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東方幻想腐女録  作者: グラたん
第一章
18/119

第十七話 キレた咲夜は家出する

咲夜「ふふ、ふふん。旅行、旅行!」

グラたん「第十七話です!」

 次の日。天気は雲一つ無い快晴。

 爽快な目覚めと共にパルは起床し、身支度を整えた後に厨房へと顔を出していた。


「おはようございます、咲夜さん」


 パルの声を聞き今日こそはと気合いを入れて挨拶をする。


「おはよう、ございます。パル、少し良いですか?」


 しかし長年の習慣からか敬語は後からついて来ていた。内心で諦めつつ、咲夜は昨晩のことをパルに伝えようとしていた。


「はい。どうしましたか?」

「その、ですね……今日からレミリアお嬢様とフランお嬢様がパチェと一緒に出掛けるそうなのでメイドの仕事は午後からお休みです」


 咲夜の言葉にはかなりの不安を覚えたが、咲夜が何も考えずにレミリアたちを放るわけがないと考える。


「レミリア様たちが……分かりました」

「ですので……その、私と一緒に守矢神社の近くの里に行ってみませんか? 近頃、温泉や遊び場が出来たみたいなので」


 ――咲夜さんから誘ってくるなんて珍しいなぁ。

 そう思いつつも咲夜とはもっと仲良くなりたいと思っていたパルはその提案に乗った。


「良いですよ。行きましょう!」


 ――よ、良し! 第一段階は完了!

 実際にはそんな大したことではないのだが、咲夜にとっては思わず包丁を握る力をつよめるくらいには大きな一歩だ。


「昼食を取った後に出発しますので掃除が終わったら支度をしてください」

「はい。あ、もしかして泊りがけですか?」

「そのつもりです。……一週間くらい」


 ふと、自分で改めて言葉に出してみて一抹の不安が過ぎった。

 本当に大丈夫なのか? 自分たちが出払って餓死しないのか? と。


「一週間ですか!?」


 パルも流石に日帰り程度だろうと考えていたこともあって驚いた声を上げた。

 咲夜も少々驚いたが、すぐに会話を続けた。


「で、でも移動時間とか含めると三拍四日くらいになりますよ?」


 数瞬躊躇った後、パルは頷いた。


「――分かりました。それじゃ、そのくらいの準備は……あ……」


 パルが何かに思い当たって戸惑った声を上げ、咲夜が首を傾げた。


「どうしました?」

「……あ、いや、その……咲夜さんって私服あるんですか?」

「……あ」


 ――なっ! ま、まさかそんな落とし穴があったなんて! で、でも確かにメイド服で里を歩き回るのは目立つと言うか……困った……。

 そう、パルは今に至るまで咲夜の私服姿を見たことが無い。咲夜もメイド服以外を着こなしたことなど生まれて一度も無い。

 ならば、とパルは笑みを浮かべて手を握った。


「移動がてら買いましょう!」

「そうですね。って、パルはお金持っているんですか?」


 幻想郷のお金は『円』で固定されている。勿論、香霖堂や一部の商店では『ドル』『ユーロ』『ギル』『異世界のお金』と両替出来る。

 幻想郷に来てからまだ日の浅いパルは紅魔館以外では近場の人里以外に外出していないはず、と咲夜は思い、そうなれば当然パルがお金を持っていることはあり得ない。しかしパルは意外そうに咲夜を見つめ返した。


「あれ? 咲夜さんは貰っていないんですか? 先日、この間の物資補給のお礼に霖之助さんが里の代表として謝礼金をレミリア様に渡して、そのレミリア様からお給料ということで一部を貰ったんですが……それ以前からもレミリア様から貰っていますよ? 全く使ってなかったんですけどね」


 使えないのではなく使う必要が無かったというべきだろう。食事も部屋も生活用品も大抵の物資は紅魔館に揃っているため買い足す必要もない。メイクもほとんどしないことを考えれば必然的に溜める以外に選択肢は無い。

 それを当然の如く言ってくるパルに対して咲夜は思いっきり頭を悩ませた。


「……()()()() ()()()()

「はい」


 ――私、一度も貰ったことないような……。

 咲夜はレミリアから紅魔館の懐を預かっており、帳簿も付けている。お金の存在は知っているし使う時は必要な分のみを使う。が、お給料という形で貰ったことは一回たりとも無い。そもそも咲夜は紅魔館で働いているというよりは母親みたいな立場だ。家事掃除に料理をするのは当然とばかりに考えていた。

