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16-2音*.♪❀♪*゜ 止った刻の中で────

止まる────。


音も、人も、世界さえも。


時の流れが断ち切られ、全てが────静止する。





(これは……)


微動だにしない。

全員が一斉に動きを止め、無音が広がった────。


ヴァンパイアを含む魔族や精霊だけではない。

幻想の儀でかけた魔法や、四季守りの契約の魔法陣も維持されたまま止まっている。


唯一。


この止まった刻の中で動けるヴァンパイアは、マイナだけのようだった。


『なによ、これ……みんな止まってる……?一体どうして!?』


先に静寂を破ったのは、蝶の髪飾りをつけた白い兎のぬいぐるみ、フィーネだ。


ケープから顔を出すと、可愛らしい天使のような翼で飛び立つ。


淡い紫の宝石で象られた蝶が、シャンデリアから降り注ぐ光を浴びて、キラキラと煌めいていた。


『ミリアーナやスイまで……』


信じられない光景に、フィーネは思わず『嘘でしょ……』と零す。


「本来、私たちヴァンパイアは刻の流れに影響を受けない。魔族や精霊……もちろん神も」


マイナは冷静に状況を窺うと、静かに目を伏せた。


「だけど例外はある。どんな事にも……」


突如────止まった精霊に絡むように、魔法文字で書かれた呪文の輪が交差していく。


『精霊がっ!まさか目的は精霊なの?!そうはさせないわ!!』


フィーネが呪文の輪を打ち消そうと魔法を使う。

無数の細長い漆黒の四角星が、呪文の輪を貫こうとするが、消えたのは……四角星の方だった。


『っ……やっぱり今の私の力では……』


悲痛な面立ちで耐えるように、フィーネは小さく手を握る。


「大丈夫。彼らにあんな魔法、届いたりしない」


トン……と、マイナは杖の底で軽く地面を叩く────。


すると文字にひびが入り、一瞬で呪文の輪が砕け散った。


精霊を捕らえようとした魔法が消え去り、フィーネは、ほっと安心するように息を吐く。


『良かった……。さすが私の主だわ!』


マイナの頬に白兎の頬が寄せられる。

温かなふわふわの毛並みが、少しだけくすぐったい。


『でも一体、だれがこんな……?』


フィーネは、小さく首を傾げた。


刹那────微かに感じた魔法の気配に、マイナは視線を移す。


『マイナ……?』

「次元が、開く……」

『なっ!まさか……』


とても微弱な魔力の波動────。


意識しなきゃ気づかないような繊細さで、よほど魔力のコントロールに長けているのが分かる。


マイナの瞳が真紅へと灯り、同時に空中にはいくつもの魔法陣が現れた。


「真祖の血を受け継ぐ、我ら純血のヴァンパイアにまでおよぶほどの魔法……そんなことができる者なんて、そうそう存在しない。いるとしたら、純血よりも高位な存在……私たちヴァンパイアにとって、神にあたる────真祖」

『ほう、私の刻魔法に耐えうるとは。驚きだな』


背後から突然、声が聞こえ振り返る。

そこには、灰色の髪をした青年が佇んでいた。


(……!いつの間に)


なんの気配も感じなかったことに、マイナとフィーネは静かに息を呑む。


(これは、オルゼオールなんかより余程……)


手強い────そう思った瞬間、柔らかな声とともに背中から優しく抱きしめられる。


『大丈夫よ』

「フィーナ」

『ほんの少し魔力操作に長けているだけ。実力も経験も強さも、なんなら魔力のコントロールだって、マイナの方が上よ。だから解かなくても、このままで大丈夫。自身を持って』

「フィーナ……」


真祖相手に、力を封じた状態では少し厳しいかもしれない……そう思ったマイナは、オルゼオールの時と同様一部の封印を解こうと考えていたのだ。


「ありがとう。……そうだね。お祖父様やユウに比べれば、封印を解くまでもない。……だけど簡単に倒せる相手でもないから、すこーしだけ時間がかかるかな」


穏やかに微笑を湛えるフィーナに、マイナも微笑みを浮かべる。


『大丈夫よ!私たちもいるから、パパっと終わらせましょう』


フィーネの言葉に、青年はフッと小さく笑った。


『言ってくれる。これでもそう言ってられるかな?』


青年は緻密な魔力コントロールで、必要最低限の力を放出する。無駄な魔力の漏れは、一切感じられない。


そして次々と、次元のゲートである魔法陣から、見たことのない魔物が溢れ出てきた。


『さぁ、お前たち……餌の時間だ』

『『『ヴゥゥゥヴ』』』

『『『グ ル゛ァ゛ァ゛ァ゛』』』


大小様々な獣が咆哮し、動き出す────。


「あんな魔物、魔界でも見たことがない」

『当然よ!あれは、この世界のものじゃない。異界の……それも複数の異なる世界の魔物を掛け合わせた複合体、キメラよ!』

「キメラ?あれが……」

『あんなものを創り出すとは……なんてことを……』


フィーネの説明に驚くも、マイナは魔界の魔物と同じように倒していく。


痛ましそうな獣の姿にフィーナは、これ以上の痛みを感じさせないよう眠らせ、最後の瞬間まで幸せな夢を見せ続けた。


(複合体だけあって強いけど、せいぜい魔界に存在する魔物のボスぐらいかな)


三人は、一気に溢れかえった魔物を、天へと返す。やがて数は減り、数匹だけが残った。


『驚いた……やはり侮れないな。さすが第一真祖の血を引く、純血のヴァンパイア……いや、君が特別なのか?』


端正な顔に驚きの表情を浮かべながらも、青年はとても冷静だ。


『まぁ、いい。どのみち今日は、挨拶程度のつもりだったんだ。精霊を手に入れられなかったのは残念だが、実験段階のキメラのバランスは確認できた。あとは不安定要素を取り除ければ……魔界よりも強い魔物が誕生するはずだ』

「どうして……」

『ん?』

「どうして、桜歌皇国を。この魔外国は、第四真祖以外にも複数の真祖が関わっている。他の真祖と……」

『争うつもりはないよ。私はね……。だけど、彼らが許してはくれないんだ』


そう青年は言うと、首輪のようなチョーカーを見せる。そこにぶら下がっているペンダントには、ある組織のシンボルが刻まれていた。


翼を広げた十字架の真ん中に太陽が描かれ、その中心には薔薇が咲いている。


「それはっ!」


カチッ────。


秒針のような音が聞こえ、青年は残念そうに『ああ……』と呟く。


『そろそろ時間のようだ。……また会おうね、小さな純血の姫君』

《……また会おうね、小さな純血の姫君》


それは昔……マイナが幼い頃、第十一真祖ルクスが決まって別れ際に言う言葉だった。


青年が消えた途端────再び刻が動き出す。


『『『『盟約の基、汝らに我らの祝福を』』』』


何事もなかったかのように儀式の続きが始まり、まるでさっきの出来事が夢に思えてならなかった。




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