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外伝 クラウスと兄の物語3

「あ、兄上、その、僕、ちょっと眠れなくて……。一緒に寝ちゃダメかな?」


突然真夜中に部屋を訪れた弟に対し目を丸くして首をかしげている兄上に私は恐る恐る問いかけた。


そして訪問の理由を聞くと兄上は月明かりに照らされながら柔らかく笑いかけてくれた。


「もちろん。ほら、今日は寒いしそんなところに立ってたら風邪ひくから早くおいで!」


風邪をひくと私の心配をする兄上。


しかし近づけば兄上の髪は濡れている。


兄上の方が風邪をひきそうに見えた私は近くにあったタオルを手に取り、兄上の髪を拭き始めた。


「ちょ!?ラウ!?」


突然の私の行動に驚いたのか、兄上は声をあげた。


「ぼ、僕もしてみたかったんだ。使用人がいつもきれいに髪の水分を拭きとってくれるから……僕も兄上で同じことしたい。使用人にするのはダメでも兄上や父上なら許されるよね?」


高い身分の自分が使用人の世話をするのはもってのほかだとわかっている。


友人にする事すらはばかられる行為だろう。


けれど家族なら、兄上ならと思い言葉を絞り出した。


すると兄上は嬉しそうな笑い声を漏らした。


「もう……可愛いなぁ、僕の弟は。」


嬉しそうに優しく、愛おし気に可愛いといわれる。


本当は可愛いといわれるよりもかっこいいといわれたい男心はある。


それでも兄上に”可愛い”と言われることは嫌などころか嬉しかった。


こんなことを言うとおかしいと思われるかもしれないが【可愛い】という言葉をかけられる度自分は兄上より劣り、可愛げがあると思えた。


優秀な兄のようになりたいけれど、決して兄上を追い越したいわけじゃない。


兄上の横に並べるだけの人間になりたいだけ。


そう、思ったのに――――――


「思いやりのあるラウはきっといい王様になるだろうなぁ……。」


幸せそうに目をつむりながら私に髪を拭かれる兄上。


そんな兄上から零れ落ちた言葉に私は突然夢の世界から現実に引き戻されたような気になった。


「……は……はは、何を言ってるの?兄上。王様になるのは兄上で、僕は兄上の右腕になるんだよ。兄上こそいい王様になるに違いないよ。優しくて、思いやりがあって、頭もよくて、人に好かれるし……なんでも一人で――――――」


(……あ。)


言いかけた言葉を止め、私は言葉を止めると同時に手も止めた。


言いかけた言葉は【何でも一人でできる】だ。


それを言ってしまったら兄上に兄上を手助けするような人物は必要ないといっているようなものだと思ってしまった。


(……何だろう。何を言っても兄上は……遠くへ行ってしまう気がする。)


兄上は自分より優れている。


だから兄上の方が王様にふさわしい。


そういいたいのに並べ立てようと思う言葉がすべて、故に兄上の存在を遠くに感じさせる気がしてきた。


(兄上は本当に、王位を捨てたいのかな……。)


褒めれば褒めるほど王様じゃなくても生きていけるというお墨付きになりそうで私はそれ以上何も言えなくなった。


そんな私に気づいたのか、兄上は私に振り返り、私の頭を撫でた。


「昼間の話、聞いてたんだよね?驚いたよね。でもね、あれが僕の本心で、王様には僕じゃなくてラウになって欲しい。……父上は「見た目じゃなくて能力だ」なんていったけど、僕はそう思わない。それが王位継承権を持つ”ルイス”の意見なんだよ。」


「……兄上。」


(あぁ……駄目だ。もうきっと僕の言葉では兄上をつなぎ留められないんだ……。)


兄上は頑固だ。


自分で決めた事に関し、なかなか意見を変えない。


兄上をよく知るからこそ私ではもう、兄上の意見はかえられないのだと私は知った。


……それを知ったのが悲しかった私はその夜以来、兄上とは自然と距離をとるようになっていったのだった――――――。

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