第八十九話 メイド=奴隷
グラたん「第八十九話です!」
無重力に慣れた霊夢はメンタと村紗を連れて飛空艇の内部を探索していた。
元となった飛空艇自体がにとりたち河童の手によって魔改造されていることもあり、内装こそ武骨ではあるがヤケにアニメ調な艦内の見取り図や落書が壁一面に描かれていたりする。
「随分と広いわね」
「ですね」
「私たちも全部見ているわけではありませんからね」
ブリッジから通路を抜けて後尾、格納庫の方へと向かってみる。
扉を開けて連絡口へと出てみると眼下では河童たちが忙しなく動き、動作確認や機体カラーの調整をしているようだ。
「そういえばアレって何かしら?」
霊夢が指差した先にあるのは幻想郷で最近普及しているロボットアニメに近い形状をした物体だ。それが6基ほど並んでおり、全機宇宙戦を想定した装備になっている。
「ああ、アレはにとりさんたちが開発したロボットなるものらしいですよ」
「へぇ……でかいわね。メンタのパワードスーツとどっちが強いのかしら」
「それはオレですね」
自信ありげにメンタが断言し、霊夢は興味を示してメンタに視線を向けた。
「ふぅん、その理由は?」
「ロボットといっても約10m級で武装は見た所ライフル一丁と腰に装備されている剣が二本にバルカン装備。背面は宇宙戦を想定したブースターパックですが、有人の機械仕掛けなので第一に小回りが利きません。背後に敵が迫った時、オレや霊夢さんなら振り向いて対処できますがロボットの場合は旋回してから攻撃するしかありません。上半身を捻ったとしても左右にライフルを撃つ程度でしょう。そして何よりも速度と力は間違いなくオレの方が上です。何せ今回は長距離超電磁砲装備してますからね」
そこへ階下から上がってきた、にとりも難色を示しつつ頷いた。
「そうなんだよね。メンタの言っている通り速度と柔軟性に難があるんだ。攻撃力なら同様の超電磁砲装備とか武装変更が出来るから問題ないんだけど……いやはや、技術レベル以前に次元が違うような武装だからね」
「その次元が違う技術力ってどのくらい違うの?」
「んー……霊夢たちにも分かりやすく言うと、この飛空艇よりも数百、数千年単位で先の技術かな? ある程度模倣したり武装の追加とかは出来るけど腕輪みたいに空間収納するのは無理だね。パワードスーツ型も霖之助さんの設計図が無かったら真面目にお手上げするような代物だからさ」
そう言って設計図らしきものを見せてくれるが霊夢にはチンプンカンプンだった。代わりに霖之助の評価を少しだけ上げた。
「……霖之助が? やるわね」
「あと、この飛空艇の主砲にもその技術が使われているから楽しみにしていてね! 勿論、試し打ちはしてあるからさ!」
「腐腐腐、楽しみですね」
「腐腐腐」
何処に向かって試しに撃ったのか、それを聞ける者はこの場にはいなかった。
格納庫を出て通路を移動し、次は医務室へとやってきた。当然、医療を担当するといえば永遠亭の永琳以外にあり得ない。
「次は医務室ね。『八意永琳の診療所』……」
壁から垂れ下がっている看板にはそう書かれており、一見普通の医務室のように思えた。
「特に変な感じはしませんが……?」
「ちょっと覗いてみましょう」
そっとスライド式のドアを開けて内部を覗き込むと――僅かながら紫煙が漂ってきた。その内部では永琳が自前の材料を用意して何やら青い液体と赤い液体を煮詰めているようだった。
「ふ~ふふ~ふ、ふふふふん。ららら~ら、らららら~」
アブナイお薬を開発中というのは嫌でも分かり、それを鼻歌交じりに上機嫌で煮詰めているともなると、きっと大成功(効果不明)なのだろうと霊夢は思い、そっと扉を閉めた。
「見なかったことにしましょう」
二人も頷き、すぐさまその場を離れた。
次にやってきたのは厨房だ。ここは主に咲夜、藍、妖夢、早苗が担当することになっており食事時以外は入る用事はないだろうと思われる場所だ。
「そういえば食材って何処にあるのかしら?」
一見したところ冷蔵庫や別室があるわけでもなく、室内は酒樽と酒の匂いだけが漂っている。
「あら、霊夢。それなら大丈夫よ。冷蔵庫にたくさん入っていたわ」