 その固定観念が今、崩れ去ろうとしていた。


「あ、そういえばレミリア様がこうも言ってましたよ。咲夜さんのお給料は忙しくて使う暇がなさそうだから全部ワインとか本に変えている――って」


 パルの発言に、ふと、咲夜の眼に光が無くなった。


「……パル」


 名前を呼ばれただけで寒気がするような冷徹な視線にパルは気を引き締め、真面目な表情で頷いた。


「はい」

「それは事実ですか?」

「はい」

「確かに、仮にお給料を貰ったとしても忙しくて使う暇はありません。それは百歩譲って良いでしょう。でもワインって……一体何処に……」


 咲夜の呟きに対し、パルは知っている事実を告げた。


「えっ? 普通に貯蔵庫の一角に置いてありましたけど……」


 ――えっ? と咲夜は目を大きく開き、パルを問い詰める。


「……それ、貴方は知っていて黙認していましたか?」


 今にもナイフを取り出しそうな形相で詰め寄られ、パルは思いっきり両手を前に出して交差して否定した。


「いえ! ボクはてっきり咲夜さんが知っていて黙認しているのとばかり……!」


 違うならば――と咲夜は包丁を持ったまま踵を返した。


「分かりました。ちょっと事実確認しておきます。朝食の用意をお願いしますね」

「――はい!」


 返答を返し、完全に目の座った咲夜を横目に見つつ、完全に厨房から去るまで見送ってから肩の力を抜いた。


「こ、こわい……」


 包丁を持っていたから、というのも拍車に掛かっていたのだろう。


「とりあえずやっておかなきゃ、ね」


 あの状態の咲夜が戻って来て終わってない何てことになったら怒りの矛先が自身に向かいかねないことを思い、すぐに取り掛かった。

 






 一方でブチ切れようとしている堪忍袋を何とか繋ぎ直し、あくまでもポーカーフェイスを保っている咲夜は朝に弱いレミリアの私室へと来ていた。


「レミリアお嬢様、咲夜です。起きていらっしゃいますか?」

「ええ、起きているわよ」


 中から返答が返ってこないのはいつもの事なのだが、今日は珍しくレミリアは起きていた。尤も起きていなければ合鍵で突入しているのだが。


「数点ほどお尋ねしたいことがあります。入ってもよろしいでしょうか?」

「良いわよ」


 レミリアは何時にもまして丁寧な口調の咲夜を訝しみつつも鍵を開けて中へと招く。

 私室に入った咲夜は部屋の中央まで歩き、レミリアがベッドに腰かけるのを見計らってから言葉を発した。


「お尋ねしたいのは三つです。まず一つ目は貯蔵庫の一角にあったワインについてです」


 ビクッとレミリアの肩が震えるのを咲夜は見逃さない。


「あ、ああ、あれ? あれは咲夜が買って来てくれているワインを数本寝かせてあるのよ。パチュリーも同じことしているわよ?」


 だが、何時か来るであろう質問の答えを想定しておくのは当たり前であり、咲夜もこの問いが躱されることくらいは許容範囲だ。


「そうですか。二つ目はパルへのお給料についてです。なんでも先日の一件の謝礼ということで霖之助さんが来ていたようですね」


 ああ、その事か。とレミリアは完全に落ち着きを取り戻し、いつもの口調で咲夜に説明し始める。


「ええ、そうよ。貴方もパルもよくやってくれたから何かご褒美を上げようと思っていたところなの。勿論、美鈴にもね。パルと美鈴にはボーナスを与えれば良いかなって考えていたんだけど咲夜はお金を貰ってもしょうがないでしょう? と言っても美鈴みたいに週に二日の休暇を与えたら私たちが困るし、パチュリーみたいに本を読むわけでもない。ましてやパルみたいに娯楽の小説を揃えてあげても読まないでしょう?」


 色々、色々と思う所があったが咲夜は全て飲み込んで頷いた。


「ええ、そうですね。ちゃんと考えられていたのですね」


 咲夜に褒められたと勘違いしたレミリアはすっかり気を良くした。


「ふふふ、そうでしょう? 咲夜たちが良くやってくれているのはちゃんと分かっているわ。でも私だってただ毎日をぼんやり過ごしているわけでは無いのよ? 本を作って美鈴に頼んで売って貰ったり、そのお金で甘味をサービスしてあげたりとか、ね」


 咲夜は無言で、笑みを浮かべて聞いている。


「あー、でも時々コッソリちょろまかしているのは悪いと思っているわ。でも安心して良いわよ。使った分はちゃんと戻してるから」


 『ブチン』という音が鳴り、次いで『パァン』と何かが弾けた音がした。

 レミリアはその音が何か気になったが、今は咲夜と問答している途中のため気にしないことにした。


「左様でございますか。では、最後の質問になります。心して答えてください」

「何かしら?」 


 咲夜は乾いた笑みを保ったまま言葉を続けた。


「――正直に答えてください。()()()()()簿()()()()()()()()()()()()()

