黒電話よ、安らかに──昭和が息絶えた日
昭和から平成、そして令和まで生き抜いてきた遺物だった。
しかし――
“麗奈ちゃん枕カバー”通販開始から数日。
ジリリリリリリリリリリリリリ!!!!
という威勢のいいベルは、次第にこう変わっていく。
ジ…リ……リ……
……リ…………
麗奈
「え……今、息してる?」
母
「なんか呼吸みたいになってるねぇ」
祖母
「がんばれ!!がんばるんだ電話!!
あと“ひと鳴り”だよ!!
黒電話、前畑!!がんばれ前畑!!」
麗奈
「前畑って誰?」
※昭和11年、ベルリン五輪女子200m平泳ぎ決勝。
アナウンサーが興奮しすぎて
「前畑頑張れ!」を20回以上連呼した伝説の実況で
当時日本中が熱狂した。
しかし黒電話は——
ジ………………(沈黙)
祖母
「前畑ァァァァァァァ!!!!」
麗奈
「だから誰なのよ前畑!!」
黒電話は静かに息を引き取った。
※前畑秀子さんは金メダルを獲得している。
父
「よし、黒電話は永眠。
次は先日買ったFAXの出番だ」
麗奈
「使い方、誰も分からなかったやつね!?」
一家全員でFAXと戦うが……
祖母
「紙が入るけど……帰ってこないよ?」
母
「裏?表?どれでもない?」
父
「このボタンを押せば送れる……はず!」
— ピーッ、ガガガガガガガ、ブブブブブ…(謎の音)
麗奈
「怖い!!壊れてる音じゃん!!」
母
「もう……パン屋の修さん呼ぼう」
麗奈
「なんでパン屋!?」
父
「修さんは、何でも直せる男だ」
数分後。
エプロン姿の中村修が到着。
修
「……お前らなぁ……」
麗奈
「開口一番それ!?私たち何した!?」
修
「令和にFAXも黒電話も使いこなせないのは、
商店街で大宮さんとこだけだぞ」
父
「おお、ウチが“レア”ってことだな!」
修
「レアじゃねえよ!危険物だよ!!」
修は慣れた手つきでFAXを分解し、
5分で完全復活させた。
祖母
「紙が……紙が向こうへ飛んでくよ!
す、すごい……令和……本当に文明だ……」
修
「FAXは昭和からあるっての!!」
麗奈
「修さん、本当にありがとうございます……」
修
「次、壊したらパン買いに来ても直さねぇぞ」
麗奈
「脅し!?……いや、ごもっとも!!」
翌日の地元FM局(FMさいたま)。
パーソナリティ
「大宮ふとん店さん、黒電話が壊れたとか?」
麗奈
「はい……もう寿命で……
今日からは“FAXで注文受け付けま〜す”!」
パーソナリティ
「FAX!?令和の時代に!?
大宮さん、攻めるねぇ〜」
リスナー
「FAX持ってません!」
「コンビニから送ります!」
「FAXの時点で笑った!」
スタジオ大爆笑。
店に戻ると、修がFAXの前で腕組みしていた。
修
「詰まったら呼べ」
麗奈
「うち……パン屋さんにIT担当頼ってる……?」
クロじい
「ニャ(むしろ修がいないと無理)」
こうして大宮ふとん店は、
黒電話に別れ、
“昭和文明の亡霊”FAXを相棒に
再び通販の嵐へ挑むのであった。




