第百八話 俺たちはカップラーメンじゃねぇぞ!
グラたん「さて、今回のスパートですよ!」
居間に戻ってきた面々は椅子やら座敷に座り、ホワイトボードを注視していた。今回の説明をしてくれるのはスルトだ。
「さて、主要メンバーが集まったところで説明をしようか。まずはメンタについてだが、彼女の肉体は死しても魂はまだ死んでいない。肉体の方は余が今しがた凍結してある故パルが戻り次第、魂を肉体に定着させれば良い」
「えーっと、パルが向かった場所って確か地獄だっけ? あそこって生者が行って良い所だっけ?」
てゐが言っているのは、地獄という場所はこの幻想郷とは別の世界扱いなので、そこにいる神や上位権力者の許可がないと入れないということだ。
その点についてスルトは無論、と続けた。
「パルには余の加護がある。地獄にも冥界にもはたまた天界に行っても問題は無い」
「地獄と冥界って何が違うんですか?」
イナバの問いは一般的な価値観だと地獄も冥界も似たようなものという認識だからだ。
「尤もな質問だ。冥界というのは主に悪人の魂が行くところであり地獄はその裁定を下す場所だ。その裁定によって様々な世界に飛ばされる」
「そんな感じなのね。ということはその裁定に掛けられる前にメンタを助け出せれば戻って来れるってこと?」
それについては首を横に振った。
「否だ。死した者を現世に呼び戻すことは神でも禁じられていることだ」
「ただし極一部の神様とかは好き勝手に呼べるから閻魔様がご立腹するわけなのだ」
「ねぇ、その極一部の神様?」
何のことやら、とスルトは顔を背けた。
「でもそれってネクロマンサー……」
なんじゃないの、と霊夢が言い切る前にスルトは手で制した。
「余の力を甘く見て貰っては困る。それこそ最全盛期の肉体に魂を繋ぎ合わせて強制的に若返らせることも今の余なら可能だ」
「パチュリー、蘇生は専門外だから分からんけど凄いのか?」
うーん、とパチュリーは唸り、比較的分かりやすい説明をしようと頭を捻る。
「普通はネクロマンサーでも完全蘇生は無理よ。そもそも特定の人物の魂を特定の肉体に定着させるってこと自体無理。魂をランダムに引き寄せて定着させることくらいなら私でも出来るわ。ただし無理に定着させているから拒絶反応で肉体劣化は早いし魔力は無駄食らいするからやりたくもないわ」
そもそも生死の倫理観が比較的軽い世界ならまだしも基本的に死者蘇生というのは不可能な領域であり、蘇生しても肉体が劣化していたり、そも魂がもうこの世になかったりーーと語られても専行ではない霊夢は軽く流して結論を求めた。
「理論を言われても分かんないわよ。端的に言って」
「端的に言うと、マジ神様」
「おう、なるほど分からん」
『ちなみに最上位神なら出来るかもだ!』
庭でワイワイやっている神々が口々に言うが、最上位神のロキが身振り手振りで否定した。
「いや無理だよ? 自力で自己復活するならともかく他者を生き返らせるのは本当に無理。それこそ万能薬でも作らないとね」
ジッとスルトを見たが当人はどこ吹く風だ。
「えっと、それではどうしたらパルさんとメンタさんはこっちに帰って来られるんですか?」
「さてな。余も大概の戦闘狂だが、超戦闘狂中毒者の考えることは分からん」
視線が合ったらバトル開始、というほどクレイジーではないが、相手が強ければ強いほど挑む悪癖があるのでスルトも完全には思考を理解できていない。
「早苗ちゃん。パルはどうすると思う?」
「う……ん……何かと引き換えでしょうか?」
早苗も諏訪子も悩むが結論は出ず、レミリアも咲夜に問うが此方も首を傾げた。
「咲夜はどう?」
「そうですね……。物理か……それとも――」
「地獄なら四季と小町がいるから割と話し合いで済むと思うわよ」
地獄の審判である四季映姫、冥府の渡し守である小野小町。どちらかと言えば小町の方がまだ話せるだろうと霊夢は思う。
「いや、メンタがそこにいるとなれば戦闘は避けられないな」
「閻魔様だろうと煽って煽って切れさせるのがメンタのやり方だ~」
「よし! 今いる全員で地獄に殴り込み行こうぜ!」
「いやいや、それでどうにかなるとは思えな――」
