09.お手柔らかにお願いします
彼から告白されて一ヶ月が経った。
返事は、まだできていない。
考えてみてもほしい、前世で現実の男性と交流を持つ前に二次元のイケメンに夢中になり、乙女ゲームをしまくっていた人間の末路を。
前世含め恋愛経験がゼロなのだ。男性から告白された場合の対処なんて知る訳がない。
むしろ、政略結婚のままならこんなに動揺しなくて済んだ。男女の最終的に行きつく先も、お水のお姉さんが立派な職業なのだから、仕事だと思えば乗りきれるはずだった。
「詰んだ……」
自室のベッドの上で、手を突いて打ちひしがれる。
どうすればいいのか分からない。
結婚して一年以上経つのに、隣同士とはいえ別室を使っているのは自分に気を遣ってのことだ。
相談できる相手がいればいいが、先日幼馴染の護衛騎士に勘弁してほしいと懇願されてしまった。メイドたちは既に夫婦仲睦まじいと思われている。それを、体面上否定していなかったため近しい同性で相談できる相手もいない。
「もし、お母様が生きていたら相談できたのかしら」
父に見染められ、自分がお腹にいると気付くかどうかの頃に恋人と引き離された母。母から聞いた訳ではなく、前世のゲーム知識で知った真実。
母の境遇を思うと、自分は恵まれている。自身の問題は自分で解決しなければ、と反省する。
彼のことを考える。
一番好きだった攻略対象で、容姿も申し分ない。だが、前世と違い差分以上に表情豊かな彼は、ゲームと違い傍にいると落ち着かない。
緊張するのは単に男性に免疫がないからかもしれない。
真剣に告白してくれた彼に思い違いでした、なんて後から言える訳がない。きちんと整理しなければ。
ふと、スキンシップを図る兄の言葉を思い出す。
「彼だと平気じゃないんだな」
その時は首を傾げたが、よくよく考えれば兄も隠れ攻略対象で血の繋がりはない。しかも、兄と彼は双子だ。条件は同じなのに、自分は同じ態度で接することができない。
「あ」
やっと気付けた。
きゅっと拳を握り、決意が揺るがぬ内に、と隣へ直接繋がるドアをノックする。
ほどなくしてドアが開いた。
「どうかしたか」
「あの、お伝えしたいことが……」
一度、唇を引き結んで口を開く。
「私がおかしくなるのは貴方だけみたいなんですっ」
判明した事実を告げると、彼がドアの縁に頭をぶつけた。驚いて怪我をしていないかと手を伸ばすと、その手を掴まれた。
「……君は無防備すぎる」
「へ??」
彼の言葉の意味を、この後思い知ることになる。