「紫様の能力で紅魔館の食糧庫と繋げてあります。常に補充され続けるためいくら食べても問題ありません」
夕食の準備に取り掛かっていた藍と咲夜は霊夢を見つけるなり説明を付け加え、霊夢たちは首肯して座席の方を見た。
「お酒とか!」
「お菓子とか!」
白長のテーブルにはお菓子と酒がたんまりと開かれており、その周囲にはフラン、こいしを始めとした精神年齢子供たちが集まってパーティーを開いていた。
「幻想郷が滅ぶくらいなら安い犠牲です……って紫さんが言いそうですね」
実際、お菓子とお酒は全額合わせても1億円を超えないため安いと言えば安い。
「その通りよ」
紫がポテチを片手にスキマから身を乗り出して現れ、メンタは半眼でお菓子の山を指差した。
「ちなみにですけれど紫さんって、かなーり借金ありましたよね? このお金は一体何処から――」
「安心して良いわよ。この内の半分以上は有志からの差し入れよ」
幻想郷には大人気有名人ランキングなるものが存在しており、年単位で順位が更新されるようになっている。その評価は主に一般人や妖怪から情報を収集しており、阿求の独断と偏見で組まれている。
さて、それは分かったが――と霊夢は同じく呆れ顔で紫を見た。
「残りの約半分は?」
「霊夢、メンタ……クレジットカードって便利だと思うわよね?」
「……確か負債者は発行出来なかったはずですが……」
「待って。カード見せて」
「良いわよ、はい」
紫は懐からシュッとカードを取り出して霊夢は受け取り、守矢印が刻まれた黒いカードであることを確認して戦慄した。
『ぶ、ブラック……っ』
「メンタの言うとおり私じゃダメだったからスルトさんに頼んで作って貰ったのよ。このカードさえあれば何をいくらでも買えるって。最初は半信半疑だったけれどちゃんと買えたから安心して良いわよ」
そう、通常のカードの色は白。上限額があらかじめ設定されており個人が破産しない程度まで買うことが出来る。勿論、その上には銀、金などの上位種が存在しており最上位には限度額が存在しないと言われる伝説の黒カードがある。
「――ちなみに領収書とか振込先って……」
「あ、それ! お会計の時に貰ったんだけど、どういうことかさっぱり分からなくて困っていたのよ」
つまり分からないものを誰にも相談せずに使っていたのか、と霊夢は内心嘆息した。
「見せて貰ってもいいですか?」
「良いわよ。はい」
その領収書には『お会計59億6230万(端数切り上げ)』と書かれており、支払先:お会計→守矢神社→博麗神社と表示されている。
「私、会計の事とか良く分からないんだけどメンタは分かるの?」
尋ねてみるとメンタは恐々粛々としながらも頷いた。
「ええ、まあ。幻想郷来てから色々調べたりしてましたからね」
「それで、どうなの?」
ゴクリ、とメンタは生唾を飲み込んだ。
「えっとですね……非常に言いにくいんですが、そもそもクレジットというのは先に商品を買って後で支払いをするというモノでして……その、お会計は守矢神社――多分スルトさんが先払いして、後で紫さんが支払うということになってます」
「……要約すると」
「紫さんが購入した分、約60億円の借金が新しく加わりました! パチパチパチパチ!」
「いやぁぁあああ!!」
メンタがやけくそ気味に拍手し、口笛を吹いて、紫は頭を抱えて瞳孔を最大限まで開いて絶叫した。
――紫の背後からバサリと一冊の本が落ちた。
「あ、本が落ちたわよ。……え?」
霊夢が本を拾い上げ――否、本ではなく借用書の塊の束と言った方が正しいだろう。それが続けざまに5冊落ちてきて、霊夢もまさかだろうとは思った。
「……いや、まさかね」
「紫さん、ちょっと失礼します」
「え、あ、ちょ、私のプライベート空間!!」
村紗が紫を抑え込み、霊夢たちがスキマの中へと入っていく。
少しして山のような紙束の中から二人ともに出てきた。その表情は一切の無表情。
「あれ? メンタ、霊夢? どうしたの?」
紫が尋ねると霊夢はとてもいい笑顔でメンタに告げた。
「メンタ、私ちょっと早苗の所に行ってくるわ」
