第十六話 紅魔館の白い悪魔
グラたん「今日は二話投稿しています!」
グラたん「第十六話です!」
人里の離れにある仮設病院へと向かうと仕事を終えた早苗が宿に戻ろうとしている所に出くわした。早苗もまたパルに逢えると思っていなかったためか少々驚いていた。
「あれ、パルさん?」
「早苗ちゃん、霖之助さんが怪我しちゃったの」
早苗はパルと咲夜を見てから霖之助の見て表情を真面目なものに変えた。
「面目ないです」
「何があったの?」
「今、妖怪の襲撃があって霖之助さんも頑張ってくれたんだけどやられちゃって……」
――誇張ですね。
咲夜は霖之助を見て嘲笑し冷ややかな視線を送る。
――止めてパルさん。咲夜さんの視線が痛いです。
霖之助もそれに気付いて視線を逸らした。
「え、でも霖之助さんってそんなに強くなかった気が……」
「言わないでください。自分でも分かっていますから」
もはや耐えられずに霖之助が口を出し、パルも頷いた。その過程で地味に霖之助の心を抉ったのは当人のみぞ知る。
「うん、そうだね。でも率先して妖怪に挑んでたよ」
「霖之助さんが? 珍しい……」
早苗が呟くと同時くらいか、霖之助の口から血液が溢れ、重傷を訴えていた。
「あの……そろそろ痛み止め貰えますか?」
『あ……』
霖之助が重傷者だったことを一時的に忘れていたパルたちはすぐに霖之助を病院内へ運び早苗の奇跡と塗り薬、ギプスと包帯を巻いて霖之助を座らせた。
「あとは皮膚が火傷している程度ですから二、三日もすれば良くなりますよ」
「ありがとうございます」
霖之助の手当ても終わり、一息ついたところで早苗は咲夜のことを注視した。
「そういえば其方のお姉さんは?」
「私ですか? 今回はパルが頑張ってくれましたので怪我はしていませんよ」
咲夜も視線に気づいて自身のことを告げ、早苗は笑みを浮かべた。
「それなら良かったです。あ、私、守矢神社の巫女で早苗と申します」
「私は紅魔館のメイド長、咲夜です。以後、お見置き知りを」
紅魔館と聞いた瞬間、早苗の顔が真っ青に染まった。
「こ、紅魔館の!? はわわ……」
「そんなに怯えなくても大丈夫だよ、早苗ちゃん。咲夜さんは厳しくてサボるとナイフ飛ばしてくるけどそんなに怖くないよ?」
咲夜は少し気分を害したが、こうも考えた。
――事実なのは分かっていますが、私ってそんなに怖いのでしょうか?
世間一般からすれば紅魔館という場所は地獄を顕現したような場所だというイメージだ。特にレミリアと咲夜のイメージは殊更酷い。
「そ、そうなの? 諏訪子様や神奈子様が『紅魔館には人を妖怪の三倍のスピードで食らう赤い吸血鬼とナイフで下着を剥ぐ白いメイド悪魔がいるから会ったら逃げなさい』って……」
咲夜は硬直した笑みを浮かべ、パルはふと振り返った。
「……そんなことしませんよね、咲夜さん?」
「根も葉もない妄言です」
「だってさ」
早苗も表情を緩めて微笑むと咲夜も硬直を解いた。
「私もそうだとは思っているんですけどね……」
そうして少し話し込み、夕暮れ近くになると咲夜が窓の外を見据え、パルの方に振り返った。
「パル、そろそろ戻らないとレミリアお嬢様がただを捏ねますよ」
「もうそんな時間ですか? もっと話したかったけどまた今度だね」
「もし良かった守矢神社に遊びに来てね」
パルも早苗も咲夜にしても名残を惜しみつつ立ち上がった。
「うん! 早苗ちゃんも紅魔館に――来て良いですよね?」
「勿論です」
「う、うん……」
ただ早苗はまだ紅魔館に恐怖を持っているのか収縮していたが。
「じゃ、またね!」
「失礼します」
二人を見送った後、空気を読んで目を閉じて寝ていた霖之助が上体を起こした。
「……大丈夫でしたか、早苗さん」
霖之助としては特に大事には至らないだろうと思っていたのだが、やはり何処かで早苗のことを心配していた。
「霖之助さんは知っていらしたんですか?」
「咲夜さんのことは良く知っていますよ。骨董品とかの修理を受けていますからね」
「パルさんのことは?」
「彼女はつい先日会ったばかりですから何とも……。でも、可愛いですよね」
ふと、霖之助は早苗の恍惚とした表情にちょっとした危機感を憶えていたが何も見なかったことにして頷いた。
「うんうん」
どうせこの場には自分と早苗しかいないからと思い霖之助はニヤリと笑ってつい口走った。
