第15話 自分の将来は自分で決めます! 王子、邪魔!
「すみません、私が調子に乗ったばかりに」
「気にしなくていいですよ。あれは私に丸投げした学園長が悪いんです」
フェイリアは自分の責任だと思ったようで、学園長室から出た後、深く頭を下げてきた。
実際には私に丸投げしてきた無責任な学園長を追い詰めるために、あえて不正を認めたにすぎない。シャルルに責任転嫁をしようとしたのを阻止したのも同じ理由だった。
「もしかしたら、ベテラン教師に責任転嫁するかもしれませんけど、あれを庇う気にはなれないからなぁ」
「私も彼には散々貶されてまいりましたから、弁護する気にはなれませんわ」
「そのついでに、私やフェイリアの能力のうやむやにできたのは良かったかもしれない。偉い人に目を付けられると面倒なことにしかならないからね」
「面倒なこと、といいますのは?」
「偉い人に目を付けられると、ウザいくらい囲い込もうとしてくるからね」
フェイリアも目にしたことがあるらしく、苦笑していた。しかし、すぐに真剣な表情に変わる。
「貴族にとって、他人は道具みたいなものですから。私も父にとっては道具のようなもの。ですが――」
うつむいて下唇を噛み、胸の前で右の拳を握り締める。顔を上げ、まっすぐ私の目を見て、ゆっくりと口を開いた。
「ルミナさんは、国外の出身なのですよね?」
「そうね。出身というか、この国の人間になったつもりはないけど――あっ!」
この国の人間でないと言った途端、フェイリアの顔色が変わって、自分のミスに気付いた。学園は国内貴族の紹介制――原則としてデニール王国の人間となる。
「気にしなくてもかまいませんわ。薄々気づいておりましたもの」
「もしかして、バレバレだった?」
「いえ、私のようにたくさんの会話を交わさないと気付かないでしょう。会話の端々に、この国とは違う常識が垣間見えることがありましたので」
「そっかぁ。できたら秘密にして欲しいんだけど……」
上目づかいでフェイリアを見ると、おかしそうにクスッと笑った。
「もちろん、構いませんわ。もともと誰かに言うつもりもありませんでしたし。それよりも――ルミナさんは別の国の方なのですよね?」
「そうですね。今は隣のサイゼール王国に籍を置いてますね」
「ふふっ、あの国を隣って……珍しい考え方ですわね。それで……帰られる際、私も一緒に連れていってもらえないでしょうか?」
「えっと、それって平気なの?」
学園ではひどい扱いをされているとはいえ、公爵令嬢である。簡単に出奔は難しいだろう。
「もちろん、お父様に相談いたします。ですが、お父様も学園での私の扱いには思うところがあるようで、許してくださる可能性は高いと踏んでおりますわ。そうなのですが――」
闇の申し子の話は公爵なら当然知っているだろう。それがフェイリアにも当てはまることも。外から便宜をはかるにしても限度があるに違いない。
「できれば、ルミナさんにも同席してもらいたくて」
「私が?」
「ええ、私だけが話すよりも説得力を持たせられるでしょう? 是非ともお願いしたいのですが」
「それは構いませんが、いいのですか? 状況が悪くなるかもしれませんよ」
私が学園に来た理由は素晴らしいと言われている魔法の授業を受けてみたかったから。そのついでに聖女を手に入れて来いとアレクシスに言われてはいるが、あくまで努力目標。
もっとも授業は何の役にも立たなかったから、せめて聖女くらいはと考えていた私にとっては渡りに船だった。
聖女シャーリーがいる、と言われるかもしれない。だけど、あんなのを連れていくくらいなら、フェイリアを聖女だと言い張って連れていく方が遥かにマシ――いや、比べるのもおこがましい。
「大丈夫ですわ。私の両親はどちらかというとルミナさんみたいな人ですから」
こうして、公爵家の晩餐に出ることになってしまった私は、ひどく後悔することになる。
「はっはっは、おぬしが学園を荒らしている最強の転校生か。よろしい、まずは手合わせをお願いする」
出会って5秒でバトルなんて展開は聞いていない。この人のどこに私の要素があるのかさっぱりである。どういうことかと目で訴えながらフェイリアを見ると、困ったように苦笑していた。
「父がすみません。なにしろルミナさんと同じで、戦うのが三度の飯より大好きなんですよ。ああ見えて、若い頃は武神と呼ばれてたほどで――」
「ちょ、ちょっと待って!」
あまりに多すぎるツッコミどころに、ツッコミが大渋滞どころか、玉突き事故を起こして通行度止めになっていた。
「父がああなったら、誰も止められませんの。ルミナさん、あとはよろしくお願いしますね」
「あ、ちょっ、フェイ――」
フェイリアを引き留めようとしたら肩を掴まれた。
「食事の準備は任せて、我々は食事の前の軽い運動でもしておこうではないか!」
「軽い……運動……?」
こうして、軽い運動という名の地獄の手合わせに散々付き合わされることとなった。
単純な身体能力はもちろんのこと、身体強化を全開で使っても動きは互角。魔石を魔力崩壊させても、逃げるどころか反応している魔石を握り潰して強引に止める始末。小石を撃っても右手の親指と人差し指で事も無げに摘み取ってしまう。
一方、公爵の一撃は重く、防御ごと刈り取るくらいの勢い。それに加えてスピードも互角に付いてくる。隙もほとんどなく、ひたすら回避しながら、わずかな隙を突いて反撃する程度――。
「はっはっは。久しぶりにいい汗かいたわ!」
ご満悦の公爵とは対照的に、ルミナはダイニングのテーブルにぐったりと倒れていた。どう見ても行儀が悪いのだが、それを指摘する者は誰もいない。それが逆に、この家での平常運転であることを物語っていた。
「る、ルミナさん。大丈夫ですか?!」
「あ、ああ。フェイリアさん、何とか大丈夫です」
フェイリアと続いて公爵夫人がダイニングに入ってくる。フェイリアはぐったりとしている私に駆け寄ってきて具合を尋ね、奥さんは目を吊り上げて公爵に食ってかかっていた。
「ちょっと、あなた。お客さんになんてことを……そんなことばかりやっているから破壊神なんて言われるんですからね!」
「おいおい、ちょっと遊んでただけだ。ほら、壊れてないだろ?」
「えっ、武神じゃないんですか?」
私の問いかけに公爵が大きな声で笑い出した。夫人も顔を背けて笑い声を押し殺していた。
「そりゃ、昔の話だ」
「そうそう、引退してからは部下をしごいては心を破壊するって、破壊神とか呼ばれているんですよ」
「はっはっは。アイツらは軟弱すぎるんだ。少しはこの子を見習えよ」
「ごめんなさい。ルミナさんも戦うのが好きだと思ってたから、父と気が合うと思ったんです」
別に戦うのが好きなわけじゃない。勝ってはいるけど、毎回毎回、戦いに巻き込まれて迷惑しているくらいだ。こんな戦闘民族と一緒にしないでほしい。
「悪かったっての。だが、お嬢ちゃんがフェイリアに魔法を教えたってなら、間違いないと信じるぜ」
「そ、それじゃあ。あの話も――」
「俺としては諸手を挙げて賛成したいところなんだが――婚約の方を何とかしないと厳しいだろうな」
公爵との話は予想以上にスムーズに終わった。しかし、ここで王太子との婚約が障害になるとは、さすがに予想外だった。