そのメンタもかつてない程の笑顔で言った。
「奇遇ですね。オレもちょっとレミリアさんの所に行ってきます」
「待って待って! 何? どういうことなの!?」
事態に付いていけず紫は困惑するが、霊夢たちは一斉にお辞儀した。
「今までお世話になりました。私たちは新しい転職先を見つけたのでそっちに行きます!」
「ちょっとぉ――!?」
要約すれば、見放されたのだ。
博麗神社 借金残高:約1300兆円。
夕食を食べ終えてメンタたちも割と真面目に鞍替えを検討していると、いよいよ月面が眼前に迫っていた。
「月面が見えてきましたね」
「今回は真面目なのね」
メンタの真面目な表情を久しぶりに見たな、とてゐは思う。
「アレ見てふざける余裕があるのは師匠か霖之助くらいだろうよ」
「そんな余裕はありません」
霖之助も立ち上がり、拡大したディスプレイ画面を注視した。
そこには月面の迎撃部隊が展開しており、飛空艇も何千という数が砲門を此方に向けていた。
「冗談はそのくらいに。村紗」
白蓮が全員を諫め、村紗も帽子を被りなおして号令を下した。
「アイ・マム! コンディションレッド発令!」
「コンディションレッド発令! コンディションレッド発令! 戦闘員は機体に搭乗して待機してください。整備士は機体の出撃シークエンスをお願いします!」
通信技師が指示を出すと格納庫から良い返事が返ってきた。
『アイサー!』
順次機体が出撃していき、敵機と交戦状態へと移行していく。
敵機との戦力差は数える気力も起きない。しかし味方機よりは弱く、次々に撃墜していく様子が映し出されていた。
「そういえばメンタは出撃しないの?」
未だ艦内に残っているメンタに対して霊夢が問う。
「今は様子見です。敵が互角か強ければ出撃しますし、弱かったら部隊に任せます」
「それが良いわね。……ちなみに貴方の其れは宇宙戦は出来るの?」
「元々宇宙用ではありませんので飛空艇の上から迎撃する形になります」
飛空艇からは魔力供給によって超電磁砲が連射できるようになっているため長距離からの砲撃でも十分な活躍は見込める。
「それって結構不利なのでは?」
枢が疑問を問うと開発元である霖之助の方から答えは出た。
「メンタさんの装備は基本的に攻撃特化ですが、一応防御バリアも張れるんですよ。飛空艇の対空火器と合わせればそれなりに戦えると思います」
「一応言っておくけど皆、今のまま出撃したら宇宙の気圧に耐えられずに身体爆散するからどんなことになっても絶対出ないように!」
村紗も紫からその情報は聞かされており、疑似体験をしているため注意喚起は厳重に行われた。
「砲撃来ます!」
正面から敵飛空艇が突撃して攻めてきており、陣形は包囲陣。船一つを叩くことにしては大がかりな陣形だが、先の超長距離砲撃を鑑みての布陣と思えば当然とも言えた。
「村紗艦長!」
「方針は基本的に回避しつつ迎撃! 絶対に敵飛空艇に囲ませないように!」
対して村紗は迎撃を選択し、当時に撃墜されるのは一番不味いと考えてすぐにでも移動しようと考える。
『村紗、主砲! 主砲使って!』
そこへ、にとりが指示し、村紗はそれを承諾した。
「勿論! 主砲標準、敵中央!」
「主砲ターゲット照準完了!」
この飛空艇に搭載された主砲は艦の船首内部に搭載されており、現在は船首が上下に分かれて砲身が露わとなり、内部に凝縮された50を超える魔法陣が起動して魔力がチャージされていく。
村紗の前にはターゲットスコープが照準され、手動で狙いを定めていく。
「主砲ウリエール、撃てぇ!」
砲身からビーム砲が発射され、敵艦隊へと向かっていく。
敵は魔力防御壁を展開し、防御してみせるが拮抗は一瞬もなく防壁は解け、艦隊に直撃した。しかしそれで戦況が変わるかと言えばそんなことはなく、敵の損害は軽微であり艦隊は突撃体勢に入った。
無論、撃ち合いになれば飛空艇はあっという間に落ちるため最大船速で迂回し、長い鬼ごっこが始まった。
少しすると艦内から状況を見ていた早苗たちは口惜し気に刻々と変わる戦況に呻いた。
「うーん、あんまり芳しくないですね」
「結局メンタさんも出撃してしまいましたからね」