「ええ、そうね」


 レミリアの肯定に咲夜の笑みが消失し、果たして――そこに居たのは『紅魔の白い悪魔』だった。


「……私、レミリア様のことは好きだったんですよ。普段はアレですけど紅魔館の事をちゃんと考えているんだって思っていたんですよ」

「ん?」

「でも……裏切ったんですよねぇ……」


 俯いた咲夜の右手に握られた包丁が明かりを反射してギラリと輝いた。

 ――ゾクリとレミリアの背中に寒気が奔り、ベッドから立ち上がって身構える。


「さ、咲夜?」

「……これでも頑張っていたんですよ。一生懸命やって、我儘も聞いて、日々を楽しくしようって思って――っ!」


 咲夜の顔が上がり、その眼からは大粒の涙が流れていた。

 ここでレミリアは初めて自分の失態を悟った。そして次に起こさなければいけない行動は明白だった。だが、それよりも早く咲夜はレミリアに向かって包丁を投げていた。

 包丁はレミリアにも見えない速度で真横を通り過ぎ、頬が薄く切れて赤い血が流れ出た。吸血鬼であるレミリアが鉄製の包丁で傷を負うなど普通ではあり得ないのに、そのあり得ない現象が起こっていた。


「ふざけんなぁぁああああああああああああああああああああああ!!」


 咲夜の怒剣幕が紅魔館に響き渡り、辺り一面にナイフがバラまかれた。その狙いは全部レミリアであり全力の殺す気で投げつけていた。

 咲夜の尋常ではないキレ方にレミリアは四の五の言わずグングニルを顕現し、自身の足元に突き立て、大穴を開け、羽を広げて逃げた。だが、その先には既にナイフが散らされておりグングニルを振り回して迎撃する。