てゐの阿保な案にイナバは呆れるが、意外にも賛同したのはスルトだ。
「……それもそうだな。ここに居ても暇だし温泉旅行でもするか」
「――い?」
「そうと決まれば水着の用意が必要ね。咲夜」
「既に準備は終わっています。どうぞご自身の姿を確認ください」
「は?」
レミリアの姿はいつの間にか真っ裸にされており、最低限の褌が装備されている状態になっていた。その上から霖之助がそっとバスタオルをかけたのは温情か。
「咲夜、咲夜。いい加減塩対応やめてくれない? 泣くわよ?」
「ギャー!」
外から喧しい声と共にゴウンゴウンと煩い飛空艇の着艦音が響く。その中から慌てて出てきたのは白蓮、村沙、にとり、ぬえなどのいつものメンバーだ。
「メンタが死んだって!?」
「紫の人でなし!」
「あの、お葬式の方に伺ったのですが……」
唯一、白蓮だけは普段着の上から黒ローブを羽織って喪に伏していたが、それも実質無駄だったと気づく程度には慣れてきていた。
「あーそれなんだけど、今から地獄旅行行くことになったから。ほら、皆、飛空艇に乗りなさい!」
『ワー!』
『ヒャッハァ!』
「え、あの、ちょっと!?」
いつものメンバーに加えて神々も乗り込み、甲板や室内を占拠されていく。果ては艦内デッキや廊下まで占領されてしまい、河童娘たちも困り果てる。
「スールートーさん!」
一方で天井を破壊してスルトの腕一直線に突撃したのは椛だ。その後から修繕費と書かれた小切手を持った射命丸も追ってくる。
「破砕費用は椛の給料からしっかり引いておくので安心してください!」
「それなら良いわ。ほら、行くわよ」
「ハッ! このデンジャラスな感じは間違いなく特ダネ!!」
「フカ――――ッ!」
同時に現着した枢たちも眉間に皺を寄せつつ、普段通りに安堵していた。
「……これは一体……」
「メンタの葬式と聞いて来てみれば……」
「しんみりするかと思えば……」
「バカ騒ぎの方がらしいと言えばらしいけど……」
「ある意味想定通りのような……」
ギャーギャーワイワイといつも通りの光景に訃報を聞いてやってきたさとりたち、神妙丸たちは唖然とする。少なくとも葬式とはもっと悲しい場所のはずだ。
「ここに来るまでのムードが台無しだな」
「全くだ」
「階段、階段をもっと小さくしてほしいなぁ」
「ここが腐教総本山の博麗神社かぁ。騒がしっ」
「これじゃただの宴会ね」
「宴会~」
「鶏肉鶏肉」
「焼肉焼肉」
その背後からもアリスたちや妖精たちが訪れたが、宴会か何かだと勘違いして我先にと駆け出していき、艦内へと入っていく。
「……葬式ってもっとこうしめやかにするはずよね?」
「私に聞くな」
「……実に嫌な予感がする」
「ネタに困らなさそうです」
博麗神社を出発して数分後。意外にも拡張機能があったらしく艦内は全員を収容してもまだ広いと思わせるくらいの広さに変化していた。
原理的には空間を拡張される魔法が使用されているが、にとりも具体的な設計は霖之助に任せているので全部を知っているわけではない。
「いやぁ、やっぱり増築しておいて正解でした!」
「結構余裕あるかと思いきや以外とそうでもないもんですねぇ。さて、地獄にはどやっていきますか?」
幻想郷の全体図を開き、スルトはその中からいくつかのポイントをマークし、指差す。
「幻想郷には冥界門と地獄門、天岩戸がいくつかある。博麗神社より北に行った所にもあるのだが海の中だ」
「なるほど! それで飛空艇が必要なのですね!」
「うむ。位置は余が指示する故、安心して航海すると良い」
「宇宙の次は地獄とか冒険魂に火が付きますね!」
「ハァハァ、脳が、手が疼く」
「ハァハァ、行きている内に地獄に行ける日が来るなんて」
一部記者魂が疼きすぎておかしくなっているが、それはそれ。飛空艇が進路を北の海へと変える。
「で、では、出発しましょうか」
「イエッサー! 飛空艇、地獄に向けて発艦します!」
一方、船首では毘沙門天の化身こと寅丸がその会話を遠耳で聞きつつ杯に酒を注いでいた。
「――地獄か。懐かしいな」
「虎ちゃぁぁん!!」
背後から武神が来るが蹴り落とす。
「アアアアアアア!」
