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東方幻想腐女録  作者: グラたん
第一章
20/119

第十九話 姫の為に!

グラたん「第十九話です!」

 事情を聴かされている霖之助は現状を把握し、パルの説得を試みる。


「人数は多いに越したことはありませんが、今回は永遠亭、守矢神社、博麗神社に援軍を依頼していますから無理しなくても大丈夫ですよ」


 ――あ、馬鹿。こういう純粋な子にそれは逆効果……。

 咲夜の思いは当たり、パルは両手を胸の前で握り締めて応えた。


「うーん、でもやっぱり協力します。ボクにも出来ることが何かあると思いますから。良いよね、咲夜?」

「良いわよ」


 まるで逆効果だったことに今更気が付いて霖之助は困惑する。だが、増援で来てくれるというのならば紫としてもありがたい。


「あ、あれ?」


 霖之助を置いて話はまとまりを見せていく。


「助かります。けれど今しばらくは時間がありますので、その間は観光をしていて構いませんよ」

「分かりました。どのくらい時間ありますか?」

「あと一週間くらいはあります」


 さして急では無い事に咲夜は安堵する。


「随分入念に準備をするんですね」

「予想規模がかなり大きいので此方も相応の準備はしないといけません」

「でもパルさんと咲夜さんがいてくれれば百人力ですよ」


 それはそうだろうと咲夜は思い、同時に霖之助を半眼で見て溜息を付いた。


「雑魚之助も役に立ってくれれば良いんですけどね」

「さらっと毒吐くの止めてくれますか!? それに私だって今まで長々と自堕落していたわけではないんですから!」


 そもそも商売人に戦闘力を求める方が間違っている、というツッコミは無く、代わりにパルが気を遣うはじめた。


「霖之助さんは無理しなくて良いですよ」

「パルさん、時に気を遣うのは傷つけるよりも傷つくんですよ。しかし、今回は私も本気を出しますよ。見てください、この天下無双剣を!」


 霖之助は背中に背負っていた大剣を抜き、刃を出して見せる。


「あら、前見た時より良くなってますね」


 次の戦の為に工房で長く鍛えたためか以前よりも切れ味があり、大き過ぎていた柄や持ち手も改良されていた。


「大剣でも雑魚くらいなら何とかなりますから」


 事実、何度か試し切りを兼ねて里周辺の妖怪を駆逐して回ったのだが、霖之助程度の身体能力でもそこらの雑魚ならばなんとかなっていた。

 その天下無双剣を眺めていたパルがそっと剣に触れて呟いた。


「でも霖之助さんには合ってなさそうですね。ちょっと刀身と刃渡りを縮めて見ましょうか?」


 すると天下無双剣が仄かに輝きだし、咲夜たちも動きを止めてパルを見張った。


「ん~、霖之助さんに合わせるなら90cmくらいが良いかな」


 呟くと同時くらいに刀身が縮み、それに合わせて全体が収縮し、霖之助に合っている剣へと変化した。


「あ……」

「あ……」

「まあ」


 まるで本来持つべき人が持ったような輝きが起こり、服屋のみならず周囲にいた里人や旅人も一斉にパルたちの方を見た。

 その張本人であるパルは剣の現状に満足し、天下無双剣を霖之助に手渡した。


「はい、霖之助さん」

「え、ええ」


 少々困惑しつつも霖之助が受け取ると……剣は拗ねた子供のように輝きを失い、大剣のような重さへと変貌した。


「あれ?」


 パルも首を傾げ、紫と咲夜はそっと霖之助の腕や背に手を置いて慰めた。


「……」

「まあ、あれね」

「器じゃなかったようですね」


 咲夜のトドメの言葉いちげきによって霖之助が『OUZ』と絵文字の如く地面に手を突いて頭を垂れた。

 パルは苦笑いしつつもう一度剣を手にし、剣に語りかけた。


「あんまり霖之助さんを困らせちゃ駄目だよ?」


 剣が渋々と言ったように仄かに光り、もう一度霖之助に手渡した。


「はい、霖之助さん」

「はい……」


 剣は少しだけ輝き、重さも少しだけ和らいでいた。

 そんな様子にパルは微笑みつつフォローを加えた。


「この子、悪戯好きみたいなので気を悪くしないでくださいね」


 ――え?

