古見岳 中腹③
西表島潜入から3日目の朝、島の密林の古見岳中腹に設置された司令所の周辺で、防御ラインの構築が始まった。
薄暗く、湿気を含んだ空気が立ち込める中で、西村は冷徹な眼差しを周囲に巡らせていた。
「高橋、田中、敵がどのルートから来るかは分かっているだろう。センサーの設置は慎重にやれ。ミスを許される状況じゃない。」西村は静かな声で命令を下した。
「了解だ、分隊長」とコバンザメの射撃班長の一等陸曹の田中は口をもごもごしながら答えた。彼の顔には、常にどこか臆病さが滲んでいた。責任を負うことへの恐れが、彼を常に縛り付けていた。
「怯えるな、田中射撃班長、お前が先に動かなきゃ、俺たちは全滅する。お前が手を抜けば、そのツケは全員に回るんだ。」西村は、冷ややかな声でそう言い放った。田中はその言葉に震えながらも、スコップを手に取り、地面にセンサーを設置し始めた。
対照的に、擲弾筒手である高橋二等陸曹は、まるで楽しんでいるかのように地雷を配置していた。彼の口元には微かに笑みが浮かんでいたが、その笑みにはどこか狂気じみたものがあった。
「へへ、これが仕掛けられたら、あいつらは吹っ飛ぶぞ。」高橋は口の端を歪めて言った。その言葉には残虐さが滲み出ていた。
「おい、高橋、楽しんでる場合じゃねえぞ。任務はあくまで隠密だ。無駄に派手なことはするな。」西村は高橋に鋭い視線を送ったが、高橋はただ肩をすくめて返答した。
「分かってますよ、分隊長。でも、これくらいはやらせてもらわないと、やってられませんよ。」高橋の言葉には、いいようのない、狂気が感じられる。
「いいか、敵がこのラインを突破したら、俺たちは終わりだ。全ての作業は、迅速かつ慎重に行え。敵が近づく前に、俺たちが先手を取らなきゃならない。」
西村は再び厳しい口調で命じた。
田中は汗を拭いながら、センサーを土の中に慎重に埋めた。彼の手は震えていたが、それでも必死に作業を進めた。彼にとって、この任務は生き残るための最後の手段だった。
一方、高橋は次々と地雷を配置していった。その手際は速く、正確だったが、その行動には冷酷な意図が見え隠れしていた。まるで、敵がこの地雷を踏む瞬間を待ち望んでいるかのように。
「これで、防御ラインは完了だ。」西村はセンサーの動作を確認しながら言った。「お前たち、よくやった。だが、これで終わりじゃない。次は偵察だ。敵が来る前に、こちらから出迎えてやる準備をするぞ。」
高橋は笑みを浮かべながら頷き、田中は何も言わずに再び緊張した表情に戻った。西村は彼らを率い、次の任務へと移る準備を整えた。
この防御ラインは、北朝鮮の特殊部隊との戦いに備えた、決して突破させることのできない最後の砦となるはずだった。




