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ありふれた職業で世界最強  作者: 厨二好き/白米良
ありふれたアフターストーリー
180/541

ありふれたアフター 南雲家の朝 その1

たくさんの完結オメコメありがとうございました!!

これからもちまちまと妄想を垂れ流しつつ、白米は楽しんでいきますので、一緒に楽しんでいただければ嬉しいです。

「……起きて。起きて、ハジメ」


 まどろむ意識が、柔らかな声音と優しい揺さぶりによって覚醒へと向かう。目蓋の裏には薄らと明るさが映し出されていることから、既に部屋のカーテンは開けられていて、自己主張の激しい朝日が差し込んでいるのが分かった。


「……俺のことはいい。先に、いけ」

「……ネタに走ってもダメ。朝ごはんが冷める。起きて」


 蓑虫のように布団にくるまって、今にも消えそうな声で夢の世界へ旅立とうとしているのは、この家の長男――南雲ハジメだ。そして、そんなハジメに困ったような微笑みを浮かべつつ、それでも優しく起床を促しているのは、ハジメの最愛にして異世界の吸血姫――ユエである。


 ユエはベッドの傍らに腰掛けると、丸くなっているハジメの黒髪(・・)を優しく撫でた。たおやかな指先が、ハジメの髪を梳くように流れる。そして、愛しげに眼を細めると、そっとハジメの耳元へ唇を落とした。


 小さくチュッと音が鳴り、ハジメがピクッと反応する。そんなハジメの反応が嬉しいのか、ユエはますます目元を綻ばせると、今度ははむっとハジメの耳を咥える。再び、ピクッと反応するハジメ。ユエはそのままはむはむ。ハジメはピクピクッ。


 ちゅぱっと唇を離したユエは、熱い吐息をハジメの耳元に吹きかけながら口を開く。


「……起きないと……ハジメが朝ごはんになる」

「起きますとも」


 素敵なセリフだったが、階下には両親ほか、居候達も、そして娘もいるのだ。朝からどったんばったん「アッー」していては、いろんな意味で大変なことになる。ご近所さんにも「あらまぁ」とニマニマ顔で見られること請け合いだ。故に、さくっと布団を跳ね除けて起き上がるハジメ。


「おはよう、ユエ」

「……ん。おはよう」


 ぴょんぴょんと所々跳ねたハジメの髪を、ユエが甲斐甲斐しく手櫛で直す。朝っぱらから甘ったるい空気が充満する。心なし、燦々と差し込んでいた朝日が遠慮でもしたかのように淡くなったような気さえする。


 異世界トータスで旅をしていた頃には考えられない、ぼや~とした寝起き顔を晒すハジメは、自分を撫でる眼前の恋人に目を細めた。ついで、ゆったりと視線を周囲に巡らせた。


 部屋の中は、七割が本棚とそこに収納された本やゲームで埋められており、その合間にデスクとリクライニングチェア、デスクトップ型の質の良さそうなパソコン、クローゼットがあった。窓は南に面した壁に一つで、ベッドと同じ紺色のカーテンがかかっている。


(……未だに、〝懐かしい〟と感じるのは、向こうでの経験が強すぎたせいだろうな。帰ってきて一年でこれじゃあ、違和感なく生活できるのは、あと半年はかかりそうだ)


 ハジメは内心で小さな溜息を吐いた。そして、確かめるように左手をぐっぱぐっぱとする。その腕に金属の鈍い輝きはなく、見た目は(・・・・)普通の人間の腕だ。張りのある肌と、右腕と同じ僅かな日焼けの痕がある。


 更に、ハジメは自分の右目にそっと指先を這わせた。そこにトータスではトレードマークになりつつあった眼帯の感触はない。それどころか、神結晶特有の青白い輝きもなかった。見た目はやはり、普通の日本人らしい焦げ茶色の瞳だ。


「……ん? ハジメ、どうしたの? 違和感ある?」


 ユエがハジメの様子に気が付いて、鼻先が触れそうなほど近くに顔を寄せながら首を傾げる。鼻腔をくすぐる甘い香りと、どれだけ経っても油断すれば魂を持っていかれそうな紅玉の瞳に、ハジメは少々見惚れながら首を振った。


「いや、腕も目も違和感はない。ユエ達が協力してくれたおかげで、人工皮膚も、義眼も頗る快調だ。病院で精密検査でも受けない限り分からないだろう。どっちかというと、違和感がないこの状態に違和感があるのかもな」