 全員の心が一瞬だけ統一され、またしてもパルに視線が集中した。


「もしかしてパルさん、剣と対話出来るんですか?」


 霖之助に問われ、逆にパルも驚いた。


「え? 普通出来ますよね?」


 それを咲夜と紫が否定し、霖之助も首を横に振るった。


「無理です」

「私でも無理ね」


 自分の常識を覆され、パルは必死に弁解を始めた。


「で、でもでも! 咲夜さんがいつも使ってるモップとか箒とか、育ててる花とか野菜とかすっごく喜んでいるんですよ? 霖之助さんのお店にある骨董品とかも丁寧に磨かれていて気持ちよさそうだし、お店自体も――――」 


 そこまで聞いて、長くなりそうなので――と、咲夜が一度切り上げてからパルに疑問を投下した。


「一応聞いておくけど、どうやってるの?」


 それを聞かれてもパルは答えることが出来ない。


「どうって言われても……」

『まさかの無意識!?』


 生まれてこのかた特に考えたことも無く、同時に皆も同じことが出来るのだと信じていた。パルにしてみれば掃除や洗濯をするのだって『ただ綺麗にする』だけでなく服や床、壁が綺麗にして欲しいと言っているからだ。他人がどれだけやっても綺麗にならない汚れもパルにかかればすぐに綺麗になるし、木々が水を欲していても気付かない所へパルが持っていく。そのお礼として美味しい実を付けたりする。 


「羨ましい……」


 そんな便利な能力、メイドであれば誰だって欲するだろう。しかしそんな素晴らしい能力があるにも関わらずパルに発現した能力は『数を増やす程度』。

 ――もしかして常時発動型能力?

 咲夜はそう考え、戦慄する。もしかすればパル自身も気付いていない能力が他にもあるかもしれない。そして他には絶対に渡せないと咲夜は決意を改める。

 紫も大層驚いたが冷静さを取り戻し、皆に伝えた。


「ともかく、今度の土曜日に襲撃があるらしいからそれまではゆっくりしていて良いわよ」


 咲夜たちの本来の目的を気にしての言葉だったが、その必要はあまりなかった。


「私たちも其方に向かうので余程のことが無い限り迎えは大丈夫ですよ」

「分かりました。では――」


 紫は他にもやることはあるため会話を切り上げ、スキマの中へと消えていった。

 そうして咲夜の服も決まったためお会計へ向かっていく。


「さて、そろそろ次のお店に行きましょうか」


 会計を済ませ、咲夜たちは一度外に出て、霖之助は遠出用の馬車を用意しようと思った。近年になってようやくコンクリート技術が発達したため、馬車でも余程路上が悪く無ければ揺れは無い。

 咲夜も霖之助が道具無しでは空を飛べないことを知っているため頷いた。


「私は移動準備を整えてきますね」

「待ち合わせはどうしますか?」

「そうですね……午後四時くらいに西門にお願いします。そこに馬車を用意しています」

「分かりました。行こ、咲夜!」

「はい!」


 パルが咲夜の手を握り、そのまま里の何処かへと向かっていく。そんな二人を見送り、ふと呟いた。


「仲良いですねぇ……まるで姉妹のようだ」


 その左右と背後にはいつの間にか妖怪たちが取り囲んでおり同意した。


「うむうむ」

「分かるわー」

「グルル」

「でもな、お前だけ役得なのは許せないんだよなぁ」

「えっ?」


 同意を得られると思っていなかった霖之助は思わず背後を振り返り、全身を硬直させた。そこにいたのは普通の雑魚妖怪だけでなく天狗、河童、蜘蛛、手長足長、果てはキマイラ、飛竜、ミノタウロスと言った空想上の化け物まで霖之助を睨みつけていた。


