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第一債権者の召喚と法廷に響く十六村の証言

 王都全域に、召喚令が響き渡っていた。


> 「ユウマ・カガミを国家契約違反および広域債務崩壊の首謀者として召喚する」


 鐘の音が止んでも、人々のざわめきは収まらなかった。


 通りの掲示板には、悠真の顔と名前が刻まれた布告が貼り出されている。


> 《第一債権者ユウマ・カガミ》

> 広域債権統合制度を破壊し、王都および周辺地域に甚大な損害を与えた者。

> 三時間以内に王都中央法廷へ出頭せよ。


 ガルドが布告を引き剥がし、地面へ叩きつけた。


「何が第一債権者だ。勝手に借金を押しつけやがって」


「でも、召喚令そのものを無視することはできない」


 ザックが冷静に言った。


「国家法廷への出廷拒否は、共同証拠網にも影響します。僕たちが逃げたと判断されれば、証言の正当性を疑われる可能性がある」


 トビが不安そうに悠真を見上げた。


「悠真さん、本当に法廷へ行くんですか?」


「行く」


 悠真は即答した。


「相手は、僕を制度崩壊の犯人に仕立てたい。なら、法廷で記録を開示させる」


 セラが黒い原簿の複製を抱えながら、険しい表情を浮かべた。


「王都法廷は財務局の影響下にあります。正式な裁判になる前に、あなたを拘束して記録を消去する可能性もある」


「だから、僕一人では行かない」


 悠真は周囲を見渡した。


 地下保管庫には、ラッカ村から来た仲間たちだけでなく、環状連盟の証人たちも集まっていた。


 共同証拠網を通じて、十六村の代表者たちが法廷への同行を申し出ている。


> 「ラッカ村、代表三名が出廷する」

>

> 「エンザ村、村長本人が証言する」

>

> 「トルナ村、返済記録の原本を提出する」

>

> 「カシュ村、土地担保化の経緯を証言する」


 それぞれの声が、地下保管庫に響いた。


 悠真は胸の奥が熱くなるのを感じた。


 十二年前、自分は一人で制度を背負おうとした。


 そして失敗した。


 今度は違う。


「法廷を、共同証言の場に変える」


 悠真はそう宣言した。


「相手が僕一人を裁くつもりなら、十六村すべての記録を証人として呼び出す」


 そのとき、保管庫の入口から靴音が響いた。


 黒い外套の男が、部下を連れて歩み寄ってくる。


「感動的な連帯だな」


 男は悠真へ視線を向けた。


「だが、法廷は劇場ではない。召喚された者は一人で出廷するのが原則だ」


 ガルドが剣に手をかける。


「お前は何者だ」


「王都特別契約執行局、執行官ノア・ヴェルン」


 男は胸元の逆さの裂けた輪を示した。


「環状連盟の分派、《断環会》に所属している」


 イリナの顔から血の気が引いた。


「断環会……。連盟から追放された過激派です」


「過激派とは心外だな」


 ノアは薄く笑う。


「環状連盟が記録の分散を唱える一方、我々は契約を完全に破棄する。国家も商会も村も、すべての債務関係を消滅させる」


 セラが睨みつけた。


「それでは、返済を待っている人々の権利まで消えてしまう」


「権利?」


 ノアは肩をすくめる。


「債務が存在するから、支配が生まれる。ならば、すべてを焼却すればいい」


「それは解放ではない」


 悠真が答えた。


「記録を消せば、被害の証拠も、返済した人々の権利も、すべて失われる」


「だから君を利用する」


 ノアは一枚の召喚状を取り出した。


「君は第一債権者として、制度崩壊の責任を負う。法廷で有罪になれば、国家はすべての債権を無効化し、損害を君一人へ転嫁できる」


「そんなことが可能なのか?」


 ザックが尋ねる。


「可能にするための法廷だ」


 ノアは答えた。


「グラウゼ総監はすでに、王都高等契約院の裁判官全員へ非常令を発令している。判決は、君を中心に制度を再構築する形になるだろう」


 悠真の視界に、警告表示が浮かんだ。


```text

法廷構造を解析しました。


裁判官:財務局推薦者 7名

検察官:王都財務局直属

弁護人:未登録

証拠採用権:裁判長に集中


予測:

通常手続きでは、被告側証拠の大部分が却下されます。

