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大宮ふとん店、本日もたぶん営業中

作者:スパイク
埼玉県上尾市の商店街の外れに、時空の歪みのような店がある。
その名も「大宮ふとん店」。
看板の「と」の字が消えかかり、営業日は天気と機嫌次第。
なのに潰れない――というか、潰れそうで潰れない。

この店を切り盛りするのは、元気すぎる祖母と昼から競輪新聞を読む父、
おしゃべりと地域猫の世話に忙しい母の三人。
そして彼らを遠くから見守るのが、今や全国的に人気戦隊ヒロインとなった娘――大宮麗奈。
ただし実家が杜撰すぎて、ヒロインのブランドイメージを全力で壊してくる。

レジは壊れたまま数年経過。
祖母はそろばん、母は暗算、父は安物の電卓で計算。
計算結果は三者三様。
「お釣りは気持ちで」などという昭和の情緒が令和に甦る。

商店街の福引券は200円で1枚のはずが、
気前よく“だいたいの感覚”で渡される。
「今日はサービスしとくね!」と福引券を10枚渡し、
翌日には「今日は特価だからあげないわね」と手のひら返し。
スタンプカードもズレて押され、隣のマスに侵入している。
商店街組合からの注意も、すでに諦められて久しい。

倉庫の在庫はまるで時空のタイムカプセル。
昭和58年製の電気あんか、メーカー倒産済み。
平成元年のタオルケット、袋がすでに変色。
昭和キャラものの枕カバーが「今見たら高く売れそう」と祖母が言い出し、
本当に値札を吊るして店頭に並べる。
値段はその日の気分と相手の服装で変動する。
昨日1,200円だった毛布が、今日は7,800円。
「今日は暑いから高くしといたの」と悪びれもせず笑う祖母。

営業日は誰にもわからない。
風が強い日は「布団が飛ぶと危ない」と休業。
雨の日は「濡れると風邪ひく」と休業。
晴れの日は「気持ちいいから散歩してくる」と休業。
結果として、開いている日のほうが珍しい。

なのに――なぜか潰れない。
「ゆるすぎて怒る気にもなれない」
そんな地元客の謎の愛情で支えられている。

高飛車な戦隊ヒロインの麗奈は、そんな実家を密かに恐れている。
が、彼女がテレビに出るたびに店の前にはファンが訪れ、
祖母がそろばん片手に言う。
「この子、うちの孫なのよ。布団買っていく?」
――これが最大の販促。

“杜撰を超えて伝説に至る”家族経営コメディ。
笑いながら読んで、最後にはなぜかちょっと寝たくなる――
『大宮ふとん店へようこそ ― ご安全に寝かせます ―』
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