装飾品と鑑定スキル
「…銀貨一枚でどうでしょう。」
「え?」
ここはヨンマルの市場。とある小さな細工屋さんの応接室。
そして私はマスターの装飾品輸送係のホムンクルス・エルフ。
アシュリー。
前来た時に知り合ったあの幼女にまた会えるのを期待したけれど、世の中はそこまで簡単ではないらしい。
行き先も決まっていたし、門番のお兄さんも前と同じだったので目新しい出会いも無い。
がっかり。
それはともかく。
マスターが錬成した『えんにないせつするせいさんかっけい』という装飾品を件の細工屋に見せ、買い取り値を見積もってもらったところ、数分は押し黙った後に上記の答えが返ってきた。
買いたたかれたわけではない。
寧ろ高い。高すぎる。
マスターの装飾品は精々四銅貨ほどの大きさしかない。
装飾品は五銅貨サイズで五銅貨十枚あたりが相場であるのに、それより小さい四銅貨サイズで銀貨一枚というのは、一見さんを優遇するにしても高すぎる。
(不当かどうかはともかくとして、この細工屋、何か隠してることがあるわね…。)
「値付けの理由を聞かせてもらえるかしら?」
「ぎ、銀貨一枚では不満という事でしょうか?
そ、それなら銀貨一枚と五銅貨十枚でどうでしょう!」
(…値付けの理由を聞いただけなのに値上げですって?)
「…値付けの理由を聞かせてもらえるかしら?」
「ぎ、ぎ、銀貨一枚に、ご、五銅貨二十五枚ではどうですか!?
こ、こ、こ、これでも相当私側の利益を削っているのですが!?」
「いえ、ですから値付けの理由を」
「ぎ、銀貨一枚に五銅貨四十枚でどうか!!
こ、これが私に出来る限りの買い取り値なんです!
本当です!お願いします!!」
(うーん…とうとう頭を下げ始めた…。
『出来る限りの買い取り値』という部分に関して真贋の見極めは『真』と判定している。
彼の言葉に嘘は、まぁ聞いてる範囲にはないでしょう。
しかし、銀貨一枚だったのがあっという間に1.4倍になったのはどういう理由なのかしら?)
「はぁ…細工屋さん…」
「は、はい…。銀貨一枚に五銅貨四十枚でお願いできますか…?」
「それはあなた次第ですわ。
細工屋さん。私は『真贋の見極め』というスキルを持っています。
そのスキルのおかげで『出来る限りの買い取り値』というあなたの主張が正しい事は理解出来ています。そこに疑念はありません。
しかし、当初銀貨一枚だった買い取り値が、あっという間に銀貨一枚に五銅貨四十枚まで釣り上がったのはどういう理由によるものなんですか?
それが明確にならない限り、あなたにマスターの品を売る気にはなりません。」
そう返すと彼は思い詰めたように目を伏せ、観念したかのようにがっくりと肩を落とした後、ゆっくりと話し始めた。
「私には…『鑑定』という特殊なスキルがあるんです…。
王国全土を見渡しても所持者の少ない希少なスキルです。
そのスキルを発動させて品物を見ると、その品の性能が明らかになります…。
そしてアシュリー様が持参されたその装飾品ですが、私の鑑定スキルに不備がなければ、その大きさであるにもかかわらず知性の1ランク上昇効果が付与されています。
これはB級装飾品に相当する品質で、この街ではどこに行ってもお目にかかる事が出来ないくらい高品質のものです。
性能だけで見れば、その価格は銀貨十枚を下る事は無いでしょう…。
もし私にそんな品物が扱えれば、貴族の御用商人へ成りあがるのも夢ではありません。
しかし、こんな小さな細工屋ではあなたの装飾品に銀貨十枚も払うことは到底出来ません。
ですので私は、あなたに装飾品の価値は解らぬだろうと決めつけ、銀貨一枚で買い叩こうとしたのです…。
銀貨一枚と五銅貨四十枚が今用意できる最大の買い取り額である事に偽りはありません。
…ここまで開示してしまっては、当然あなたはもう私に装飾品を売っては頂けないでしょう…。
銀貨十枚の価値がある事はお話したくはありませんでしたが、あなたに嘘を見抜くスキルがある以上、偽証は意味がありませんし…。」
そこまで言うと細工屋の主人は顔を上げ、悲壮にくれた表情で「これでご満足いただけたでしょうか」と問い返してきた。
「はい、そういう事であれば私にも得心が行きました。
では最初の話通り銀貨一枚で買い取っていただけますでしょうか?」
恐らくこちらの本意を大いに勘違いしているであろう主人にそう返すと、主人はポカンとしていた。
「その代わり条件として、以降、我々が持ってくる装飾品に対して、今回と同様に鑑定をかけていただき、その結果を教えていただきたいのです。
その結果によって売買の値を吊り上げるような事は誓って致しませんので。」
「そ、それはお安い御用なのですが、よろしいのですか?
もっと大きな店に持っていけばもっと高額で買い取ってもらえるのですよ?
銀貨十枚というのは私の目で見た最低値です。
競売にかければその三倍は優に期待できます。
わ、私に売るより、もっと有効な売り方はたくさんあります…。」
「確かにそれはその通りなのでしょう。
しかしながら、私のマスターは製品を高額で売るのが目的ではありません。
あくまでも街の方々と確かな縁を結ぶことを目的とし、その手段として交易を採用しております。
よって私やマスターにとって必要なのはこの街の方々との縁であり、高額な買い取り先ではないのです。
先ほどのお話でも、真贋の見極めは全てを真と判定していました。
確かにあなたは私からこの品を安く買い叩こうとしたようですが、それは商人なら当たり前の事でしょう。
格別な不誠実が無い限り、私があなたを蔑む理由はありません。
であれば私はあなたと縁を結びたいと思います。
私の持ち込む製品の詳細な鑑定が期待できるなら尚の事です。」
そこまで言い切り息をつくと、細工屋の主人は唖然としていた顔を苦笑させた。
「あ、ありがとうございます、アシュリーさん。
…この縁が長く、強固なものになり、互いに利益となる様、一商人として力を尽くします。
今後ともよろしくお願いします!」
(まぁ一番の理由は、気のよさそうなこの主人なら交渉経験の薄い私達でも渡り合えそうだという理由なのですけれどね…)
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