29音*.♪❀♪*゜ お兄様vsユウ
「ユウ────?」
ユウの珍しい表情に驚いていると、後ろから兄たちの声が聞こえてくる。
「ちょっと!!一体いつまでくっついているつもりよっ!!!というかいつから?!!たとえ神といえど、私たちの妹に手ぇーだしたら容赦しないわよっ!!!!」
バーンと、突然登場した兄のなかからユキの声が響く。目の端を釣り上げて、丸みを下にした半月のようだ。
「……消す?」
ユヅキが平然とそう言うと、魔法で銃を形成する。
「待て、どうせなら確実にゼロ距離から魔法で────」
弟を止めるどころか、手のひらに炎を灯し……ヒヅキは炎龍を創り出した。
燃え盛る龍は兄の体に巻きつき、主と一緒に射殺さんばかりにユウを見つめている。
そんな、殺気に満ち溢れた空気のなか……場にそぐわない柔らかな声音が耳を打つ。
「2人とも落ち着いて」
長兄のスイだ。
制止する言葉に、二人は視線を投げかけた。
なぜだ……?と言いたげに。
「ここは長兄であるこの僕が────始末しよう」
にこやかな笑顔を浮かべながらスイは、煌びやかな装飾がついた愛刀を取り出し、横に払う。
研ぎ抜かれた刃は月明かりを浴びて、ギラリと白く光り輝いていた。
「しょーがねー。なら、片割れは任せろ!!俺たちで止めるぞ、ミヅキ」
「仕方ないね。戦いは得意じゃないし、今回は兄様たちに譲るとしよう。…………今回、だけね」
爽やかな笑顔とは反対に、とてつもない殺気を放つスイを見て、ショウとミヅキは残念がりながらも、殺意の籠った瞳でヨウを見やる。
そして一面に、草花のような白い花が咲き誇り、可憐に花弁を揺らした。
────魔法植物だ。
それは、ミヅキが得意とする植物を使役する魔法だった。
ショウは己に身体強化の魔法かけ、拳を握る。
二人の鋭い殺気に、ヨウはピクリと反応すると……ユウを守るように身構えた。
兄たちが纏う空気が、黒く重い────。
痛いぐらいの魔力がこの場を支配する。
どうやら本気で、双子と事を構えるつもりでいるようだ。
「……お兄様」
『ふ……君の兄君とは、できれば戦いたくないな……。でも、致し方ないね。君を貰い受けるには、ちゃちゃっと倒すしかないようだ』
「「「「「「あ゛?」」」」」」
兄の様子に戸惑いながらも、マイナはいつでも魔法を発動できるように備える。
世界の巫女として、双子に怪我をさせるわけにはいかない。ましてや、兄にも傷ついて欲しくないのだ。
そんな心配をよそに、マイナを抱きしめたままユウは小さく笑う。
ぎゅっと、さらに抱き寄せながら────。
────その瞬間。
息が詰まるような重苦しい圧が、降り注いだ。
みんな平然としているが、きっとこの場に他の者がいたら、気を失って倒れているだろう。
「……お兄様。……!」
兄に声をかけた刹那、使い魔から送られた情報に、マイナははっとする。
泳がせていたレステーレの黒猫が、動きを見せたのだ。
そのことに、ユウも気づいたようだった。
背後から、くすりと笑う声が聞こえて……振り返る。
『動き出したようだね』
「ユウ……」
『そろそろ行こうか』
ふわりと微笑だユウはマイナを抱いたまま、すっと立ち上がる。
「え?」
流れるようにお姫様抱っこされている状態に、驚くと同時に鼓動が加速した。
まさか、このまま抱き上げられるとは思わなかったのだ。
ドキドキと鳴る心臓が、頬に熱を送る。
抱かれている状態で視線を合わせるには、恥ずかしくて顔を逸らした。
マイナはユウの服を軽く握ると、彼の胸元に顔を寄せる。
金の双眸が、その姿を微笑ましく眺めていたことに気づかないまま────。
「ヨウ、あとはよろしくね』
ユウはそうヨウに声をかけると、移動魔法を展開し始める。
「ちょっと待ちなさい!まさか、妹も連れて行くつもりじゃないでしょーね!!?」
「なにっ?!」
ユキの言葉にショウは驚きの声を上げ、のこり四人の兄たちは目を細めた。
「マイナを返して!!私たちの妹は置いていきなさいよっ!!!」
ユキが魔法でユウの足元を凍らせようとするが、弾かれて氷晶が飛散する。
あたり一帯は凍りつき、白い冷気が漂う。
「お兄様……」
心配する兄に、マイナは安心させるような柔らかな微笑みを向けた。
「お兄様、用事が済んだらすぐに帰るから大丈夫だよ。お兄様たちは先にお家に帰ってて」
『兄君。どうかもう暫く妹君をお借りさせていただきたい。必ず兄君の元へ、お返しすると約束いたしましょう。……今夜は』
和やかに……にこりと笑うユウは、どこか楽しそうに見える。
ふと、金の瞳と視線が交じ合った。
はにかんで思わず視線を外した瞬間、視界に影が落ちてくる。驚いて顔を上げると……マイナの額にユウの唇が触れた。
「「「「「「っ!?」」」」」」
「……え?」
兄の声にならない驚愕と悲鳴に一拍遅れて、マイナも息を呑む。
『では。後ほど妹君は家まで必ず私たちが責任を持って、無事に送りとどけるので。それでは失礼します。兄君』
ユウはそう告げるとマイナを抱きながら、その場を後にした────。
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