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大宮ふとん店、本日もたぶん営業中  作者: スパイク


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大宮ふとん店 通販地獄──祖母の“神サイン”が全国を震撼させた日

埼玉県上尾市の外れ。

今日も大宮ふとん店では、

“通販”という言葉とは相容れないほど手際が悪い発送作業が

とぼとぼと続いていた。


黒電話(ほぼ瀕死)とFAX(紙切れ常習犯)。

封筒は昭和。

切手は記念切手の余り。

住所は丁目がない。


それでも全国から注文が来るのだから、

人間とはわからないものだ。



ポストの横にあった古い注文用紙の山。

誰かが放置していたらしい。

いや、大宮ふとん店なので、誰でもあり得る。


祖母はその束の中からひょいと一枚を取り出し、声を上げた。


「……あら、麗奈のサイン入りを10枚って書いてあるよ」


「え?サイン入りなんて受け付けてたっけ?」


父(競輪新聞を読みながら)

「知らんねぇ……俺じゃないよ。多分麗奈が勝手に言ったんじゃないの」



しかし麗奈は今、戦隊ヒロインの任務で一週間ほど不在なのだ。



「これ……どうする?お客さん待ってるよね?」


祖母

「そうだねぇ……じゃあ私が書くか」


父母

「書くんかい!!!」


とはいえ“祖母がサインを書く”以外に方法はなかった。

麗奈は任務中なので連絡が取れない。


おばあちゃんは筆ペンを取り出し、

ふすまの上で練習し始めた。


「れ・い・な……っと。

ほら、上手に書けるよ」


いや、上手に書けなくても問題だが、

上手に書けても問題である。


そして怒涛の勢いで10枚の枕カバーにサインを書いた。

しかし、勢いに乗りすぎたのか、

1枚だけ違う文字を書いてしまった。


「……はつゑ」(旧字)


そう、おばあちゃんは

自分の名前を書いてしまったのだ。



数日後。


SNSにこんな投稿が上がった。


「え!?麗奈ちゃん枕カバー買ったら

サインが“大宮はつゑ”だったんだが???」


「おばあちゃんの神サインwww」


「この味は唯一無二。むしろレアもの!」


「はつゑさん推しになりました」


瞬く間にバズり、

“はつゑサイン入り”は一気にプレミア化した。



任務から戻った麗奈は、

黒電話の代わりに鳴り響くFAXに囲まれて帰宅した。


麗奈

「おばあちゃん!!なんで私のサイン頼まれたのに

おばあちゃんの名前書いてるの!!」


おばあちゃん

「え?だって急いでたし。

間違えただけだよ?」


麗奈

「“だけ”で済まないって!!」


祖母

「みんな喜んでたよ?

“はつゑさんの字かわいい”ってね」


麗奈

「どこ情報!?」


そこへ、

何故かいつも巻き込まれる男——

ベーカリー中村の修さん(52)が

フランスパンの箱を抱えて登場。


修さん

「おいおい麗奈ちゃん……

今バズってるの、あんたのおばあちゃんだよ?

俺の店にも“はつゑさんサイン入りあります?”って

問い合わせ来てるんだから」


麗奈

「なんでパン屋に???」


修さん

「知らん。

でもお客さん、みんな楽しそうだから……

まぁいいんじゃない?」


おばあちゃん

「ほらねぇ、修ちゃんもそう言ってるよ」


麗奈

「いや、修さんは被害者側なんだけど!!」


修さん

「確かに俺も巻き込まれてるけど……

まぁ、商店街盛り上がってるし……

いいじゃん?」


麗奈

「納得いかない!!」


だが、

はつえさんはすでに次の10枚目のサイン練習をしていた。


筆ペンで

「れいな」

「れいな」

「はつえ」

「はつゑ」(旧字)


麗奈

「やめてぇぇぇ!!」



こうして

“麗奈サイン入り枕カバー(ほぼ祖母の自筆)”は

全国で人気を博し、

特に“はつゑ本人サイン入り”は

なぜか極めて高額で取引されるようになった。


祖母

「今度は旧仮名遣いで書いてみようかな。

“れゐな”とかねぇ」


麗奈

「本当にやめて!!!」


——今日も大宮ふとん店は、カオスを更新し続けている。

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