「――嫁に欲しい位です」
「咲夜さーん」
早苗も少々調子に乗り、聞こえていないと分かっていながらも外に出た咲夜を呼ぶように声を上げた。
「じょ、冗談で――」
それを聞いて霖之助は少々焦る。早苗は知らないのだが咲夜の耳は恐ろしい程に地獄耳だ。普通なら聞こえるはずもない声が聞こえてくるのだという。
今回もその通りになり、仮設テントの入り口から風を切り裂いて夕日に照らされたナイフが飛んできて、霖之助の脳天に直撃した。
「あ、余計な手間を増やさないでくださいよ」
「がふっ」
早苗も半分くらいは原因なのだが、それを棚にあげて霖之助の頭部からナイフを引き抜いた。
夕暮れも既に過ぎて辺りは夜となり、里からの全力疾走を強いられた咲夜とパルは息を切らしながら紅魔館に帰宅していた。
「ただいま戻りました」
「戻りました~」
紅魔館の玄関ホールの階段にはレミリアとフランが座って待っており、咲夜たちが帰ってくると同時に声を上げて飛びかかった。
「おーなーかーすーいーたー!」
「すいたー!」
カリスマなど夕食の前では必要ない。
咲夜は何とか息を整え終わり、飛びついているレミリアたちを引き離して直立した。
「今お作りしますからしばしお待ちください。パルも手伝ってください」
「はい!」
二人は急ぎ足で厨房に向かっていった。
――紫――
黄金のマガツキュウビことスキマ妖怪の紫は今回の一件について色々と疑問を覚え、直接紅魔館へとやってきていた。スキマ自体、何処へでも開けるため彼女の前ではプライバシーは無い。
「……どうも違う気がするのよね。あの吸血鬼が二度もやらかすほど阿呆とは思えないし……ちょっと覗いて見ましょうか」
最初に覗いたのはレミリアの私室だ。咲夜かパルがいれば気配や勘で気付きナイフの一本二本は飛んでくるのだが没頭しているレミリアにそんな感性は無い。
「腐腐腐」
レミリアが愛読しているのは自作して溜め込んでいる相当に完成度の高い薄い本だ。その机周りにはペンやら定規やらトーンやら……紫としても何処か見覚えのある風景が広がっていた。
「やっぱり咲夜とパルのカップリングは神。得腐腐腐腐……あれ、資料何処やったかしら?」
――見なきゃよかった、と紫は切実に思う。メンタの私室やら同人誌関係である程度耐性があるとはいえ紫も一応女性だ。諸にアウトな物には苦笑いするしかない。
「ともかく、レミリアが元凶ではなさそうね」
すぐさまスキマを閉じて、次に開いた場所は大図書館だ。そこにはネグリジェ姿の咲夜とパチュリーがレミリアの作った資料と思われる書類を長机に広げていた。
「はぁ……全く、レミリアお嬢様にも困ったわね」
「いつものこと、って割り切れたら良いんだけどね。それにしてもお嬢様の発想力は凄いわね」
とても思案顔で二人ともに深い溜息を付いていた。
「それをもっと別のことに生かしてくれたら助かるんだけどね」
「多いのは姉妹ネタにメイド……これ、パルは知っているの?」
「知らない方が良いわよ」
「色物が多い幻想郷には貴重よね。……それと思ったんだけど、咲夜、貴方パルとは上手くいっているの?」
「……それなんだけどね、どうしても切り出せないのよ」
咲夜は手に持っていた資料を閉じ、更に深く溜息を付いた。
「まあ、貴方らしいと言えば貴方らしいわ。何かきっかけがあれば良いと思うんだけど」
「きっかけかぁ……」
「そうねぇ……明日から一週間くらいパルと一緒に人里で羽を伸ばしてみてはどうかしら?」
「そうしたいのは山々だけど、何か良い案があるの?」
咲夜としてもパルと今以上に友好関係を深めたいと思っているのだが紅魔館の家事やら料理に明け暮れているため、パルも美鈴との修行があるために二人でゆっくりした時間はほとんど無い。
しかしパチュリーには妙案があり、笑みを浮かべた。
「レミリア様もフラン様の件で少し悩んでいるみたいなのよ。それでレミリア様には明日から一週間くらい魔法部屋でフラン様と一緒に居て貰おうと思っているわ」
それを聞いて咲夜は更にげんなりする。咲夜とパルが抜けた穴はそんじょそこらのメイドや従者で補えるものではないことに咲夜自身も良く分かっているため嬉しいよりも心配の方が先に出ていた。
「……心配が尽きないんだけど。特に着替えとか食事とか」