「許せない」

「許さない」

「許さん」

「ガルルルルルルル」

「我らパル姫親衛隊。あのお方には知られることのない極秘部隊」

「あのお方は心優しき人間」

「あの白い悪魔(咲夜)に殺されそうになったところを助けてくれた」

「あの赤い吸血鬼レミリアに甚振られた後にご飯をくれた」

「あのお方の笑顔はどの宝よりも輝き、どんな宝石よりも輝かしい」

「貴様のような優男が役得など断じて許さじ」

「ひぃ!?」

「我ら妖精と同じくらいの力の雑魚と言えども」

「我ら血肉を捧げ、貴様を討つ!」

「我ら姫の盾なり!」

「我ら姫の剣なり!」

「我らの全てを姫に捧げ、姫に近寄る野郎を全てぶち殺す者なり!」

「かかれぇ!!」

『ウオオオオオ!』

「うぎゃあああああああああああああああああああ!!」


 霖之助を追いかけるその様子は正に百鬼夜行。蛇に睨まれた蛙、絶体絶命、そんな言葉が思い浮かぶほど霖之助は必死に里を逃げ回る。

 唯一、里に被害が出なかったことが救いだろう。





 その一方でパルたちは里を見回っていた。

 幻想郷でも近代化が進んでいるため、日本で言う所の古き良き風景が残っている場所が多く、幻想郷全体の人口も妖怪の襲撃や住処もあるため山や海を切り開くほど多くはない。そのため21世紀的な喫茶店や服屋があるにも関わらず、21世紀を思わせるような商店街や農村風景があり、中世のような外壁がそびえ立つという珍妙なことになりつつある。

 時に甘味処や一部の飲食店は戦国自体のような露店商まであり、意外にも旅人には好評だったりする。

 パルたちもその甘味処に寄り、咲夜は始めて食べる餡蜜や団子に舌堤を打ちつつパルと談笑を繰り返していた。

 里人たちは咲夜の気真面目な表情ばかりしか知らないため今の咲夜はまるで別人のような感じがしていたが、これはこれで良いか、と納得もした。

 午後四時になり、里を満喫したパルたちが西門前へと来てみるとそこには瀕死の体のような霖之助が居た。


「霖之助さん、どうしたんですか? 酷く憔悴しているみたいですけど……」

「いえ、ちょっと準備に手間取っただけです。ええ……」


 咲夜は思い当たる節があり、パルが次に何か言う前に出発を促した。


「それじゃ、出発しましょう」

「良いのかな?」

「大丈夫でしょう」


 咲夜がそう言うのなら、とパルも頷き、馬車に乗り込んだ。霖之助は御者台に乗り込み、馬車の背後には百鬼夜行の群れが着き、馬車が動くと同時に妖怪たちも動き出した。


「どうにも馬車は慣れませんね」


 レミリアの付き添いで何度か馬車に乗ったことのある咲夜だが馬車の揺れ心地があまり好きでは無く、それを良い事にパルの膝に頭を乗せていた。


「思っていたより揺れてないけどね」


 日本でバスや電車に乗ることの多かったパルは然程でもないように座って、膝に乗っている咲夜の髪を撫でる。

 ――何だかパルに撫でられると眠くなりますね……。

 何時しか、すっかり気持ちの良くなった咲夜は眠りについていた。  



 紅魔館付近の里は博麗神社に近いため、守矢神社の麓近くにある里へ向かうには長旅になる。咲夜とパルだけなら空中を高速飛行すれば日が出ている内に到着していたのだが霖之助がいるのでは仕方なく、途中に里も町も無いため野宿が決定していた。

 パルと咲夜が遊んでいる間、霖之助も妖怪にどつきまわされていただけでなくちゃんと準備も進めていた。護衛は要らないにしても見張りくらいは必要だ。

 薪に火をくべてその上に即席の鍋置きと三角に開く吊るしをセットし、鍋に水を入れて沸かしつつ咲夜とパルで手分けして食材を切り分けて温かいシチューとトマトの入ったサラダ、取れ立ての鹿肉の入ったサンドイッチを作り上げていた。


