キャンプファイヤー
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「父上……どうしてこのような勝手を?」
「くく……ふはははは! 何が勝手か? もうアルハザードを臆す必要はないのだ! あとはアルハザードを我が領地内に誘きだして始末すれば……アルハザードが仕切る遊郭街はハルバード家の所有物になる」
ダグラス家の屋敷内。薄暗い部屋の中で月夜を眺めながらワイングラスを片手に高笑いを上げる父親に、ダグラスは呆れて溜め息を吐いてしまう。
なんと考えの足りない男なのだろうかと。だからこそ、奴隷以外の商品を扱う才もなく、他の商業区の領主たちに舐められてもいるのだろうと、どこか納得してしまった。
「アルハザード家の仕切る店は、マフィアによって管理されている汚れた店がほとんどだ。シュナイダー公爵は喜んで私に与えるように国に取り合ってくれるだろう……なんせ私は、奴隷を扱っているせいか卑しい存在と思われているからなぁ!」
「自覚あったんですね」
「だがそれでもいいのだ……結局は金、上納金さえ納めていれば大きな顔ができるのはアルハザードを見ていてよくわかった。アルハザードの領地を得れば、今よりも倍以上の額を国に納めることができる……そうなれば私の地位も…………ふふ、ふふふふふふ!」
アルハザード家が大きい顔していられる一番の要因は、単純にアルハザードが有無を言わさぬ強さを持っているからだったが、ダグラスは機嫌を損ねぬように黙り込む。
「まだ確実に仕留められると決まったわけではないでしょう? あの者のスペシャルがアルハザード有効であるかを確かめ、確実に仕留められるよう戦力を整える必要性があるはず。アルハザードに仕える側近も相当な実力者であると聞いております」
「情けないことを言うでないぞダグラス。臆す必要などないわ!」
勝利を確信しているのか、キールはワインを飲み干してグラスをテーブルに強く叩いた。
「こりゃ……駄目だな」
「何か言ったか?」
「いえ、何も」
アルハザードに執着しすぎて、その他を考慮にいれていないのがまるわかりで、ダグラスは頭を抱えてしまう。折角の準備も、水泡に帰す恐れがあった。
「旦那様、大変です!」
その時、キールの個室に慌ただしくメイドの女性が入り込む。
「ノックくらいしろ。メイドの分際で……」
「し、失礼しました」
「それで? 何事だ?」
「アルハザード領を拠点にするマフィアたちが報復に……!」
「くくくくく…………来たか! これで名実共にアルハザードはお終いよ!」
目論見通りに報復に来たことに、キールは涎を垂らして歓喜する。その隣で、ダグラスは心の中で「これが俺の父親」と遠い目を浮かべた。
「……アルハザード家の者はいるのか?」
「いえ、アルハザード様及び、その従者の姿は見当たらないとのことです」
「……意外だな、有無を言わさず叩きのめすために直接乗り込んでくると思ったが、向こうも何か狙いがあるのか? それともこちらの情報が漏れている?」
一瞬、ダグラスはシオンとファティマの姿を脳裏にちらつかせたが、キールが事を起こしたのはまだ二人と解散する前だったため、前者の可能性を考慮し始める。
どちらにせよ、少しばかりの猶予ができたとダグラスは安堵した。
「しかし、アルハザードがいないのであれば父上の目論見は失敗ですね」
「些細なことよ、今回のことはただの狼煙と考えればいい。恐れるべきはアルハザードただ一人……報復に来たマフィアなど、捕らえてアルハザードを誘きだす餌にすればいいのだ。要は、アルハザードが我が領土内に足を踏み入れれば良い……我が屋敷にまでくれば最高だ。あとでいくらでもでっちあげられるからな」
ゲスじみた笑みを浮かべてキールは再びワイングラスにワインを注ぐ。
「さっさと捕らえてワシの前へと引きずり出せ……拷問にかける様子を、投影のスペシャルを持つ者の力でアルハザードに見せつけてやるのだ」
「そ……それが」
「なんだ? まさか……たかがチンピラ上がりのギャング共を捕まえられぬと申すか? 我が騎士たちは何をしておる⁉」
「見たことのない武器と道具を所持しているとのことで……攻めあぐねているとのことです」
その報告を受けて、ダグラスは「あー……」と、アルが授業で持ち出していた道具を思い出す。
「使うところは見ていませんが、それを知る女性が危険な道具と称していた火炎放射器を持ち込んでいる可能性がありますね」
「火炎放射器だと……? それは一体どんな道具なのだ?」
「見た方が早いでしょう。俺が視察に行ってきます……案内しろ」
既に酒が入って足元のふらついている父親に代わり、ダグラスが屋敷を出て襲撃を受けている場所へと向かう。
襲撃を受けている場所は、案内を受けるまでもなく一目瞭然で、夜の暗闇を照らすように、ハルバード邸からそう遠くない場所が燃え盛っていた。
「こりゃ大事だな……連中は相当怒り狂ってやがる。親父の野郎、いくら対策手段ができたからって……マフィア共に一体何をやらせたんだ?」
「私は何も聞いておりませんが……」
「だろうな、案内はやっぱいい……危険だからお前はもう戻ってろ」
これで民間人にまで被害が及べばどうするのかと、ダグラスは舌打ちしてしまう。少なくともダグラスは、民あっての領主であることをキールよりも理解していた。
「……とにかく行くか」
まだ学生の制服から着替えていないまま、ダグラスは火が燃え盛っている方角へと走った。
道中、普段はギャングやチンピラ、暗殺者たちなどの物騒な連中と取引しているため、ちょっとやそっとのことではビクともしない裏通りの商人たちが、あまりの騒ぎに逃げ惑う姿がちらほらと目に入る。
「……まじか」
そして、目的地へと辿り着いて、ダグラスは額に汗を浮かべた。
「これはこれは……! ハルバード家のお坊ちゃんじゃありませんか?」
そこにいたのは、マフィアが拠点にしている屋敷を火炎放射器で焼き尽くすギャングたち。
そして、キールが従えるマフィアの構成員たちを、気を失うまでボコボコにしたのが窺える血の滴った釘バットを所持し、狂気に満ちた顔でエンジン音を鳴り響かせながらバイクに跨っていた。
「……グリルパーティはお好きかな?」
その代表格である男が、優しく寒気のする笑顔でそう言った。
同時に、やはりアルハザード家にはちょっかいを出すべきじゃないのではないかと、最初に抱いた直感を信じるべきだったかと、ダグラスは少しだけ思ってしまう。
次回更新は1/16の21時更新予定です