```


 トビが唇を噛む。


「最初から、裁判じゃない……」


「違う」


 悠真は召喚状を受け取った。


「裁判にする」


 セラが目を見開く。


「どうやって?」


「法廷の手続きそのものを、原初契約と照合する」


 悠真は召喚状の裏面を見た。


 そこには、王都法廷の紋章とともに、古い契約番号が刻まれている。


```text

王都高等契約院設立規約

契約番号:001

証人参加権:共同体の代表者に認める

裁判記録:改ざん禁止

契約関係者:すべての当事者に開示義務

```


「法廷にも、原初契約がある」


 悠真は召喚状を掲げた。


「財務局は、この条文を消し忘れている」


 ザックが急いで複製記録を照合する。


「本当です。設立規約の原本と一致しています」


 イリナが微笑んだ。


「つまり、十六村の代表者は傍聴人ではなく、契約上の当事者として出廷できる」


「そして、裁判記録は改ざんできない」


 セラが続ける。


「記録を改ざんすれば、法廷そのものが原初契約違反になる」


 ガルドが笑った。


「なら、向こうの土俵に見えて、実はこっちにも足場があるわけだ」


 ノアは黙っていた。


 やがて、彼は小さく息を吐く。


「面白い。だが、法廷まで辿り着ければの話だ」


 その瞬間、地上から轟音が響いた。


 保管庫の天井から、細かな砂埃が落ちてくる。


 共同証拠網に新たな警告が表示された。


```text

王都中央区画にて同時襲撃を検知。


対象:

・ヴォルタ商館記録所

・王都公文書院

・共同証拠網の中継塔


実行部隊:

・白鷺局

・財務局直属兵

・所属不明の断環会過激派

```


 ザックが叫ぶ。


「中継塔が襲われています! このままでは、村々との接続が切られる!」


 ノアは悠真を見つめた。


「法廷へ来るか、仲間を守るか。選べ、第一債権者」


 一瞬、空気が凍りついた。


 悠真は地図を広げた。


 法廷へ向かうには、中央区画を通らなければならない。


 中継塔を守れば、出廷時刻に間に合わない。


 どちらを選んでも、相手の思惑に乗ることになる。


 トビが震える声で言った。


「悠真さん……僕が中継塔へ行きます」


「駄目だ」


「でも、僕は記録を覚えられます。塔が壊されても、鍵と接続順を覚えていれば復旧できます」


 トビは胸を張った。


「僕はもう、危機を伝えるだけの子どもじゃありません。証言者です」


 悠真は、トビの目を見た。


 そこには恐怖があった。


 それでも、逃げない意思があった。


「ガルド、トビと一緒に中継塔へ」


「任せろ」


「ザックはヴォルタ商館の記録所を守ってください。セラとイリナは公文書院へ。そこに法廷規約の原本があるはずです」


 全員が頷いた。


「僕は法廷へ向かう」


 悠真はノアを見た。


「ただし、一人ではない。十六村の代表と、共同証拠網の全記録を連れていく」


 ノアは笑わなかった。


「ならば、法廷で会おう」


 彼が立ち去ると、セラが悠真の腕を掴んだ。


「気をつけて。グラウゼは、あなたを殺すよりも、生きたまま責任者に仕立てるつもりです」


「分かっています」


「それでも行くのですね」


「僕はもう、制度の中心には立たない」


 悠真は召喚状を握りしめた。


「でも、制度を奪った者の前から逃げるつもりもない」


 地下保管庫から地上へ出ると、王都の空は黒煙に覆われていた。


 遠くで鐘が鳴っている。


 法廷への出廷時刻まで、残り一時間。


 悠真の前には、武装した財務局兵が道を塞いでいた。


「第一債権者ユウマ・カガミ」


 隊長が槍を向ける。


「召喚に従い、武器を捨てろ」


 悠真は周囲を見渡した。


 建物の壁には、すでに原初契約の光文字が浮かんでいる。


 街角では、市民たちがその内容を読み上げていた。


> 「いかなる債務も、生存権を超えてはならない」


 兵士の中にも、槍を下げる者がいる。


 悠真は一歩前へ出た。


「僕は出廷する」


 そして、光文字を指差す。


「ただし、召喚状に書かれたとおりの被告としてではない」


「何だと?」


「原初契約に基づく、すべての当事者の代表として出廷する」


 共同証拠網が起動した。


 ラッカ村。


 エンザ村。


 トルナ村。


 カシュ村。


 十六村の代表者たちの署名が、王都の空に浮かび上がる。


```text

共同出廷者登録を開始。


登録人数:128名

契約当事者:16村

証拠記録:4,821件

改ざん照合:継続中