「フフフ、一人だけ置いて行こうなんて百年早ベバァ! 落ちる! 落ちる!」
すれ違うようにして美鈴が船底に捕まっていたが、船足が急速に強なったこともあり振り落とされそうになる。
否、振り落とされた。
地獄というものは得てしてマンマその通りの世界だ。血の池、針山、蟻地獄、磔刑など多岐に渡る刑罰の執行機関であり、これら全てを受け終わってから悪人は再び転生する機会を貰えるのだ。
が、一部の魔王とか強過ぎる力を持つ奴は冥界直送になり永久凍結とされるか虚無の釜で煮られて存在そのものをなかったことにされるかの二択だ。
さて、今日も地獄は平常通りの様子を見せている。裁判席には四季が座り、ゴザには悪人が座っている。
『ようこそ地獄の入り口へェェ!!』
「ジャッジ・熱湯三分の刑」
『ァァァァッァァァァァ! 俺たちはカップラーメンじゃねぇぞ!』
熱湯三分の刑。最初の刑罰としては比較的軽い方で、熱湯300°に浸かるだけだ。ただ問題点があるとすれば時計がまだ修理できていないため正確な時間が測れないくらいか。
嫌だぁ! と鬼どもに連れていかれる悪人たち。その様子を小町とメンタは眺めていた。
「と、こんな感じの場所です」
「なるほど。オレも死んだみたいですね」
「ようやく納得して貰えてよかったです」
散々駄々を捏ねた挙句、何故地獄に落とされたのか分かりません。せめて天国にイきます、と壁を走って蜘蛛の糸を掴んで蜘蛛ごと落下させたのは一時間前の話。
書簡を整え終えた四季が佇まいを直し、次を呼んだ。
「次! って、小町、貴方には舟渡を頼んでいたはずですよ」
「いやぁ、そのぉ――」
その腰巾着には大量のナニカが詰まっており、四季も呆れて錫杖を向けた。
「なるほど。買収されたのですね。ジャッジ・クビ」
「殺生!?」
とはいえ小町は正式に冥神からの命で任務に就いているため四季の権限で勝手に殺すことは出来ない。
冗談が通じる相手として四季も重宝している。
視線を戻し、地獄に落ちてくる際に自動的に記載される紙を手に取り、首を傾げた。
「さて、次は貴方ですか。罪状は――腐教?」
「イエス! 腐を司どり腐を広め、教え、そして世界を腐で包むのがオレの使命なのです!」
使命も何も既に死んでいるのだがーーと、そこで四季は名前を再度確認し、机の中に隠している本の作者を見比べ、経歴を確認して本人と分かるや一つ咳払いをして錫杖を向けた。
「ジャッジ・地獄牢投獄。次」
「早くないですか!? 意義ありです!」
「小町、お連れして頂戴」
「はい。さ、先生。此方へ」
「せめて何で腐教したら投獄になるのか理由を教えてくれませんか!」
「部下調教物が少ない。以上です」
「ハイ、納得です」
それはもはや投獄という名の好待遇接待なのでは、と小町は思ったが、お世話になっていることも考えてここは黙っておいた。
その数十分後、地獄に降りてきた一人の半神に滅ぼされかけていた。その容貌は半狂乱というのが正しいだろう。
立ち向かっていった地獄の鬼どもは魔性特攻の聖剣の前に伏し、倒れていく。それを止める者など皆無であった。
「破壊斬! 破壊斬! 破壊斬! 破壊斬!」
『逃げろぉぉおおおおおお!!』
「メンタァァ! 帰るよ!! 返事して!!」
小町の小舟上、投獄に向けて出発しようとしていた二人は遠目からパルの様子を眺めていた。
地獄の灼熱の大地が割れ弾け、巨大な針山を根底から持ち上げて投げ、血の池を真っ向から切断する様は阿鼻叫喚が一番似合う表現だろう。
「……パル姉が狂戦士になって帰って来た件についてです」
「さあ! 今日はシャカシャカ漕ぐよ! ぶっちゃけて怖い!」
遠くにいるはずのパルがグルリと身体を此方へ向けた。その視線にはメンタが捉えられている。
「メンタの声がした!」
「どんだけ地獄耳ですか!」
接近から確保まで数秒も要らないだろう。そう思われたが、その合間に入って遮ったのは四季だ。地獄は四季の領土、その中でなら四季は無双の権力と権限を振り翳せる。それ故に見た目小柄な少女だろうと鬼からは恐れられる存在だ。
「そこまでです、生ける者よ。私は四季映姫ヤマザナドゥ、これ以上地獄を荒らすのであれば――」