しかしそこはパチュリーも考えがあった。
「一応、妖夢と藍に監視をお願いしているわ。咲夜やパルほどではないにしてもあの二人も良き従者よ。それに私も付き添いで行くわ」
「それならまあ……ありがと」
大丈夫だろうか? と咲夜は思ったがパチュリーも自信ありげにしているため、遅くならない程度に戻ってくれば良いと考えて好意を受け取ることにした。
「良いわよ。貴方もここ数十年はまともに休んでいないでしょう?」
「休む暇もないほど充実していただけよ」
言い訳ではなく確かに充実した日々ではあった。ただ、パチュリーから見れば働きづめのようにも感じられていた。そういうこともあって今回の作戦は良い休暇になるだろうとパチュリーは思っていた。
「全く……。あ、それと行くなら守矢の里にしなさいな。先日、温泉やテーマパークが出来たそうよ」
「テーマパーク?」
咲夜が首を傾げ、パチュリーは思い出して視線を逸らした。
――咲夜は遊ぶということを全くと言って良い程知らないのだ。
「ああ、咲夜は知らなくても無理ないわね。テーマパークというのは娯楽施設のことよ。例えば里の子供たちがやっているような鬼ごっこを大人たちだけでやったり、卓球やカードゲームが出来るらしいわ」
「つまり、体を動かす所という認識で良いの?」
「概ねそうよ。パルはそこの辺り詳しいと思うわ」
「そうなの?」
今度は意外そうに首を傾げ、頬に手を当てた。
「あら、彼女がここへ来た時の持ち物見せてなかったっけ? えっとね……あ、これこれ」
パチュリーが机に出したものはパルが紅魔館に来た際に咲夜から預かっていたものだ。全てパルの持ち物だったのだが図書館に引き篭もっているパチュリーからしてみれば新しい玩具同然であり、今日まで伝え損ねていた。
「メモ帳やペンは分かるけど、このカードや四角の箱は何かしら?」
「これは彼女の地球に置ける交通手段に乗るためのカード。電車やバス……咲夜の世界で言うなら列車や馬車に乗るための切符みたいなものよ。こっちの腕輪は携帯と呼ばれる通信機器。幻想郷の交信符が誰とでも繋がって、何処にいても繋がる機器と思ってくれれば良いわ」
幻想郷にも遠路用のバスは通っているが電子カード技術はまだ普及されていない。技術者自体いないのと地球とは違って文明が違う方向に発達しているということもある。腕輪に搭載されている技術は博識なパチュリーの知能を持ってしても解読が難航する代物だ。未だ、限定された仮想空間を作成するくらいしか分かっていない。
「それは凄いわね。幻想郷に普及させたら便利になりそう」
ただし咲夜も漠然とは理解したため、その利便性を褒めていた。
「私もそう思うけど、何せ幻想郷と時代が違う機器だから解析が難しいの何の……当面は今まで通りでしょうね」
「でも、それはパルに返さなくて良いのかしら?」
ここまで心動かされていて返す技術者はそう多くない。パチュリーは腕輪を自身に引き付けて両腕で抱きしめた。
「黙って置いて頂戴」
「はいはい」
咲夜は少々呆れ顔で頷き、パチュリーも腕輪を机に置き直した。
「代わりと言っては何だけど、里への宿泊費用やその他の用意はしてあげるわ。大事なのは道中の会話やパルが興味を示しているものへの話題提供。でもあんまりくどいのは駄目よ。咲夜のことだからそこら辺は心配してないけどね。後は……切り出すタイミングね」
「うっ……」
切り出すタイミング、それだけが咲夜を悩ませていた。
「大丈夫よ。貴方たちの相性が良いのは見ていて分かっているから。例え切り出せなくても一歩二歩くらい距離を詰めなさいな」
根拠は薄いがパチュリーの励ましは咲夜にとって一番効果のあるものだった。
「……うん」
それ以上は野暮だろうと紫は空間を閉じて別の場所を開いた。
一応、フランドールとパルの所も覗いていたが両人ともに就寝しており、その寝顔は紫を微笑ませた。
スキマを閉じて私室に戻って来た紫は大きく背伸びをして結論を述べた。
「ともあれ、紅魔館は関係なさそうね。だとしたら魔理沙はなんでレミリアと思っているのかしらね? 私も早く結界の再構築と敵の割り出ししないと……」
敵は未だ不明瞭。目的も戦力も図りかねている。
「じゃないと、大変なことになりそうだし」
そうなりそうな予感を憶えつつ、紫は寝床に倒れ込んだ。
グラたん「次回も紅魔館です!」