```


 兵士たちの間に動揺が広がった。


 隊長が怒鳴る。


「そんな登録は認められん!」


「認めるかどうかを決めるのは、あなたではない」


 悠真は法廷の方角を見た。


「裁判官です。そして、原初契約です」


 そのとき、共同証拠網からトビの声が届いた。


> 「悠真さん! 中継塔、接続を維持しています!」


 続いて、ザックの声。


> 「ヴォルタ商館の記録も確保しました!」


 そして、セラから。


> 「公文書院で法廷規約の原本を発見。財務局が削除した条文も復元できます!」


 悠真は小さく笑った。


 仲間たちは、それぞれの場所で戦っている。


 自分だけが法廷へ行くのではない。


 十六村と、百二十八人の証人が、すでに法廷の外側から立ち上がっている。


「道を開けてください」


 悠真が言った。


「国家が隠した契約を、国家の法廷で読み上げる時間です」


 その言葉に、群衆の中から声が上がった。


「通せ!」


「証言を聞かせろ!」


「財務局の記録を開示しろ!」


 やがて、兵士たちの列が揺らぎ始める。


 数名の兵士が槍を下ろした。


 その向こうに、王都中央法廷の尖塔が見えていた。


 悠真は歩き出した。


 法廷の扉が、ゆっくりと開かれる。


 中では、財務総監アルベルト・グラウゼが裁判長席の隣に立っていた。


 白い髪。


 冷たい瞳。


 そして、十二年前の記録に残っていた署名と同じ印章。


「ようやく来たか、悠真」


 グラウゼは静かに告げた。


「お前が自分で作った制度の罪を、今こそ認めてもらおう」


 悠真は法廷中央へ進み、召喚状を机の上に置いた。


「認めます」


 グラウゼの口元に、勝利の笑みが浮かぶ。


 しかし、悠真は続けた。


「十二年前、僕が制度を設計したことは認める」


 彼は背後を振り返った。


 法廷の入口には、十六村の代表者たちが立っている。


「でも、制度を改ざんし、債務を恒久化し、村々の土地を奪ったのは僕ではない」


 悠真はグラウゼを見据えた。


「その責任を、あなたに問うために来ました」


 法廷内に、共同証拠網の光が走る。


```text

公開審問を開始します。


第一議題:

《原初契約と、広域債権統合番号の正当性》


出席証人:

128名


次の証言者を選択してください。

```


 悠真は、最初の証人として一人の名を選んだ。


「エンザ村、トビ・エルン」


 法廷中の視線が、十二歳の少年へ集まった。


 トビは一度だけ息を吸い、証言台へ歩み出る。


「僕は、十二年前から改ざんされた記録を覚えています」


 その声は小さかった。


 だが、共同証拠網を通じて、王都全域へ届いた。


「そして今から、本当の記録を読み上げます」


 グラウゼの表情から、初めて笑みが消えた。

名前:セラ・エルディア

年齢:34歳

種族:人族

職業:《原初契約保管庫》守護者・契約記録官

レベル:31

体力:C+

筋力:D

敏捷:B

魔力:A-

知力:A+

交渉力:B+

商才:C

戦闘力:B

固有スキル:《原本照合》

称号:《十二年目の最後の立会人》

所持金:金貨18枚、銀貨42枚


名前:ノア・ヴェルン

年齢:39歳

種族:人族

職業:王都特別契約執行局・執行官/《断環会》幹部

レベル:42

体力:A-

筋力:B+

敏捷:B

魔力:B

知力:A-

交渉力:A

商才:D

戦闘力:A-

固有スキル:《契約断絶》

称号:《裂けた輪の執行者》

所持金:金貨27枚、銀貨16枚


名前:アルベルト・グラウゼ

年齢:58歳

種族:人族

職業:王都財務総監・広域債権統合制度管理者

レベル:47

体力:D+

筋力:E

敏捷:D

魔力:A

知力:S

交渉力:A+

商才:A+

戦闘力:C+

固有スキル:《債権統合》

称号:《王都の帳簿王》

所持金:金貨1,842枚、銀貨63枚


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