 迎撃が終われば扉を破壊し、廊下に逃げ、とにかく全力で逃げた。


「ぎゃぁぁぁぁぁああああああああああああああああ!!」


 悲鳴――否、絶叫を上げて逃走した。


「待ちなさいっ!!」


 その背後からは激昂した咲夜メイドが追いかけてきていた。

 紅魔館の朝食は一階の入り口奥にある部屋で食べることになっている。基本的に食事時以外で使われることは無いが客人をもてなす時にも使われる。

 銀色の台車に朝食を入れてその部屋にやってくるとフランと、今日は珍しくパチュリーが座っていた。


「おはようございます、フラン様」

「おはよ、パル!」

「おはよう、パチュリー」

「おはよ……ふぁぁ……」


 少し眠そうなのはいつもの事であり、パルは微笑みつつフランから給仕を始めた。

 そうして自分の番になってから、パチュリーはパルを呼び止めた。


「そういえば、朝から凄い声が響いているんだけど何があったの?」


 朝からというより現在進行形で何処からか絶叫が聞こえてくる。


「えっとね、レミリア様が咲夜さんのお給料をワインに変えていたからだと思うんだけど……」

「え、何、レミリア様そんなことしてたの?」

「パチュリーも知らなかったの?」

「初耳なんだけど。他には? 例えば咲夜のお給料をちょろまかしたりとか過激にピンハネしていたりとかは?」

「ピンハネっていうか、その、咲夜さんってお給料一銭も貰ってなかったみたい。私服も無いみたいだったし」


 それを聞いてパチュリーも思い当たる節があり口元に手を置いて唸った。


「あ……そういえば咲夜ってメイド服が標準装備で私服は一枚も無かったわね。小物とかバッグも無いだろうし……盲点だったわ」


 少々項垂れ、今度はパルの方から確認をした。


「そういえばパチュリーは今日の午後からレミリア様たちと一緒に出掛けるんだよね」

「ええ、そうよ」

「一人だと大変そうだけど大丈夫?」


 それを聞いてパチュリーは咲夜が全部説明してなかったのだと思い辺り、補足をすることにした。


「一応助っ人二人を呼んでいるから大丈夫よ。こっちの心配は良いから咲夜の面倒を見てやって頂戴。多分、服とか遊びとか全く分からないと思うから」


 そうだろう、とパルも薄々思っていた。


「咲夜さん、いつも忙しそうだからね……」

「そういうわけだから頼むわね。こっちはどうとでもなるから」

「分かったよ。でも、気をつけて行って来てね」 

「ええ、勿論」


 そうでなければ泣きを見るのは自分だということをパチュリーは重々承知していた。

 それはそうとパルには聞いておきたいことを思い出していた。


「……あ、そうそう言い忘れたことがあったわ」

「なに?」

「貴方、咲夜のことをどう思ってるの? あ、勿論、友達とかの意味でね」


 むしろそれ以外の可能性があるのだろうか、とパルは思いつつも率直な感想を口に出した。


「うーん……年上のお姉さん、かな?」


 妥当だ、とパチュリーは思う。


「そう。なら旅行ついでに一つお願いしたいことがあるんだけど良いかしら?」

「大丈夫だよ。何でも言って」

「……咲夜、実は年の近い友達がいないのよ。だから仲良くしてあげて欲しいの。ほら、咲夜ってパルに対してですます調でしょ? あれ、結構気にしているみたいなの。だからこの旅行中にもっと砕けた接し方に変えてあげて頂戴。お節介かもしれないけど貴方以外に適任者がいないのよ」


 レミリアにしろパチュリーにしろ圧倒的に歳が離れており、美鈴も年上に分類される。幻想郷において外見上は少女であっても内側が化け物な者はそう珍しいことではない。


「分かったよ。でも、具体的にどのくらいが良いかな?」

「私と貴方みたいな感じが良いわね。咲夜も私と話す時は結構砕けるのよ?」


 事務的な会話にしてもプライベートな会話にしても咲夜は固いイメージがあるからこそパチュリーは何とかしたいと思っていた。


「そうなんだ……あんまり想像出来ないなぁ」

「元がクソ真面目だからしょうがないわね。それじゃ、頼んだわよ。まずは友達からね」

「うん、任せて!」


 パルの良い返事を聞き、パチュリーはホッと息を吐いた。

 ――パルになら咲夜を任せても大丈夫。歳の差なんて些細な物。ま、幻想郷に来た時点で人間の寿命は軽く超えるからパルくらい砕けても大抵は大丈夫なのよね。頭のクソ硬い神様とか以外なら……。

 そんな心配を他所に、部屋の扉がゆっくりと開いていく。


「意外だなぁ……あの咲夜さんが……」


 それに気付かずにパルは呟いてしまう。


「私がどうかしましたか?」


 背後から咲夜の声がして我に返り、恐る恐る振り返って否定した。


「あ、いえ、何でもないです。それよりどうでしたか?」


 聞く方が怖かったが聞かねばなるまいと思い、咲夜に問うと、咲夜は少し手招きして別室へパルを連れて来てから答えた。

 パルはこの時点で嫌な予感がしていた。


「……その事なんですけどね。お給料をふんだくったので、しばらく蒸発しようと思います」

「ええ!?」


 蒸発。家出という生易しい物ではなく下手をすれば二度と返ってこないという宣言にパルは心底驚いたが、咲夜はパルにならば……と今の想いをぶつけた。


「だって! 紅魔館を賄っているお金って私が栽培している野菜や美鈴が育てている花や肥料とかパチェが書いている絵本や魔法書を売って作っているんですよ!? それに紅魔館の財布事情は私に一任されているはずなのにそこから勝手に出してワインに代えていたとかパルやパチェや栽培を手伝ってくれている妖精たちにはお給料が出ているのに私にだけ給料が無かった事実とか実は私に内緒でパチェやフランや美鈴と一緒に人里で甘味や服を買っていたこととか色々発覚したんですよ! それに加えて私とパル以外の皆は休日があるとか! それとレミリアお嬢様が実は人里で色物な本を買っていたり自作して売っていたり著作権やその他で儲けていたりもう色々な要素が絡まって爆発しましたよ! ええ、大爆発です! 確かに私は孤児で表の社会のことは知らずに育って休日という概念はありませんでしたがそれを教えてくれなかったレミリアお嬢様は許せません! どんなブラック企業でも週に一回は休日があって例え残業があっても食べる、寝る、勉強以外に一分でも趣味に浸れる時間があるそうじゃないですか! 確かに私は趣味が家事と栽培と裁縫とかのつまらない女だけど偶にはレミリアお嬢様やパチェみたいな女の子らしい恰好をしてみたいと思ったりもするし里の人たちと話してみたいなぁと思ったりします! メイド服だって悪くはないけど私だって一応女の子なんですよ!? というかパチェも何で今まで教えてくれなかったの! 知らないのは、無知な方が悪いって言うの!? 美鈴も美鈴よ! いつも門番の仕事サボって昼寝したり何処かに行ったりお酒飲んだりしているくせに週二で休暇貰ってるって初めて知りました! ねえパルはどう思いますか? パルも休暇なんて一切貰ってないのは私が一番知っています! 一緒にボイコットしましょう! そうよ、ボイコットすれば良いのよ。私とパルが居なかったら紅魔館がどれだけ汚れるか思い知るが良いわ! 庭の雑草だって生え放題だし、食事の献立や健康管理も一瞬で崩れるし、何より収入が入らなくなって誰が一番困るのか身を持って知ってもらいましょう! 確かに拾って頂いてメイドとしてお仕えできるのはこれだけのことをされても御恩を感じられるけれど、やっぱりレミリアお嬢様のワインになっていたのは絶対納得いかない! 特に皆でやりくりしていたお金を使っていたことは許せません! いくら自分のお金が無いからと言ってもこれはあり得ません! 紅魔館の主としても私の一番の主人としても許せることと許せないことがあります! ええ、断固抗議します! そういうわけでパル、慰安旅行は一週間じゃなくて一か月に変更です! 良いですね!?」

