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跡取りとしての力

「ここがハルバード家の取り仕切る領地内と知っての行動か?」


 ダグラスはそんなギャングたちの前へと立ち、背筋を伸ばして丁寧な口調で接した。


 駆けつけていたハルバード家に仕える騎士たちも、ダグラスが対話を始めたのを見てから戦いの手を止め、ダグラスの後ろへと下がる。


「…………堅苦しいのはやめにしましょうや坊ちゃん。これがどれだけ無駄な会話なのかはわかるでしょう? あんた達は俺たちの島を荒らした。その報復に俺たちは来ている……これ以上も以下もねえんだ……わかるよな?」


 ギャングらしい強引な考え方ではあったが、ダグラスは無視して言葉を続ける。


「お前たちの島を荒らした? 知らないな、少なくともハルバード家は無関係だ。そしてお前たちはそのハルバード家の領地内を襲撃している……よって、処罰せねばならない」


「おいおいそりゃないだろ? そっちの領地のマフィアがこっちの島を荒らしたんだ、落とし前をつけるのは当然だろう……なーに正義面してやがる?」


「なるほど、では厳重に注意しておくとしよう。しかし、お前たちがハルバード家の領地内で暴れていい理由にはならん」


「ほう? 納得できるように説明してくれ」


「アルハザード領地内で起きたことはアルハザード家が解決するべきことだ。そしてハルバード領地内で起きていることはハルバード家が解決するべきこと……そして今、私はその対処に当たっている。わかるな?」


「なら帰らせてもらおうか、もう用は済んだのでね」


 エンジン音を鳴り響かせて、レイモンは手を掲げて撤収の合図を送った。


 すると、それまで丁寧に接していたダグラスの背筋が曲がり、ポケットに手を入れて素行の悪い普段の姿へと戻る。


「おいおい……散々暴れたあとで返すわけがねえだろ? 帰られちゃ困るんだよ」


「おー怖、そっちの坊ちゃんの方が俺は好きだね。いかにもハルバード家らしい」


「たかだか貧民街あがりのマフィア風情が調子に乗ってんじゃねえぞ。何やら厄介な物を持っているみたいだが……言っとくぜ、俺には通用しねえ」


 そう言うと、ダグラスは手元に青白い光を灯らせた。


「俺が援護する。とっとと捕まえて連れて帰るぞ」


 直後、ダグラスは己が持つスペシャル【波動】を発動して衝撃波を前方へと放つ。遠距離から飛んでくる痛烈な衝撃を受けて、バイクに跨っていたギャングたちの数人は一斉に上空へと吹き飛んだ。


 その隙をついて、一斉に控えていた騎士たちが捕縛するために接近する。


「やるねぇ」


 だが、騎士たちの歩みは途中で止まった。


「ぐあぁぁぁぁああああああ⁉ だ、ダグラス様……一体どうして⁉」


「ち、ちげえ! 俺じゃねえ!」


 ギャングたちを吹き飛ばしたはずなのに、気付けば味方の騎士たちが吹き飛んでいたからだ。相手側の攻撃かと思ったが、騎士たちが飛ぶ瞬間薄っすらと青白い光が残っていたため、それがダグラスのスペシャルによる攻撃であるのがわかった。


「遠距離なんて男らしくねえぜ坊ちゃん。啖呵を切りたいなら拳で語りな」


 バイクに跨ったレイモンが、拳をパキパキと鳴らしながら笑みを浮かべる。


「どういうこった……?」


 それがレイモンのスペシャルによるせいだとはわかったが、得体が知れず、ダグラスは後ずさりしてしまう。恐らくは、このまま近付いたところで、この男に拳は届かないだろう。そう思えるだけの余裕が、レイモンからも、取り巻きのギャングたちからも感じ取れたからだ。


 最初に吹き飛ばされたギャングたちも既に起き上がり、余裕の表情を浮かべている。


「不用意に近付くな! あれは……やべえぞ」


「……ハルバード家の跡取りは親と違って優秀ってのは本当らしいな。素晴らしい危機管理能力じゃねえか?」


「得体のしれねえ力を前に、無暗やたらに突っ込ませて戦力を削る馬鹿がどこにいる?」


「お前の親父」


「…………………………っち」


 言い返せなかった。


「おい、その槍を貸せ」


 直後、ダグラスは背後に控えていた騎士が持つ槍を奪い取り、レイモンへと力任せに投げつける。だが、槍はレイモンへと刺さらず、ゴムボールのように勢いそのままで跳ね返り、ダグラスの足元へと突き刺さった。


「なるほど……反射か、厄介だな」


 そしてすぐに、ダグラスはレイモンのスペシャルの正体へと辿り着く。


 レイモンのスペシャル【反射】はその名の通り、あらゆる衝撃を反射して相手へと返す力。物理も魔法による力も、衝撃波やただの風ですら反射してしまう。


 アルであれば無視して殴り飛ばすこともできるが、無効化する力を持たない者にとって、レイモンの力は手出しのできない怪物級の力といえた。


「どうしますか……?」


 背後に控えていた騎士の一人がダグラスへと声をかける。


 とはいえ、【反射】のスペシャルは珍しく強力だが、過去に例がいないわけでもなく、対策方法がないこともない。反射するためのフィールドを常に展開し続けなければならないため、マナの消費が激しく、攻撃を仕掛け続けていればいずれ倒せるからだ。


「もう帰るって言ってんだ……帰らせてやれ、さすがに反射を持つ野郎を相手にこの戦力で戦う気はねえよ」


 しかしダグラスは、これ以上の犠牲を出さないことを選んだ。


 右手を上げて合図を出し、レイモンたちが逃げ帰られるように通り道を作らせる。


「どうした? やらねえのか?」


 そんなダグラスを見て、レイモンは拍子抜けとでも言うように失笑する。


「……とっとと行きやがれ」


 だがダグラスは、その安い挑発には乗らなかった。


 それだけで、これ以上何を言っても無駄だと判断し、レイモンもおとなしくギャングたちを引きつれ、エンジン音を鳴り響かせながらこの場を去る。


「……さすがはアルハザード家の領地のチンピラ共を纏め上げているマフィアのボスってとこか? アルハザードの周囲にいる連中は化け物ばっかりかよ」


「良かったのですか……? 噂の奴隷を使えば、楽に捕縛ができたのでは?」


「切り札を見せる馬鹿がどこにいる? 誰かが見ていたらその時点でお終いだぜ? 親父は捕まえねえとピーピーうるせえだろうけど、別に捕まえなくたってどうでもいい」


 逃がしたことに対して問題と感じていないのか、ダグラスはのんきに欠伸を漏らす。


「おい……ちゃんとさっきのやり取り、撮影したか?」


 そして、背後に控えていた騎士の一人にダグラスは声をかけて笑みを浮かべた。


 倒す術があるならば、やり方はいくらでもある。何も自分たちの領地におびき寄せる必要はない。つまりは、王国に認めさせればいいだけだからだ。


「やっぱ、楽をするには頭を使わねえとな」


 騎士の一人が持つ、見た映像を記録するスペシャル【投影】に映されたダグラスが丁重に言葉を放っていた時のシーンを確認して満足気に頷くと、ダグラスはハルバード家へと引き返した。


 恐らくはこの後に待っているだろう、酔っぱらった父親の有無を言わさぬ怒号を億劫に思いながら。

次回更新は1/18の21時予定です

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