上系の能力、もしくは物質を生成する能力だと踏んでいた。
「紅魔の奏でる百重奏!!」
しかしその予想は大きく外れ、パルが鮪包丁を掲げると空中には百万本の鮪包丁がいきなり出現し、その矛先はすべてメンタの方を向いていた。
「――うぇ?」
先程のハイテンションは失われ、メンタは、ただただ驚いていた。
それでパルが手を緩めるかというと、否。一切の躊躇いなく高く掲げていた鮪包丁を振り下ろした。
「いっけぇぇぇ!!」
「それはちょっとチート過ぎませんかねぇ!?」
一斉に包丁が地面に降り注ぎ、メンタは急いで回避行動に移るが攻撃にはホーミング性があるため全て交わすまで逃げ続ける必要がある。
しかし普段から走り込みや霊夢との格闘術に励んでいるメンタからすればこの程度はいつもの修行の範疇であり、何とか躱せる。
「躱された、なら……居合・斬鉄剣!!」
メンタの動きを見て、パルは鮪包丁を下段に構えて足を大きく開き、少々大振りに抜刀した。
斬撃が風圧を伴ってメンタの方に向かい、ギリギリではあったが姿勢を逸らすことでメンタは躱すことに成功する。
「うわぁ!? ――って、えっ?」
斬撃の行く末は紅魔館の外壁だ。サクッと、まるでビスケットでも齧ったかのような軽い音が響いたかと思うと続いて外に生えている木々がなぎ倒され、雑魚妖怪の悲鳴が上がった。
外壁に刻まれた切り口は一切の無駄がなく、躱し損ねていればああなっていたかもしれないという恐怖心が沸き立つが、立ち止まって思考することは実の姉が許してくれない。
パルが地面に鮪包丁を突き刺して両手の拳を腰まで引き、気合を入れる。
「はぁぁああああ! 活性化!」
「それは! まさか!?」
全身の気力を放出し、両拳に集めて固めていく。その技は師である美鈴から教わった必殺の一撃ではあったが、地球においては漫画とかでよく見かけていたため、メンタはすぐに身を翻して全力で走った。
「ハッ!」
パルが両拳を突き出し、気を前方に開放して飛ばし、紅魔館の豪華な門をひしゃげさせ、門は空高く舞い上がってから前庭に落ちてきた。
まともに食らったらあんなものじゃ済まないことを知っているメンタはとにかく逃げ続ける。
「当たって!」
次いでパルはメンタに狙いを定め、拳に能力を付与して空中をぶん殴った。
すると何もないはずの空中がひび割れて不可視の衝撃波が迸った。
「まさかそれって! くっ!」
これもメンタは対処法を知っているため急いで空中に上がってやり過ごし、眼下に起きた地割れの惨状に喉を鳴らした。
「洒落になりませんね……」
――で、でも地震の能力なら斬鉄剣や包丁に説明がつきません。一体……。
メンタが思考出来たのも僅かの間。パルは空中にいるメンタを見上げていた。
「メンタが、浮いてる」
それを見てメンタは空中であれば幾分か自分に優位性があることを悟り、スペルカードを取り出した。
「ど、どうやらパル姉でも空中には来られないようですね――」
「えいっ! 無重力! 行くよ!」
パルが行ったのは重力をゼロにし、無意識領域下で飛行するために必要なプロセスを整えただけだ。ただし、メンタにすればあったはずの優位が一瞬で無くなったため、叫びたくもなる。
「無茶苦茶ですね!? スペルカード発動! 狂符「歪な空間は次元を超える」!」
それでも体が動いたのは霊夢と魔理沙が執拗にメンタをしごいていたおかげだろう。
スペルカードから発射されたのは太陽光を収束して打ち出す追尾性のあるレーザービームだ。数こそ三十と少ない方だがその分威力は高い。
「レーザービーム!? なら……空間湾曲!」
パルが空間の数値を弄り、レーザービームを左右に逸らして見せる。メンタもいつかそういうことする敵が出てきても良いようにいくつか対策を施していた。
「くっ! でも対策しなかったわけではないんですよ! 近接戦闘ならどうですか!」
スペルカード、除霊技術はさることながら近接格闘術も才能があり、並大抵の相手ではメンタの相手は務まらない。
「見え見えだよ」
霊夢ですら迂闊に手加減すれば逆にやられかねないほど強い。
最初は蹴りから始まり、二段蹴り、回り蹴り、受け止められたら引いてハッケイを繰り出して距離を詰める。それもダメなら正拳、下段突き、肘鉄の順に繰り出して見る。
「くっ! 何故、何で当たらないんですか!」
だがパルはそれを超える。拳も、蹴りも、不意を突いた当身も受け止められ、代わりに気の乗った美鈴直伝の技がメンタの体を掠っていく。
メンタは実の姉にあまり嫉妬しない。それが出来るだけの能力があるのはわかっていることであり、自分とて努力さえすればその領域近くにはたどり着けることを知っているからだ。しかし――。
――というか何故まともに戦ってるんですかオレは!