「は、はい……」


 ――さ、咲夜さんがブチ切れてる…………っ! 怖い!

 そうは思ったものの咲夜の叫びは痛みを伴っており、全ては理解出来なくても表面からパルは受け止めていた。

 朝食の場に戻ってくると全身が切り刻まれたような傷跡を残したレミリアが用意した朝食を食べつつ、咲夜を見るなり呼び止めようとした。


「さ、咲夜……」

「何でしょう?」


 咲夜の視線は無遠慮な軽蔑であり、汚物を見るような目だ。


「その、ううん……なんでもありません」

「そうですか」


 謝らなくちゃいけない。だが言葉にすれば咲夜は絶対にまたキレるという運命を見てしまい、今はもう何も言わずに朝食を食べることが最善手だった。

 その裏でパチュリーはパルを呼び、小声で会話をしていた。


「あ、これ駄目ね。咲夜が完全に切れているわ……というか私を見る目も恐いんだけど」

「色々情報を知っていて黙っていたパチュリーにも怒っているみたい」

「だって聞かれなかったし」

「それも原因の一つだと思うけどね」

「パル、何とかして」

「旅行中に何とかやってみるけど……あ、それと旅行の期限、一か月くらいになりそうだよ?」


 そこまでは良かった。パルに押し付けるのは心苦しかったが仕方ないと思っていた。

 だが、その代償を聞いてパチュリーはスープを飲む手を止めた。


「……嘘でしょ?」

「本当」


 本当みたい、でも、本当らしい、でもなく確定。それを聞いてパチュリーの表情が徐々に青ざめていく。


「冗談よね?」

「本当……」


 その答えは再度の肯定。そしてパチュリーは思わず叫んだ。


「嘘だと言ってよ、パルゥゥゥゥ!!」


 そっと冷酷な瞳がパチュリーを捉え、不気味とも言える微笑みを持って咲夜は咎めた。


「パチェ、うるさいですよ」

「ごめんなさい」


 それ以降はただ静かに、まるでお通夜の如く朝食が進められた。

 後に『これほどまでに味のしない朝食は無かった』とパチュリーは日記に書き記している。





 朝食を終わらせた後、パルも同様に味のしない朝食を食べ、食器を洗って片付けて外出の準備をして玄関へとやってきた。


「行きましょう、パル」

「はい」


 先程よりは多少マシになった咲夜の後に続いてパルも門へと向かう。

 この時ばかりは美鈴も紅魔館内部の異変を察知し、直立不動の門番をして咲夜たちを見送っていた。


「ば……な、ぜ……」


 ただし美鈴の腹には深々とナイフが突き刺さっていた。当人である美鈴でさえも何故、と問うがその問いには誰も答えないし、咲夜も答えられない。強いて答えるのならば――脳に刻まれていた完全な反射行動だろう。


咲夜(次の就職先どうしようかな……)

咲夜(ハッ! パルもいることだしメイド喫茶とかどうかしら)

咲夜(二人だけど……町の一角にひっそりとある小洒落た喫茶店。商品は紅茶とケーキをメインに、サンドイッチとか軽食があっても良いわね)

咲夜(平日はそれで良いとしても土曜日は妖怪退治の仕事も入れないと赤字になりそうね)

咲夜(それで日曜日は朝から温かい珈琲と焼きたてのパンを食べて、お昼はパルと一緒に出掛けるのも良いわね。夕方には一緒にお風呂とか入って、夜はやっぱり一緒に寝てみるとか?)

咲夜(あ、凄く幸せそう……。じゃあ早速物件探しから始めないとね)


パル(咲夜、何かを真剣に悩んでいるみたいだけど……)

グラたん「とめてください、今すぐにでも」



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