「邪魔ぁぁ!! 絶対破斬!!」
相手がそれ以上の化物でなければ、という前提でなければの話だ。パルの手には聖剣ヴァルナが握られており、その直線上にいるモノ全てを斬る斬撃が振り下ろされた。
「ッ! 能力発動! ジャッ――きゅ~」
間一髪反射的に躱して致命傷は避けたものの、聖気の波動で吹き飛ばされて地面を転がり気絶した。
邪魔がいなくなったパルは視界の先に完全にメンタを捕捉し、ゆっくりと歩いてくる。
「メンター、メンター、何処ー? 帰るよー」
「あ……ぁぁ……」
「鬼だ……いや、もはや鬼神……?」
そういえば、とメンタが現実逃避がてらに話す。
「先程から暗いと思いませんか?」
「いや~、暗いですね~」
「これきっと幻想郷の飛空艇ですね」
「それは是非みたいですね」
「では、上を向いてみましょう。きっと船底が見えるはずです」
「全力逃走!!」
現在進行形で地獄に物理的に降りてきたのは戦艦だ。三途の川に着艦し、その衝撃で小町たちが乗っていた船は吹き飛び、木片となった。
「この時、私は思った。嗚呼、三途の川の向こう岸の花畑って実は幽香さんが手入れしてくれていたんだなぁ、って」
「すみません。小町さん一人抱えるのが限界で小舟までは……」
「良いの良いの。小舟が粉砕することなんて割とよくあることだから」
「あるんですね……」
後に小町はここまで生きた心地がしなかったのは四季が楽しみにしていた夏コミの参加が死者多数のせいでナシになった時だ、と語った。
「あ、やっぱり居た――」
「みーつーけーたー!!!!」
甲板に着地したメンタたち。それに追い縋るように跳躍してきたパルは甲板から出てきた霊夢たちよりも先に駆け寄って押し倒した。
「ウボアアアア!!」
「わー! 凄い久しぶり! 半年振りだけどメンタが成長してる! 髪の毛も伸びてる!」
「パル姉、痛いです。骨、骨、骨、骨ッ! 霊体なのに嫌な音立ててます!」
「ちなみにボクは自分の肉体年齢とか自由に操れるから19歳のままだよ!」
「それは……ちょっと羨ましいです。とりあえずお久しぶりですねパル姉」
「うん! 死んでたのは驚いたけど、凄く頑張ったのは紫さんから聞いたよ!」
それまでパルは一切合切を知らされておらず、当初は酷く落ち込んだーーというところでメンタは話題を変えた。
「あっと……今オレの肉体ってどうなってますか?」
「スルトさんが冷凍してくれてるよ」
「ついでに神格化に耐えられるように紫、天子、永琳に魔改造を頼んである。楽しみにしておくが良い」
それつまりもう別の身体ではないでしょうか、と思わなくもなかった。
「ゲェ……。それはともかく、スルトさんたちは地獄に何の御用でしょうか?」
「観光だったのだが……ふむ、それ」
スルトが手をかざすと半壊していた地獄の設備が修復され、破砕していた跡も完全になかったことにされた。
「相変わらずのチートですね」
「前は相応に魔力が必要だったが今は児戯だ。封印もしなくて良くなったからな」
「はいちょっと失礼しますねー。先生をお借りしまーす」
「あ、ちょ――」
その横から小町は職務を最優先にしてメンタが連れていかれ、数秒も経たずに艦内から神々が出てくる。
地獄に来ることも少ないためか、饗宴が始まった。
どのくらい眠っていたのだろう、と四季は目を覚ますなり思う。地獄の赤い空が見えることから少なくても野外で気絶していたのだろうと判断する。
これは俗に言う催眠系同人誌のパターンなのでは? と思ったが頭部が柔らかいものに包まれている。服が見えることから膝枕をされているのだろう。
「う……ぅん。よく眠った気がします」
「起きた?」
「はい……。はっ!? こ、これはご迷惑をーー……ぎゃあああああああ!?」
起きて目の前に気絶させた元凶がいたなら飛び上がって臨戦態勢を取るのは仕方ないだろう。
「わふっ!?」
「権限発動! ジャッジ・ギルティ! 問答無用で冥界行きです!」
「さっきはごめんね。メンタが死んでちょっと発狂してたんだ」
「け、権限が効かないのですか!?」