「……? 生身の見た目に違和感がある?」

「ああ。濃すぎるくらい濃厚な経験だったからな。金属の腕も、結晶体の目も、白い髪も、もう俺だった(・・・・)。だから、元に戻ったというより、また変わったという感覚になっちまうんだよな。まぁ、現代の地球で、あんな原理不明のオートメイルや未知の結晶を使った義眼なんてばれたらやばすぎるから仕方ないんだが」


 苦笑いしながら、ハジメは右手で左腕を叩く。変成魔法を用いた人工皮膚は、見事な肌触りを再現しており、その奥に秘められた金属の義手の存在を感じさせない。


 それを成したのはティオだ。仲間内で随一の変成魔法の使い手である彼女の技に、ハジメとユエが手を加えて、スマートに作り直した義手を、見かけ感触ともに普通の腕のように偽装した。


 また、義眼は生成魔法で作り直し、髪の色は香織の再生魔法によって元の色に戻した。


 もちろん、時間干渉の領域に手を掛けている香織が本気で再生魔法を行使したのなら、おそらく、ハジメの変質した肉体そのものを復元することも可能だろう。肉体の欠損も、魔物を喰ったことによる変質も、その前の状態に戻してしまえばよいのだ。


 だが、ハジメはそれを望まなかった。本当なら、地球へ帰還する以上強靭な肉体などいらないのだが、何となく、元に戻ることは異世界での道程を軽んじる行為のような気がしたのだ。何より、長き時を生きるユエを置いて先に老衰するわけにはいかない。


 果たして寿命などあるのかすら定かでない化け物級の肉体である方が、ハジメ自身の望みに合致していたのである。ちなみに、ユエの使徒創造秘術を応用すれば、元の肉体のまま寿命の問題をある程度解決することは可能なので、香織達もこの件に関しては問題視していない。


「……ん。私的には、いろんなハジメを堪能できるから問題ない。むしろ嬉しい」


 ユエはそう言って、ハジメの左肩、右目、頭の順に軽いキスを落としていった。行動の一つ一つに、いちいち愛情が溢れるほど宿っている。


 あの日、帰還方法を確立した後、【ハルツィナ樹海】の大樹の下で、ハジメにプロポーズされた日から、ユエの愛情表現はますます磨きがかかっていた。その左手の薬指にはまった指輪が外されたところは見たことがなく、ハジメの左手薬指にはまったお揃いの指輪を見てはほわ~と幸せオーラを振りまいている。


「そういうユエはどうだ? もう、こっちの世界には慣れたか?」

「……ん。まだ、知らないこと、慣れないことは多い。本当に、別世界だから。信じられないようなものが多くて……。でも、楽しい。びっくり箱みたいで毎日が楽しい」

「そうか」

「……ん。それに、ハジメのいる場所ならどこでも幸せ。お義母様も、お義父様もすごく優しい。実の娘みたいに大切にしてくれて、とても幸せ。ハジメの世界は、どこでも幸せでいっぱい」

「そ、そうか……なんか、朝から暑いな」


 愛情のストレートパンチを食らってハジメは照れたように視線を彷徨わせる。そんなハジメの照れがわかるユエは、「んふふ」と笑みをこぼしながら猫のようにすり寄った。ハジメの手が無意識レベルで動き、ユエのゆるふわな髪を優しく撫でる。


 朝から糖分たっぷりの空気が蔓延する。ユエが長いまつげをふるふると震えさせながらそっと降ろし、薄い桃色の唇をくっと突き出す。明らかなおねだりのポーズに、ハジメはあっさりと陥落。そのまま顔を寄せていき……


「もう~、ユエお姉ちゃん! パパはまだ起きないの!?」


 バンッと勢いよく部屋の扉を開けてぷんすかしながら入ってきたのは、ぺったんこな胸をむんっと張る五歳くらいの女の子。ハジメの娘であるミュウだ。ただし、エメラルドグリーンの髪はエメラルドブロンドに、海人族特有の扇状の耳は、小さく可愛らしい人間のものに変わっている。


 原因は、ミュウが首から下げている指輪型のアーティファクトによる幻術だ。驚いたことに、感触まで再現できる優れものなので、仮にミュウの耳を触ってもヒレの感触はせず、人の耳と同じ感触が返ってくる。なので、見た目は完全に、ブロンド髪の美幼女だ。