自前の能力があるのに何故今まで使っていなかったのか、と思い出して数度拳を合わせた後に引き、パルに向かって右手を伸ばした。
「能力発動! 吹き飛べ理性! 蠢け本能!!」
「うっ……」
不意にパルの体が揺らぎ、メンタも手ごたえを感じた。
「効きましたか!? さ、流石のパル姉でもこれは防げなかったようですね。いやぁパル姉どんだけチート能力なんですかねぇ。というか姉妹なのにこの能力差は何なんですかね? オレの能力も大概ですけどパル姉は何かおかしいくらい強い能力でしたからね。もう無茶苦茶強くなっちゃってるじゃないですか。でもここからはオレのターンですよぉ腐腐腐」
一手で完全に主導権を握り、メンタは自信たっぷりに誇ってからパルへ近寄っていく。
「――本当、メンタは変わらないんだね」
「――っ!?」
あと少しで手が届くところでパルの口が動き、メンタは思わず距離を取って身構えた。
「確かに理性を操るのは強力な能力だと思うよ。でもね、僕らみたいに多重に精神がある人には効果がないんだよ。まあ、僕の場合は憑依しているんだけどね」
「パ、パル姉?」
姉でありながらもその口調は姉ではない、全く別の誰かの存在にメンタは一層警戒して問いかける。
「ちゃんと会うのは初めてかな? 僕は綿月依姫。憶えておいてね」
答えを聞き、どこかで聞いたことのある名前に首を傾げ、少しして思い出した。
「綿月、依姫……って、月の姫じゃないですか! え、ええ!? なんでパル姉と一緒にいるんですか!」
「それは色々事情があるんだけど……ま、その内説明してあげるよ。今は戦おうか?」
彼女は喜々として鮪包丁を構え、対してメンタは潔く両手を嫌々と伸ばして否定した。
「え、あ、いや、その――」
――いやいや無理無理です。確かに綿月依姫のことは知っていますが性格は超好戦的で戦闘狂でその能力は神を降ろす程度……無理です。真面目に敗北率10000%です!
そんな思いを馳せるうちに、依姫は爽やかな笑みで告げた。
「あ、そうそう。メンタには特別に能力教えてあげるね」
「遠慮したいです」
「僕の能力は『神や英雄、勇者を纏う程度』だよ。参考になったかな?」
「何かエライ極悪な能力になってますね!?」
メンタが知っている通りであれば、本来は『神を降ろす程度』のはずだ。何がどうなったらそうなるのか、メンタの脳内は発狂した。
「あと、パルの能力は『数を自由自在に操る程度』で僕の能力と凄く相性が良いんだ! 流石は僕のパルだね!」
実に最悪と言っても良い組み合わせとパルの正しい能力名称にメンタは絶叫した。
「マジでどうしようもない組み合わせですねぇ!?」
誉め言葉だ、と言うように依姫は笑い、その身に雷を纏った。
「それじゃ行くよ! 神纏・武御雷!」
神を降ろすのと纏う違いは持続時間は然ることながら使える技、威力、神自身の身体能力を使用することが可能となる。加えて神の武装も付与が可能になることから、持っていた鮪包丁が帯電して、パルの能力によって肥大化し、一撃必殺の大剣へと変化した。
振り下ろされ、あまりの絶望にメンタは動くことなく雷の大剣を頭から食らって地面へと落下していく。
「うぎゃあああああああ!!!!」
地面に叩きつけられ、今までに無い痺れるような痛みに悶絶して悲鳴を上げた。
「ん~、もう終わりかぁ。もっと戦いたかったけど今のメンタだとこれが限界だよね。それじゃ、後はパルに任せようかな」
そう言って依姫はまたパルの中へと消えてしまい、地上に降り立つと同時にパルの意識が戻ってきた。
当然、その最中の記憶はないためパルは驚愕した。
「ぅん……って、わぁぁ!? メンタが焼け焦げて大変なことになってる!?」
「よ、容赦ない……ですね……がくっ」
「メンタァァァ――――っ!?」
一体何が起きたのかはわからないが、とにかく手当が必要なことは分かっているため急いで駆け寄った。
メンタにとって唯一幸せだったのは、パルが手当てしている時に膝枕して貰えたことだろう。
手当が終わるとパルもメンタも立ち上がり、まだ玄関付近で苦戦している霊夢たちの元へ急行した。