地獄で権限が効かないとすれば、それは最低でも異世界の魔王を超える強さを持ったモノ。下手な神格であっても四季の権力ーー白黒付ける程度の能力の前には伏すことになるのだが……。
これはもしかしなくても自分の手に余る案件だと判断して冥神を呼ぼうとし、幽々子に止められる。
「映姫ちゃーん」
「幽々子さん? 何故ここにいるのですか」
「色々事情があるんだけど、メンタさんのことは見逃してあげてくださいな」
幽々子は現世と地獄、冥界を行き来できる貴重な存在だ。四季とも長い付き合いの友人であるし、彼女が頼むのであれば大抵のことは融通出来る。唯一無理なのは自分で下した判決くらいだろう。
「――いえ、一度下した判決は覆りません。例え幽々子さんの言葉であってもです」
「じゃあ冥界神様だったら?」
「それなら問題ありません。私の役割は白黒することですので」
より強い権力がある冥神アトミデアの判断なら四季の判決も簡単に覆すことが出来る。尤も、冥神は非常に怠惰な上、友好関係が少なく、引きこもりの面倒くさがりで、多大なメリットがあっても取引相手が嫌な奴なら蹴り飛ばして燃やすくらいのことはする。
四季も何度機嫌を損ねて痛い目にあったか分からない。
「と、いうわけだ。アトミデア、一つ頼まれてくれ」
「それじゃ、次の幻想郷の冬コミを見て回るのと引き換えで~」
ふと見ればそこには威厳もないジャージ姿の駄神が鎮座していた。
「冥界神様!?」
「さあ! レッツ観光! オススメは血の池風呂でシャンパンタワーだ!」
「――拝啓、亡き父上母上。端的に言って地獄が大変なことになっております」
ヒャッハー、と他の神々と全く同じノリでどこかへ行ってしまい、四季は途方に暮れる。
一方パルはいつの間にか消えたメンタを探して辺りを見渡していた。
「あれ? メンタは?」
「メンタさんなら――」
地獄牢。そこには漫画家御用達のペンタブから色紙、インクなど一通りが揃った小洒落たアトリエのような家のことだ。ここに連れてこられた者は例外なく泣いて喚いて命乞いするらしい。
それは生前の著名な亡者だけでなく、地獄の鬼ですら逃げ出すと言われたら。
メンタからすればいつも通りの光景だ。椅子に座り、物資を見て、死屍累々の屍となった先生方を見て、肩を落とした。
「一応言っておきます。これ、ただの缶詰ですよね?」
一緒についてきた紫に問うと、管理スケジュール表と幾人ものアシスタントが派遣された。
「安心なさい。一日三食は確実に届けますし、完成して出版できる状態になったら解放します。デッドラインは四日後です。その次の日からは冬コミです」
「腐腐腐、安心してください。実はオレの私室にもう準備出来ています。なので今回は映姫さんのためだけに描きますよ~」
「四季様、喜ぶと思いますよ!」
「ネタ出して、一発書きして、原稿上げて印刷するとしたら……オレのペースで半日くらいですね」
「は、半日……ッ」
「ちなみに出版舐めてるのかと思う方も実は結構いますが、オレなら出来るんです。というわけで今からガチモードに入りますので水分補給用のお水だけ置いといてください!」
一旦集中モードなら入ったら当面は戻ってこないのが作家というものだ。メンタの場合は両手で別々の作業をして効率を上げているため一見気色悪い動きになっている。
アシスタントの鬼どもはフル稼働を余儀なくされた。他の先生方の手伝いがてら慣れている作業ではあったが一枚当たりのペースが尋常ではない。描き終わる前に原稿を放り投げられてはいくらなんでも手が足りない。
そんな修羅場から半日ーー実質四時間ほど。そこそこ分厚い四季専用の同人雑誌一冊が描き終わり、ペンを置くとメンタはぷちぃっ、と虫が潰れたような鳴き声をあげて倒れた。
「アナタハソコニイマスカ?」
まるでどこかの宇宙と交信して人類を融合せんとばかりに侵略してくるフェなんちゃらの言葉が聞こえてくる。
「お腹……お腹、空きました……ご飯を……くだ、さい」
「ゲンコウ、デキテマスカ?」
「袋とじまで完璧、デス……」
「待っていましたよ。ではその出来栄えを拝見させて頂きましょうか――」
四季がお弁当とお茶を机に置き、代わりに完成した同人雑誌を手にした。メンタは無我夢中でお弁当を食べ、水分を補給していく。