 そのミュウは、勢いよく部屋に入った途端飛び込んできた毎朝お馴染みの光景に「あ~~!」と指を差して抗議の声を上げる。


「もうっ、ユエお姉ちゃん! いつも言ってるでしょ! 朝からパパをおそっちゃメッって! どうして、おやくそくを守れないの!」

「……ぅ。そ、それはハジメが……」

「ひとのせいにしちゃメッ!」

「……ぁぅ。ごめんなさい」


 ユエの鼻先に小さな人差し指をピッと差し向け「メッ」をするミュウに、ユエはお姉さんの立場もなく悄然と項垂れる。


 地球に引っ越して約一年。最近、成長著しいミュウは随分としっかりとしてきた。ハジメが絡むと、割と空気を読まないダメキャラ化することの多いユエ達お姉ちゃんズを、今のようにメッして諌めるのだ。


 実は、こちらの世界に早く慣れることと、情操教育上好ましいだろうということで、二か月ほど前から保育園に通っているのだが、そこで、どうやら〝お姉さん〟に目覚めたらしい。


 年齢的に年長組というのもあるが、ミュウはただの幼児というにはあまりに濃い経験を積んでいる。誘拐され、オークションにかけられ、砂漠を越える旅をして、魔王城での修羅場を潜り抜け、神話決戦にも参戦した。そんなミュウからすれば、日本という平和な国で生まれた同年代の子供達は、やはり随分と幼く見えたのだろう。


 自分がしっかりしなければ! と、自分の周りのとんでもないお姉ちゃんズや慈愛に満ちた母親を真似つつ、他の園児達の世話を焼いて……気が付けば、誰からも信頼と好意を寄せられる園児達のリーダーとなっていた。


 ただ、園児達をまとめるときに「しょくん! ミュウの友達しょくん!」と呼びかけたり、ぐずる子相手に「今こそ、たましいをもやすときなの!」と励ましたり、不安そうな子がいれば不敵な笑みを見せたりと、ちょっと園児らしくない言動が目立つと保育士の先生から報告があがったりするのだが……その連絡を受けたときのハジメはリアルに床を転げ回ったとだけ言っておこう。


「悪かったよ、ミュウ。ほら、もう起きるから」


 他の嫁~ズに対しては、絶対的な正妻の貫録を持つユエが、ミュウに叱られてマジ凹みしているのを尻目に、ハジメが布団から這い出る。ミュウは、その言葉を受けて頷くと、ハジメに向かって両手を伸ばした。


「ミュウ? その手はなんだ?」

「パパ、抱っこしてほしいの」


 さっきまでユエを叱っていたくせに、直後、甘えん坊を発揮するミュウ。ユエがハッとした様子でミュウに視線を向ける。その眼が、明らかに「私が甘えたときは叱ったのに……」と少々大人げない不満を語っていた。


 それに対し、ミュウは、


「ママが、『ユエさんが引いたら、すかさず甘えなさい(攻めなさい)』って言ってたの」

「……ちょっとレミアとOHANASHIしてくる」


 ユエはぽわりと淡い金色の光を纏い、直後大人モードになった。そして、幼子に女の戦いの戦略を教えている母親に一言物申すために、静かに、されど迅速に部屋を出ていった。


 そして、あとに残されたハジメは、抱っこしてポーズを取り続けるミュウに戦慄の眼差しを向ける。この目の前の幼女は、着実に周囲の年長者達の教えをものにしていっている。これから先、一癖も二癖もある彼女達の教えを受けた愛娘がどんな成長を見せるのか……


「パパ、抱っこなの」

「……あいよ」


 にこにこと微笑みながら、可愛い要求をするミュウを、ハジメは少し引き攣った表情で抱っこし、階下から聞こえる喧騒を聞きながら部屋を出るのだった。



 ミュウを片腕に抱いて一階のリビングに入ったハジメは、ユエがミュウの実母であるレミアにたらたらと文句を垂れている光景を目にした。それに対し、ミュウと同じくエメラルドブロンドの髪と人の耳を晒すレミアは、いつもの「あらあら、うふふ」スマイルでひらりひらりとかわしている――ように見えて、ほんのり頬を染めていた。


 大人モードのユエが相手だと、さすがのほんわり未亡人も分が悪いらしい。同性だというのに、未だ、至近からジッと見つめられると何とも落ち着かない気分になるようだ。恐るべきはアダルティユエ様。


「あ、やっと起きてきましたね、ハジメさん」

「ふむ、やはりユエを起こす係にするのはダメかもしれんのぅ」


 朝食の準備を手伝うシアが呆れ顔でそんなことを言いつつ朝の挨拶をし、リビングのソファーで朝のニュースを見ていたティオが振り返りながら同じく挨拶をした。


 ティオの姿に変化はないが、シアは自慢のウサミミがミュウやレミアと同じアーティファクトにより隠されている。今は、淡青白色のストレートの髪を首元で緩くシュシュでまとめて前に垂らしている。