出撃したメンタは甲板で魔力供給を受けながら超電磁砲を連射しているが敵の数があまりにも多すぎるため、防御に回る方が多い。
「戦況は互角ですが……やはり此方も宇宙戦が不慣れなのと物量の無さが出てしまいますね」
「主砲も一発撃ったらチャージが必要ですからね……」
再装填までは後20分は必要であり、砲身の冷却も同時進行で進めているが時間が掛かっている様子だ。
「ああ、もどかしいわね」
「私たちも宇宙に出られれば良いのですが……」
霊夢と妖夢の言葉に藍も加わり、口惜し気に歯噛みした。
「地上空中なら一騎当千の猛者ばかりだけど此処は敵の土俵、そう簡単には行きませんね」
「月面にさえ入れれば……」
月面には空気があるため例え敵飛空艇が追いかけて来てもあっという間に殲滅することが可能だ。
「ふむ、苦戦しているようだな」
「あっ、スルトさん」
スルトがゲートを開いてブリッジに出現し、全員の視線が集まっていく。
「スルトさんなら宇宙でも戦えそうな気もしますけど……」
「ロボットの合戦中に人が立ち入るのは邪道です。そりゃ、メンタさんみたいな装備があれば話は別ですけれど……」
村紗がそういうとスルトは口元に手を当てて感心した。
「ほう、無理無謀では無く邪道か。余にとっては褒め言葉だが……そうだな、ロボットか」
「あるの?」
霊夢が問うとスルトは不敵に笑った。
「ククク……無論だ。しかしこれ以上力を貸すことは協定違反になりそうだ」
「何か理由があるみたいだな」
魔理沙も怪訝そうに見上げ、スルトは首肯して紫を見た。
「うむ。……そうだな、紫よ」
「……これ以上借金を増やすわけにはいきません」
あの危険な借金の量と(紫が勝手に)騙されたこと恨み、紫は半眼でスルトを睨んだ。
「良いわよ、別に。私は守矢神社に入るしメンタは紅魔館で働くし」
「初耳ですよ!?」
「あら、労働力が増えてくれるのはありがたいわね」
スルトは少し沈黙し、戦闘画面を見つめた。戦況は悪化の一方を辿っているが、メンタたちの奮戦のおかげで時間は稼げていた。
「まあ、良い。どちらにしてもここで計画に支障が出るのはよろしくない。今回は貸し借り無しで戦ってやろう」
「ほっ」
紫は安堵し、スルトは画面の方に向かって名を呼んだ。
「エヌ、是碓」
ディスプレイ画面に見たことない美少女たちが現れた。
『お呼びでしょうか、ミ・ロード』
『オートモード解放。スルト、戦闘?』
片や金髪碧眼でメイド服、片や薄青色の髪と黄金の目を持ち同じくメイド服だ。
「……スルトさん、彼女たちは?」
それを見て早苗は『またですか』と思いつつもスルトを見上げた。
「『異世界の』余の専属メイドと連れだ」
「メイド……っ!」
まるで漫画や小説から出てきたような美少女二人組に早苗は危機感を覚え、椛も戦慄した。
「奴隷!?」
「そんなこと言ってねーよ」
何故メイド=奴隷になるのか半日ほど問い詰めたいが、今はそれより先にやることがあるためスルトは疑問を一旦置き、彼女たちに指示を出した。
「二人とも、敵艦および敵機を撃破せよ。コックピットは可能な限り狙うな」
『イエス・ユア・ハイネス! 砲撃体勢に入ります!』
『了解。これより敵機殲滅を開始する』
飛空艇の側に召喚の魔法陣が展開され、そこから15mは超えるだろう白い砲撃型の機体と青い近接型の機体が現れた。白い機体はエヌマ・エリシュ、青い機体は是碓と言い、どちらもスルトが手掛けた機体だ。
画面に出てきた彼女たちは機体の内部に個体用の肉体を持っており、魔力通信技術によって機体のメインを務めたり、肉体に入り地上で活動することも出来る。
「では、また後程会おう」
「行ってしまうのですか?」
転移しようとすると早苗が心配そうに尋ねた。
スルトは砲撃準備を終えて待機している白い機体を指差した。
「エヌマ・エリシュ……あの砲撃型の機体には余が搭乗しないとすぐに魔力切れを起こしてしまうのだ。その分、威力は期待してくれて良い」
「分かりました……。見てますからね!」
「うむ」
転移し、機体の座席に搭乗したスルトは邪神の魔力を開放し、砲撃ボタンに指をかけた。
