幾何学錬成
-- さて、では始めようか。『錬成』
そう唱えると、視界一杯に大きな方眼紙を敷き詰めたようなほとんど真っ白の画面が広がった。
アシュリーによる市場調査は実に有意義だった。
硬貨価値は勿論の事、装飾品の工賃が武具に比べて高い事も極めて有意義な情報だ。
そして有意義な情報の最たるものが、錬成スキルの正しい使用法である。
元来、錬成スキルというのは、決められた素材から決められた物品を作り出すスキル『ではない』らしい。
錬成とは
『材料の剛性を無視して自在に加工し、望む形の物品を作り出す』
スキルなのだそうだ。
ダンジョンコアたる僕が生まれつき持っている錬成スキルにある、所謂レシピ機能のようなものは、同種族でのコミュニケーションが出来ない為に生まれたオプション的な機能であるようで、街の工房では、僕と同様の錬成手法は見当たらなかったという。
装飾品の工賃、錬成スキルの新しい可能性。
これらの情報により、今回僕は交易の嚆矢として銅を使った装飾品を作る事に決めた。
『正しい使用法で』装飾品を錬成し、それをアシュリーに40番都市へ持っていってもらい、値を付けてもらうという算段である。
材料の剛性を無視した加工と言っても相応の制約はあり、一言でいうならば、コンパスと定規を使って作図した設計図に沿って加工する事しか出来ない。
しかし幸いにも、僕が持っている知識には相当な量の数学知識があり、幾何学もまた然りである。
異なる世界の知識とはいえ、数学が成り立つならばそれなりの出来にはなるだろう。
幾何学図形の作図は頂点が少ない程楽なので、まずは円に内接する正三角形から作図してみる。
まず点Oを中心とする円Oを作図する。
次に円の中心を通る直線を作図する。
直線と円周の交点を点Aとし、点Aを中心にAOを半径とする円Aを描く。
円Aの半径は線分AOに等しいので、円A、円Oとの交点と点A、点Oの距離は円Oの半径に等しく
この三点を結んだ図中の赤い三角形は正三角形となる。
正三角形の角は60度であり、一周は360度なので、円Aと円Oとの交点は円Oの円周を6分割した点のひとつということになる
その対角を知る為に、円Aと円Oとの交点、直線との交点を通る直線を作図する。
作図した直線と円Aとの交点を線分で結ぶ。
赤い線が青い円に内接する正三角形となる。
ここから補助線を消せば、錬成に必要な設計図の完成だ。
あとはここに製錬した銅塊を投入すればこの幾何模様に合わせて成形される。
また、正三角形の場合はその作図過程で円周上に6か所の等間隔な点が出来る為、必然的に正六角形も作図可能となる。
もしこんな程度の幾何模様でも装飾品として機能するなら、それも作図してみよう。
まずはこのなんちゃって装飾品がいくらになるか、アシュリーに調べてきてもらおうか。
作図に使用したのはGeoGebraというサイトのツールです(すてま)。
くっそ楽しい。
https://www.geogebra.org/