「あら、シアちゃんもティオちゃんも、そんなこと言って、自分がハジメを起こしにいくとなったらダイブしちゃうんじゃない?」

「当然です、義母かぁさま」

「無論じゃ、義母上殿ははうえどのよ」


 台所から朝食を運んで……というわけではなく、たった今起きて来たところですと言いたげに洗面所から現れたのは、ハジメの母親である南雲なぐもすみれだ。菫は人気少女漫画家なので、夜遅くまで作業場にいることが多く、朝にはめっぽう弱い。そのため、南雲家には普段から朝食をしっかりと取るという習慣がないのだが……


 そこは、トータスでも料理担当だったシアと同じ子の母であるレミアがいる。ハジメが異世界からユエ達を連れ帰り、彼女達が居候となった日からそう遠くないうちに、朝食時の台所は二人が預かることになったのだ。


「みんな、おはよう。いやぁ、朝から華やかでいいな。一年経っても、俺の心は躍っているぞ。息子めっ、偉大な男になって帰ってきやがって! 本当にありがとうございますっ」

「朝から元気いっぱいだな、父さん。そして、ユエ達を見てニヤニヤしないでくれ。ぶっ飛ばすぞ……母さんが」


 俺は今、猛烈に感動している! という態度を一年前から取り続けている背の高い短髪の中年は、南雲家の大黒柱にして、ゲーム会社を運営する社長でもある南雲なぐもしゅうだ。


 生粋のオタクである彼は、まるで二次元からそのまま飛び出してきたようなユエ達に、日々感動しているらしい。そこにはおそらく、美少女・美女達から「お義父様」なんて呼ばれていることも大いに関係しているに違いない。


 愁が義理の娘達に囲まれて上機嫌に笑い、菫がぼへっとし、ハジメがミュウの髪型をセットしてあげている間に、ダイニングテーブルに朝食が並んだ。


 ちなみに、愁と菫の稼ぎはサラリーマンの平均年収を大幅に上回っているので、南雲家はそれなりに大きい。なので、一気に増えた家族が一堂に介しても、そこまで窮屈は感じない。


 もっとも、どうせならと家の増改築が現在進行形で進められており、もう数ヶ月もすれば、ご近所さんも注目する立派な二世帯住宅が完成するだろう。


 なお、ユエ達の住民登録など行政関係については、ハジメが役所にスネークして偽造書類を完備した。念を入れて、役所の職員にユエが魂魄魔法で暗示までかけたので問題はないだろう。そろえるべき書類やパスポートなどの身分証明書の類は数が多いので骨が折れたが、少なくとも日本においてユエ達が存在することの不自然さは発覚しないはずだ。


 仮にばれても、その都度、魂魄魔法で処理すればいいし、ゆくゆくは国外の行政にもユエ達の出生履歴など存在の証拠を残していくつもりだ。世界の行政官達に、神代魔法で対抗するのだ!


「うん、シアちゃん。レミアちゃん、今日も美味しいわ。朝から胃にものを入れるなんて、それなんて拷問? とか思っていたけど……これならいくらでも食べられそう」

「同感だな。ハジメ、父さんは嬉しい。息子が立派なチーレム野郎になって帰ってきてくれて。もう、お前に教えることはなにもないよ」

「父さん、褒められているのか、貶されているのかよくわからないんだが? というか、チーレム野郎になるための教えなんて受けたことねぇよ」


 菫がシアとレミアにやたらと大仰な仕草で褒めて遣わし、愁がハジメへ恩着せがましい態度で言葉を贈れば、ハジメは呆れた様子で返答する。それに対し、愁は「まったく、やれやれだぜ」と言いたげなイラッとくる雰囲気で口を開く。


「何を言うんだ。物心ついた頃から、お前にはオタク魂を叩き込んでやっただろう? それはつまり、お前にチーレム魂を叩き込んでいたということでもあるわけだ。異世界でお前がチーレムできたのは、まさにそこに大きな要因がある。どうだ? お父様のありがたみをひしひしと感じないか?」

「俺の異世界体験談は話したと思うが、そのどこにオタク魂が役に立ったと――」


 愁と菫には、異世界でハジメが体験した全てを話している。いくら見た目を極力戻しても、腕と目が偽物であることも、目つきが鋭くなっていることも、なにより纏う雰囲気が昔とはかけ離れていることは誤魔化しようがなかったし、ハジメ自身、両親には嘘偽りも、誤魔化しもしたくはなかったのだ。


 つまり、息子の奈落から続く一連の壮絶な体験も知っているはずで、にもかかわらずそこにオタク知識のあれこれが役に立っただろうという発言は、ちょっと納得いかないところ。