「最大威力で敵艦隊を砲撃する。是碓に射線上から退避するように伝えろ」
「はい!」
まずは背に搭載されている翼が展開し、筒の形となって正面に配置される。その中央には安定用のレバーがあり、それを握って腕を固定する。足と背面に搭載されたブースターが真後ろに向けられ、砲撃と同時に最大出力で放射する体勢になる。これは砲撃の威力を殺さないための措置だ。
次に機体の中央部に搭載されている宝玉から魔力が放射され、筒の中央にある供給管にチャージを開始する。内部で魔力が増幅されて雷撃を纏っていく。
その間にエヌが大まかな狙いを付け、スルトが手動で補佐していく。……役割が逆であることは両人とも承知している。
充分にチャージが完了するとエヌはターゲットをロックし、スルトにタイミングを任せた。
「チャージ完了! どうぞ!」
「アプス・ティアマト、発射」
「発射します!」
蒼電を纏った巨大なビームガンマ砲が艦隊に向けて発射され、展開していた防御壁をあっさりと突き破って破壊していく。直撃したのは艦隊の右側であり、それを左側へと薙ぎ払っていく。
まるで映画のような光景に飛空艇に残っていた村紗たちは思わず敬礼した。
「カッコイイ!」
「うっ……目から汗が……」
しかし霊夢たちの目には先ほど幻想郷の地上から発射された魔法と同等くらいの威力を感じており、魔法使いである魔理沙も寒気を覚えていた。
「っ! なんて威力なの!」
「飛空艇の主砲が可愛く見えるぜ……!」
格納庫からもその映像は見えており、にとりたち河童部隊も作業の手を一旦止めて眺めていた。
『村紗! 録画してる!?』
「勿論当たり前! 後で一緒に見ましょう!」
『よっしゃー!』
強くて格好いいロボットアニメのヲタクからすればこの光景を録画しないなどあり得ない。村紗もしっかりと録画を取っていた。
「村紗、活路は開きましたよ」
白蓮の声に村紗たちは正気を取り戻し、各員に指示を出した。
「よし、突撃します! 全員シートベルト着用してください!」
「戦闘員各自は帰還するか突破するかしてください! 二十秒後に本艦は月面に向けて突撃を慣行します!」
「メンタ、最大加速するから戻って来て!」
ぬえのオペレートに対し、メンタの返事は無かった。
「メンタ?」
もう一度聞き返すと今度は返事が返ってきた。
『……オレ、あの光景を一生忘れません。この眼に焼き付けました』
「うん。感想は後で聞いてあげるから今は戻って来て」
『はい!』
メンタと一個中隊を急いで収容し、格納庫のハンガーに固定する作業を終え、にとりはGOサインを村紗に出した。
「目標月面! 最大加速で突撃ィ~!」
「あいあいさー!」
飛空艇が月面に回頭して微速をし、次いで一気に加速した。
破壊された艦隊は甚大な被害を被っており、是碓とエヌマ・エリシュの追撃によって分断され追うに追えない状況となっていた。
その様子を月面の城から豊姫は中継を見ていた。
「はー……」
この上なくやる気無さそうに。
「豊姫様ご指示を!」
「急報! 陣形は突破されました!」
「敵艦突撃してきます!」
「くっそ! なんだあの砲撃型は!」
「あっちの近接型もだ! 月面データベースにも無い機体だぞ!」
「損害報告します!」
「馬鹿野郎! こっちが先だ!」
次々に飛び交う怒号と報告に、豊姫は席を立った。
「後、任せるわー」
「え?」
『えええええええええええええええ!?』
依姫が戻ってきた今、豊姫はもう何もしなくても良いのだ。唯一気になるのは――
「あー、そうだ。邪神の方はどうなったー?」
「現在到着し、纏わせている最中のようです」
神殿に封じられている邪神とそれを纏うことのできる依姫だ。
「ふーん……じゃ、終わったら敵艦に突っ込ませとけよ」
「……はっ!」
今までの雰囲気はどこへやら、豊姫はコーラを片手に自室へと戻っていった。
兎たちは豊姫のことを嫌悪しているがここまで人柄が変わると別人なのではないかと疑いを抱き始めていた。
――否、彼女は何一つとして変わっていない。単純に与えられた仕事をこなし終えて余裕を保っているだけなのだ。非常時になれば彼女はまた苛立ち出す。