「食べる?」

「きゅぅぅ」

「グルルル」


 鹿肉はパルが率先して捌き、その切れ端や余りは小動物や近くにいた妖怪(親衛隊)たちに分け与えていた。

 夕食も終わり、片付けを済ませた後、パルは焚火の前へと戻って来ていた。


「そういえば見張りとかってどうします?」


 パルが夜間の警備をどうするか問い、霖之助が自信ありげに頷いた。


「それは私が引き受けますよ」


 しかし霖之助だけではあまりにも頼りないため咲夜も立候補した。


「念の為、私も起きているわ」


 だが咲夜が眠らないのであればパルも一緒に起きていたかった。


「え、や、それは悪いよ。それならボクも起きてるから」


 このままでは平行線が続くだけ、と考えた咲夜は妥協案を提案した。


「それなら交代にしましょうか?」

「うん、それなら」


 パルが頷く反面で霖之助は地面に視線を落としていた。


「私、そんなに信用無いですかね……?」


 そんな霖之助を見てパルは慌ててフォローを入れた。


「そんなこと無いですよ! 霖之助さんが見張っていてくれるなら心強いです。でも妖怪が現れたり盗賊とか山賊が出てこないとも限りませんから……」


 例えそれらが出たとしても人間相手であれば霖之助一人で事足りる上、咲夜が時間を停止して仕留めるくらいはやってみせる。妖怪が出ても咲夜だけで十分であり、パルならば拳一人で蹴散らせる。

 しかしそれ以前にパルだけが知らない第三勢力がいるため並大抵の相手ではこの場に近寄ることすら出来ない。


「それなら心配はないと思いますけどね……」

「え?」


 霖之助と咲夜の含み笑いにパルは首を傾げる。


「いえ、何でもないですよ。お気になさらないでください」


 霖之助に続いて咲夜も頷き、次いで睡眠を促した。


「そうね。……無駄飯与太之助は先に寝てください」

「何か悪化しませんか!?」

「気のせいですよ」


 咲夜に背を押され、霖之助は渋々と先に横になった。



 その周囲では親衛隊を名乗る妖怪共が人食い妖怪を相手に奮戦していた。


「げへへ……美味しそうな娘がいるじゃねぇか」

「姫のために!」

「姫のために!」

「な、なんだお前らぎゃああああああああ!!」

「ブルアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 森の中に赤い瞳のミノタウロスの咆哮が響き、巨大な斧が人食い妖怪の頭上に炸裂した。 

 はたまた、盗賊――ではなく義賊と呼ばれる者たちにもそれは襲い掛かる。


「へへへ……いいカモがネギ背負って来てるぜぇ」


 ――その義賊たちは焚火をしている咲夜たちを見つつ、特に熱い視線を霖之助に向けていた。


「良い値段で売れそうっすね」


 『あの優男』と続けて、そこから各自の好みの話へと変わっていく。


「俺、あのポニテ娘が良いっす!」

「あっちの白髪も良いっすね!」


 それらを窘めるようにリーダーがまとめ上げる。


「おいおい……分かってるだろうが、襲うのはあの優男だけだぜ?」

「無論っす!」

「俺たちは義賊、女子供は襲わず野郎を襲う」


 そこまで言うと咲夜とパルがお花摘みに行くのか馬車の方へと移動していく。それを狙って義賊たちも動き出す。


「分かってるじゃねぇか。良し、行くぜ!」


 狙いは霖之助ただ一人。彼らはリア充を襲い、野郎を売る。それが死ににくい半妖ならば尚更を肝にする義賊。またの名を自衛隊、治安維持部隊。

 リア充を殲滅するという大義を掲げ、非リア充といじめられっ子を救うべくして立ち上がった趣味変人の集まりだ。


「姫のために!」

「姫のために!」

「姫のために!」


 そんな奴等が親衛隊と出会うのはきっと時間の問題だっただろう。


「な、よ、妖怪だと!?」


 ゴロン、と簀巻きにされて寝ている霖之助が差し出された。妖怪たちはサムズアップで親指を立て、義賊たちも無言で拳を掲げた。


「へっ、お前等も男ってわけかよ。良し、撤収だ!」

「あの娘たち、任せたっすよ」


 コクリ、と妖怪たちは頷き、謎の共同戦線が張られた瞬間だった。



 馬車から戻って来た咲夜たちは霖之助が焚火前に居ないことに気付いた。


「あれ? 霖之助さんがいないね」


 パルが辺りを見回している合間に咲夜は霖之助が寝ていた場所に小さく文字が書かれているのを発見した。


 『しらがへっど、あんちゃん、あずかる。うる』


 文字、というにはあまりにも下手くそだったが言いたい事は十分に伝わり、咲夜はその文字にそっと土を被せて消し、微笑みながらパルの方を見た。


「その内帰って来るわよ」

「そうかな」 


 パルの心配性は相変わらずだったが、咲夜がそういうならばと頷いた。

 しばらくしてパルを寝かせ、咲夜も時間を調節しながら眠りについた。

 ――……そして朝になり、霖之助は終ぞ帰ってこなかった。


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