 なので、普通に反論したハジメだったが、途端、愁と菫が盛大にニヤつきながらその言葉を遮った。


「『諸君っ、戦士諸君っ』」

「っ」

「『今この時こそ、魂を燃やすときだっ』」

「!!」

「『邪魔するってんなら、ぶち殺す』」

「!?」

「『俺がユエを、ユエが俺を守る。それで俺達は――』」

「もうわかったっ! お父様、どうもありがとうございますっ! だから、やめれっ」


 悲鳴じみた制止の声を上げて身悶えるハジメ。そんな羞恥に堪える息子へ、母父は容赦なく追撃をかける。


「おいおい、どうしたんだハジメ? なにを恥ずかしがってるんだ? 格好良かったじゃないか。なかなか、リアルであんなセリフは言えないぞ? 父さん、ティオさんが見せてくれた映像記録で、心を奮わせられたよ。いや、本当に素晴らしいちゅう――ゴホンッ。漢だったぞ?」

「ええ、全く。相手の女の子どころか、その親にまで『俺の女だ』なんて、どこの乙女ゲー攻略キャラかと思ったわ。本当に……」


箸を握りしめながらぷるぷると震えているハジメを尻目に、愁と菫は絶妙な間を空けて見事にハモリながら言った。


「「ハジメさん、マジパねっす。本当に、ありがとうございますっ!」」

「やかましいわっ。いい加減、そのネタでいじるのは止めてくれっ」


 完璧なタイミングで、完璧にシンクロしながら、がばりっと頭を下げる愁と菫に、ハジメは顔を真っ赤にしながら怒声を上げた。


 ハジメの話だけでなく、ティオがハジメに内緒で、各想い出の場所で再生魔法を使い残した映像記録――奈落での出来事はもちろんのこと、ハジメがシアを受け入れたときや、ティオの祖父であるアドゥルに啖呵を切ったとき、あるいは魔王城でのクラスメイトに行った演説など――を見せられて以来、愁と菫はことあるごとに、「さすが、息子っ!」と称賛交り、揶揄まじりにいじってくるのである。


 ギンッと眦を吊り上げて元凶たるティオに八つ当たりのプレッシャーをかけるハジメ。ティオが味噌汁を啜っている途中でゴフッとむせた。鼻から味噌汁を垂らしながら、ハァハァと息を荒らげている。


「さ、さすがは、ハジメさんのご両親です。最近、ようやく慣れてきましたけど、やっぱり翻弄されるハジメさんの姿は、違和感が半端ないです」

「……ん。でも、いじられるハジメも……いい」

「あらあら、ユエさんたら。最近、ハジメさんならなんでもいい感じですね。ふふ、ミュウも頑張らないと。それとティオさん、お食事の席ですよ? 鼻水垂らしながらハァハァしてないで、ちゃんと食べてください。割と〝放送禁止〟の顔になっていますよ?」


 ハジメと両親とのやり取りに、シアは苦笑いし、ユエは何故か頬を染め、ティオはハァハァし、レミアは微笑ましそうにあらあらうふふしている。ここ最近の、南雲家の日常だ。


 いい加減、ハジメがぷっつんきそうなところで、愁と菫はあっさり引き下がり何事もなかったように朝食に集中し出す。怒りのやり場を失いぷるぷると震えるハジメを、ユエ達がこぞって慰めた。


 美女・美少女達に囲まれて世話を焼かれる息子を横目に、愁と菫は顔を見合わせて目元を綻ばせる。


「それにしても、ハジメが突然帰ってきて、しかもユエちゃん達を紹介してきたときは、本当にびっくりしたなぁ」

「そうね。まさか本当に異世界でチーレムして帰ってくるなんて、思いもしなかったものね」


 小さく呟くように言葉をかわしながら、二人はハジメが帰ってきたときのことを想い出した。




ここよりアフターストーリーとなります。

書籍版に準じた話なども出て来ますが、その場合はあとがきに解説を書くようにしますので、諸々ご容赦いただければと!

これからも『ありふれた』をよろしくお願い致します!


※一応、書籍版の一覧がある公式サイトのURLを載せておきます。参考までに。お手に取っていただけたら感無量です!

https://arifureta.com/book/




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― 新着の感想 ―
ごめん、やっぱり作者は天才なのでは?? やはり需要をわかっている、、、
こっからが本編ですよみなさ~ん
うわーい!アフターストーリーじゃあ! まだミュウちゃんの引き寄せ能力がわからないから後々わかるのかな?
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