尤も現在は霊体なので腹の減りも喉の渇きも生前の感覚でしかないのだが、お約束というものだ。
てゐもお茶を飲みつつ、いつの間にか刷ってあった第二版を手にして労った。
「お疲れさん」
「はい! 疲れました! それはそうとパル姉たちは今何処にいますか?」
「パル? パルならさっき温泉に向かったぜ」
「温泉!?」
地獄にも温泉はある。地球にも地獄温泉がある通り、それを模した温泉だ。温度は42度と普通だ。
「ちなみに一時間前の話な」
「がくっ」
「そーいや、今回の冬コミのコスプレはどんな感じなんだ?」
「ふ、腐腐腐、今回は博麗の独壇場ですのでコスプレもイベントも気合い入ってますよ! コスプレはこれです!」
どこからか取り出されたのは現状最新作と言われている人気RPG風味の衣装だ。主人公の方は所謂『礼装』と呼ばれている服装が多数あるためコスプレはやりやすいと評判だ。
「ファイト?」
「そう、Faitです! 地球でも人気作で幻想郷でもブームが来ている作品です!」
「作者は――」
「皆さんご存知、果汁100%姉貴ことフルーツ・レインです!」
「なぁ、これって幻想郷で流行しだしたのは何時だ?」
「大体2ヶ月前くらいですね」
2ヶ月前。チェイルズの方が一段楽ついたため新しく始めた作品なのだが、これが面白いくらいに売れたのだ。
てゐは何も言わずにそっと肩に手を置いた。
「冬コミ終わったらしばらく休もうな? レイン先生、チェイルズ、コミケ、ファイト。……このままじゃ過労死するぞ」
「な、何を言っているんですか? オレはフルーツ・レインではありません!」
「な?」
「……オレは過労死などしません!!」
「な?」
「はい」
「それはともあれ、一つ聞きたいんだが――これってもしかしてパルのためにやってるのか?」
「それは野暮ですよ、てゐ」
ふと目がマジになったのを察してすぐに引き下がった。
「――……おう、すまん」
「では皆さんのいる所に行きましょう!」
地獄、宴会場。今日ばかりは冥界の神様が休日というので拷問も特になく、鬼にも祝酒が振舞われた。亡者どもも輪廻畜生道の神様が鬼畜スタート転生させた性で地獄は一時の平和が訪れた。
その会場はいつもなら裁判が行われる場所を急遽改造して宴会席にしていたのだった。
「我が剣は勝利を約束する剣――エクス・カリバー!!」
「私が防ぎます! 疑似宝具展開・肉盾!!」
『俺の嫁には指一p――――』
酔っ払ったパルが破斬を放ち、咲夜が時間を停止して神々の肉盾を用意し、弾け飛ぶ。
「その虚勢、何時まで持つかな?」
「何度でも……何度でも防ぎます!」
「消えよ、焔硝煙たる宝剣!」
「あ、ここにいましたかパル姉――」
「祖国の御旗よ、我らを守り給え! 次世代の巫女の肉盾!」
「あの説明貰ってもよろし――」
ジュッと肉の焼ける音を立ててメンタに火炎斬りが炸裂する。ノリノリで盾にした早苗も我に返り、慌てて手放した。
「あっ、メンタぁぁ!?」
「パル姉にやられるならオレ……悔いないで……ガクッ」
わざとらしく倒れ、パルが近寄ろうとすると遮るようにしてレミリアたちに腕を掴まれた。
「パル~、こっちで飲みましょ~」
「さあさあ」
「うん!」
「あれ? パル姉? ナイチンゲールばりの看病は無いんですか? パル姉、パル姉――っ」
「師匠! ここに患者が!」
ニヤリとてゐが笑い、メンタも不敵に笑い返す。
「あ、真面目に重傷なのでSMプレイは後で――」
「殺菌!」
謎の液体が頭部にかけられる。硫酸のような音を立ててはいるが回復効果はあるらしい。
此方でもFaitは人気があるらしく神々もご満悦の様子で携帯ゲーム機で遊びつつ、気に入ったキャラのコスプレをしたり技を繰り出したりしている。
宴会は長々と続き、博麗神社へと戻ってきても夜が耽るまで続いた。
地獄が終わり、もうすぐ春ーーではなく、冬コミがやってくる。
メンタ「ご愛読ありがとうございました。グラたん先生の次回作にご期待ください」
グラたん「勝手に完結しないでください。休載するだけです」
メンタ「またですか?」
グラたん「書き溜まったら投稿します!」




