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エピローグ 優しい温もり

 屋敷に戻ってからも離れがたくて、触れ合ったままだった。

「本当に信じられないよ。 君が僕を見ていることが」

 言葉には二つの意味が含まっている。

「呪いは完全に解けた、っていうことかな?」

「ご心配をおかけしました」

「僕も、心配をかけた。 すまない、セシリア」

「本当です。 フレイから話を聞いたときは生きた心地がしませんでした」

「君がフレイと共に決闘に踏み込んできたときは驚いたよ」

「もうあんなことはなさらないでください」

 本当に、剣戟の音が聞こえたときは不安が現実になってしまうんじゃないかと気が気じゃなかった。

「守ろうと思ってくださったことはうれしいです、でも…」

 勝手に決めて自身の身を危険に晒すようなことは、もうしないでほしい。

「すまない…、本当に。 心配をかけたし、君の意思を無視していた。 もう、しないから」

 目を伏せて謝るイリアス様にもういいです、と伝える。

「フレイから聞きました。 私、何も知らずに…」

「聞かせたくなかったんだ。 あと、言えなかった」

 視線から逃げるように瞳を一瞬だけ下に向けた。

「好きだと言う自信と言ってもらえる自信がなかったんだ。 情けないけど」

「そんな…」

 言えなかったのはセシリアも同じなのでそれは責められない。

「私も同じです…。 ご迷惑なのではないかとか、理由をつけて言おうとしませんでしたから」

 他人にきちんと思いを伝えたのは初めてな気がする。

「イリアス様。 お願いがあるんです」

 姿勢を正してイリアス様に向き直る。

「私をウィスタリアまで連れて行ってくれませんか?」

「けれど…!」

「今のままここにいたってダメなんです。 また、あんなことがあるかもしれないですし」

 胸の痛みに耐えかねて倒れた時のことを思い出す。また同じことが起こるかもしれない。

 胸を押さえる私にイリアス様は自分の胸が痛むような顔をする。

 そんな顔をさせたくなくて、握る指先に少し力を入れる。手の感触に思いを察してイリアス様が力を抜く。

 黙っていたら、自分の想いをわかってもらうなんて叶うはずがない。

「ちゃんと説明したいんです。 私がこの国で…、イリアス様の傍で生きていきたいと思っていることを」

 これ以上関わらないで。その言葉は酷過ぎて口には出せない。

 自分の中にある醜い感情も認めた上で出した結論だった。

「今度こそ言いたい。 自分が何処で、どう生きていきたいのか」

 あの時。知られた時に言っても結果は変わらなかったと思う。

 信じてもらえるなんて、自分が信じていなかったから。

「信じてもらえなくても、はっきり言います」

 疑われても、憎まれたままでもいい。

「一緒に来てくれますか?」

 セシリアには一緒にいたい人ができて、もう、戻らない。

 自分は選んで、捨てるから。放っておいてほしいと。

 それは、行動で示すしかない。

 イリアス様をじっと見つめると当たり前だと頬を撫でられる。

「もちろん一緒に行くよ」

「ありがとうございます!」

「セシリアを伴侶に迎えたいと言いに行くのに僕が行かなくてどうするんだ」

「え」

 結婚の挨拶。言われてみたらそういうことになる。

 うれしさが胸いっぱいに広がっていく。普通の女の子みたいにそんなことをしてもらえる日が来るなんて、思わなかった。

 泣いてしまいそうで、それをこらえるためにぎゅっとイリアス様に抱きつく。

「神殿にも挨拶に行けるな。 君を育てた司教様に会えるのが楽しみだ」

「…! はいっ…!」

 司教様は少し驚いて、それからきっと、いつものように微笑んで祝福してくれる。

 クラリスは泣くかもしれない。親友が声を上げて喜ぶ姿が目に浮かぶ。

「イリアス様…、私、幸せです。 ここにいられて、イリアス様に出会えて」

 出会ったときに抱えていた絶望と悲しみはイリアス様が取り払ってくれた。

 今までに感じた幸せ全部よりも大きな幸福感に包まれている。

「それは僕の台詞だよ。 君がここに居てくれることに感謝してる。

 君が傍にいてくれることが僕の幸せだから」

 同じ想いを抱えていることがうれしくて身を寄せる。

 受け止めて支えてくれる腕。

 落とされる優しいぬくもりに瞳を閉じた。





この物語はこちらで完結となります。

つたない作品に最後までお付き合いくださりありがとうございました!

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